第30話 出来の悪い弟子
前日にスカーがアトラクションを行っていたことはアダマントも知っている。それならアーマーのすり替えの情報を掴んでいた彼が、今日のアトラクションでわざとすり替えたアーマーを選ばせたと言う部分は辻褄が合う。スカーの視点では、アダマントは昨日までと雰囲気の違う、すり替えられた鎧をわざと選んだ人物に見えたのだ。
「でも、どうしてさっきのみなさんの推理でそれを……」
「それは、みんなと同じく確信が欲しかったからよ。これがシャドウクロークの犯行なら、下手に動けば行方をくらまされて終わる可能性もある。特に『深夜の警備から今朝の開場の間に鎧の気配が変わっていたこと』の証明があたしには出来なくてね」
それは、冒険者たちにとっての空白の部分、襲撃が終わり、開場までの仮眠時間である。スカーもその時間はすぐに動ける状態での仮眠を取っており、有事の際には立てるようにしていた。だがその間に彼女たちが動くべき事態は起きておらず、その部分で何が合ったのかを知るすべはない。そんな事を話すと、今度はピアーの中に閃きが駆け巡った。
「……あります。その空白を埋める出来事が。あの時、開場までの間に、アトラクションの準備として実験品を裏に片付ける時間が有りました……! 明の時、七時過ぎです! 職人たちとその作業をしています!」
「と、言うことは……これで大分全貌が見えてきたってわけね」
ピアーの閃きにより、アーマーのすり替えからアダマントの策略までの道筋は、ここでかなり固まってきた。
―――
・深夜、盗賊による襲撃が行われ。その際にはレザーアーマーのすり替えは行われておらず、シルクの言う通り、被害はなかった。
・警備が終わり、五時から八時までの間、冒険者たちは仮眠を取る。その最中、七時すぎに一旦レザーアーマー達は今日のアトラクションの為に、奥に片付けられることになった。
・冒険者たちが集まり、二日目が始まった段階で、スカー視点ではレザーアーマーの雰囲気は違って見えており、先刻の影の時一時、アダマントが現れて茶番を繰り広げた。
―――
「つまり、一人以上の人間が、あたし達が関わらない手薄な時間に、レザーアーマーを精巧な模造品と入れ替えて盗み出し、その流れを知っていたであろうアダマントが、スミスクラウンを失墜させるために利用した」
「となると、今日の職人の中にその間者が……」
その話を、顔も変えずに聞いていた人物がいた。ここまでずっと室内にたたずんでいたシルクだ。
「ピアー様」
「シルク……すぐに今日のスタッフを名簿と照合して!」
「御意」
短いやりとりを交わしてすぐに、シルクは部屋を出る。スラックを含めて三人だけになった展示場に、再びピアーの疑問が浮かび上がる。
「それでスカーさん、これはあなたにお聞きするのですが、あなたはこの鎧の事を、どこまで知っているのですか?」
この疑問の最初。今の推理に至る重要な質問が、スカーに投げかけられた。
「そりゃあ、あたしはクロス・リッパーよ?剥ぐ服の事なら、誰にも後れを取らないつもりでいるわ」
「このアーマー、エナジーを吸着する縫製が組まれてるのよね?」
「あ……」
ピアーは言葉を失った。その反応が正解と言っているようなものだと思っていても、それ以上の反応ができなかった。どこで分かったのか、いつから気がついていたのか、逆さまに返した動機、頭の中を質問が走り回るが、それを、言葉にするのはあまりに恐ろしかった。
そして、そんなピアーの恐怖心を察してか、スカーは軽いため息をついてスラックに顔を向けた。
「スラックさん。そのヴェストリーってお弟子さんのこと、もっと教えてくれないかしら?」
「あ、あぁ。そうだな」
――その男は、エリュ・トリにある素材貿易の商家の生まれで、当時は家の手伝いをしていたんだ。俺が素材の取引の為に商家を訪ねたとき、そいつは店番をしていて、素材の数を聞く前に作るものを聞いてきて、その情報だけで必要数の素材を倉庫から持ってきた。俺が何でわかったのかって聞くと、モノがわかればそれに必要な数が分かるって言ったんだ。どうやら家で手伝いをしている中でそんな才能を開花させたらしい。
そこで俺は、両親と掛け合ってヴェストリーをスミスクラウンに引き入れた。その能力は、職人としてのどの分野にも腐らない抜群のセンスだと直感したんだ。それで、俺が直接、装備品などの作り方を教えて、器用さもあってそいつはすぐに一端の装備品を作れるようになった。八年前に引き入れたあいつは、四年で手に職を付けることができたんだ。
だが、あいつは手に職を付けたことで堕落した。あいつの能力は、正確な測量感と、強力な模造に伸びていったんだ。そしてある時、あいつが注文する素材と出来上がってくる作品の質・量が釣り合ってないことが分かり、俺が問いただすと。あいつは素材を過剰に頼み、必要最低限を作り、余剰を使って贋作を作って密かに売っていたことが分かった。それがバレたあいつは「他の奴らだって素材を無駄遣いして、大した数も作れてないのに、必要なやつに必要な装備を売って何が悪いんだよ!」と言って、俺と口論になった。
結局、素材の流用を認めて、俺はあいつを商会から追放した。奴は貿易の畑の人間だったから、職人としてのこだわりや哲学には相容れなかったんだ。――
「その追放も、去年の話だ。長いようで短い時間だよ」
「去年ね。そう、わかったわ」
スラックの話を一通り聞いたスカーは、全ての装備を整えて、出かける準備を始めた。二振りのダガー、使い古しの軽装、ダガーの鞘を兼ねたバックル、珍しく念入りに調べたスカーは、時計をチラリと見て、スラックとピアーにひと声かける。
「それじゃあ、あまりみんなを待たせても悪いし、いい話も聞かせてもらったからそろそろ仲間と合流するわね。もしそのヴェストリーが犯人だったら、身ぐるみ剥いでふんじばってあげるわ」
そう言って駆け出そうとした時、スラックが咄嗟に呼び止める。
「クロス・リッパー!」
「ん?」
「もし、この事件があいつの仕業だったんなら、必ず捕まえて俺のところに寄越してくれ。あいつには言わねえと気が済まねえことができたからな」
「……ええ、下着一丁でもよければ…………ねっ!!」
そんな台詞とともに、スカーは会場の床を蹴り出して、風が通り過ぎるように二人の前から姿を消した。




