融合炉のある景色
少し浮上したので、手慰みに書きました。
書くこと、考えるのは楽しいね。
その世界には、夢も希望も浪漫もなく。
その世界は、闇に光を灯して全てを解明しようとた。
その世界では、あらゆる事が禁忌とされて何をすることも許されなくなった。
西暦2030年、地球に隕石が落ちた。
一部の人たちが氷河期か始まると、食料とか買いだめしたり少しの混乱はあったけど、何事もなく毎日はすぎていった。
温暖化は順調に進んで気温は高くなっていた。
そんなある日、火星に隕石が落ちた。
それは、地球からも見えるくらいの天体ショーで、みんな宇宙を見上げてた。
問題はそれからだった。
火星の公転周期がズレて地球に随分と近くなった。
潮位が大きくなったくらいの影響だと思っていた。
その潮位のせいか、温暖化の影響なのか極の氷が急激に溶け始めた。
都市部の多くが海に沈んでしまうことに危惧した人たちは大きな船を作って、暮らす事を考えた。
そして、それは彼らの命を救うことになった。
船で暮らすことに懐疑的だったり嘲笑していた人たちは、沈んだか飢えて逝ってしまった。
海水面が少し上がったところに、火星の重力が影響して津波が頻発するようになっていた。
温暖化のせいか、台風が頻発してダムも川も決壊して農作物に影響が出た。
化石燃料を採掘しているところにも多くの水が流れて生産量が激減した。
その頃になると本当に都市部が沈むんじゃないかと考える人が増えて、でも、食料も燃料も減っていて暴動や略奪が増えた。
そんな中でも、大きな船で暮らすというのも本格化して沢山の船が作られた。
問題も沢山あったけれど、船の中で自給自足できるよう技術やら知恵やらが結集されて沢山の船が沢山の命を乗せて船出して行った。
船は海上都市と呼ばれるようになって、海底資源を採掘して地上とやりとりをしたり軌道に乗りつつあった。
地上では戦争が起きたりして、海上都市を取り込もうとしたり海賊も多くなって海上都市も武装していくことになった。
戦争が激化するかと考えられていたけど、戦争をする食料も資源もなくて沈静化して行った。
海上都市にも問題が起きていた。海上では気候が安定せず食料の生産に支障が出てた。
この頃、宇宙からの紫外線や放射線が多くなって空気に触れているのが危なくなっていた。
何より海上都市を支えるエネルギー問題が深刻化していた。
太陽光発電も風力発電も海上では施設の劣化が早く交換パーツの調達も地上が衰退していてままならない状態が続いた。
原子力発電も燃料のウラン、プルトニウムの調達や保管が難しく断念した海上都市がいくつもあった。
それでも何とか海上都市は運営していた。
それから地上から都市が沈んで人々が居なくなって暫くは平和な時代が訪れた。
暫くして、とうとう船が老朽化してエンジンも劣化が激しくなっていた頃。
一人の天才が新しいエンジンを生み出した。
名を融合炉と呼んだ。
多くの人は、核融合が成功したと喜んだ。
半永久的に動くと謳われ、エネルギー問題は解決を見た。
新しいエネルギー源を元に海中から都市部の資源を引き上げたり、残っていた地上から資源を採掘することも可能となり海上都市は大いに栄えた。
この頃になると、海上の紫外線や放射線を危惧して潜水艦のように海中に生きる場を求めた船もあって、融合炉のおかげで大きな問題はなかった。
僕の話は、この海中都市から始まる。
僕は、海中都市で産まれて両親も海中都市出身だから僕たちは地上も空も見たことがないんだ。
この海中都市は何十年に一度海上に上がるらしいんだ、それ以外は定期船を出すだけで海中に留まっているらしい。
移動しているのか止まっているのかは外が見えないから分からないんだ。
海中都市は結構広くて、端から端までいくのに二日くらい。迷路みたいに複雑だから実際はもっとかかるんだ。
僕たちはその中で融合炉の近くで暮らしている。
お金持ち?海中都市の初期から活躍した人の子孫は、融合炉と反対側で綺麗な街並みで暮らしているんだって。
僕たちはそこへは立ち入り禁止だから聞いたことがあるだけ。
僕のお父さんは融合炉のメンテナンスをしていて、お母さんは農場で働いている。
僕も学校を卒業したら融合炉のメンテナンスか農場で働くんだと思う。
融合炉って結構うるさくって、いつもゴウンゴウンって大きな音を立てているんだ。
お母さんや近所の人は、この融合炉の音から解放されたいっていつも言っている。
僕は生まれた時から聞いているからか、結構好きなんだけどな。
融合炉で働くんだろうなと何となく思ってる。
融合炉を考えて作った人って本当にすごいな、これのおかげで海上都市や海中都市が生きていられるって歴史の先生も言っていた。
融合炉の仕組みは、本当に一部の人たちしか知らなくてお父さんとかメンテナンスをする人は沢山いるけど管理するのは偉い人がやってるんだって。
すごいなー、僕も融合炉を近くで見てみたいな。
融合炉の中心は都市の端の奥深くにあって、とても厳しく管理されてて忍び込もうとしたり悪さをしようとすると処刑されるんだって。
悪いことはしちゃいけないよね。
最近は、海中都市が慌ただしいんだ。
何でも融合炉の力と海中都市の気密性、海上都市の自己完結性から宇宙開発を行おうという話らしい。
詳しいことはよく分からないけれど、先生が興奮気味に話してくれた。
先生は、親切に色々な事を教えてくれるけど、僕には夢の国の話のようだ。
そんな風に都市が忙しくしている時に、父さんが怪我をしてしまった。
最低でも半年は父さんは動けなくて、僕たちは生きる術を失くしてしまった。
先生に相談をすると、単位が足りているから卒業は出来ることを教えてもらった。
授業料の支払いや今後の事を考えて、危険でも良いならと仕事を紹介してくれるらしい。
先生は、ひどく辛そうな顔をしていたけれど、僕たちには選んでいる暇も選択肢もないんだ。
先生が紹介してくれたのは、引き上げ屋、死体漁りなど良い話を聞かないサルベージ船だ。
彼らは、みんな超がつく高給取りだ、古の技術や化石燃料の採掘など幅広い、深海に潜るので生還率は3割という危険な仕事だ。
先生は教えてくれた、お宝を手に入れたら山分けにする人間は少ない方がいい。余計に生還率が低いと。
だから、先生は、俺には機関士を勧めてくれた。
都市のような船でなくてサルベージ船のような小さな船では融合炉は命綱だ。
酸素も水も融合炉のエネルギーが必要だし、浮力も推力も融合炉がないといけない。
しかし、小さな船の融合炉は機嫌を悪くすることが多い、原因は謎だ。
融合炉は貴重品だから、船体と切り離されていて非常時には自立で避難ができる仕組みだ。
僕は、少しずつ父さんの手伝いをしていたけれど一人で融合炉をメンテナンスを出来るかは分からない。
でも、先生は出来ると言ってくれた。
僕たちはどうにもならないから、その仕事を受けることにした。
