第24話 深夜1時の侵入者
「っ!」
無音に凪いでいた一時の展示場、その非常口側から、ここに居る五人の誰のものでもない足音が一つ響いた。それにいち早く気が付いたのは、入り口側に構えていたシルヴィだった。
「非常口っ!!」
シルヴィのその言葉で全員がその方向を向いた。
顔まで隠す黒のフード付きローブ、そしてシルヴィの合図で全員がその不審者を視認したときには、既にその場所には六人が立っていた。
「どうやって……!」
「アンク!」
「はっ……!」
シルヴィがつぶやいた疑問に誰かが答える暇もなく、シルクはアンクに一言だけ指示を飛ばす。
声に弾かれるようにして、アンクはトルソーのすき間から、鉄塊の様なブーツで駆けだして「ズンッ……!」という重厚な音を立てて、ひと蹴りで六人の男たちに肉薄する。
そして空中で姿勢を制御したかと思えば、戦鎚の重量としなりでアンクは身体を回転させて戦鎚の一撃を振りぬく。
そしてその後を追うようにスカーもまたひと蹴りでアンクに追いつき、瞬足で近づくと同時に腰に携えていた刃渡り40センチのダガーを突き立てる。
「やぁっっっ!!」
「さっさと死ねっ!」
アンクが戦鎚を振り降ろし、同じ速さでスカーの双刃がその集団を切りつける。
「は、はやっ……!?」
その内の一人が男の様な声を出してスカーの斬撃をそのローブで受け、集団は一斉に散らばる。アンクの一撃は避けられたものの、その集団はスカーの斬撃よりも、予想外に素早い重装の少女を警戒した。
固まった状態でその場にいた集団は、二人の一撃で展示場の各所に散らばった。スカーとアンクが見つめる先には、先ほどのスカーの斬撃でローブを切りつけられた者が一人、そして他の者たちは、みな一様にスカーとアンクに顔を向けていた。
「名は体を表すっていうけど、まさかシャドウクロークってのがこんなに分かりやすい見た目をしてるとは思わなかったわ」
「くっ……!」
「反応したってことは知ってるみたいね。あと、そっちの左手の奴も男、それにアンタたち、化粧っ気のない匂いしかしないわね。六人全員男なのかしら? これであたしたちはシャドウクロークの尻尾を掴んだって訳か」
声、言葉、行動、仕草。
スカーの煽り文句で、男の一人がうっかり声を上げてしまう。スカーの言葉は、それらいずれかを引き出すための陽動で、スカーは五対六という数的不利の状況で瞬時に敵の情報を引きずり出した。そして集団がスカーとアンクに警戒を傾けていると、今度はその目線の外から、細い火の粉の様な光が集団の一人に直撃した。
「あっつっ……!」
「よそ見すんなよ。こっちは五人いるぞ?」
ドスの利いた声と共に、ジーンが赤いストロースモークの煙を燻らせた。
敵の一人に直撃した火の粉は瞬間的に爆発のような発火を起こしてローブを焼こうとする。
一人が被害に遭っていることに気がつく頃には、ジーンの手に圧縮した火のつぶての様な塊が生み出されており、それを両手の親指でコイントスのようにはじき出して、残りの五人に当たるように狙いすました。
そして弾かれたビー玉の様な火のつぶては、蛇行に近いカーブを描いて、他の五人めがけて飛んでいく。
一人がダメージを受けたことで六人はその威力が生半可ではない事を悟り、打ち出されたつぶてを回避せざるを得なくなり、更に複雑に場内へ分散していく。そしてそれはもう一人の遠距離型にも有利な状況となり、逃げおおせたと思って足を止めた一人のローブに、鋭い衝撃が走る。
「ぎゃっ! なんだ? 木の矢!? どこから……!」
「学習しないわね、こっちには五人いるの。射手ナメないでくれる?」
そう言ってシルヴィは弓もない状態で木と羽で出来た矢を飛ばす。
ジーンの要領に近く、手のひらと二本の指の上に置いた矢に、土のエナジーで動力を与え、自分の両手をボウガンの台座として、矢を打ち出していた。
シルヴィが次の矢を番えて射出すると、それは最速の直線で狙った襲撃者に向かい、対する敵はそれが打ち出されていると気付く前からよける動作をしなければならない。
「くっ」
「曲がれ」
「ぎゃぁっ!? 今度は火っ!?」
けり出して矢を回避すると、姿勢制御の利かないジャンプ姿勢の襲撃者に、ホーミングするかのように火のつぶてが命中する。シルヴィの直線攻撃に気を取られて飛び跳ねれば、狙いすました火のつぶてで牽制を受け、足を止めればシルヴィの矢が命を射るような速度で襲い掛かってくる。
「アンク! 片づけますよ!」
「っ、了解っ!」
そして、ジーンの火の玉、シルヴィの弓矢で逃げ場を塞がれた六人の男たちに向かい、レイピアで詰め寄るシルクと、ウォーハンマーを振りかざすアンクが個別迎撃を始める。
シルクのレイピアは強くしなり、侵入者のローブを的確に切り裂いていき、次第にその男たちのローブの中が露わになっていく。
対してアンクは、クリーンヒットすれば命はないであろう一振りで、相手を追い詰めていく。重装備の少女にもかかわらず、おそらく男であろう侵入者たちの方が息を乱しており、戦鎚と共に襲い掛かってくるアンクは全く呼吸を乱さず、無表情で追撃を加えてくる。そして、両方の攻撃で連携が乱れた襲撃者の内一人が、焦りの色を見せて五人全員から視界を外した。
「ばーか、戦場で背中見せる兵士がどこにいるのよ?」
2秒。逃げの姿勢をとって背中を向けて2秒で、男の背中10センチの位置に、クロス・リッパーがぴったりとついていた。右耳からだけ聞こえるその声に気付いたころにはもう遅く、クロス・リッパーは最大速度でその男の身ぐるみを全て剥ぎ散らかした。
……と思っていた。
「これはっ!?」
隙を見せた男のローブは剥ぎ取られ、男の顔が露わになった。しかし、露出したのはその顔だけで、ローブの下に身につけていたレザーの鎧は無事のままだった。
そして、顔を見せた男は辛うじてクロス・リッパーの攻撃を受けきって、非常口のすぐそばにたどり着いた。すると、今度は警備の五人でも、侵入した六人でもない複数の足音が、この場にいる者たちの耳に聞こえてきた。
「ちっ……増援だな」
ようやく姿が見えたのもつかの間、男は口惜しそうにそう呟くと、腕につけていたアームポーチをその場で取り外して何らかのピンを抜く動作をして捨て置いた。




