ダメな人間
俺と高科が一緒に暮らすにあたって今後どのように高科の音楽活動をサポートするかを二人で決めていた。
「やっぱりまずは大学に入ることだな、何をやるにしても学歴は付きまとってくる。それにもし失敗したとしても難関大を卒業したという武器があれば今後問題なく暮らせるだろう。」
俺の考えとしてはやはり高科は大学に入るべきだと思っていた。せっかく今まで勉強を頑張ってきたんだからそれをつぶすのは惜しいと思ったからだ。
「でもやっぱ私はそういった活動はいち早く始めるべきだと思う、まず私が今大学に入るには高等学校卒業程度認定試験に合格しないといけないし、私は余裕で高校卒業以上の知識は持っているはずだし多分その間音楽活動をしてもいいと思う。」
高科の意見ももっともだった。確かに音楽活動などは早く始めるに越したことはない、若い間に売れていないと成功するのは厳しいからだ。
「確かに早く始めるに越したことはないが、それ以上に大学卒業には価値がある。自分の将来可能性をより広くしてくれるんだから。それは音楽も例外ではない、例えばお前がバンドを作るならそこらにいる適当な輩よりも自分と同じ志を持ったちゃんと努力のできる人を見つけれるだろ。大学というのは仲間を見つける場でもあるんだ。それにお前何か月かブランクがあったみたいなんだから本当に高校卒業程度の学力があるかもわからないだろ、それも含め今は勉強するべきだと思う。」
俺は高科よりも大学受験の厳しさを知ってるだからこそ今のうちから勉強するべきだと思ったんだ。
「なにいってんの、さすがに舐めすぎ。どんだけブランクが開いてても高校卒業ぐらいの学力は持ってるわよ。」
「それじゃあ俺が今から高校生なら知ってないといけない常識問題を五教科各科目において出さしてもらう、それで平均点が90を超えてた場合、活動を始めてもいいとしよう。」
「いいわよ来なさいよ。」
高科はやる気に満ち溢れた顔で俺を見ていた。俺は久しぶりに見た本気の高科の顔を見て思わず感動してしまった。俺は自分の表情を見せないようにゴミを出しに行ってから、問題を作りに自分の部屋へと向かった。
俺は二時間の間にチャチャっと問題を作り高科の前に持って行った。
「さて、まあ高校生なら知っていないといけない問題だから高科さんなら余裕でしょうねえ。」
「東口君が作った問題だから三十分で終わっちゃうかもね。」
あの頃を思い出す。まるで中学校で高科が俺のテスト用紙を見て馬鹿にしてきたときの様だ。
「制限時間は二時間、各教科大門が五ずつある。よーいスタート。」
俺はタイマーのスタートボタンを押しひたすら門田を解く高科を横で見ている。
(あれ、なんか俺しれっと高科との距離詰めてね?)
高科は相変わらず白くきれいな肌を持っている。そして黒く美しいショートヘアからはいいにおいが漂ってくる。
(あれ、でもこいつネカフェ生活していたってことは風呂もろくに入ってないっていうことだよな、なんでこんないいにおいがするんだ。)
俺疑問に思いながらもひたすら高科が解き終わるのを待つのだった。
そして二時間後…
「はい、タイムアップ。まあ簡単な問題でしたから多分高科さんには簡単でしたでしょうね。」
そう俺がいい高科のほうを見ると、高科は三角座りをして顔を隠していたが半べそをかいているように見えた。
「おい、大丈夫か別に受験じゃないんだからそこまで悔しがらなくていいんだぞ。」
そうやって高科のほうに手を伸ばすと、高科は勢いよくテスト用紙を奪い取り
「別に大丈夫だし、もうこのテストたぶんダメだからいいよ。はあ東口に負けたか、ちょっと悔しいな。」
そういうと寝室に駆け込んでいった。
高科は笑いながらで言っていたが目から小さな涙が出ていた。
俺は声をかけようと思ったが、寝室から聞こえる高科の小さな鳴き声が聞こえてきてそっとしてあげることにした。
「私、東口に負けたんだ、勉強で負けたんだ。今あいつ私のことどう思っているかなあ。ただの落ちぶれた女子高生って思ってるのかなあ。嫌だ、嫌だよ東口まで私を嫌いならないでよ。」
俺は高科がそんなことを言っているとは知らずに俺は夕飯の買い出しに行っていた。
帰ってくると高科は寝室から出ていて、リビングにちょこんと座っていた。
「おい、そんなに気に負わなくていいからな。ほら今夕飯作るから」
俺はどうにかして高科を元気にさせようと好きだったはずのオムライスを作ることにした。
「ねえ、東口はさ、さっきの私を見てどう思った?ダメな人間だと思った?」
「…まあ、そりゃ勉強をやめて頭悪くなってんのはそいつのせいでそいつが悪いけど、でもそいつがまだ何かに対して本気になろうとしてるんならそれは素晴らしいことだ。大丈夫、お前は人としてちゃんとできてるさ。」
俺は変にかっこつけるより本当に思ったことを言うほうがいいと思って自分が思ったことを素直に言った。すると高科の顔は少しだけ明るくなり、さっきまでの悲観的な顔とは違い、希望を持ったあの頃の顔へと変化していった。
「あ、そう。ねえ、私も夕飯作るの手伝うよ今日は何作んの。」
「え、オムライスだけど。確か好きだっただろなんか元気づけようと思ってさ。」
「元気づけようってもともと元気だし、てかなんで私の好きな料理がオムライスっていうこと知ってんの。まさか私のこと好きなの~」
「いやっ、ちげえし勘違いすんなよ、なんか中学生のころお前が確か好きって自己紹介ポスターに書いてあったの思い出したんだよ。」
俺は顔が熱くなっていくのを感じながら答えていた。
「ふーん。」
高科はニヤッとしながら俺を見つめていた。そして勘違いかもしれないが高科も少し顔が赤かった気がした。