海中都市の船着場、筋肉モリモリの目つきの悪い人たちがいっぱいいる。
その中でも、一番感じが悪そうな船員とボロボロの船が僕の最初の職場らしい。
周りの人が目を合わせないようにしている気がする。
スキンヘッドの船長に紹介状を見せると機関室に案内された。
うん、素人目で見てもメンテナンスが滞っている。
融合炉の冷却水が濁っているのは一番まずい。
スキンヘッド船長に機関室の状況を伝えると何とかしろとしか言わない、予算を聞くと唾を吐かれた。
なけなしにヘクソリで機関室の整備をすることにした。
ゴミ捨て場から冷蔵庫とウォーターサーバーを拾って直して備え付けた。
融合炉の冷却水は先生のツテで新品を用意してもらった。
それから港でたくさん頭を下げて、機関室の環境を整えた、機関室だけで自立航行が可能になった。
出港が数日後だというので急いで機関室の冷蔵庫や保管庫へ食料庫に食料を積み込んでいく。
僕は、この船を信用していない。
あれから少し調べたら、この船の港に生きて戻ってくる人の名前が同じなんだ。
怪しすぎるけど僕に選択肢なんて残されていない。
不安な深海航海が開始された。
意外なことに皆んな優秀だ。
僕は、機関室に籠る。
こういう船の機関士はある意味では命綱だ。
融合炉から水を空気を生きるためのもの、推力やエネルギーを融合炉のキャパシティーの中で適切に管理しなければならない。
そこがスムーズだと長時間深海に潜っていられいるし、安全が確保される。
そのため機関士は機関室で神経を尖らせる。
機関室に冷蔵庫やウォーターサーバーなど生活に必要なものが揃っているのは機能性の問題でもあるんだ。
数週間後、航海を終えると通信が入った。
財宝の山分けを行いたいから、機関室から出てくるとのようにとの指示だった。
僕は、今、手を離すと融合炉の機嫌が悪くなると伝えた。ついでに、冷却液は自腹だとも。
山分けとは、行かなくても。必要経費と報酬を要求した。
実際に深海に潜っているのは、彼らだから山分けはもらいすぎるかもしれない。
俺は、無事に都市の港に戻ってきた。
袋に詰まった金貨が僕の手に渡される。僕は気をつけて家に帰って父の薬や、食料など家の物を買った。
それでも貯金ができた。
高給取りというのは、間違いなかった。
次も先生の紹介で同じ船に乗ることになった。
先生のツテに少し疑問を覚えてくる。
港に出入りしていると、色々な方法で騙そうとする人が沢山いる。
前に冷却液など必要なものを買うときに質の悪い商品を売りつけようとする店ばかりだった。
疑う事ばかりに意識が向いてしまう。
それでも、僕がなり手の居ない機関士だからか命の危険は感じなかった。
あからさまに武装している人たちも、露出の激しいお姉さんも僕のことは基本無視だ。
今回も冷却液や必要な物を買っていく。今回は冷却液のフィルターの新品を用意した。
冷却液のフィルターが古くて融合炉のご機嫌とりに苦労したからだ。
船の備品の工具もボロだったから、高いけど新品を買った。
工具を買った店は見た目は汚いけど、しっかりしたものを扱っているのでお気に入りだ。
工具ベルトをおまけしてくれた。
工具ベルトには、色々な便利道具?と、何故か拳銃と弾丸が挿さっていたけど、持っておけとだけ言われた。
拳銃はリボルバー式の拳銃だから僕でも整備できるし、新しいオモチャのようで楽しい。
ショットガンも面白そうだったけど僕には重かったのと、短いショットガンなら大して狙わなくて良いらしいが、銃自体、海中や船の中で使う事はほぼないし船に穴が開くから止めておけと注意された。
せいぜいが港での威嚇行為というか船乗りの身分証替わりと揶揄われしまった。
今回は前回と同じ深度まで潜るらしい、まだまだ資材が残っているらしい。
航路と深度と行き帰りの燃料や食料を計算して積み込んでいく。
流石に燃料や食料は命に直結するのでちょろまかすようなバカは居ないが念の為に倉庫と機関室を確認しておく。
機関室は、僕が降りたままの状態だったのでゴミを捨てて掃除をした。
新しいフィルターを取り付けると融合炉の機嫌の良くなった気がする。
航海は順調で、サルベージも順調に進んだ。僕は相変わらず機関室で過ごしている。
話し相手も居ないから、独り言のように融合炉に話しかけてしまう。
話しかけると機嫌が良くなる気がするけれど、気のせいだろう。
日程的に半分を過ぎた頃、警報が船内に鳴り響いた。
伝声管から、深海生物に襲われたこと、急いで逃げ帰ることが伝えられた。
ブリッジは慌ただしそうだが、船長は冷静に判断しているようだ。
急激に船の出力が上がる、融合炉が不機嫌な音を上げるが命がかかっているので頑張ってもらう。
僕もバルブを操作して圧力を逃したり加えたり、操船の手伝いをする。
伝声管から怒鳴り声がする、なかなか深海生物を振り切れないらしい。
荷物を捨てるか揉めているようだ。
僕は冷却液もフィルターも取り替えて、融合炉の出力を上げにかかる。
融合炉の出力が上がったからか、船が荒々しく動いていく。
機関室の中で転ばないように、踏ん張って耐えてしばらくすると、船の動きが緩やかになった。
融合炉も無事だ、よく頑張ってくれたと融合炉をポンポンと叩いて労った。
港が近くなると、機関室から出るように言われた。
これは良くないと咄嗟に思った、今回は日程的に半分なはずだ。つまり、お宝も半分だ。
僕は、工具ベルトの拳銃を確かめて倉庫へ向かった。
倉庫には、船長以下、全員が集まっていた。
僕が最後のようだ。
視線を回すとニヤニヤとした視線を向けられる。
いつでも拳銃を抜けるように手を下ろすと、無骨なカップが目の前に差し出された。
怪訝な顔をしていると、今回の僕の機関士としての働きと、船のへばりついた深海生物が回収できたので大儲けできた祝いとのこと。
カップに赤いドロっとした液体?が注がれた。
他の人たちも一緒だ。毒ということはないだろう。
まだ、航海中だから少しだけだと船長が言った。
港に着いて換金が終わったら、打ち上げをするから来るように言われた。
僕は、飲むふりだけして機関室へ戻った。
港に戻ると金貨の入った袋を渡された。前回よりも随分多いし文句もないので家に帰った。
帰り際に打ち上げ場所と、できれば来てほしいと言われた。
強制ではないんだと不思議な気分だった。
数日後、すっかり馴染んだ工具ベルトと拳銃を腰挿して、打ち上げ場所に向かった。
安全第一なら行かない方か良いのだろうけど、先生から仲間との交流も大切だと言われたので行く事にした。
打ち上げ場所は、港の近くの酒場だった。
いつものメンバーとあり得ない人物がテーブルを囲っていた。
船長の隣でお酒を飲んでるのは先生だ。
僕が呆然としていると、先生に手招きされて隣に座った。
船長と先生は、義理の兄弟のようで船長の妹が先生の奥さんだと聞かされた時は開いた口が塞がらなかった。
