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コメディ

16歳の誘拐犯

作者: ルーバラン

「お兄ちゃん、ボクの家に電話すればいいの?」


「すまんがお願いできるか? それで父さんか母さんが出たら、俺に変わってくれ」


「うん、わかったー」


……計画は順調だ。後はこのままこいつの家に身代金を要求して、金を受けとれば全てが上手くいく……。

夏場のそろそろ日が暮れようという時間帯、外ではヒグラシがカナカナと鳴いている。


「あ、もしもし? お父さん? ボクボク、美香だよ。えっ、何々? 今どこにいるって? えーっと、お兄ちゃん、ここどこだっけ? ううん、1人じゃないよ。今名前が滝川ゴンザレスって言うお兄ちゃんと一緒にいるんだよー」


……よしよし、上手くお父さんに連絡できたみたいだ。


「な、ちょっとお兄ちゃんに変わってくれないか?」


「あ、もしもし? お父さん、お兄ちゃんが変わって欲しいらしいから変わるねー」


そう言って美香と言う名前の少女から電話を受け取る。


「ああ、もしもし? 滝川ゴンザレスだ」


「誰だお前は、本名を名乗れ!」


「本名なんか名乗ったら、足がついちまうだろうが。馬鹿かお前は」


「……なに? ……ま、まさか……」


「そうだ、今、お前の娘さんの美香ちゃんを誘拐した。美香ちゃんに危害を加えられたくなかったら」


「な、なんだと!? く、くそ何が目的だ? そ、そうか美香の体が目的か!」


……いや、さすがに6歳児に興味はないが。


「確かに美香はかわいい、私に似て将来性抜群の娘だ!」


「いや、ちょっと待て」


どれだけ自分自慢してんだこのおっさん。


「くそう、見も知らぬような若造にうちのかわいい美香があんなことやこんなことされるとは……」


「だからしてないって」


このおっさん、さっきから全然俺の話聞かないな。


「こんなことになるんだったらこの前一緒に風呂に入った時にいろいろしてしまえばよかった……」


「いや、それはちょっと待て! 親としてそれはやっちゃいけないだろう! ってか俺の話をちょっとは聞け!」


「な、なんだ? 娘にいたずらする以外にもまだなにか要求があるというのか?」


だからいたずらなんてしねえよ……と口にだしてしまいそうなったが、このままでは話が先に進まない……ここはグッと抑えて次の話をする。


「いいか、美香ちゃんを無事に帰してほしかったらな、10億円準備しな……おっと警察に連絡しようなんて思うなよ。でなきゃ、美香ちゃんがどうなるかわかってるだろうな」


「くっ……このロリコン野郎……」


ロリコンと言われるのは甚だ心外だが、今はそんなことを相手に文句言っている場合ではない。金だ、俺には金が必要なんだ。

月夜の明かりだけが照らされる暗い建物のなか、静かに相手の返事を待つ。美香ちゃんは先程から退屈そうにアクビをしていて、その後部屋のなかを物色しはじめた。ここは俺と親友との秘密基地。小学校のころはよくここで日が暮れるまで遊んだものだ。自作したいろいろなおもちゃがその辺に転がっていて、何かを見つけては興味津々にいじっている。


「なんで私の家なんだ!? お隣さんちの努くんのほうがよっぽど裕福だろう?」


「しらん。子供が携帯を持っている時点でその家は裕福だと判断しただけだからな」


「くっ……犯罪者に巻き込まれないために携帯を持たせておいたのに逆に利用されるとは……やはり美香にスタンガンでも持たせとけばよかった……」


おいおい、このおっさんかなりの危険人物だよ。


「ふふふ……はっはっはっ!」


……なんだ? なぜこのおっさんは笑っている?


「滝川ゴンザレス! お前は誘拐がどれだけ成功率が低いか知っていてその犯罪に手を染めてるのか?」


……自分で名乗っといて思うのも何だが、滝川ゴンザレスなんて名前はさすがに変だな。


「知らねえよ、過去は過去だ。昔のやつらがバカだっただけだろ?」


「では、滝川ゴンザレス。10億円を持ち運ぼうとするとどんな重さになるか知っているのか?」


「知らねえよ、いいからさっさと準備しろよ! 美香ちゃんがどうなってもいいっていうのか!」


「まあ待て……10億円を準備するとな、100キロになるんだぞ! お前はそんなに重いものを持ち運べるのか?」


「な、なに? 金とはそんなに重たいものなのか?」


「知らなかったのか? その時点で100キロもの重さに耐えられなくなったお前は捕まることになる……だから少し額を減らさないか?」


「ちっ……わかったよ。じゃあ1000万だ」


「またいきなり減ったな!?」


しょうがないだろ。金を手に入れても逃げられなきゃ意味がないんだから。


「その額をバックに詰めて創造小学校の近くにある河川敷まで来な」


「……了解した……頼むから娘には手を出さないでくれよ」


「それはそっちの行動次第だな、じゃあ、1時間後にまた連絡する」


……そう向こうのおっさんに伝えると電話を切ろうとする……あれ? これって通話を切るにはどのボタンを押せばいいんだろう? これか? それともこれか? ……わ、わからん。


