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第26話 アダマントの誘い

「やあやあスラックよ。今日も来てやったぞ」

「……あぁ、招待状を持っているならいつでも歓迎するぞ」


 昨日と同じく、ズカズカという足音が聞こえてきそうな大股で、実験品の商談をしていたスラックに近寄るアダマント。先日にも増して嫌味を含んだその顔に、スラックとピアーは異様な不安を覚える。


「どうやら景気は良さそうじゃないか、んん? エリュ・トリの英雄で迷惑者だったあいつを自分の商売に引き入れるというのは、なんというか……豪胆な商売だと思うがね?」


 先日に続いて、不遜な態度でスラックと向かうアダマント。しかしスラックは昨日とは違い、やや態度を厳しくする。


「アダマント。悪いが、エリュ・トリを守ってくれた人物について悪し様に言うのはいただけない。お前にとっては余所の出来事でしかないが、俺達やエリュ・トリの民にとっては、比類なき英雄だ」


 スラックの反論に、周りで商談をしていたエリュ・トリの招待客も大きく首を振って、アダマントに強い視線を向ける。だが、予想外の嫌悪感を向けられてなお、アダマントの表情は揺らいではいなかった。


「はいはい、確かにわしにとってはただの隣町の出来事じゃよ。お主らのその眼差しは気に入らんが、お国の事情とやらは複雑じゃからのう。それでじゃ、スラックよ」


 アダマントは上っ面だけの同情を示したのち、すぐに顔色を変えて、スラックに相談を持ち掛ける。


「昨日と今日、お主が自慢するクロス・リッパーのアトラクションをわしも見ておる。あの娘が着とるドレスアーマーが見事に耐えとるのは分かった。だがな、マネキンに飾られた他の装備はどうじゃ? あれらが同じようにクロス・リッパーに耐えられるのか、誰も見てはおらぬのではないか? あの渋いブラウンのレザーアーマーや、より頑強と見受ける無骨なフルメタルプレート……それらに本当に同じ能力が有るのかと気になるのは、わしだけではあるまい?」


 そう言って、アダマントは笑いながら、暑苦しい顔をスラックに寄せる。そして、アダマントの言葉は周囲で商談していた他の招待客の間を波紋のように広がっていった。




そうか、あのドレスアーマーが完成品なら、他の装備は……?


急いで頼むのは、リスクかもしれんのか?


あの男は胡散臭いが、確かに一理ある




 実験品の商談に臨んでいた客たちの間に、アダマントの言葉は更に強く影響を与える。悪い事に、彼の持つ胡散臭さと信用に欠ける振る舞いが、皮肉にもスミスクラウンの信頼を高めていく構造となった。この場にいる者たちの心の声を借りるなら


「いかにも悪役の様なアダマントが付けてきた難癖になら、スミスクラウンは正義として答えを出してくれる」


 そんな勧善懲悪的な期待が、対峙しているスラックに重くのしかかってきたのだ。


「どうじゃ? あの渋いブラウンのレザーアーマー、もしくは無骨なフルメタルプレート……しかし着るのが小娘であるのなら、やはり軽量なものを試すのが筋という話であろう? さて、どうかな? わしとしては実験品と断るのも、やぶさかではないぞ、スラック・スミスクラウンよ?」


 わざとらしくフルネームで呼びつけるアダマントに、スラックの視線が一瞬、マネキンに飾られたブラウンのレザーアーマーへと流れる。


 スラックは一瞬、ドレスアーマーを身につけて不安げにしているアンクに向く。アンクの目は決して穏やかではなかったものの、スラックの判断を待ち、それを信頼する準備が出来ている、綺麗な色をしていた。そして逡巡の後、スラックはピアーに指示する。


「アンク、装備をあのレザーアーマーに着替えてくれないか。せっかくだから他の実験品についても、その力を見せてやろう」

「は、はい! 分かりました!」


 かくしてアンクはドレスアーマーから軽装のレザー装備に身を包んで、再び展示会場に現れた。身体を守るレザープレートも頑強に出来ており、普通の攻撃に対してもかなり防御力は高く感じる。


「いやぁ、ドレスアーマーを着てた時でもかわいいなって思ってたけど、軽装を着るとそれはそれで凛々しくてかわいいわねぇ」

「鼻の下伸ばすなっての、お前本当にあの子の同性か?」


 ジーンから突っ込まれつつも、アトラクションの時のポジションに付いたアンクを見て、スカーもまたクロス・リッパーとしての準備を整えた。


「じゃあ、装備が変わったけど、あたしは変わらず思いっきり行くからね」

「はっ、はいっ! よろしくお願いいたしますっ!」


 そう言ったアンクの言葉を合図に、スカーはまた床を蹴り出して一筋の線としてアンクに近づく。やはり誰の目にもスカーは追えず、この試合の結果を、目を凝らしてみる事しかできなかった。


 そして、スカーが視界に収まり、軽いつむじ風が吹き、風でわずかにつぶっていた目が見開かれた時


 スカーの手には、レザーアーマーが握られていた。




「えっ」


「……ひゃっ!?」


 二つの短い悲鳴、それは肌着と下着と履き物だけの状態で立っていたアンクの弱々しい叫びだった。


 そして、今起きた状況に会場の全員が青ざめたような表情をしていた。


 表情の意味はあまりに多用で一義的な言葉で語れるものではなかった。失敗、焦燥、羞恥、驚愕、落胆、失望……各々の心にとっさに沸き上がったそれらは、会場の空気を一気に冷やした。


「……アンク、これを」


 自分の置かれた状況に気が付き、隠すものが少ない状況で深くうずくまるアンクに、エリオが自分のローブを掛ける。それに次いでスカーは何も言わずに、アンクの足元に自分が手に取ったレザーアーマーを返す。

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