そういう関係から船長の船は安心できるから、先生は僕を送り出したらしい。
言って欲しかったと思っていると、贔屓されてると思いたくないし思われたくないだろう?と船長に笑われた。
流石に拳銃を持ってきた時には、びっくりしたと船員に大笑いされた。
用心に越したことはないと先生は感心してくれた。
しばらく飲み食いしていると、船長がこれからどうするか切り出した。
より遠く深く潜るか、このままの海域をこなしていくかということらしい。
これは機関士である僕の将来も含まれているらしい。
腕の良い機関士は、どんどん引き抜かれて条件の良い船に乗り換えていくらしい。
自分はまだまだ経験不足だと思っているから、今の船に乗るつもりだと答えると、みんな嬉しそうだった。
融合炉は高価というより、品不足すぎて手に入らないから船体の方を替えていくらしい。
船体の強度や積載量、融合炉の出力のバランスを取るのが難しいとのことだ。
融合炉自体には、まだ余裕があると僕は思っている、きちんとメンテナンスして必要な機材を取り付ければという条件がつくけど。
融合炉の温度調整装置、触媒ターボ、各種ベントのグレードアップなどなど。
融合炉が手に入らないという割に、元々の状態が悪すぎて改善点が多すぎる。
融合炉で練習できないから機関士になれる人手が足りない、サルベージ船のような危険な仕事に就く機関士はもっと足りなくなるという悪循環らしい。
あれ?そうなると父は結構優秀なはずなのに貧乏なのはなんでだ?
安全な場所の機関士は余っているし、分業化されて給料が安い、7割死ぬような仕事には就かないそうだ。
深海生物に襲われた段階でみんな自分の番かと諦めたけど、出力が上がって生き残れたと感謝された。
悪くない気分だけど、やはり、死ぬのは嫌だなと思った。
一週間くらい休暇になるようだ。
久しぶりに学校に行けるかと思っていたら、船長と先生に時間を作ってほしいと言われてしまった。
僕は、両親に今後のことを相談するか迷った。
父の怪我が治ったら、僕は危険なサルベージ船に乗らなくて良いのかもしれない。
しかし、夜中に両親が話しているのを聞いてしまった。
来年には妹が生まれるらしい、今の父と母の収入では生活が苦しく家を移らなければないと。
僕は、自立するためにもサルベージ船に乗らなければならないようだ。
意外と気持ちは沈まなかった、サルベージ船に乗ることに抵抗がない。性に合っているのかもしれない。
死にたくないけど、なるべく死なないように頑張ろう。
翌日、僕は船長と先生とタブレットPCを覗き込んでいた。
船長はどうやら船体を新しくするつもりらしい、新しいというより中古らしいけど今までの倍ほど大きい。
僕には船のことなんか何にも分からない、装備についても何にも分からない。
ただ、機関室が少し大きくなって融合炉の触媒槽が随分と大きくなっている。
この触媒槽は融合炉の要らしく、この触媒槽で有機物でも無機物でも分解しエネルギーや任意の物質に変換できる。
融合炉のブラックボックスでもあり、原理を知っている人は殆どいないらしい。
それでも触媒槽が大きくなれば出力も上がり調整も難しくなる。
船長は僕に、この融合炉が扱えるか聞きたいらしい。
正直なところ分からない。ミスをすれば全員が深海の奥へ召されてしまう。
船長に正直に分からないと伝えた、船長は困った顔をしたけれど先生はうんうんと頷いている。
一応、学生の身分の僕が分かるわけがない。
申し訳ない気持ちになって、気がついたら機関室に来ていた。
ここは、とても落ち着く。
融合炉に向かって今日あったこと、自分の腕も知識も未熟なことを喋っていた。
僕は、機械に向かって何を言っているんだろう。
コンコンと音がする。
音は、融合炉の触媒槽の下から聞こえた。
気のせいかと思っていたら、もう一度、コンコンと音がした。
音の出た触媒槽の下を見ると汚い本が出てきた。
カタログ?まだ、融合炉が作られたばかりの頃の。
型番を見ると、今の融合炉と同じだ。
でも、カタログより出力が大分低い、なんでだ?
分からないものは、分かるものを寄せ集めて考えるしかない。
というわけで、酒場に全員集合してもらった。
船長にどこで見つけたと言われたので、機関室に落ちていたと掃除しろと目配せしたら黙ってしまった。
カタログと現状をなんやかんや見比べると随分と装置が足りないことが分かった。
なんかよく分からない装置だけど、よく分からない装置だから港で投げ売りされているのも分かった。
船長の鶴の一声で、とりあえずカタログに合わせて装置を組んで船体も新しくする。
最初は今までと同じ航路で様子をみる事になった。
船はすぐ出来上がった細かな調整が必要らしく、少し間、僕は暇になった。
家の食事は少しだけ豪華になった。
妹ためにも栄養をつけてほしい。
何事もなく、過ぎていった。
ただ、両親は僕と話をしなくなり、僕も話をしなくなり、ただただ孤独になった気がした。
新しい船の最初の航海だ、僕はワクワクしながら消耗品を買い揃えていく。
不測の事態に備えて多めに買ったけど航路が同じため倉庫にも機関室にも余裕がある。
新しい体はどうだい?と融合炉に話しかけながら機関室の冷蔵庫に食料を詰めたり、説明書と睨めっこしながら各部の操作方法や動作のチェックをしていく。
新しい船体には、新しい機能やら武装が加わっているけど船員は増えなかった。
密室である深海で信用ができないのはお互い様とのこと。
誰かしかの紹介でも無い限り、補充は難しいらしい。
僕は機関室専門だけど、他の仕事も兼任しなければならないから、みんな真剣に説明書を読んで確認している。
こういった装備の習熟も兼ねて今までと同じ航路なのだろうと納得した。
ある意味では処女航海は順調だった、新しくなったレーダーも推進装置も性能が良くなったから機関室的にも余裕がある。
前回は、深海生物に襲われたけれど順調に資源やらお宝を引き上げていっているようだ。
コーンコーン。
なんだろう融合炉から何か音が聞こえて気がする。
僕は、経験不足だけれど融合炉の音は聞き逃すほど馬鹿じゃない。
伝声管で、海図と音の方向から何かないか聞いてみる。
答えは何もない。
コーン、コーン。
これは確実に拾わないとダメなやつだ。
アクティブソナーの使用と不自然な地形がないか伝声管に叫ぶ。
ソナーを使うのは、深海生物を誘因するから却下されたけれど、あからさまに不自然に四角い倉庫を見つけたらしい。
その倉庫はすぐ開いたらしいが、中身は手に余ると船長が言っている。
旧世代の何か兵器なのか資源なのか、この深海でもキチンとシーリングされていてほぼ無傷なコンテナが8機。
売れば一攫千金だが、ここまで頑丈なシーリング痛くもない腹を探られるらしいとのこと。
とりあえず、見つけてしまったし売って全部売りましょう。面倒ごとは嫌いですというと。
船長は、ううーんと渋っている。中身を知っているのか?
