第20話 展示会、一日目
紫紺の生地に金の刺繡をあしらったスーツを着た恰幅のいい男と、口元を軽装のマスクで覆い、灰色のコートを着た男。他の参加者が招待客としてフォーマルに整えている中では明らかに悪目立ちしていた。そして、冒険者協会の人間と話していたスカーは、あの男たちについて尋ねる。
「ねえ組合長さん。あの男に心当たりは?」
「ああ、アダマントって男だ。エリュ・トリの紛争危機でこっちの国も軍需が高まって、その時に大量の防具を製造して安価で提供した……つまり紛争特需の成り上がりってやつだよ。ま、当の本人は工業の知識は皆無だから随分と白い目で見られているがな」
「ふーん……」
そうして、招待された面々がある程度集まったところで、トラウザーズが来客に向けて挨拶を始める。
「皆様、本日は我が主人の招待に応じていただき感謝いたします。これよりスミスクラウン特別展示会を挙行し、皆様にスミスクラウンの職人技の結晶をご覧いただきます」
その挨拶とともに、トラウザーズとメイド達は今現在集まっている客を、大階段右手のアトリエ通路へ案内する。そして、工房を手前にした所、壮麗な白の両開きの扉の前で立ち止まり、客人を一瞥するとともに彼とシルクが扉を開放した。
「へぇ……」
眩しいほどの光を抜けた先には、100人は優に入ることの出来る宴会場のようなホール。その壁際一周に渡ってガラス張りのショーケースが並び、その壁には数多くの武器や、防具などが掛けられている。ざっと見回しても同じものが一つとしてない、その光景は招待客たちの目を奪うには十分なものだった。
「ようこそ、スミスクラウンの展示会へ!」
ショーケースに囲まれた中央、ロープだけがある囲いの中で、この展示会の主スラックが客人へ挨拶をする。その傍らには娘のピアーもおり、さらにその周囲には、
「こ、これが、あの伝説のっ……!」
「本当に居たんですね、コンパニオンが」
「なるほど、そりゃ見に来た客のテンションも上がるってもんだな」
体格も千差万別の男女八人。彼ら彼女らはみな、飾ってあるものと同等かそれ以上の精緻さを備えた鎧や武器を装備しており、その立ち姿がさらに観客の注目を集めた。
「今回は案内を手伝うこいつらにも、スミスクラウンの最高ランクの装備を着付けてある。どうか近くで見て、その忌憚ない評価を貰えるとありがたい」
「それでは、皆様、これより展示会の開始でございます。心ゆくまでご堪能ください」
スラックの挨拶とトラウザーズの掛け声により、スミスクラウンの特別展示会は開始され、それを称えるような来客たちの拍手をもって、十数人の参加者が各々の興味のままにショーケースに歩み寄った。
「これ……凄まじいわね。エナジーが密閉されてる」
「はい、水のエナジーを物質に転換させないまま結晶化させる実験によって、青の水晶の中に有機的なエナジーを封じ込めました」
「けど、250万かぁ……」
「これは、エナジーを流動させる彫り込みのナイフですの?」
「そうです。刃渡り25センチまでなら切っ先まで流動させることが出来ます。今は一直線上なので峰部分を強化できるだけなんですが、枝葉状の紋様が作れれば……」
「おっ、珍しい色のストロースモークだな」
「いいところに目をつけるねえ、実はこれ、ストロースモークの着色実験なんだ。今まではエナジーと反応させなきゃ着色って出来なくてな、それで……」
冒険者たち、来客の大物たち、それらがコンパニオンから口々に話を聞き、その技術と製品に期待を寄せている中、スカーはそんな展示場の様子を俯瞰状態で眺めていた。
「何か、気になる商品はありましたか?」
すると、そんなスカーの様子を見て、先ほどからスラックと共にショーケースを見て回っていたピアーが声をかけてきた。
「まぁ、目移りはするけどね。今のところあたしが欲しくなるようなものは無いかなって。それよりも……」
そう言ってスカーは、ショーケースを見回すような素振りで、スミスクラウン肝いりの装備に身を包んだコンパニオン…特に女性のコンパニオンの姿を目で追いかけた。
「ふふっ、目線は正直ですね。クロス・リッパーさん」
「もちろんよ。それがなければふたつ返事で受けたりしてないもの」
清々しいまでのスカーの反応に、ピアーも何処か納得の表情を見せる。そしてピアーは続けてスカーへ提案を持ちかけた。
「それじゃあスカーさん。あなたのためにコンパニオンを一人紹介すると言ったら、どうしますか?」
「……へぇ、魅力的な提案ね」
そんな会話と共に、入り口とは別の控えの扉が開かれて、そこから数本のトルソーが忙しなく運ばれてきた。それらのトルソーはコンパニオン達と同じように鎧や服飾が装備されており、それらもただ者ではない雰囲気を漂わせていた。
そして、そんなトルソーの登場と共に、一人の少女が緊張した足取りで姿を見せた。スカーよりも低い背丈、深緑のショートヘアを揺らして、トルソーに飾られている内の一つである、膝丈のドレスアーマーに身を包んだ少女。そんな彼女は、ゆっくりとピアーに近付いてから、スカーへと視線を上げた。
「この子が、私に付くコンパニオンさん?」
「そうです。彼女はアンク、スミスクラウンのメイド達の一人です。まだ一年目なので少し不慣れではありますけどね」
ピアーの紹介とともに、アンクと言う名前の少女はいそいそと頭を下げた。なるほどシルクと比べれば経験が浅いの明白だ。
「じゃあありがたく同伴してもらうわね、けど、どうしてこんな形で登場を?」
「それはですね、スカーさんに頼みがあるからなんです」
「頼み?」
ピアーは少し間を置いて、アンクの両肩に手を置いて、スカーへの頼みを口にした。
「スカーさん、彼女の鎧を剥いてみてください」




