episode3.表と裏
episode3.表と裏を読みに来ていただき、誠にありがとうございます。作者の楠来ナイです。
さて、物語も第3話を迎え、少しずつ謎をちりばめて展開してきた透たちの世界が、少しずつ色づいていきます。まさに今回のタイトル、表と裏にふさわしいこちらの物語、ぜひお楽しみください。
それではよいゆめを
コンコンコンッ――
放課後、重い足をどうにか動かし生徒会室へと向かった透は、生徒会室の重厚な扉の前に立ち尽くしていた。
「返事がないな...」
勘弁してほしいものだ。理不尽な呼び出しに逃げ出そうかと何度も苦悶し、ようやく覚悟を決めてここまで来たというのに。それに対する返答が無慈悲な沈黙なんてことはあってはならない、と透は不満を胸に抱く。
昼休み以降の授業中、どうにか逃げ出す言い訳はないものかと頭を回し続けたのに――
扉の前に立ってからも、体感5分以上、覚悟を決めるために費やしたというのに――
――その結果がこれだというのか
「……帰るか」
一度はノックまでした。それでも返事がなかったのだから、非があるのはあちらだ。
おあつらえ向きな言い訳が出来上がった透は踵を返し、教室へ戻ろうとした。まさにその時だった。
「ダメに決まっているでしょう?」
透の思惑と淡い期待は、背後から聞こえた一言によって見るも無惨に打ち砕かれたのであった。
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「待たせてしまったのはこちらの落ち度だけれど、そこまで帰りたがらなくっていいじゃない」
戻ってきた星来に招き入れられ、これまでの苦難むなしく透はついに生徒会室へと足を踏み入れるに至った。黒い壁に囲まれ、中央に白い円形テーブルの置かれた物々しい生徒会室には透と星来、そして星来とともに生徒会室へと戻ってきた役員が2人、合計4人が各々席についている形だ。円形のテーブルにおいて、星来が0時、透が6時の位置、他二人が3時と9時の席に座っている。
最後までの往生際の悪さで星来から呆れられ、二人の役員からは品定めのような視線を向けられて、居心地の悪さを抱かずにはいられない。
「それで、一体何の用ですか?会長」
どうせ捕まってしまったならと、早急に話を終わらせる為本題に移る。話の主導権だけは失わぬよう注意を払いつつ、眼光を光らせたまま星来の返答を促した。
「要件は1つよ。何度も言ってるようにあなたも生徒会に入りなさい」
想定の域を出ないその誘いに、いい加減辟易した気持ちが顔に現れることを隠しきれない。それは9時の位置に座っていた役員の男にも十分伝わったようで、
「いい加減にしないかッ!星来会長の下で働く名誉に何の不満があるッ!?」
憤った男は立ち上がり、透へと指を突き出して主張する。その勢いたるや、先ほどまで腰かけていた椅子が壁に激突し、ガシャンと音を立てるほどだ。男はその剛腕を怒りで震わせ、輝かしいスキンヘッドが今にも湯気を立てんとしている。
「そもそもッ!貴様のようなやる気のない奴が会長から誘いを受け続けていることに俺は納得がいってないッ!気合を入れろッ!はきはき喋れッ!共にうさぎ跳びをするぞッ!そうすれば少しは変わるだろうッ!!!」
「意見は一致してるじゃないですか。あなたは俺が入ることに反対し、俺も入りたくない。なのになんでそんなに憤ってるんです?俺が断り続ければあなたの意見は通るんですよ?そもそも俺を誘い続けてるのは会長の意志なので、俺ではなく会長に直談判すべきでしょう。」
暑苦しさそのまま謎の誘いをしてきた男に、相対する透は一層冷静に矛盾を突き付ける。相手が熱くなればなるほど、透は冷静に、冷たく状況を俯瞰する。身の回りの人間、とりわけ雨無に「あまのじゃくだねぃ」と常々揶揄されるこのスタンスこそが、彩霧透の性分だ。
「そッ!それはッ!…………グググ……グァァ……グゥ……」