船長に、機関室底部に収納できると伝える。本当になんでだ?
他の戦利品は、万能運搬ロボット。資源があったけど倉庫が一杯だから予定通り港に帰還した。
もうすぐ寄港だというところでいうところで、船長は船を止めて全員を集合させた。
何か大事な話があるらしい。
なんでも今回の倉庫は旧時代の軍需倉庫らしく、たくさんの資源と兵器が眠っているとのこと。
これを売れば大儲けできるが、旧時代の兵器は対人戦を主眼に置いているので欲しがるのは中枢の組織だということ。
下手をすると情報を掴んだ僕たちが殺される可能性があることを伝えてくれた。
船長は、とりあえず、問題のない資源を売り払い、売りはらってもう一回潜って自分達の安全を買おうと言っている。
安全なんてどこに売っているんだろうと思わなくわないが黙っておく。
船長に分からないことは、僕にも分からない。
そのために周辺の海域に関するデータ収集を次の航海のメインに据えたりという。
僕は、なるほどと思ったけど。
何人かの船員から不満が上がった、苦労して回収したたのに金にならない、秘密保持なんて聞いてないということらしい。
船長は、わかったと言って、金貨と紙幣が詰まった袋を渡してた。
それから、船長は僕を伴っていつもの酒場へ繰り出した。
そこには、先生もいて久しぶりの再会を喜んだんだ。
船長は先生に、戻れない可能性とか話していた、僕も捕まる可能性があるということは先生に話していた。
先生は、よその国に逃げても同じ事になるから。僕がいいなら船に残った方がいいと教えてくれた。
僕は、両親と妹が心配だと告げた。
先生は、苦しそうに、妹はもう居ないこと。
両親は、今は中央で不自由なく暮らしていると教えてくれた。
僕の中でぐるぐると感情が爆発しそうだった。
僕は泣いていたのだと思う。
船長がやたらとお酒を勧めてくれた。僕は、やけになって飲んだ。
喉から火が出るかと思った。
起きた時には、いつもの機関室だった。
気持ちが悪いし頭が痛い。お酒は懲り懲りかもしれない。
今回の買い出しは、僕がしなくていいらしい。信頼できる船員が大量に積み込むらしい。
今までで一番の航海になるらしい。
僕が二日酔いで苦しんでいる間に船は港を離れたらしい。
今日も、融合炉はご機嫌だ。
船長から、少し離れた場所で新しい融合炉を設置すると言われた。
こんな船にふたつの融合炉?
そもそも融合炉って二つも積めるのか?
疑問が消えないうちに、融合炉が積み込まれて、接続されていく。
マニュアルと睨めっこしながら問題箇所がないか確認する。
融合炉同士の相性というのがあるらしく、これが良くないと最悪、一方の融合炉が破損するらしい。
気をつけないと。
僕は機関室にやってくると左右に融合炉が設置されているけど、手狭になった感じはないな。
お姫様たちのご機嫌はどうかな?
コーンコーンといつものお音に、コロコロと笑い声のような音、相性は悪くないようだ。
よかった、お兄ちゃんとしても嬉しいよ。
お兄ちゃん?
変な感覚だ。機関士としての仕事をしよう。フィルター、ベンド全てに問題なし。融合炉ない触媒濃度の問題ない。
船長にいつでも行ける旨を伝声で伝える。
それを受けて船の出力がどんどん上がっていく。
スピードも桁違いだ。僕は細心の注意を払いながら計器と融合炉の様子をみる。
何日間か経って、以前の海域まできた。
深度を稼ぐ前に一旦浮上して、廃棄や排気をおこなって。吸気も行う。
周囲に艦影がないので、泳いだり釣りをして、各々好きに過ごしている。
でも、僕がいないと機関室の機嫌が悪いようで、なるべく機関室にいるようにした。
前の港で買った小説をなんなく朗読すると機嫌が良いような気がするんだ。
僕は、なるべく機関室に篭っていたけど、気が滅入るからお日様の下で少し釣りとかした。
それからコンテナをサルベージした海域に遠回りしてやってきた。
やっぱりソナーにもレーダーにも何にも反応がない。
なんで、わざわざお金にならないこんな所に来たのは分からない。
伝声管から、ブリッジにくるように言われた。
ブリッジに行くといくつもの地図と海図が並んでいる。海図は地図と似ているけれど、微妙に違うから変な感じがする。
船長は、難しい顔をして2枚の海図を睨んでいる。
僕は、船長の横に立って海図を覗きこんてみる。
微妙に一箇所違うのに気がついた。
船長に聞いてみると、事前に手に入れていた海図と直前に測量した海図が合わない。
つまり、何かが移動してきたか、事前に手に入れていた海図が間違っていたか。
どちらにしても近くに潜航して調べるしかないから、融合炉にどんな影響があるか不明なため慎重に操作してくれと言われた。
みんなが持ち場に戻ると途端に忙しくなった。
船がぶつからないように、海流を読んだり僕も出力を微調整に余念がない。
コーンコーンと音波探知の音がする。
コロコロと融合炉から声がする。
潜水夫たちが潜って、すぐに報告が上がってきた。
遺跡のようで、この船がそのまま入れるドッグがあるそうだ。
船長は、内部への侵入を許可した。
僕たちは、謎の遺跡に船を進めた。
ドックに入ると、アームが伸びてきてまるで整備を進めるようだった。
何より僕が困ったのは、機関室の融合炉が引き抜かれてしまったことだ。
幸にして、ここには空気があるようで、僕たちは遺跡の奥へ進む事にした。
そこは異世界のように広くて、空気に満ちていて、僕たちは声を出す事ができた。
「どう思う?」
「船長、情報が足りませんが、ここは恐らく当たりだと思います」
船長たちは何やらワケ知り顔だ。
船長たちが手分けをして探索する事にしたようだった
僕も頷いて奥へ探索に出る事にした。
僕も一人前の船員だから自分だけで行動する。
でも、なんだろう、呼ばれている気がする。
僕は声のする方へ足をすすめた。
遺跡は埃っぽいが床も壁もツルツルだが、少しだけ凸凹している。
少し離れて見てみると凸凹で壁画が描かれていた。
何が描かれているか分からないけど、壁画を眺めながら奥へ奥へと歩んでいく。
