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第3話 冒険者ギルド、処罰牢にて

 エリュ・トリの中央区域【トリ・セントレ】エリュ・トリという国の中枢を担うこの場所に、治安維持と狩猟や討伐などを生業とする冒険者たちのギルドが建っている。


 ここはエリュ・トリ冒険者ギルドの地下、何らかの罪人を一時拘束するための牢屋が並ぶ処罰牢と呼ばれる場所。


 その牢の一つの中に『クロス・リッパー』スカー・トレット・フレスヴェルグは現在進行形で収容されていた。


「……」


 牢の中で静かにたたずむスカー。そんなスカーの入っている牢の前に、重苦しいブーツの音を鳴らして、一人の大柄な男がやってきた。


「……よお、クロス・リッパー」

「久しぶりね、四日前にここで出会って以来かしら」


 飄々と話すスカーに対して、苦虫をかみつぶしたような顔を見せる大男、そんな男の不満を知ってか知らずか、スカーは平然と牢の中でくつろいでいた。


「……それで、何か弁明はあるか?」

「フレアの脱がし心地は今日も最高だった」

「死刑」

「待って」


 男の尋問に対して、スカーは真顔でそんな感想を述べる。対して男は淡々と彼女に宣告を下して、それをスカーがせき止める。二人にとっては数えるのも面倒なほどのいつものやり取りだ。


「なあスカーよ。平時に四日おきに風紀違反で捕まるのは情けないと思わないか?俺はこんなことをするためにお前に戦闘技術を教えたわけじゃねえんだが?」

「そうは言っても、毎回言ってるけどあたしに戦い方を教えてくれたのは団長で、治安維持のために見回りを許してるのもギルドよ。それにきちんと摘発や依頼もこなしてるんだから、ギルドの活動にはちゃんと貢献してるでしょ?」

「自分に都合のいい解釈をするんじゃねえ。重要な所を省くな」


 スカーの弁明……もとい言い訳に、男は頭を抱える。スカーはというとそんな男の態度や心情などどこ吹く風で、堅苦しい牢の中の空気を楽しんでいた。


「そもそも今回も仕事はしたわよ。フレアのお店にスィンツーの兵士が入ってきて、迷惑かけたからそれを解決したの。他の冒険者を派遣する時にもそういう伝令をしたでしょ?」

「確かにそれは聞いてる。だが治安維持の奴らが見た光景は、フレアが下着姿で涙目になっていて、お前がフレアの身ぐるみを手にもっていた……という光景だけだ」

「それは見解の相違だわ。フレアのそれは私の報酬」

「つまり剥いたのは確固たる事実なんだな」

「最後まで話を聞いて」


 スカーと男は、テンポよくそんな会話を交わして状況を整理する。スカーの弁明を整理しながら、牢屋の外の男、冒険者ギルド長カゴ・ウェイトレードはスカーの身の振りを判断していた。


「言いたいことは分かった。フレアから聞いた話にもスィンツーの兵士の件はあったし、お前が言っている事についても裏は取れてる。結末はともかく、お前がいざこざを解決したことに免じて、今日は昼で解放してやるよ」


 スカーとやり取りをして、彼女が少なくとも迷惑を解決した当事者であるという事を確信したカゴは、そのまま牢のカギを開けてスカーを釈放した。


 スカーは外に出ると大きく伸びをして、そのままいつもの事のように処罰牢のある階層の階段を上って冒険者ギルドのロビーへと出て行った。




 冒険者ギルドのロビー。さまざまな冒険者が言葉を交わし、受付の女性たちに依頼の受注や情報交換を行っている。


 エリュ・トリ全体で数十万を超える規模で人が暮しており、この国の治安を担う場所という事もあって、冒険者や依頼者など、行きかう人も目まぐるしく入れ替わっている。


 そんな人の往来の中で、地下へ続く階段を上がってきたスカーを見守る男がいた。


「よぉ、今回は短かったな」

「まったくとんだ誤解よ。ジーンからもカゴに証言してちょうだい」

「どうせおおかた、依頼解決後の追い剥ぎの現場を押さえられてぶち込まれたんだろう?それなら俺が釈明するようなこたぁ何もねえ。お前の有罪だ」

「ぐ、よくわかってるじゃないの」


 スカーが助けを求めたのもつかの間、その男はスカーの事の次第をすらすらと読み当てて、スカーの反論の余地を奪った。そして男はスカーに帯同するように冒険者ギルドを後にする。


「それで、お前が捕まっている間に昼なんだが?」

「そうね、そろそろ何か食べたいところね」

「今の今まで捕まってた人間が言うセリフか? それが?」


 呑気なスカーの横で、呆れたように言葉をこぼす男。


 ブラウンのレザーベストと黒のシャツ、バレットホルダー付きのベルトにジーンズ、そして彼を見つける時の一番の特徴とも言える、ブラウンのテンガロンハット。


 冒険者ジーン・デニー・ムスタング。スカーと同じく冒険者ギルド所属の冒険者であり、悪友ともいえる旧知の仲である。


「牢に放り込まれてたってお腹は空くし、服を剥いでもお腹は膨れないでしょ。という事でセントレの市場に行くわよ。いつものメンバーにも会えるだろうし」


 スカーの提案に、ジーンは頭をかいて答える。


「ああそうだな。レギーナ辺りにあって今日の事でさんざん罵られるがいいさ」




 かくしてスカーとジーンはギルドの東側、石造りの噴水がランドマークになっている繁華街にやってきた。昼の繁華街は冒険者や職人、その他多くの仕事人で賑わっており、それらの腹を満たすための屋台が街道にずらりと並んでいる。


「今日は季節も気候もいいから市場もずいぶん盛り上がってるわね」

「ああ、最近はスィンツーとのいざこざも少なくなってるから、農耕や獣狩りも人が十分に配備されてるしな」


 会話を交わしながら、二人は屋台市に目ぼしい料理がないかに視線を巡らせる。


 石の国ともいわれるエリュ・トリは、山岳を抱える盆地の様な場所にあり、とりわけ石材と岩塩は相当量が眠っており、この国において主な経済の基盤となっている。


 そんな国で特にオーソドックスな料理といえば、イノシシやニワトリの岩塩焼きである。この屋台市でも例にもれず、火のエナジーを火種にした石造のコンロに岩塩のプレートを敷いて肉や野菜を焼く音と匂いがそこかしこから漂ってくる。


「これだけ屋台市で肉が並ぶんだったら、フレアのパンもうちょっと買っておけばよかったなぁ、固めのパンで作るバゲットサンドのおいしさと言ったら…」

「お前が余計な追いはぎをしなけりゃその夢も叶ってただろうな」


 ジーンの悪態に何か言い返そうかとスカーが口を開けたとき、どこからともなく甲高い女性の声が二人に向けられた。


「本当に、ジーンの言う通りですわ。スカーはもうちょっと自制というものを覚えるべきだと、かねがね言っているではありませんか」

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