表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

6.聞きました? この二人、今さら初デートらしいですよ?


 決戦当日。いよいよデートの日を迎えた私とフィリップは、馬車でリリーの家まで迎えに来ていた。


 お屋敷から出てきたリリーは、真っ白なワンピースを身に纏っていた。銀色に輝く髪はハーフアップにまとめられていて、いつも髪を下ろしている彼女とはまた違った印象だ。


「その、ご機嫌よう……殿下」


 挨拶をするリリーは、どこか恥ずかしげに俯いている。今日が初デートなら、私服をフィリップに見せたこともほとんどないのだろう。照れている姿がとても可愛らしい。


 そして、私がリリーの容姿をこれでもかと褒め尽くそうと口を開いた瞬間、先にフィリップがぽつりと言葉をこぼしていた。


「…………綺麗だ」


 その一言に、リリーの頬は一気に赤くなった。

 期末テストの一件で多少見直してもらえたとはいえ、リリーはフィリップに愛想を尽かしているのではないのだろうか。どうでもいい相手に褒められても、普通は嬉しくないと思うけれど。


 フィリップとリリーがなぜか良い感じなのを見て、私はこっそりと脳内に語りかける。


(ねえ。もしかして今日、私ってお邪魔だったりする? ここは若いお二人に任せたほうが良い?)

(ま、待ってくれ! 僕一人ではうまくいく自信がない! 頼む!)

(……わかった。もし私と代わりたかったら言ってね?)


 こうしてフィリップに任された私は、リリーを連れ街へと繰り出した。脳内にあるデート計画表を思い浮かべながら、まずはアクセサリーショップに向かう。


 ご令嬢たちに教えてもらったこの店は、トレンドのアクセサリーが豊富に揃えられている、若い女の子たちに人気の店だ。


 可愛らしい商品が数多く並ぶ店内で、私はリリーに話しかけた。


「君にアクセサリーを贈りたくて。嫌じゃなければだが」

「……え? よろしいのですか?」


 婚約者からの突然の申し出に、リリーは驚いたようにフィリップを見上げている。どうせアクセサリーの一つも贈ったことがないのだろう、この男は。


「ああ。いつも僕を支えてくれているお礼がしたいんだ。何か気になる物はあるか?」

「……ありがとうございます、殿下。そうですね……どれも素敵で迷ってしまいますわ」

「このネックレスなんかどうだろうか? 君の瞳と同じ色の宝石がついていて、とても綺麗だ」


 私が手に取ったのは、水色の宝石があしらわれたネックレスだ。そのままリリーにあてがってみると、彼女は少し俯きながら顔を赤らめていた。


「で、では、こちらでお願いできますでしょうか……」

「わかった。贈らせてくれてありがとう、リリー」


 私はネックレスを購入すると、早速リリーにつけてあげた。白いワンピースに水色の宝石がキラキラと映えて美しい。


「ありがとうございます、殿下」


 そう言うリリーは、微笑を浮かべながら嬉しそうにネックレスをなぞっている。これは好感度が上がったぞ、フィリップよ。


 すると、ずっと黙っていたフィリップが、脳内にぽつりと声を漏らした。


(可愛い……)


 今までリリーと向き合うことを避けてきたフィリップにとって、それは初めて見る彼女の表情だったのだろう。

 そして次に漏れ出てきたのは、悔恨の言葉だった。


(どうして僕は、こんなに可愛い彼女を蔑ろにしていたんだろうか……彼女の才能を妬み、遠ざけるなんて……)

(そう思ったのなら、これから死ぬほど大事にしなさい。こんな良い女、なかなか居ないわよ?)

(ああ……)


 このデートが、リリーに喜んでもらうためのものだけでなく、フィリップが悔い改めるきっかけとなったなら何よりだ。


 アクセサリーショップを出た私たちは、次にカフェでお茶をすることにした。最近オープンしたらしい小洒落た雰囲気のカフェで、ここもクラスの女子たちに教えてもらった場所だ。


「ここのカフェ、今すごく人気らしいんだ。リリーが好きな雰囲気の店かなと思って」

「ありがとうございます、殿下。とても素敵ですわ」


 どうやら気に入ってもらえたらしい。流石は流行りに敏感なご令嬢たち。私は心の中で彼女たちに礼を言うと、街で人気の雑貨店の話や、最近話題の小説の話をしながらリリーを楽しませた。

 フィリップとして話しているものの、私も女友達と話しているみたいで、とても楽しいひと時を過ごせた。高校生活をまともに送れなかった私にとって、こういう時間はとても貴重なものに感じるのだ。


 そして、デートの締めくくり。最後は夕日が見えるスポットへと向かった。ロマンチックな雰囲気を出すには最適だと、ご令嬢たちが口を揃えて教えてくれた場所だ。

 

 そこでとうとう、フィリップが口を開いた。


(……アリス。僕もリリーと話してみたいんだが、良いだろうか。君一人に任せていては、僕は彼女に本当の意味では振り向いてもらえない気がするんだ)

(わかった。よし、行って来い!!)


 そう言ってフィリップの背中を心の中で押し、私はしばらく成り行きを見守ることにした。しかし、ベンチに腰掛けた二人は一向に話し出す気配がない。


(ちょっと、フィリップ! 何か話さないの!?)

(う、うむ……)


 私が促すと、フィリップはようやく意を決したように話し出した。しかしそれは、会話というより講演会に近かった。


 どこ製の剣がいいだの、あそこの山が良い獲物が狩れるだの、リリーが興味なさそうな話題ばかり。


(ダメだ……会話が絶望的に面白くない……)


 リリーはポカンとした様子で、フィリップの一人語りを聞いている。

 

(フィリップ、ストップ! 話題選びが酷すぎるわ!!)

(――やはり僕ではダメなのか…………)


 フィリップのひどく落ち込んだような声が聞こえた後、信じられない言葉が耳に飛び込んできた。


(……すまない、アリス。あとは任せるよ。僕はもう休む)

(あ、ちょっと! フィリップ!?)


 私が声をかけても、それ以降フィリップの返事が返ってくることはなかった。


(こいつ、ふて寝しやがった――!!)


 私は怒りとも呆れともとれない感情を抱き、心の中で盛大に溜息をついた。

 自分の力でリリーを楽しませられなかったのが、どれだけショックだったんだ。まあ、自分の婚約者の魅力に気づいた直後だから、余計に自分が情けなく感じたのだろう。


 すると、しばらく黙り込んだフィリップを、心配そうにリリーが覗き込んできた。


「殿下?」

「す、すまない、リリー。つまらない話ばかりしてしまって。話題を変えよう」

「……ええ、そうですわね。わたくし、殿下に伺いたい事がございますの」

「? なんだい?」


 私がリリーを見つめながら尋ねると、彼女は真剣な表情で驚くべき発言をした。


「あなたは、殿下ではない別の誰かなのではございませんか?」

「――…………!!」


 突然の指摘に、私は思わず息を呑んだ。必死に言い返す言葉を考えるも、私の反応で確信してしまったのか、リリーは強い眼差しのまま続けた。


「殿下ではないあなたに、少しお話ししたいことがございますの」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