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あなたの魂浄霊します 横浜関内特級ファイルII  作者: もちこ
【極悪人注意 DV夫からの脱出】
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ファイル8 先崎浩一:後編

 音楽祭の会場は、たくさんの学生や、親子連れで賑わっていた。中央列の後方に腰掛け、ホール全体を見渡すと、見慣れたオーケストラの配置がされ、中央にピアノがある。

前方の座席も空いていたが、密室になると息苦しく感じる事があったので、もしもを考えドア付近に座った。

 音楽祭は、軽快なリズムの「ラデッキー行進曲」で始まり、莉奈と一緒に手拍子をして楽しんだ。

 何曲か軽快な曲が流れた後、舞台左手から先崎君が登場した。姿勢よく歩き、おじぎをすると客席から割れんばかりの拍手が響く。やはり彼は学内でも有名人のようだ。さっき一緒にいると、女子学生から多くの視線を感じた。


「チャイコフスキー ピアノ協奏曲 第1番変ロ短調」心臓の鼓動が高鳴った。

12年前、新国立劇場のオケピで弾いた曲がまさにそれだった。何度も繰り返す心地よい旋律。

懐かしいあの音色が、かつて輝いていた頃の自分を思い出させた。ポケットからハンカチを出し、ぎゅっと握った。

ふと莉奈を見ると、口から涎を垂らして眠っている。開いた脚の上にストールをかけ、椅子から落ちないように肩を支えた。


 最後のディズニーメドレーになると、莉奈は起きた。

「ありのーままのーすがたみせーるーのよー」と、口ずさみ、大満足していた。莉奈が笑った顔は久しぶりに見たかもしれない。高鳴る歓声と拍手を聴きながら、莉奈を客席で抱きしめた。


音楽祭は大成功に幕を閉じた。

ホールに出ると演奏者がみんな外に出ていて、大変な賑わいだ。

莉奈と2人で女子トイレの列に並んでいると、【10月のイベント】と貼られたポスターが目に入った。

音楽や演劇以外にも文化人の講演会もあるようで、その中にさっき挨拶した柴田先生の顔があった。


「スピリチュアルジャーニー 時を超えた魂の旅」

10月10日金曜日 午後1時 小ホール

一般向けの講演会のようだ。

柴田先生の名前の下に、小さな字で経歴や、肩書きが書かれている。心理学だけでなく、幼児教育、医療やスピリチュアルにも明るい事が書かれていた。

長机の上にチラシが何枚か積んである。ほとんど無意識だったが、一枚掴むと、そのままカバンに入れていた。


トイレを出ると、ロビーの賑わいは少しおさまっていたが、未だに大勢の女学生に囲まれている先崎君が見えた。一言挨拶してから帰ろうと思っていたが、莉奈もいるのでそのまま帰ることにした。


「とても素晴らしかった。感動しました。」帰りの電車からメールをすると、すぐに返信があった。

「田島先生、ありがとうございます。またもし良かったら、ご飯でも行きましょう。」

先崎君には改めてお礼をしたほうが良いかもしれない。

「ありがとう。落ち着いたらまたね。」メールを送り、その日は早めに眠りについた。


 次の日の朝、莉奈を新しい小学校に連れて行き、転入の挨拶をした。

まさか、自分の母校に娘が通うことになるとは思わなかった。

自分を知っている先生はもういなかったが、卒業生の娘ということで学校側も親切に受け入れてくれた。

学校に事情を説明すると保護者への連絡は私のみに行う事で対応してくれた。


 そのまま職探しのため、ネットの求人票で見た派遣会社の登録に向かった。

新宿の登録会場に向かう前に、少し時間があったので、駅中のドトールで昼食をとった。

カバンから手帳を取り出した時、昨日放り込んだチラシが一緒に出て来た。

「スピリチュアルジャーニー」

折れ線のついたチラシを広げもう一度よく読んでみる。

「魂の目的を知り、本当の自分に還るスピリチュアルの世界を学ぶ」


 自分はカウンセリングが必要だろうと思っていた。

スピリチュアルでも良いから、この機会に柴田先生の話を聞くのもいいかもしれない。

チラシに書いてあるQRコードを読み取り、そのまま申し込みをした。


ーーー


 小ホールは、前回のコンサート会場の2階にあった。会場時間より少し早めに着いたが、廊下には10名程の列ができていた。


「お待たせしました。只今より受付を始めます。」

女性スタッフに名前を伝えると、中へどうぞと案内された。

真っ白な壁に会議でよく使う長机とパイプ椅子が置かれ、好きな席に着くようだった。

前方には登壇者用の台があり、天井に取り付けられたプロジェクターから

「スピリチュアルジャーニー 魂の旅」と壁に映し出されていた。


入り口からほど近い席に座り、見渡すと、年齢層は20代から70代まで幅広く、ほとんどが女性だった。

会場がほぼ埋まったところで、柴田先生が登場した。


「こんにちは、本日はお集まり頂きありがとうございます。」

パチパチパチパチと数名の拍手が聞こえた。


柴田先生はふと私の方を見ると、軽く笑顔で会釈された。

「皆さんの中には、「精神世界」「スピリチュアル」を既に学んだり、ご自身で体験をされている方も多くおられると思います。今日は魂の旅についてあらゆる研究結果をもとにお話させて頂こうと思います。」


