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第21話 対クロス・リッパー用装備

 会場が、ざわついた。


「い、今ピアーは……なんて言いましたの?」

「スカーに、剥かせる……?」

「へぇ、こりゃ面白そうだ」


 クロス・リッパーをよく知っている仲間たちが驚くのも当然で、他の客人もまた、それ以上にピアーの耳を疑った。


「それ、本当にここでやってもいいの?」

「はい。父の伝言はお伝えしたでしょう? これがその、クロス・リッパーへの挑戦です」

「ふぅん……」


 スカーは、今聞いていることが自分の勘違いではないことを改めて確認するとともに、ドレスアーマーに身を包んで、少し縮こまったようにそこに立つアンクを見る。一方で、シルヴィが入り口側に立ってその一部始終を眺めていた時、そのシルヴィに声を掛ける人物がいた。



「あら? もしかして何かイベントが始まるタイミングですか?」




「あなたは……マリヤンさん?」

「お久しぶりです。運良く招待をいただけたので来てみましたが……これは?」


 石炉亭で出くわし、シルヴィとエリオが助けたマリヤン。本来の目的はこの展示場に来ることだった彼女との遭遇に、シルヴィは驚きと共に、彼女のタイミングの良さに困惑していた。


 なぜなら展示場の中央では、スカー、アンク、そしてピアー・スミスクラウンの三人がジリジリと位置を変えて、ここにいる全員がその瞬間…スカーのクロス・リッパーとしての技の瞬間を待っていたからだ。


「あなた、アンクちゃんだったわね。これから私がひん剥くんだけど大丈夫?」

「あ、はい……かっ、覚悟はできています、から!」

「そう、それじゃあ……」


 アンクに確認を取ったスカーは、一歩、二歩と彼女から距離を取り、足元を踏み固めるように鳴らす。そして、深く深呼吸をしてから直ぐ、軽く膝を曲げて、姿勢を下げた。


「……ふっ!!」


 瞬間、スカーが床をタンッと蹴り出すと、他の観客が目で追えたのはそこまでで、スカーは一筋の光の線のように素早く動き、アンクの身体の周りを舐め回すように巡って、彼女の背後へと通り過ぎた。


 次の瞬間、辺りに髪を揺らすほどの、空気のうねりのような風が舞い、壁にかけていた武器やショーケースのガラスがガタガタと音を立てる。そして、クロス・リッパーとしての実力を発揮したスカーは高々と手を挙げた。




 だが、スカーのその手には布の一つもなく、アンクはさっきまでと変わらないドレスアーマーを身に着けていた。


 そう、スカーは、ひとつも服を獲っていなかったのだ。




「えっ!?」


 その事実にいち早く声を上げたのはレギーナだった。クロス・リッパーが服を獲り損ねる。レギーナも自分で経験しているだけに、その状況が過去にない異常であることをすぐに理解した。そして、虚を掴んで手を高らかと上げていたスカーがその手を降ろし、フル装備に身を包んでいるアンクにゆっくりと視線を向けた。


「……へえ」


 スカーが、深慮の定かではない小さな声を漏らす。それと同時にこれまで説明をしていたピア―が、観客に向けて宣伝文句を発した。


「ご覧いただいたように、こちらの中央に飾られている軽装・重装鎧は、エリュ・トリの英雄『クロス・リッパー』の攻撃を見事にかわすことが出来ました。これがスミスクラウンの新しい実験品となります」


 ピア―の言葉が終わると、注目していた観客は感嘆の声をこぼしながら盛大な拍手を浴びせた。そして、一連のアトラクションが終わると、まずはスカーに駆け寄り、深く頭を下げた。


「ありがとうございました。そしてすみませんでした。騙して利用するような形になってしまって……」


「それは別に気にしなくてもいいわよ。それよりもあのよろ」

「スカー! 本当に実力で失敗しましたのっ!?」

「うえっ、レギーナ……?」


 謝るピアーに何かを質問するよりも先に、大慌てで駆け寄ってきたレギーナの質問に、スカーは意識を取られた。


「やれやれ、ついに対クロス・リッパー用の装備まで開発されるとはな」

「いよいよ日頃の行いって言う言葉が重みを増してくるわね」

「しかし、それ以上にその鎧の防備は見事だな、それが実験の成果という訳か」


 それぞれが方向性の違う声を上げて、話の向きがはっきりしなくなった時、ピア―と冒険者たちの会話に割って入る不機嫌そうな声が全員の耳を打った。


「おい、スミスクラウン嬢よ。その実験品の鎧とやら、ワシにもよく見せて見ろ」

「お久しぶりです、アダマント卿。先ほどの副官は?」

「ふんっ! 会場に入れるのは招待客のみだと決めたのはお主らではないか。あの男は場外で待たせておる。それよりスミスクラウン嬢、これはどういう実験品なのだ? 公開するからには公開するからには秘密にするつもりはないのだろう?」


 そう言ってアダマントは、トルソーから実演装備しているアンクまでを目を細めて眺める。そうしていると、大木が影を作るように、アダマントの後ろにスラックが近づいてきた。


「確かに公開されてはいるがその技術はさすがにまだ教える事が出来ない。今回の製品は、あくまで実験品だからな」

「なにぃ?」

「なにせ、これはクロス・リッパー……彼女がこれを突破できた場合、廃棄する予定だった。しかしこうして攻撃を耐えきったからには、これから研究をしてさらに強化するつもりだ」

「相変わらず研究好きだな鍛冶師風情が。ワシらに技術を提供すればすぐにでも製造してやるというのに」

「見物だけなら歓迎するぞ? それで真似ができるんならやってみてくれ」

「……くそっ!」


 明確に不機嫌になったアダマントは、背中を向けてその場を離れる。そして会場を出て辺りを見回して「ガリン! どこに行った! さっさと戻ってこい!」と衆目などお構い無しに喚いていた。


「短気なおっさんだよ全く」


 ジーンの一言でその場の淀んだ空気は洗い流され、再びその場所に会話が咲いた。

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