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あなたの魂浄霊します 横浜関内特級ファイルII  作者: もちこ
【精神世界へようこそ 魂の因縁】
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ファイル9 柴田啓介:中編

 セラピーは、10月18日土曜11時からと決まった。

帰る際に、啓介さんから一つ注意があった。


「セラピーを受けると決めると、因縁霊達からお邪魔される場合があります。例えば当日急に体がだるくなったり、気持ちが落ち込んだり。電車が遅れたり、駐車場の空きがなかなか見つからない場合もあります。ですが、負けないでください。キャンセルさせようと、あらゆる手段で対抗してきますが、私達が必ず受けられるように祈願しております。」


「わかりました。」

「もし体が怠くなったり、異変があったら、遠慮なく電話してください。そしてキャンセルはしないでください。」

そう言うと、啓介先生は、これ電話番号です。と、名刺を差し出した。


【たまピカセラピー】

セラピスト:柴田啓介

電話番号:090-xxxx-xxxx

メールアドレス:keisuke_xxxxxx@hotomail. com


「ありがとうございます。」

名刺を受け取った時、お守りをもらったような気がした。

「私達がついてますからね。」柴田先生もエレベーターホールまで見送りにきてくれ、ビルを後にした。


 新宿三丁目まで歩き、副都心線の改札を抜けホームへ到着すると、電車が遅れているアナウンスが入った。

早速お邪魔が入ったのだろうか?ホームから溢れ出るような人混みに耐え、遅れてきた電車に乗った。

セラピーまで何があっても絶対に負けないと、グッと拳を握り両足でしっかりと踏ん張った。


 翌日。

駅前の東急ストアに、夕飯の買い出しに来た。

派遣会社からはまだ採用の連絡はなく、実質ニートのようなものだから、家にいる間の家事は引き受けていた。

 夕飯は莉奈の好きなクリームシチューを作ろうと、じゃが芋を手にとった時、右手に違和感を感じた。

「あれ?」

親指の爪に黒い縦筋が入っている。昨日まで無かった。


ぼーっと爪を見ていると、後ろから「ちょっと!」と押されたので、慌ててじゃが芋を適当に取りカゴに入れた。

嫌な予感がする。歩くことに支障は無かったが、相変わらず腰は重だるいままだった。


「ただいま」

実家の玄関ドアを開けると、ピアノの音が聞こえた。「ショパン:ノクターン第20番ハ短調」少し悲しげな調べだ。

玄関に見慣れない黒のスニーカーがある。中学生の生徒さんが来ているようで、そっと上がり、そのまま台所へ向かった。


「おかえり。」居間で新聞を読みながら、父が呟いた。

「おかえりなさーい。」莉奈は父の向かいに座り国語の宿題をしている。


「すぐご飯作るからね。」スーパーの袋からジャガイモを取り出し、ピーラーでいつも通り皮を剥こうとシンクに立った。 


「うっ」


ゴンと鈍い音がしてジャガイモが床に転がる。 


「どうしたの?」

異変に気付いた莉奈が、顔をあげる。


指先から血が溢れ出ている。

ピーラーで親指を切ってしまった。


「お母さん、指切っちゃったみたい。莉奈、救急箱持って来てくれる?」


「うん、お爺ちゃんどこにある?」

「ん?ちょっと待ってよ。」


父は、のそりと立ち上がると、どこだったかな?と、引き出しの奥を探し始めた。

 ゴソゴソとしばらく探していたが、マキロンを見つけ、どれどれと、私の親指にシュッと消毒液をかけた。


「少し座ってなさい。」父はそう言うと私を椅子に座らせ、床に落ちたジャガイモを拾った。

「なぁ、好子。」

「ん?」

振り返ると、痩せた背中が目に入った。

「そんなに、焦らなくていいんだぞ。」

「うん…ありがとう。」


絆創膏を見つけた莉奈が、巻いてあげるーと、親指にペトリと貼った。


 しばらく座っていたが、頭がクラクラする。熱が出てきたかもしれない。「ごめんね、少し横になるね。」と、2階に上がり、そのまま眠ってしまった。


ーーーーー


教室にいる。

また、あの景色だ。

担任から「消えろ」と言われ、能面を被ったクラスメイトも同じく「消えろ」と叫ぶ。

逃げようと、席を立ち上がった瞬間、ガッと何かに押し倒され、その衝撃として鈍い痛みが背中に走る。

 教室の床に倒れた私の上に、今度は誰かが馬乗りになり、首を絞める。


苦しい、、助けて!助けて!助けて!

