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第3話 ポンポコ踊り

 今宵はボク、初登場の尚五郎タヌキがお山のタヌキ界について紹介するね。




 月夜のお山はいつも賑やかなんだ。

 何故なら四国中の至る所のお山でポンポコ踊りが繰り広げられるから。

 と云っても誤解してはいけないよ。タヌキたちは伊達や酔狂やお祭り騒ぎバリにただ楽しむためだけに踊っているのではないんだよ。

 と云うのも個々のタヌキをよ〜く注視してもらうと分かるが、むやみに腹包はらづつみを叩いている訳じゃなくて、ピョンピョン飛び跳ねたりしている訳でもないんだ。


 それぞれが悩み、苦しみ、工夫をしながら自らのワザを磨いているんだから。


 ワザ?それって何?

 見た感じ、ただのタヌキの踊りにしか見えないけど、踊りではないの?じゃぁ、一体どんなワザにこだわっているの?


 良い質問だね。オッホン!

 それはね、そのポンポコ踊りがタヌキたちにとって厳しい修行だと云う事。

 ただの踊りに見えるその動きと行為はね、実はタヌキ特有の妖術ようじゅつ幻術げんじゅつを仕掛ける呪文と動作なんだ。


 妖術や幻術だなんて聞くと、「オッ!またコイツったら、インチキな空想話を持ち出してきたな〜。」って思った?ホラ、思ったっしょ?


 確かにボクはいい加減でチャランポランな奴だけど、妖術も幻術もホントにあるんだよ。

 ホントだってば!君たちだって絶対に見ているはずだ。え?それはどんな時にかって?

 君たちは手品ってヤツをテレビや演芸場なんかで見た経験くらいあるはずだ。見てるよね?

 あの手品って厳密にいうと妖術・幻術の一種なんだ。

 だって見る者の目を誤魔化し、現実にはあり得ない状態を見せる。もちろんタネ明かしをしたら、な〜んだ!ってなるけど、相手に幻を見せて騙すなんて確かに妖術・幻術って言えるでしょ?

 ボクらが実践する妖術や幻術にも、もちろんタネはあるし。

 それにボクらからみた未来のアナタたちの世界では、ステルスって言う隠れ身の術があるんだって?

 あれだってレーダーっていう鷹の目みたいな機械を騙すんでしょ?だったらそれも同じジャン?

 ね?ホントに有るって分かった?


 そんな事情もあってね、ボクらにとって特に隠れ身の術って、自分の身を守るための生命に関わる大事な能力なんだ。

 だって鷹などの猛禽類やクマに出会ったら、逃げるか、隠れるしかないじゃない?立ち向かっても勝てる訳無いし。

 でも咄嗟に草むらに隠れただけじゃ、すぐに見つかっちゃうし捕まっちゃうよ。いつも都合よく手ごろな草むらのような隠れ場所なんぞがあるとは限らないし。

 だからどんな場所や条件下でも有効で確実な隠れ身の術を使って逃げ延びるんだ。ね?妖術や幻術を習得するって切実な能力だってわかるでしょ。

 でもね、それってとっても習得するのは難しいんだ。

 幻術の名人にやり方を教わっても、よく分からないし。

 だってね、名人の説明は

「術をかける時は、それを「エイ!ってやって、シュッ!と決めて、モクモクってしてきたら、ポン!ってするんだ。」って言うんだよ。

 それって分かる?ボクにはサッパリ分からない・・・。

 仕方ないから僕は恥を忍んで年下だけど妖術・幻術の達人の域にあるあの おせんタヌキにも教わってみたんだ。

 そしたら彼女は快く教えてくれたけど、彼女も名人と同じに「エイ!ってやって、シュッ!と決めて、モクモクってしてきたら、ポン!ってするんですよ(ニコ)」って言うんだよ。