そう話すと、スクリーンを切り替え、「天国は、ほんとうにある」という映画の予告編を流した。

アメリカ ネブラスカ州の小さな町で起こった実話を元にした作品だ。牧師のトッドは経済的に困窮していたが頑なに神の存在を信じ続けていた。ある日、4歳になる息子コルトンが虫垂炎を患い緊急入院をする。生死の境を彷徨うが、奇跡的に一命を取り留め、天国を旅して来たと証言する。


「私たちの魂は、亡くなるとどうなるのでしょう?死んだら全て消えてしまうのでしょうか?このコルトン君の証言を元にすると、我々の魂は肉体を抜けると皆、向かうべき世界があることがわかります。」


 柴田先生はそこまで話すと、だからと言って自分はキリスト教信者ではありません。お正月には神社に行き、亡くなったらお寺にお願いし、クリスマスにはケーキを食べる典型的な日本人ですと笑った。


「宗教というものは、人間がわかりやすく作り出したもので、全ては宇宙の源に繋がっている。そう考えると辻褄があいます。」


柴田先生の顔を見ていると、前に一度顔を見ただけなのに、すごく懐かしい気がした。久しぶりに再会した友達のような気がする。


「それでは生まれ変わりについてはどうでしょうか?」

スクリーンを切り替えると、今度はインドの僧侶が瞑想する写真と大きな車輪の絵が映し出された。


「古来、輪廻転生という考えは私達に馴染(なじ)み深い考えであると思います。生まれ変わりですね。生まれ変わったら結婚しよう。生まれ変わってもまた会いたい。そんな映画よくありますよね。どうでしょう?今のご主人と生まれ変わってもまた一緒になりたいですか?いや、これは聞かない方が良さそうですね。」


ははははと、前列から笑いが起こる。

私は、まだ笑える気分ではなかった。「なぜ結婚してしまったのだろう。」と、そればかり頭の中でぐるぐると考えていた。


「私たちの魂は、肉体を持ち、体験することで成長し学びます。これは極端な例ですが、過去世で自分が誰かを虐めていたとしましょう。すると次に生まれ変わると今度は自分が虐められる体験をします。そこで、魂は、虐められることの辛さ、悲しさを学ぶのです。だからと言って虐めて良いというわけではないですよ。児童虐待なんて絶対にあってはなりませんから。過去の因縁を解消し、私達の魂は成長しているのです。」


前世で私は夫を虐めていたのだろうか。その仕返しが今やって来たのだろうか。


「ところが、例外があります。」

またスクリーンが変わり、今度は全く違うものが映し出された。

体の周りを囲うように4つの線が書いてある。「体」「心」「マインド」「魂」


「私たちは、このように4つの層で構成されています。魂は地球に生まれてきた時に、目的を持って生まれてきます。魂以外にも「体」「心」「マインド」が必要ですよね。ところが、その魂の目的を邪魔するものがあるんです。」

スクリーンに黒い点が写しだされた。

「これらは因縁霊と呼ばれるものです。亡くなった後も地球に留まり続け、過去世の因縁に執着している魂達です。これらは、生まれ変わって成長する私たちに多くの邪魔をします。

例えば、あらゆるご縁を邪魔する、才能の開花を封じる、原因不明の体調不良が続く。といったことです。」

会場のほとんどが「ほー」っと興味深く聞いているのがわかった。前列の男性が腕を組み、ウンウンと頷いている。

 こんな話は初めて聞く。時々、目にするあの「透明な人達」のことだろうか。


「これら因縁霊のお邪魔を解消するセラピーも行なっています。ですが、こちらは別途のご案内になります。本日の講演終了後に、個別相談会のお申し込み受付がありますので、良ければそちらでお申し込みください。」


その後柴田先生は、生まれ変わりの事例や、その他人とのご縁についても話を続けた。どれも興味深くあっという間に2時間の講演会は終わった。

 講演終了後に配られた個別相談会の用紙を手に取りしばらく眺めていたが、一度相談しようと思い、用紙へ記入した。


「本日はありがとうございます。田島先生ですよね?」

 顔を上げると、柴田先生が目の前に立っている。


「あ、はい。今日はとても興味深いお話を聞かせて頂き、ありがとうございます。」

「そう言って頂けて嬉しいです。個別相談会にお申し込みですか?」

「はい。あの、少し聞いて頂きたいことがありまして…」

「承知しました。日程が決まりましたら連絡致します。どうぞよろしくお願い致します。」


柴田先生は笑顔でお辞儀をすると、会場出口まで案内してくれた。


個別相談会はそれから数日の後に行われた。

10月15日水曜日 午後3時

指定された、新宿御苑近くのビルの一室に向かうと、そこには柴田先生と、もう一人恰幅の良い女性がいた。

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