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第31話 逃亡

 スミスクラウン市街地、20分弱でたどり着いた馬車から降りて、四人はすぐにアダマントの捜索を始めた。


「まずはあいつを探しましょう。あの特徴的な紫紺のスーツならすぐに……」


 そう言ってシルヴィが街道に並ぶ商店を見回していると、ものの数秒で四人の前を通り過ぎるように、あの紫紺のスーツの悪人面が現れた。


「ん?」

「あっ」


 お互いに唐突な出会いだったのか、思ったより長い時間が流れ、ほんの少し先に気が付いたアダマントはすぐさま背中を向けて逃げ出した。


「はっ……なんでお前たちがここにっ!!」

「待ちなさいですわ!!」


 人混みを押しのけながら、スーツの男が逃げ惑う。アダマントは街道を曲がりくねり、商人の停留所がある方面へ進路を取った。冒険者たちも懸命に追いかけるが、人に紛れて逃げるアダマントを相手に、迂闊に周りを払い除けて動くことが出来ない。


「くっそこいつ……人が多い場所か、道が狭いかのどちらかを意図的に通ってやがるっ!」

「私が家の屋根伝いに上から追跡するわ。エリオも来て!」

「分かった」


 石造りの無骨な民家が立ち並ぶ細い道。シルヴィとエリオは壁のとっかかりを利用して民家の屋根に登り、上からアダマントの行方を監視する。


「シルヴィ、あいつどうやら自分が窮地になると相当頭が切れるようだ」

「確かに、さっきジーンが言った通り、アダマントは意図的に奇襲がしづらいルートを通ってる。それに……」


 シルヴィがそこまで言うと、エリオと共に立ち止まる。アダマントが逃げた先は商人エリアの平地、家が途切れ、細い木々が生い茂った、城壁間際の地帯だった。


「あいつは上にも警戒をしていた。家が途切れて、俺たちが渡れないような細い気が茂る林に逃げ込んだんだ」

「とんでもなく悪知恵が回るわね。けれど雑木林に人は少ない。これなら……っ!」


 エリオとシルヴィはすぐに民家の屋根から降りて、地上でアダマントを捕らえようとする。ジーン、レギーナとも合流して、再び四人は雑木林の中を紫紺のスーツを目印に追跡するし始めた。


「ひいっ……ふうっ……はあぁっ……」


 恐るべき事に、市街地からこの林までおよそ五キロメートル程の距離、恰幅のいいアダマントは、人に揉まれて冒険者四人の追跡を受けてなおノンストップで走り抜けている。ジーンは急にこの距離を走る事になり、思った以上に体力を消耗しており、アダマントの荒い息と同じくらいの呼吸をして食らいついていた。


「ジーン、体力が足りてないですわよ?」

「やっぱり寄る年波には勝てないってことね」

「ううっせぇ! 俺は…はぁっ……狩人じゃねえんだから、はぁっ……しょうがねえだろうがっ……!!」


 喋る余裕も次第に薄れて、まだ終わらないかと一同が思っていた時、シルヴィは走っている先に城壁がそびえているのを確認した。


「よかったわねジーン。どうやらこれ以上走らずに済むみたいよ」


 シルヴィがそう言うと、向こうで走っていたアダマントは、おおよそ人には登りきれない商会の防護壁の前で立ち止まった。そして左右のどちらに逃げようかとオロオロしていた所で、四人の冒険者に囲まれてしまった。


「アダマント卿。あなたに聞きたいことがありますの。どうか抵抗しないでわたくし達と同行していただきませんこと?」

「くっ……!」


 レギーナが追い詰め、四人の包囲網が少しずつ狭まっていく。ようやく誰かの手が、アダマントに触れるまで近づいた。だが


「……ふっ」


 そろそろ捕らえることができる。そう思った矢先、アダマントは荒げた息のすき間で含みのある笑いをこぼした。


「っ!? 下がれっ!!」


 その笑いを見逃さなかったのはジーンだった。そして、全員の耳にはっきり聞こえるような声で発した命令で四人はアダマントから距離を取ろうと後ろに飛び退いた。


キィン!!


 そして、かろうじて距離をとった四人に、どこからともなく強烈な剣が振り下ろされ、レギーナとジーンは自分の得物で受けて、シルヴィとエリオは間一髪でその凶刃から逃れた。


「なんですの! この白装束は!?」

「わからねえ、だがおそらくあちらさんと関係ある奴らしいな。どうやら俺たちは誘導されたようだが?」

「まさか、ここまで計画していたとは……」

「それに、この人数差は、ちょっとまずい……かもね」


 八人。


 急に降ってきた剣と共に、八人の人間が上から降って来た。腰に黒帯を巻いた白の装束に身を包み、頭は白の面頬で覆っている。全員が同じ片刃の直刀を携え、隙のない構えで冒険者たちににじり寄る。先ほどまで追い詰めていた者たちが、今度は追い詰められる側となり、冒険者たちの背中に緊張が走った。


「こいつら、手練だ」

「ええ、こちらを確実に殺そうとしてるわね」


 緊張状態が続き、お互いが間合いを測っていると、全員の耳に突然




リーン…………




 一振りの鈴の音が響いた。


「はぁっ!!」


 耳を刺すような鈴の音澄んだ音で、突如として、白装束たちが、動き始めた。全員が一斉に斬りかかり、戦況が一気に変化する。突然の襲撃に僅かに反応が遅れ、シルヴィが素早くしゃがんで地面に手を付ける。


 瞬間、土が隆起し、剣士達の動きは乱れる。その隙に、四人は包囲網を脱して臨戦態勢を取る。不意を返された剣士達は、一瞬のアイコンタクトの後に一対二陣形で、冒険者たちと対峙する。




 鋭い太刀筋と強い剣圧。二人分の攻撃がジーンを襲い、ジーンはガンナイフで受けつつ、死角を作らないように左手で炎を投げつける。だが、スカーの持つダガーと違い、ガンナイフのブレードは長剣をいなすには心もとなく、剣を弾く度にビリビリとした痺れが手に伝わる。


(そこそこ強えな。だが直刀の構えに力の流れを意識した斬撃、もしかしてこいつら……【スィンツー】か?)




 レイピアで牽制をしつつ、レギーナは相手の足元に水たまりを作り、安定を奪う。しかし剣士二人の足回りは堅く、ごまかしが効かない。むしろ魔法と剣を同時並行で考えているレギーナの方が戦闘に集中できていない。


(こいつら……剣を狙ってる? 力技で追い詰めるつもりですわね)




「はぁっ!!」

「ぐっ……!」


 弓がメインのシルヴィは、完全に押されていた。地面をエナジーですくい上げて石壁を作り、重い剣撃を受け流すが、壁を作る先から斬られて気休めにもならない。


 更に悪い事に、剣士二人は常にシルヴィの両サイドを動き回り、目線が一方に偏る隙を常にうかがっている。前を止めれば後ろが切りかかり、後ろに警戒すれば前が剣を薙ぐ。その攻撃に、体力的にも精神的にも損耗は免れない。


(このままだと、消耗戦で負ける……けど誰かと合流すれば、間違いなく数の不利が上回る……)


 休みない二人分の攻撃に加えて、他の仲間と合流しない立ち回りを考えるシルヴィ、しかし剣士二人はそんな彼女の焦りを決して見逃さなかった。


「やぁっ!!」

「あっ、しまっ……!!」


 一瞬の油断。白装束男の一人はそれを逃さずシルヴィを縦に斬りつける。地面を抉らんとする程の剣戟はかろうじて避けたが、その先にはシルヴィが懸念していた事態が待ち構えていた。

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