 ボクって理解力が足りないのかな?才能がないのかな?年下の女の子に教わってもできないなんて情けなくなっちゃうよ。

 だからと言って諦める訳にもいかないから、ひたすら独自の修練を積むしかないな、って思うんだ。

 それでね、ボクら凡人ぼんタヌキは月夜のお山で稽古するのさ。

 だって特に月が出ている晩は、月光のエネルギーを目一杯吸収して妖術体得の胆力をつける事が出来るから、皆月夜になると必死で稽古に励むんだよ。


 そうそう、僕らタヌキの一族が妖術・幻術の類いを習得できたのはね、元はと言えばチャンバラ時代の大昔、猿飛サスケとか、人間の忍者が月夜に修行を積んでいたところを目撃したからなんだよ。

 人間にできるなら、ボクらタヌキにもできるだろうと真似をしたのがキッカケなのさ。

 だから幻術を使えるのはボクらタヌキだけじゃなく、キツネたちも使えるんだ。


 知ってた?


 ここで少しボヤキを言わして。

 アイツらキツネたちってボクらと同じ程度の能力のくせに、人間社会から【稲荷】として祀られているでしょ?それも全国各地の至る所に。でもね、ボクらタヌキを祀る神社って聞いた事がないんだよ。精々人間の知ってるタヌキって、信楽焼の置物が有名なくらいかな?人間から見て、ボクらってあんなにヘンテコな格好に見える?

 モロ出しの金時計が恥ずかし過ぎるし。そこがチョット不満かな?扱いがあからさまに理不尽で不平等だと思わない?


 なんでなんかなぁ〜?

 


 話が脱線しちゃった。


 ところでその妖術・幻術と云っても色々あってね、さっきも触れたけど、大きく分けて三種類のワザに分類できるんだ。

 改めて詳しく説明するね。


 一つ目は変身の術。これはもう有名なタヌキの十八番おはこ

 皆知っている『タヌキと云えば変身』のワザで、昔ばなしにもよく登場する特徴的で代表的な妖術だよ。まぁ言ってみれば初級編だな。

 え?誰?タヌキの定番の技は『狸寝入りや、タヌキオヤジのようにとぼける技じゃない?」って言ったの。

 もちろんそれもあるけど・・・。でもそれってタヌキじゃなくても、誰でもできる誤魔化しのすべじゃない。別に僕たちタヌキ族が特別に修行するほどのじゅつじゃないよ。僕の講釈を聞いているそこのアナタにも覚えがある、一般的でお手軽な生活の知恵じゃん?もしかしてアナタ、僕たちタヌキを意識の下でバカにしてない?・・・・ヘン!バカにしなでよ!


 気を取り直して、二つ目は幻術げんじゅつ。これも妖術の一種で、対峙する者にまぼろしを見せて煙に巻く術。その規模には大小あってね、大きいので有名なのが【ダイダラボッチ】の伝説。

 有名なアニメ映画にも登場したよ。確か「もののけ〇」て言ったっけ?

 実はこれ、日本全国で見られる古代からの言い伝えなんだ。

 これはさすがに一匹のタヌキだけでは成し得ない。数匹のタヌキのチームワークが、寸部のたがいもなく息をそろえなければできない高等なテクニックなんだよ。

 まぼろしと言ってもね。目の前に見える情景が嘘くさいと人はそう簡単には騙せないんだよ。如何にホンモノっぽく見せるのが腕の見せどころなのさ!

 分かりやすい例で言うとね、ホラ、君たちの世界での近年『ゴジ○映画』で世界中を驚嘆させた『VFX』の技術がそれにあたるんだ。

 あれって迫力が凄過ぎてチビった人も大勢居たとか居ないとか。

 あの手法をスクリーンの前でやるか、何も無い空間でやるかの違いなのさ。

 ね、ウルトラ凄いテクニックでしょ?



 三つ目は葉っぱを小判に変えるワザ。

 このワザには特に名称は無いけど、これもタヌキにとって欠かせない。

 重要なのは、葉っぱを小判に変えるだけではないと云う事。今で云うところの高額なお札だったり、500円玉だったりするし、それだけではない。

 何と!樹木をお城に変えたり、僕たちから見た未来の世界を例にとると、岩を自動車に変えることだってできるんだ。

 だからその気になれば、四国のお山にスカイツリーをそびえさせたり、東京ドーム(大阪ドームでも名古屋ドームでも、福岡、札幌ドーム、いや、エスコンフィールドでも可)を出現させたりする事だってできるんだよ。

 もちろんこのワザは特に超高等難度だから、誰でもできる訳ではない。

 だって物体を出現させるには、本物をよ~く観察して偽物とバレないよう、完成度の高い再現力が要求されるからね。お金にしても建物にしても、いい加減な出来栄えなら直ぐ分かっちゃうでしょ?