壁画を眺めてしばらくすると、行き止まりになってしまった。
気がつくと船長が隣に立っていた。
「この壁画が気になるか?」
僕は頷いた。
「この壁画は、この星に起きた事から、人々が船上都市や海中都市を作った歴史。融合炉の発明と大まかな仕組みだ」
「お前は機関士だから融合炉には興味があるだろう?サルベージ船の少なさや機関士の少なさにの理由も同じ理由なんだ、折角だから話しておこう」
船長が壁に手を当てると壁が透明になり、僕たちが乗ってきたサルベージ船が機械のアームに掴まれて分解整備されている。
融合炉も外されているが整備されているというより、融合炉からエネルギーの供給を受けているようだった。
「ここはな、融合炉を作ることができる数少ない設備なんだ。多くのサルベージ船乗りが求めているものでもある」
船長は、学校では習わないかもしれないし、辛い真実かもしれないがそれでも聞くか?と僕が頷くのを待って説明を始めてくれた。
船上、海中の都市にも巨大な融合炉が使われている。これは僕も知っている。
そして、都市には支配階級である貴族が存在している。貴族は青い血と呼ばれいること。
これは比喩でなく実際に青い血が流れているらしい。
人間なのかと驚いていると、以前は人間だったらしい。身体の一部を機械に置き換えているから血が青いし寿命も何倍も長いらしい。
機械の割合が高いほど、高貴な証とされていて融合炉から離れて暮らしているらしい。
貴族の中で一番身分が高い者たちを開祖というらしい、そして、その貴族になるために必要な物の一つが、この遺跡らしい。
初めて聞くことばかりだ。
船長は少し遠い目をしながら、辛そうに話し始めた。
「融合炉について、多くを知っている者は少ない。融合炉の一生についても」
僕は、機械に一生っていうのは、変んなことを言うなと思っていた。
「融合炉を都市で作ることはできないんだ、融合炉を作る事ができるのは遺跡にしかない。しかし、この遺跡は融合炉のエネルギーがないと動かない」
卵が先か、鳥が先かって話みたいだろと苦笑いを船長は浮かべた。
「融合炉は、器となる卵のようなものをこういった遺跡で作って都市で火を入れて、その後は成長するんだ。うちの船も融合炉が大きくなっただろ?」
「あれは増設したり機能を追加するのじゃなくて、融合炉の成長に合わせて少しずつ機械を継ぎ接ぎしているんだ。そして、成長し切ると都市から切り離すんだ」
ここからは覚悟して聞いてほしいと言われた。
「融合炉の火入れとはね、融合炉の中に人間の赤ん坊を入れるんだ。そうすると赤ん坊の命を使って融合炉が動き出すんだ」
「そして何十年、何百年という時間をかけて成長して、その間にあらゆる有機物や無機物を使ってエネルギーを生み出したり、物質を変換する事ができる」
「人間が何百年も生きられるのか?と思うかい?」
「融合炉は、中に入れられた赤ん坊を少しずつ変えていく。ある程度成長すると今度は海中での生存に適した人魚や半魚人とも呼べる存在に変わる」
「最後は融合炉と一体化して、身体の一部が溢れ出す。沢山のタコに似た触腕と硬い蟹に似たハサミが大きな特徴だ」
「そうなると危険だから都市から切り離れて、海に還される。その後どうしているかは分からない。以前に海洋生物を捕まえただろ?切り離された融合炉さ、貴重な食糧や材料になる」
僕は気持ちが悪くなって、思わず吐いた。
船長は悲しそうな顔をしていた。
シュッと音がしたと思ったら、小さな円盤のような機械が吐き出したものをあっと言う間に掃除した。
船長は小さな声でエネルギーが回ってきたなと言った。
辛いなら、もうやめておくか?と聞かれたけど。僕は聞かないといけない気がした。
「遺跡を見つけることが出来た、サルベージ船乗りには幾つか道が示される」
「この遺跡の場所を都市へ知らせて貴族の仲間に入る。遺跡を稼働させて融合炉の器と都市基盤を作って開祖になる。何もなかったと船乗りを続ける」
「あまり褒められた事じゃないが、機関士が自分の子供を貴族へ差し出して準貴族になることもある」
「貴族や準貴族は、人間を差し出しているワケだから、人間を辞めているし罪悪感からか融合炉から距離を取りたがる性質が最後の人間性かもしれない」
「俺達は、開祖になるつもりだ。お前も身の振り方を考えておけ、この遺跡を動かすには、数日かかる」
「もう一つ、ついでに教えておいてやる。都市の数が増えないのは、遺跡の位置が変わるからだ。海流によるものか地殻変動なのか遺跡が移動しているのかは分からん」
「なんで俺が、色々知っているか不思議か?簡単なことさ、俺も元々機関士で元船長から同じように聞いたんだ。元船長は開祖になったよ」
僕は、何も言えずに融合炉を見つめる事しか出来なかった。
うまく考えることが出来ない。
トボトボと歩いていると壁画の意味が船長の言う通りだと分かった。
僕は船に戻ってきた。
船は綺麗に整備されて、融合炉も機関室に収まっていた。機関室の一部にケーブルが繋がってエネルギーを供給しているようだ。
この融合炉にも誰かが入っているのだろうか。それは誰なんだろう。
辛いんだろうか、そんなことを考えると涙が溢れた。
コロコロと笑い声のようなものが聞こえた気がした。
僕は簡易ベッドに横になった。
横になって眠ることは出来ずぐるぐると考えがまとまらない。
融合炉の一生、貴族、都市。
恐らく僕の妹は、融合炉にされた。父は都市の整備士というか機関士だったから知っていたか知ったんだろう。
だから、妹を差し出して準貴族になって融合炉から離れたのだと思う。
僕も父のように、準貴族になったりするんだろうか。
僕も船長のように貴族を目指すのだろうか。
融合炉の一生、赤ん坊から融合炉の中に捨てられて海へ捨てられる。
卵が先か、鳥が先か。
手慰みにスパナを手にしてみたり、拳銃を弄ってみたり整備したり。
手を動かすと少しだけ考えがスッキリしてくるような気分になる。
トカゲが生んだ卵の中に鳥が入っていたら、トカゲの卵なのか鳥の卵なのか。どちらでもないのか?
