第29話 追う冒険者、佇む赤髪
レギーナの言葉に、少しの時間を置いて全員がハッと気が付いた。
「あの時、手に取って着たのはアンクで、それを選んだのはスラックさん。けれどあの出来事は、アダマント卿が唆さなければ始まらなかった事。それにあの時、アダマント卿は周りを巻き込むだけではなく、しきりにあのレザーアーマーの話をしていた。これがもし、あのイベントを起こしてレザーアーマーを『選ばせるため』だとしたら」
レギーナの新たな仮定が、愚痴を吐いていたジーンまで巻き込んで、さらなる推理を生み出し始めた。
「おいおいおい待ってくれって、あの性悪の男が、まさか全ての計画を知っててあんなことをしたってか?」
「ですが、あの時の言動の理由もそれで説明は付きますし、商売敵である以上、そうする理由にも納得がいきます」
そして、このアイデアたちからまとまった推理が全員に共有される。
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・模造品を作ったと思しき人物としてヴェストリーという元スミスクラウンの男が関わっている可能性がある。または彼に類する能力を持った人物が関わっている可能性は高い。
・彼もしくは彼のような能力を持つ人物が、今回の襲撃を行ったシャドウクロークと何らかの関りを持ち、シャドウクロークが盗んだ品を複製している(もしくはさせられている)。
・露天商にスミスクラウンの模造品が流通している部分にも、ヴェストリーからなる一連の推測が当てはまる。
・展示会の事件の時、アダマントはスラックに、すり替えられた偽物を選ばせた可能性がある。あの時のアダマントの立ち回りには、思い返せば違和感があった。
・アダマントが仮に知っていたのだとしたら、彼が二日目に来場するより前には、既に展示品は偽物だったと言える。そのタイミングは「襲撃時」もしくは「襲撃からアダマント来訪までの何らかの時間」
・そして、模造品が置いてあることを知っておいて、スラックに選ばせたアダマントは、シャドウクロークか模造品を作れる男、もしくはそれとは別の悪意のある連中と関連があるかもしれない。
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順を追って整えた推理を見て、シルヴィが気付いたことを口にする。
「これがもし成立するのなら、アダマントはすり替えと盗賊の襲撃のどちらも知っている事になるわね。ねえ、アダマントが去っていったのは何時だった?」
シルヴィはピアーかスラック、どちらかが答えられると思い尋ねる。すると、スラックの方がその時間を答えた。
「それは確か、影の刻の0時半頃だったな、アンクが装備を着替えていた時に俺は時間を見ていた」
スラックの証言を聞いてすぐに、会場の壁に掛けてあった針の時計を見る。現在時刻は影の時の二時前、アダマントの茶番は90分前となる。
「まずいわね……この予測が真実でも嘘でも、あの男には何か聞く必要がある。この商業都市を真っすぐ出ていくのなら、90分はあまりに長すぎる。ここを出る前に止めないと!」
シルヴィの判断に、レギーナ、エリオ、ジーンが立ち上がった。そしてシルヴィの「アダマントを探してくる」という声と共に、四人はすぐさま会場を飛び出して、スミスクラウン商会内のアダマントを探しに出た。
その一方で、この推理からずっと、何もしゃべらずに一人窓の外を眺めていた冒険者がいた。
「あの、スカーさんは向かわれないんですか?」
おずおずと声をかけるピアーに、スカーは驚いたように振り向いた。
「おっと、ごめんなさいね。あたしはああいう複雑な推理は得意じゃないのよね。頭がこんがらがっちゃうから」
「そ、そうですか……」
「ピアー?」
スカーの暢気な返答を聞くピアーは、乾いた笑い声でその場をやり過ごそうとする。だがそんな弛緩した空気に一つの揺らぎを加えたのは、むしろスカーの方だった。
「どうしたの、何か私の顔に付いてるかしら?」
「スカーさん。質問をしてもいいですか?」
「ん? なんでもどうぞ。あまりプライベートな話を聞かれても答えられないわよ?」
飄々とした語り口のスカーに、まっすぐ視線を合わせて、ピアーは少し拳を握って質問した。
「……スカーさんは、どうしてあの時、偽物だってわかったんですか?」
――
スミスクラウン邸を出て、市街地方面へ向かう冒険者四人は、近くにあった馬車を借りようとした。だが馬車には運転手が乗っておらず、かと言ってこのまま馬に乗って走っても、市街地までは少々時間がかかる。
「くそっ! これじゃあ間に合わねえ。どうにか」
ジーンがそこまで言うと、馬車の運転席に、見覚えのある人物の影が飛び乗ってきた。スラリとしたシルエットの強靭な肉体。それは運転手の座席に座るにはオシャレすぎるスーツ姿の執事、トラウザーズその人だった。
「お乗りください!」
トラウザーズの声により、四人は彼の指揮する馬車に乗り、市街地を目指した。馬を風のように走らせて。ガタガタと不規則に揺れる馬車の上で、シルヴィがトラウザーズに声をかけてた。
「どうしてこんなことを?」
「旦那様から仰せつかりました。あの者たちを可及的速やかに市街地まで送れとのお達しでございます。事情はお話しされませんでしたが、旦那様がお急ぎの様子でしたので、何も言わずこうして案内させていただきました」
あの推理を聞いていたスラックからの助け舟。四人はトラウザーズの荒馬車に捕まりながら、スミスクラウン商業エリアへと急いだ。
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「スカーさんは、私が鑑定する前からあのアーマーが偽物だと気が付いた。そしてスカーさんの言葉を合図に私が鑑定をして、本当に模造品だと分かりました。それに、スカーさんは私にアーマーを手渡す時に、不自然に逆さにしてから渡しましたよね?」
じっとピアーの推理を目と耳で受け取るスカー。そしてピアーが投げかけた時、スカーは両手を後ろで組んで気ままな表情を浮かべた。
「……いやぁ、あなたなら気がついてくれると思ったけど、意外に早く気がついてくれてあたしも安心したわ」
「スカーさん……?」
スカーの含みのない言葉に、ピアーは不自然さと少しの緊張を抱える。もしもここでスカーが危険な動きをすれば、ひとたまりもない。だがそんな不安は、スカーの言葉ですぐに別の感情へと変化していった。
「心配しなくても、この後ジーン達にはすぐ追いつくわ。でもそれより、ここまで気が付いた貴方に質問の答えをあげないと」
「そ、それじゃあスカーさん……まさか」
「そう。あたしはあのアーマーが偽物だとすぐに気がついた。具体的にはアンクちゃんから剥ぎ取る時にはもう確信していた。その前までは少しの不自然さだったけど、アダマントがアンクに着替えさせた所で疑いは深まり、剥いた時には『こいつ、やったな』って思って、ついブチギレちゃった」
スカーの証言、それは彼らが行った推理において、かなり重要な空白を埋めるものだ。アダマントがなぜレザーアーマーを選んだか。スカーの視点に切り替わることで、その部分は明瞭になる。




