第22話 一日目の終わり
「いやはや、アダマントはとにかく俺と反りが合わなくてな。俺が職人をくいっぱぐれさせないためにこの商会を作った事を、度々『資源の無駄』って言って野次を飛ばしてくるんだよ」
「アダマント卿は生産と使い捨て、合理性・効率性を求めていますから、私たちの様な職人主義とは相いれないみたいで」
スラックやピアーの言うアダマントの哲学は、紛争も少なくないこの場所では一つの強みでもある。
仮に戦場で替えの利く装備が複数配備されていれば、速やかに装備を替えて整える事で戦況をコントロールすることもできる。人海戦術との相性はいいのかもしれない。
しかしその反面、装備の消耗のタイミングによっては直接危害が及ぶ可能性もあり、何より命の瀬戸際を、落ち着いて預ける事などできはしない。
「あのー……私もその装備、見せてもらってもよろしいですか?」
アダマントについての実りの無い評判の間に、少し申し訳なさげにやってきたマリヤンが声をかけた。
「あなたは……?始めていらした方ですね」
「はい、マリヤン・ハースニール。ファッションブランドを経営しているんです」
「ファッション……そうか、俺は鍛冶師だから知らないが、もしかしたらウチのカミさんの招待か。物々しい装備が多いんだが、ゆっくりしていってくれ」
スラックはそう言って、マリヤンを歓迎した後、余所のショーケースに呼ばれてこの場を離れた。そして、ようやく落ち着いて話をすることが出来る時間が出来たことで、ピアーから、改めて要望が告げられる。
「さて、スカーさん。ここからはこの展示会中のお仕事についてなんですが、今のように、開催期間中に何度かこの装備を獲るアトラクションをしてほしいんです」
「アトラクション?」
「はい。ただ展示をするのではなく、こうして実際の能力を、これから出入りするお客様に見せていただきたいなと考えているんです」
ピアーの話はつまり、今日の展示会の開催時間の間に、何度かこのクロス・リッパーの見世物をして、来客の興味を煽って欲しいとのこと。
「どうでしょう? 急な要望ですので、イヤと言うなら」
「いいわよ」
ピアーの申し訳なさそうな顔と、恐る恐るの提案。それに対してスカーはやたらあっさりと快諾した。
「即決だな、スカー」
「だって警備とかで退屈にしてるよりもこっちの方がずっと楽しいじゃないの。それに服を剥ぐことが許可されてる仕事なんて初めてだし」
スカーは腕をぐるぐると回しながら、アンクのドレスアーマーに照準を合わせてニヤリを笑みをこぼした。剥かれなかったとは言え、クロス・リッパーの獲物を見定めるような視線を受けて、装備者のアンクは怯えを隠せなかった。
「それで、マリヤンは旅行中だって聞いてたんだけど?」
昼の時間、冒険者五人とマリヤンは来客用の食堂に集まって、簡単な食事を摂っていた。ハムとリーフのサンドイッチ、冒険者の活動のつなぎには十分な品だ。
「すみません、実際には仕事からの逃避旅行みたいなものなんです。服のデザインに少し行き詰まっていて、何かヒントが得られないかと思って、この展示会の話題を聞いて、新しい着想を得ようと思い、ここまでやってきたんです」
マリヤンのブランドでは、プレートなどで補強をせず、単純に素材の強度が高いもので、服としても防具としても機能するファッションを追求しているとのこと。
しかし、自然の素材で戦刃に耐えるものを作るのはさすがに至難を極める為、一旦全てを投げ出した結果が今の状態だ。
「ちなみに、旅行でここに来たということは、お店は別に?」
「はい、クレモナ・イルドに」
「一つ挟んで向こうのあの小国か? ずいぶんな遠路だな」
エリオの質問に、マリヤンは淀みなく答える。マリヤンの言う【クレモナ・イルド】は世界樹の都の中央に位置する小国の一つ。
肥沃な土と日照時間の長さから、農作の楽園とも言われる国で、中でもここで作られる織布などは、このエリュ・トリでも多くの装備で使用されている。
「幸い、お得意さん経由で紹介していただき、スミスクラウン夫人からの招待を受けることが出来ました」
「なるほどねぇ、最初俺たちに話しかけてきて、スカーを焚き付けるような言い回しをしていたが、そんな店の事情があったとはな」
「あはは……焚き付けたつもりは無かったのですが、そう取られても仕方がありませんでしたね」
そんな短い会話を交わしながら昼を共にして、一人二切れのサンドイッチを食べ終わると、また展示会へ戻ることになった。
マリヤンも引き続き見ていくと言ったが「あまり店を空けてはいられないから、そのうち帰る」と言って、午後の展示へと戻っていった。
スカーによる、クロス・リッパーの実演は、おおむね一時間に一回のペースで行われた。影の時の二時から再開して、閉館となる五時までの間、合計で四回の実演を行い、その間スカーの攻撃は一度も通用せず、アンクは結局アーマーを剥がされるどころか、チョーカーひとつに至るまで無傷のまま最後のアトラクションを終えた。
「ご来場の皆様、展示会の一日目は間もなく終了となります、これよりここは施錠させていただきますゆえ、商談の続き等はまた別の会場をご用意させていただいております」
開場からここまで、姿を見せていなかったトラウザーズが、場内にアナウンスを行い、招待客と商談を受け付けるスタッフたちが、次第に会場を後にしていく。スカー達はその様子を見送って、人の気配のなくなった会場で待機していた。そして、帰る客を見送ったスラックが、会場に残る一同に声を掛ける。
「冒険者諸君、今日はありがとうな。この後の事はシルクから聞いてくれ。ここからは君らの仕事だ」
「と言うことは、この会場の警備をせよ……と言うわけね」
「そうだ。特別な催しであることや、商談の数も多いことから、警戒は最大限に頼みたい。何より、最近の正体不明の盗賊についても、看過できないからな」
スラックの口から出たその盗賊について、スカーとシルヴィは記憶を呼び覚ます。




