表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/38

エピローグ

 月日が流れるのは早く、オネルヴァがゼセール王国に来てから二度目の収穫の月を迎えた。

 彼女のお腹はふっくらとしており、新しい命を育んでいる。

「オネルヴァ。顔を見に来たよ。調子はどうだい?」

 サロンでエルシーとお茶を飲んでいると、イグナーツがアルヴィドを連れてやってきた。

 アルヴィドは、今年もアーシュラ王女の誕生パーティーに出席していた。その間、イグナーツの別邸に泊まっている。

「ええ、順調です。このままいけば、雪の月には生まれるかと」

「寒さが厳しい季節だね。身体が冷えないように贈り物をしよう」

「アルヴィドお兄様。贈り物はたくさんいただきましたから」

 オネルヴァの妊娠がわかってから、アルヴィドはイグナーツと競い合うかのようにして、何かかしら送ってくるようになった。

 歩きやすい靴、身体をしめつけない服と、どこから情報を仕入れてくるのかわからないが、オネルヴァも知らなかったような品物を送ってくる。

「これ以上は、いりません」とはっきりと言葉にしたのに、キシュアスの民が作ったものだからと言われてしまうと断れない。そうやって、国と民は再建の道を歩んでいる。

「だけど、寂しい感じもするな。オネルヴァは俺の妹であったのに、なぜかイグナーツ殿にとられたような気持ちになるんだよ」

 イグナーツの口の端がひくっと動く。

「ですが、わたくしとアルヴィドお兄様の関係にかわりはありません。血は繋がっていなくても、兄妹は兄妹です」

「それでもなぁ。なんか、俺だけ仲間外れのような気がするんだな」

 イグナーツの右眉がぴくっと動く。

「あ」

 そこでエルシーが何かにひらめいたようだ。

「アルお兄さま。エルシーがアルお兄さまのお嫁さんになってあげます」

 イグナーツのこめかみがふるふると震えている。

 その言葉にアルヴィドも目を大きく見開いた。だがすぐに嬉しそうに目尻を下げる。

 エルシーはアルヴィドを見上げたまま言葉を続ける。

「そうすれば、アルお兄さまもエルシーの家族になります。お父さまとお母さまがエルシーの家族で、アルお兄さまもエルシーの家族になれば、仲間外れではなくなります」

 アルヴィドは幼い彼女をすっと抱き上げた。まだ小さな彼女は軽い。抱き上げたエルシーを真っすぐに見つめる。

「あら、そうしますと。アルヴィドお兄様がわたくしの息子になるということですか?」

 オネルヴァは困ったように首を傾げる。

「まぁ、そうなるね。ちょっと面倒くさい関係になるかもしれないが」

「エルシーは、アルお兄さまのお嫁さんにはなれないのですか?」

 エルシーも困ったように首を傾げた。

「そんなことはないよ、きちんと手続きをすれば大丈夫だ。だから、未来の花嫁。十年後に迎えにくるとしよう」

「駄目だ」

 アルヴィドの言葉に反対の声をあげたのは、もちろんイグナーツである。

「エルシーとアルヴィド殿では、年が離れすぎている」

 コホンと可愛らしい咳払いが聞こえる。

「旦那様……。その、年齢差については、わたくしたちも人のことを言えませんので……」

 オネルヴァの言う通りである。オネルヴァとイグナーツでは十九歳も年が離れている。そしてエルシーとアルヴィドも同じくらい年が離れている。

 イグナーツは悔しそうに顔をしかめた。そのまま何かを考え込んでいるようだが。

「十年後。エルシーの気持ちが変わらなかったら、考えてやってもいい……」

 ぎりぎりと唇をかみしめながら、イグナーツはやっとの思いでその言葉を吐き出した。

「あら」

 オネルヴァの声に、イグナーツがぴくっと身体を震わせる。

「今、動きました。きっと未来のお義兄様が決まって、喜んでいるのね」

 その言葉に、イグナーツが眉間に深くしわを刻む。

「アルお兄さま。おろしてください。エルシーもお母さまのお腹、触りたいです」

「わかったよ、エルシー。十年後を楽しみにしているからね」

 アルヴィドは、ちゅっとエルシーの頬に唇を寄せてから、彼女をおろした。

 もちろん、それを目撃してしまったイグナーツは、鬼のような形相をしていたのだった。


*~*~雪の月十日~*~*


『きょうは エルシーがおねえさまになりました

 赤ちゃんが うまれました


 赤ちゃんは 小さくて やわらくて ミルクのにおいがします

 赤ちゃんには まだ名まえがありません


 おとうさまとおかあさまが なやんでいます

 アルおにいさまも なやんでいます


 アルおにいさまは よくあそびにきます

 アルおにいさまがくると キシュアスとゼセールの国が なかよくできるそうです


 エルシーも 赤ちゃんとなかよくします』



【完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