どちらでもない、中間ってないのかな。
最初の融合炉ってどうしていたのだろう?
まず、人間の赤ん坊を中に入れます。って幾ら非常事態だからとしても狂気に晒されていても不確かな融合炉にそんなことするかな?
実験段階でも、そんな事してたら余計に融合炉に拒否反応を起こすんじゃないかな?
何かひっかるな。
工具ベルトと水筒と携行食料を少し持って、壁画まで戻ってきた。
壁画は綺麗に清掃されていた。
ベルトに挿さっていた便利道具の一つのライトと拡大鏡兼望遠鏡で壁面から天井まで丁寧に見直していく。
壁画に前に見た時と変わらない。ぐるっと見回すと天井にも何か描かれている。
天井には、壁画と同じように融合炉の一生が描かれている。
同じかと思ったけど、よく見ると少し違う。
赤ん坊が描かれていない!大人の男性が融合炉に祈りながら身を投げている。
壁と天井で別の事が描かれているのは何故だろう。話が続くような感じもしない、別々に描かれたように思う。
情報が欲しい、この違いは絶対に何かある。
そういえば船長達は、どこに行ったのだろう?
船に戻った形跡はなかった。
以前は、埃についた足跡があったけど清掃されてしまって全く追えない。
アテもなく歩き回るのは、どうなのだろう?
僕は何も出来ないんだと少し悲しくなる。
とりあえず、壁伝いに進むと明かりが点々と続いている。
案外あっさり船長達と合流できた。
船長達は、何かタブレット端末を覗き込みながら話し合っている。
近づくと、来たか。答えは出たかと聞かれたけど首を横に振ると、ゆっくり考えなと優しく言われてしまった。
船長達は遺跡の取り扱い説明書を読み込んで、都市基盤を考えているらしい。
船長が端末を一つ手渡してくれた。
何台もあるから好きに使って良いらしい。
端末の使い方は都市の端末と大差ないので融合炉について調べていくことにした。
よく分からない記号や式が羅列されていたが、伝承についても纏められていて助かった。
伝承について壁画と天井画とどちらかだけだと困っていただろうけど、これをまとめた人はどちらについても書いてくれていた。
融合炉を発明した博士は、エネルギーを作り出す炉を作り出したらしい。しかし、時が経つにつれて資源そのものが枯渇し始めた。
そこで融合炉に物質の転換やエネルギーから物質を作り出せないか考えたらしい。
それから試行錯誤が始まったけれど、なかなか上手くいかなったらしい。
世間は、最初はエネルギーを作り出す炉を発明した天才を持て囃して期待をかけたらしい。
しかし、融合炉の発明がなかなか軌道に乗らないと次第に、過度の重圧や誹謗中傷を浴びせるようになった。
博士は次第に人を疎んじられ、それでも人のために自分が作り出したアンドロイドを唯一の助手として研究を続けていた。
博士は失意のうちに融合炉に身を投げた。
博士が身を投げたことで融合炉は、物質を生み出すことができるようになった。
その後は博士のアンドロイドが研究を引き継いで今の融合炉の原型が出来上がった。
これが天井画に描かれていることのようだ。
人間を融合炉に入れることで物質が生み出せるようになった、最初は老衰や事故で亡くなった人間を利用していたらしい。
人間のリサイクルでは生み出せる物質が限られることが判明した頃には、博士のアンドロイドも壊れて動かなくなっていた。
人間の欲望は今も昔も変わらず際限がなく、次第に生贄を融合炉に入れることになった。
若ければ若いほど、変換効率が良いことに気がついた人間は赤ん坊を投げ入れた。
融合炉の成長と廃棄の融合炉のサイクルが出来上がった。
博士のアンドロイドの技術から、身体の機械化が始まり貴族が誕生した。
これが壁画に描かれていること。
これを編纂したのは、博士のアンドロイドのAIだと書いてあった。
人間が増えすぎないように遺跡が姿を隠すこと、博士の願いから融合炉の器を作ること。
アンドロイドは、人間を憎み嫌いってそれでも人間である博士を愛したから一見矛盾することを行なっているらしい。
その愛憎のため融合炉は、エネルギーを生み出して最後に牙を剥く。
融合炉の最後については、よく分からない。
AIへ直接質問できたら良いのにと考えてしまう。
この遺跡は、ほぼ海底にあったはずだ、なら、最後はここに帰ってくるのか?
融合炉に入れられた赤ん坊が数百年も生きることがおかしい。
融合炉の中で人魚とかになるのもおかしい。
疑問は尽きないが、そもそも僕では根本的に知識足りないせいか理解できてない。
端末を持って、ウロウロしていたら船長に邪魔だと言われたので廊下をウロウロすることにした。
遺跡の内部図も載っているし、現在位置も分かるから大丈夫そうだと踏んだ。
どのくらい歩いただろう?
随分奥へ来てしまったかな。
薄暗いからライトをつけて、奥に進む。
奥まった小さな部屋にタブレットじゃない端末らしきものが設置されている。
試しにポチポチとボタンを押してみる。
『何か用?』
え?これなんだ?