沸騰し限界を迎えようとしていた熱に透が強烈な冷や水を浴びせたことで、行き場を失ったエネルギーが唸りとなって発される。熱をかき消され、勢いを失ったスキンヘッドは、先ほど吹っ飛ばした椅子をゆっくりと元に戻し、ガシャンと音を立てて席に着く。いたって平静を装い、腕を組み、目を閉じたその姿は阿修羅像を彷彿とさせるが、言い負かしたばかりの透に対してその見せかけは何の意味も持ちやしない。
「――少し、彼と二人で話してもいいかしら?」
一連のやり取りに口をはさむことなくタイミングを見計らっていたであろう星来が、小さく手を掲げ、再び話の舞台上へと上がる。
その言葉の真意は良し悪しを確認するためのものではなく、出ていくようにという、実質命令としての意味が強いだろう。
二人の役員もその意を推し量るだけの察しの良さは持ち合わせているようで、特に何を言うでもなく席を立ち、星来の望む空間を作り出した。
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――バタン
生徒会室の扉が閉められ、つかの間の沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは、
「――はぁ~~~」
扉の方を振り返っていた透の背後から、張り詰めていた空気を消し去るデカデカとしたため息が、生徒会室に無遠慮に響き渡る。ため息の主は、先ほどまでのすらりとした隙のない姿勢から打って変わって机に体を預けダラりと項垂れている。
「堅苦しいのはもういいよね……肩凝った~!!肩揉んでよ~透くーん...」
全くの別人かと思われるほどの変わり身を見せた星来を特に気にすることなく、透は頼みを聞くため背後へと周り肩を揉みほぐす。
これが生徒会長星来聖良の秘密の1つであり、その姿を知っていることが透の秘密の1つでもある。
「あぁ~気持ち良い~、透くん相変わらず上手だね~」
「だいぶ凝ってますね、会長」
「か~い~ちょ~う~!???」
わずかに気が緩んだ透の失言に星来は首を挙げ、いぶかしげな顔を向ける。自らのミスに気付いた透が――ヤベッっと漏らし手を放そうとする。が、星来が透の両の腕を素早く掴み、それを許さない。
「かいちょう~?」
再度引っ掛かったNGワードを繰り返し、ニコニコとこちらを見上げ続ける様子に、逃れる余地のなさを悟る。だがせめて最後の抵抗を……
「星来さん……」
「うん、30点。やり直し。」
「……聖良さん」
決死の抵抗虚しく容赦なく打ち砕かれ、突発の呼び方問答は透の敗北に終わった。
「う〜ん、70点!ひとまず及第点、かな?昔みたいにお姉ちゃんって呼んでくれたら100点だったけど……限界みたいだからね。アハハ、顔真っ赤ぁ〜」
上を見上げたままの星来は、透の紅潮した頬をつつき満足げだ。その赤さときたら、先ほどのスキンヘッドをとやかく言えないレベルになっていた。
「そろそろ本題を!!いつまでも時間があるわけではないでしょう!!」
これ以上は耐えられないと、半ば無理やりに距離をとり、あくまで冷静に努めようと話を進める。
「う~ん、それはそうだね。二人にずっと出て行ってもらうのも悪いし。もっとからかいたかったけど」
そう名残惜しそうにつぶやきながら、星来は先ほどまでスキンヘッドが座っていた椅子を運び、自分の席の隣へと並べた。
「よし、じゃあ話しよっか」
そうして透が隣に座ることを促すように座面をポンポンと叩くのであった。
episode3.表と裏、いかがだったでしょうか。改めまして、作者の楠来ナイです。
今回と次回は透と星来の関係深掘り回です。まだまだ皆さんにも見せていない秘密の多い二人ですが、少しずつ、彼らのことを理解していっていただければと思います。
それではまた次のお話でお会いしましょう。おやすみなさい