 だから3Dコピー機のような超越した記憶力と、へそから血が滲むような涙と根性と強い意思が無ければ成し得ない、選ばれしタヌキを象徴する英雄のテクノロジーなんだ。もちろん、こちらもひとり(一匹)だけじゃできないよ。だからチームワークってとても大切なんだ。(あれ?百年以上前に3Dコピー機ってあったっけ?まあいいや、ドンマイ、ドンマイ)


 と云っても所詮しょせんただの幻術に過ぎないが。(あぁ、所詮って言っちゃった!他のタヌキたちには内緒だよ。だって他の仲間たちの前で『所詮』なんて言ったら、必死で修業する者たちに失礼でしょ?僕なんかが先輩たちの前で不用意にそんな事言っちゃったら、思いっきりシバカれちゃうからね。だから内緒だよ。)



 但しこれらの術は、むやみやたらと濫用らんようしてはならない厳しい掟があるんだ。

 これらの術を使って人を騙すにしても、目的が私利私欲であってはならないし。

 だって、葉っぱのお金で人間から何かを購入すれば、それは立派な詐欺に当たり、犯罪でしょ?

 騙された人間は烈火の如く怒り、手当たり次第タヌキたちに報復するかもしれないじゃん?

 だから妖術や幻術を使うのは、厳しい制限が設けられているんだ。

 タヌキ界と人間界は平和共存、これが大原則。

 じゃぁ、どんな時に許されるの?


 それは自分の身に命の危険が迫った時。

 例)トカゲが危険から避難する時、『トカゲのしっぽ切り』をするよね?

 それと同じ。危険な相手やその行為を回避するため、やむを得ない時にだけ許される、いわば正当防衛なのさ。分かった?


 だからタヌキたちが必死で習得しようとしているのは、そのまさかの時のためなんだ。


 捕捉だけど、おせんタヌキが一生懸命に変身の練習をしたのは、厳密に云うと目的が私利私欲だから掟に背く禁じ手なのだけど、まだ幼いし、里の人間界から「可愛い」と好意的に受け入れられているから特別にお目こぼし扱いされているんだ。





「おい、尚五郎タヌキ!お前、なにブツブツ喋ってるんだ?

お里の誰かに変身しているつもりらしいけど、ホラ、後ろ!尻尾が見えてるぞ!」

「あれ?いつの間にか見えちゃった!」

「あれ?じゃないよ!!見えちゃったじゃないよ!!なに気を抜いてるんだ!そんな事じゃ、長老タヌキの権太様にまた叱られるぞ!」

「そういうお前も耳が変わっていないぞ!それじゃすぐバレちゃうじゃないか!他人ひとの事(タヌキの事)云えるか!」

そこに優等生 権蔵タヌキが割って入り、

「どっちもどっち!この未熟者たちが!お前たち、この前はふたりとも(たんたんタヌキの)金時計をぶら下げていたろ?あれは恥ずかし過ぎるぞ!

 場合によっては、わいせつ物陳列罪で終身刑にされちゃうんだからな!

それにもっと気合を入れて打ち込まなければ、今度の進級試験に合格できないぞ!

そんな調子で、いつまでも半端者で良いのか?」

ひぇ~!震えあがるふたりの劣等生タヌキ。

進級試験2級の権蔵タヌキに叱咤される、共に5級の尚五郎タヌキと庄吉タヌキであった。


 因みにこの進級試験は最高5段まである。

 まだまだ道のり険しいタヌキたちであった。




     つづく

 


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uparupapapa お山の紅白タヌキ物語 https://ncode.syosetu.com/n2214ip/
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