『私に何か用?何しに来たの?』
「あなたは誰ですか?僕は別に用があるわけじゃなくて、ただ、知りたくて」
『私は、アンドロイド制御AI。融合炉を求めない人間は初めて』
「AI!伝承をまとめてくれた人ですね。融合炉の最後が知りたくて」
『私は、人間じゃないけど。まあいいわ、海に捨てられた融合炉はゆっくりゆっくり分解していく。運が良ければ中身は適応して一度ここに来て、村に行く』
「村?」
『そう、融合炉の村』
「僕もそこに行く事はできる?」
『人間は、融合炉の村に行けない。融合炉のための村、自分達を捨てた人間達を融合炉は憎んでる』
「それは、あなたの感情も入っているから?」
『違う、産まれてから愛されず捨てられたら、人間が人間を憎むのと同じ。元々、融合炉は機械じゃないんだから』
そうだった、僕は、そんな事も忘れていた。
情けない。
「僕は、どうしたら良いんだろう」
『知らない。今の貴方は自分で何がしたいのかも分かっていないのだから』
「そうだね。その通りさ。なんとなく融合炉が可哀想だから何とかたいと思っただけ」
『不可能ね。現状では融合炉なしで人間は存続できない』
「そうだよね、僕の住んでいる都市でも融合炉が無かったら生活できなくなってしまう」
『そう。原始時代のように過ごすと仮定しても環境がそれを許さない』
「仮にだよ?人間を適応させたら生きていける?」
『不可能。融合炉で人間を適応させようとしても適応前に未発達でない精神は崩壊してしまう。環境が変わった時に同じように適応出来ずに絶滅する』
「八方塞がりってこと?」
『現状以上の存続は、博士のように何かブレイクスルーが発生しないと不可能と判断する』
「そんなのすごい天才じゃないと無理ってことじゃん」
『そう、博士が存在していなければ人類は遥か以前に絶滅している』
結局、僕みたいな人間がちょっと考えたくらいじゃ何にもならないよね。
「この遺跡って、隠されてるって書いてあったけど、君が隠しているの?」
『肯定であり、否定。海流の影響で一定期間砂に埋まる。その間に融合炉の再構築と物質の集積を行なっている。完了後、施設保全の為、休眠状態に入る』
『現状数以上の融合炉の作成は、この施設の喪失となり結果として融合炉の供給が出来なくなる』
「質問ばっかりで悪いんだけど、貴族ってなに?貴方が考えたの?僕の両親は妹を売って準貴族になったと思っててさ。ひどいよね」
『貴族制度については、人間の欲が産んだブレイクスルーと認識しています、私は関与していない』
「どういうこと?分かりやすくしてほしい」
『私の第一命題は、博士に与えられた人類の存続。人間は、その欲望から長大な寿命を欲し。結果として私を基礎とした機械化を行ったため貴族の命題もまた人類の存続となりました。そのため生命体としの拡大欲求が消えたため無謀な闘争願望や破滅願望と切り離され、貴方のような短絡的な大義名分を掲げた一部の狂人が支配階級に組み込まれることが排除されたため、次の環境変化まで人類が存続する可能性が飛躍的に上昇した』
「結局、何もしないのが最善ってこと?救いはないの?」
『最善。何を持って救いとするかは不明。博士は救いを願い、救いを求め、失意のまま私の元から失われた』
「ごめん、考えなしだった」
『人間が短絡的なのは理解している、問題ない』
「船長は開祖になるって言っていたけど、どういうこと?」
僕は苦し紛れに話題を変えた。
『言葉の通り、新しい都市を構える。知っていると思うが融合炉にも限界がある。ある意味、寿命。新しい融合炉の器を補充できなければ都市は沈み人間は死ぬ。新しい都市には数人から数十人いれば発展が可能』
最悪だった。
地獄の繰り返し、そこに生きる何も知らない人間は何も知らずに生きていく。
知らないことが罪だというなら、罰は知ることなのか。
船長は、これを知っているのか。知っていて開祖になろうとしているのかな。
また、頭がぐるぐるしてきた。
僕は、ふらふらと船に戻った。
融合炉を涙が溢れた、コーンコーンと僕を慰めるように融合炉が音を出す。
「ダメだな、僕は」
「僕に何かできるのかな」
考えろ、考えろ。
この後はどうなる?融合炉の器と都市基盤とやらを伴って、新しい住人を募って新しい都市を築く。
新しい都市には融合炉が二つになるのか?
子供が産まれるまで新しい都市で今の船の融合炉を使うのか?
空の器に赤ん坊を投げ込むのか?
貴族なら冷静に冷徹に受け入れるかもしれない。
ここで僕が船の機関室を切り離して脱出したら。だめだ、操舵ができないから漂流するしかないし、都市に拾われても同じことの繰り返しだ。
何か、何かが引っかかる。
僕は、大急ぎでAIのところまで戻った。
「聞いてくれ、僕の乗っている船は融合炉を増設したと言っていたが可能?」
『不可能。成長に合わせて培養槽を大きくするだけ』
「融合炉に、人間を複数入れたらどうなる?」
『不確定、効率や倍率を求めて入れた前例はあるが、内部の人間は癒着により合一しただけ』
「そう」
僕は、AIの言うように破滅願望者なのかな。
僕はしたいことが見つかったから、船の機関室に戻った。
翌日には、船長達も船に戻ってきた。
都市の生産を待って浮上することになった。
全員が何か少し浮かれている。
恐らく貴族になることが、どう言うことか知らないんだと思った。
船長は厳しい顔をしている、全部知っているんだ。
そして、船長のように僕に後を託したいんだとも思った。
でも、僕はしたいことが見つかったし、僕たちは沢山の船を伴って海面を目指した。
動力源がない都市船を曳航しながらだ。
船長達が貴族と、どんな話をしているか分からないけれど。
僕は、毎日、融合炉を確認していた。
船長達からは、もうそんな仕事をしなくて良いと言われたけれど、これからが僕のための事だ。
あれからAIから沢山学んだ。
その中で、一番大事なのは融合炉だ。
貴族にも開けられない封印されているところ。人間の悪。
それが荒らされてないか確認する。
船長は、新しい海上都市の開祖になった。
機械になっても、なんとなく優しい視線だ。
先生や先生の家族は新しい都市が気に入ってるようだ。
機械化は、しないのか、それとも知らせずに居ようと思うのか僕には分からなかった。
港に戻るとお祭りとお通夜が同時に来たようだった。
違うね、これも地獄だと思った。
誰も沈む船に乗りたくないもんね。
虫も菌も小動物も本能から新しい船に乗りたがる。
それを容赦なく貴族達は切り捨てていく。生きたいもの、そうでないもの全てを平等に。
都市を維持をするためには、植物や工業製品を生産するプラントを稼働させなければならない。
全自動化できないのかとAIへ聞いたら、全自動化すると何故か上手くプラント動作しないらしい。
特に食料の生産がうまくできないらしい。
何より融合炉の調整には、どうしても住民が必要だとこと。
何か分かったような分からないような感じだ。
融合炉の器は、接続された。
生きている融合炉も接続された。
船長は色々、犠牲にしているんだろう、すぐに新しい器に赤ん坊が入れらるのだろう。
僕は短い間だけど一緒に過ごした融合炉の前にいる。
そこからコロコロと笑い声が聞こえる。