「なあ美香ちゃん、これってどうやったら電話切れるんだ?」


「あ、ボクやったげるよー、貸してかして」


退屈してたのか、声をかけたら嬉しそうによってきて俺の手から携帯を受け取る。


「頼む! 最後に一度でいいから娘の声を」


ブチッ、ツー、ツー、ツー……。


「最後、何かお父さん叫んでたねー、何叫んでたんだろ?」


……まあ、何だ。俺が切ったわけじゃないからな。美香ちゃんが自発的に切っただけだからな。恨むなら美香ちゃんを恨んでくれ。

ふう、計画の第2段階まで終了した。後は金の受け取りをどうするかだけだ。ここまできたらほぼ問題なくこの計画は成功するだろう。

それにしても、腹減った……電話を切った瞬間緊張がとけたのか一気に空腹が襲ってきた。

ずるずると壁にもたれかかりながら倒れていく……お腹がすいて力が出ない……。


「ちょっとお兄ちゃん、どうしたの?」


「ここ3日ばかり水しか飲んでなくて……」


「うわ、悲惨なご飯だねー。あ、そうだ! ボク、チョコ持ってるよ? 食べる?」


「ち、チョコ!? 美香ちゃん、チョコ持ってるの!? 頼む、食わせてくれ!」


「それじゃ、食べさせてあげるねー。はい、アーンしてー」


「あーん「アキラ!」」


……なんか途中に変な声が聞こえたんだけど。

ふと入り口を見ると、叫んだ張本人が息を切らして立っている。あれは……シュウジか。

俺にとって唯一の親友だ。


「……アキラ……お前、そんな趣味があったのか……」


「そ、そ、そんな趣味ってどんな趣味だよ!?」


思いっきり否定をしたいが、美香ちゃんにアーンしてもらっているこの状況では、なんだかどもってしまう。


「いや……いいんだ、別にアキラが幼女趣味だろうが、俺はお前の親友だからな」


「違う! 俺はこいつを誘拐して、今ある借金を全部返済するんだよ! 今のままじゃにっちもさっちもいかなくなって生活できないんだよ!」


「何でだよ!? 俺たちはいつだって貧乏でも一生懸命二人で助け合って生きて行こうって誓ったじゃんか!? 何で俺に一言も相談なしに犯罪なんて起こすんだよ!」


「相談できるかよ! ……お前に全部責任を押し付けてのうのうと生きるなんてさ」


「いやいやいや! 何で俺だけに責任押し付けようとしてんだよ! ほら、俺に相談してくれたら少しぐらい金の工面してやれたかもしれんだろ?」


「1千万円あるんだが……」


「うん、頑張れアキラ、俺たちはいい親友だったなあ」


「過去形かよ! お前、俺たちは親友じゃなかったのかよ!」


「お前、こんな格言しらねえのかよ! 『金の切れ目は縁の切れ目』! と言うか俺だってその日暮らしなんだ、お前にそんな金貸せるだけの余裕は無いんだ」


「俺なんかこのままじゃそこで鳴いてるそのヒグラシくらいしか生きられねえよ」


「なあなあ、そんな悲観して生きることないって! 絶対たまにはいいことあるから! 俺なんか最近、人生で初めて逆ナンされてさ、すごく優しくて可愛くていい子でさ、すっごく楽しく話できたんだよ」


ふーん、自慢か。誘拐犯に自慢してどうするよ。


「キャッチセールスの仕事をしているらしくってさ、なかなか売れることができなくて困ってたらしいんだ、分割でいいからって言ってたから、30万円の羽毛フトン買っちゃったよ。彼女もめっちゃ喜んでくれてさ。よかったよー。まあ、おかげで金がなくてまじきっついんだけどな……ま、でもお前もいいことあるって! 頑張れよ!」


……いや、それめっちゃだまされてると思う。だが……ここまで喜んでいるシュウジに何か言うのもなあ……。


「お兄ちゃん、こういう人をカモって言うんだねー」


「こら美香ちゃん、そういう事いっちゃいけません」


全く、美香ちゃんの将来が楽しみだけど心配だ。


「だからさ、お前もいつかきっとあるからさ、犯罪になんて手を染めんなよ!」


「だから説得するなら金をくれ!」


「お前の顔、今まじおっかねー……」


「うっせえよ! 親父ギャグですませてるんじゃねえよ!」










結局1時間後、シュウジの説得に根負けして、警察に自首をした。

パトカーが1台、俺を連行するために俺たちの前に停車する……。


「シュウジ……俺、戻ってきたら頑張るよ」


「ああ、また一緒に頑張ろうぜ」


「美香ちゃん……誘拐してごめんな」


「ううん、お兄ちゃん。ボク楽しかったよー」


そういってもらえると助かる……けど……はあ……俺もここからまた1から再スタートかあ。しんど。


「まあ、何だ。アキラと言ったか? 臭い飯食って、しっかり反省して出所してこいや」


「なにっ!? おい警察官、犯罪をすれば飯が食えるのか?」


「……ん? あ、ああ。少年院のまずい飯だがな」


そう警察官が言った瞬間、シュウジが突然動き出す、すばやく美香ちゃんをとっ捕まえたかと思ったら、高らかに宣言した。


「ふはははは、この少女は誘拐したー! 身代金を用意しろー!」


……おいシュウジ。

下記のページによると、少年院では意外といいものを食っているらしいです。

うな丼なんてほんとに出るんだろうか……。


こんな犯罪者ばっかりだったら世界って平和だろうなあ。


へっぽこ法務教官のぺーじ

http://landes.web.fc2.com/


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― 新着の感想 ―
[一言]  いやまあ運搬時にくぐる関所が多いからってだけなんですが。
[一言]  刑務所の飯はなかなかどうしてうまい、が、心を込めて冷やしてある、らしい。家に帰ってから奥さんと喧嘩にならないための配慮なんだろうか。
[一言] 登場人物が、みな抜けていて、最初から最後まで楽しんで読めました。 1000万のくだりは、思わず笑ってしまいました。
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