声にならない声を上げた時、夢から覚めた。


見慣れた天井が目に入る。

変な汗で全身が濡れている。

ゆっくり上半身を起こした時、壁の時計が目に入った。時刻は夜中の1時を過ぎた頃だ。隣で、莉奈が規則正しい寝息を立てている。


莉奈を起こさぬよう、ゆっくり階段を降り、1階の台所へ向かった。冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、ガラスのコップに入れて一口飲んだ。


ゴクリ


水を飲み込む音が、部屋中に響いた。

シンクに寄りかかり、ぼーっと壁の方をみると、夫が目の前に現れた。

夫は、見つけたぞ!と言わんばかりに、ニヤリと笑うと襲いかかってきた。

「卑怯者!」馬乗りになり、夫は私の首をしめる。

力一杯夫の体を押し退け、脚で蹴り上げる。

「止めて!!!」

叫んだ時、急に誰かに声をかけられた。


「お母さん、お母さん!」

真っ白い、眩い光に照らされ顔を覆った時、目が覚めた。


「お母さん、大丈夫?」

気がつくと、莉奈が心配そうに見ていた。

部屋には蛍光灯の電気がつき、いつもと同じ2階の部屋にいる。


はぁーと、息を吐き上半身を起こすと、洋服のまま、布団の上で横になった記憶が蘇った。


「怖い夢みてた?お爺ちゃんが、お寿司出前頼もうって。お母さん呼んで来てって」

「あぁ、、うん。ありがとう。」

不安そうな顔をした莉奈に、大丈夫よ。と笑い頭を撫でた。


 これが、因縁霊達からのお邪魔なのだろうか。それにしても、タチが悪い。

また、ため息をつき、莉奈に続いて階段を降りた。


 食事が終わり、莉奈をお風呂に入れ、居間でテレビを見ている頃また嫌な予感がした。

セラピーまで、あと1日耐えるだけだが、どうにも不安で押しつぶされそうだ。


 啓介先生からの言葉が頭を過ぎった。

今電話しても良いのだろうか?

時計を見ると、もう夜の11時を過ぎている。

こんな時間に電話をするのも気が引けたが、思い切って電話をかけた。


プルルルル、プルルルル、


5回ほどコール音が鳴った後、繋がった。

「もしもし、田島さんですか?どうされましたか?」

声を聞いて、ふーっと安堵のため息が漏れた。

「こんな時間に、本当にすみません。ちょっと、嫌な事があって…」

そのまま啓介先生に、さっきの夢や、怪我したことを、一気に話した。

「それは怖いですよね。今、苦しいところや痛みはありますか?」

「実は少し息苦しくて。それから腰を引っ張られる感じがあります。」

「わかりました。ちょっとそのままにしててくださいね。」


そう言うと、電話を置いたようで、しばらく沈黙になった。

ほんの数秒経った頃、突然体が軽くなった。

「もしもし、今こちらから、ご祈願をさせて頂きました。体はどうですか?」

「えっと、すごく楽になりました。動悸もあったのですが、もう大丈夫です。呼吸も楽です。」

話しながらも、スーッとまた体が楽になっていくのも感じた。

手に汗を握るような恐怖はもう無い。


「良かったです。あの、もし夜中でも不安になったら何時でもいいので、電話してください。私達が付いてますから。」

「ありがとうございます。」

「今日はゆっくり休めますから、何も心配しないで、大船に乗ったつもりでいてください。」

「ありがとうございます。」

おやすみなさい。と電話を切り、2階の寝室で横になった。

隣で眠る莉奈の背中をさすり、ゆっくり目を閉じた。

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