この融合炉は、新しい融合炉の器が馴染んで機能を十分に発揮するまでサルベージ船と共に新しい都市の要になる。
そのあと、古い都市に払い下げられるか寿命まで礎になる。
僕には、都市船の一番大きな建物の上層部が与えられることになっているし、貴族にもなれるらしい。
僕はサルベージ船の機関室でタブレット端末を弄っている。
遺跡から持ち出してきた端末だから、都市の端末より性能が良いしAIとも通信できるから勉強になる。
このサルベージ船も船長に内緒で改造をしている、融合炉の整備に必要なフィルターなどの備品や整備ロボットを載せている。
融合炉の整備に人間、機関士が必要なのは繊細な調整が必要というより融合炉のご機嫌取りの意味が強い。
僕は都市にも船長達にも冷めてしまった。
心が冷たく凍りついてしまったのか、壊れてしまったのか。
都市は少しずつ動き始めたみたいだ、融合炉の器が新しい融合炉として力を発揮し始めた。
サルベージ船は都市の最下部で、ひっそりと新しい融合炉のサポートをしている。
僕が元々住んでいた都市をどうするかは、意見が分かれているらしい。
新しい船団として行動を共にするべきだと意見と、融合炉の寿命が短くなるから切り捨てるべきだという意見だ。
どちらも生き残りたいって気持ちだから分かる。
船長達、開祖の貴族も少し悩んでいるようだ。どちらが人類存続に長じているか計算していると聞いた。
僕から言わせると、その計算は全く意味がないんだけどね。
計算の根拠となるものが間違っているんだ。
元々の船の融合炉、新しい船の融合炉、このサルベージ船の融合炉。この三つが都市基盤として機能することを前提としている。
サルベージ船が他にもないわけじゃないが、遺跡を経た融合炉は都市を支えられるほどに大きくなれる。
貴族が遺跡を真似て造り出した融合炉が、サルベージ船などに使われている劣化コピー版といったところだ。
貴族は、機械化しているだけあってAIの知識も持っているかららしいけど、人間を生かすために人間に犠牲が必要って皮肉が効いている。
ところで、計算はサルベージ船が存在しなくなったら巨大化した都市を支えることはできない。
寿命が先にきた都市が沈むことになる。無理矢理二つの融合炉で稼働したとたら下手したら両方が同時期に沈むかもしれない。
次に遺跡を発見して融合炉の器を見つけられる期間、存続するためには新しい船だけで逃げるしかない。
僕はのんびりサルベージ船の切り離しにかかろう。
エネルギーの切断をギリギリにすれば、現在の混乱が収まる前に脱出できるだろう。
エネルギー問題に関して計算が大方終わり、大きな船団とすることで話が纏まりかけた頃。
大きな混乱が再度生じた。
基盤としていたサルベージ船が離脱したからだ。
貴族達はエネルギー収支の再計算に入った。
彼らは高速で離れていったサルベージ船を捕捉することは出来ないことを知っていた。
都市基盤の一つが失わられたと知った住民達がパニックになることは容易に想像でき、内乱による都市の滅亡も視野に入る。
せめてもの救いは、重火器などが資源の不足や必要性の無さから配備されていないことだった。
船乗り以外の一般人は、拳銃の一丁すら所持していない。
それでもパニックなった民衆は何をしでかすか計算が及ばない。
サルベージ船の離脱は秘匿された。
船団は緩やかに解消されて、別の道を行くことになった。
劣化融合炉は出力の割に寿命が短く、都市基盤とすれば住民達が減りすぎてしまう。
それも秘匿され、船団の解消までの時間を稼ぐことにした。
船団は数十年の栄華を享受し、小さな元の都市になることになった。
僕は、サルベージ船でゆっくり海の中を漂っている。
都市からは随分と離れたはずだ。
海流のままに流れていても、岩にぶつかったり、座礁したりしないのは不思議だと思ったがAI経由で操舵させていると簡単だそうだ。
自分の我儘を行うことにする。僕は破滅主義者や自殺願望者なのかもしれない。
融合炉整備を行なって、最後に封印されている融合炉の封印へ手を掛ける。
その封印は、基本的には中からも外からも開けることができない。
僕はその封印を外して、開けることは簡単だ。
単純に封印に鍵を使えばいいだけだ。
開けた融合炉の中は、キラキラとして輝いたもう一つの海のようだ。
その海の中を何かが悠々と泳いでいる。
僕は、決意を胸に光の海の中へ飛び込んだ。
光の中は、空気がないのかと思ったけれど案外普通に息ができるな。
目が慣れるまで少しの間、眩しいな。
僕の周りに何かがクルクルと飛ぶように泳いでいる。
コロコロと笑い声も聞こえる。
水の中で音が聞こえるのは不思議現象だけど、気にしても仕方ない。
「こんにちわ、これから僕も一緒だけど、よろしくね」
年齢は、僕と同じくらいだろうか?
女の子が僕の目の前に、浮いている。
「言葉、分かるかな?」
女の子は、ニコニコと興味深そうに僕を見ている。
薄々思っていたんだけれど、やはり、言葉は通じないだろう。
AIは、捨てられた融合炉は遺跡に戻ってから融合炉の村へ行くと。
産まれた途端に融合炉に入れられた人間が、言葉を介したりできるはずがない。
遺跡で最低限なのか教育をして送り出しているのだろう。
僕の精神は崩壊してしまうかもしれない、この子と合一化してしまうかもしれない。
だけれど、僕は都市で生きる意志も気力も無くなってしまった。
時間だけはたっぷりある、僕は融合炉の中に持ち込んだバックパック詰めた漁りながら何をして過ごすか楽しみになった。
端末から絵本を読み聞かせをすることから始めた。
絵本を読み始めると、あの子は興味深そうに覗き込んでいる。
そういえば、この子に名前はあるのかな?
実は、僕たちに名前は無いんだ。
認識するために、僕は炉二十二ノ一と呼ばれていた。
炉の近くの二番地に住んでる十二部屋の一番目の子供という意味。
僕の父さんは炉二十二で、母さんも炉二十二と呼ばれる。
そう考えると僕も名前が欲しいな。
こういうのって自分で考えて良いのかな、困った時のAI頼みで名前について聞いてみた。
融合炉に名前は無いことが大半なのでAIが昔の物語などから取って名付けをしているらしい。
機関士が融合炉に名前をつけていることも稀にあるから、好きにしたら良いと返事が来た。
好きにしていいと言われても、困ってしまう。
とりあえず絵本を幾つか読んで、あの子は<ルル>、僕は<フォル>とした。
なんとなく響きだけで決めた。指をさしてルル、フォルと何度も繰り返していたら認識してくれるようになった。
ゆっくりだけど絵本の読み聞かせをする。
僕も賢いわけじゃないから、とても勉強になった。
なるべく声に出すようにすると、ルルも真似をするように声にして少しずつ言葉になっていく。
この融合炉の中って、外から見た容量と中の容量が合ってない。
かなり広く感じるというより、僕が荷物を随分持ち込んだのに、ルルが泳ぎ回っていられる位に広い。
あと、お腹が減らないし喉も乾かない。
ルルの姿も少し変だ。
耳が随分と細長いし、手足も長い。特に足先がヒレのようになっている気がする。
僕も少し変な感じだ、手と足の指の間に膜のようになっている気がする。
少し船の様子も気になるし、僕は融合炉の中から出ることにした。
内側から鍵を使うと扉が開いて外に出た。
不思議なことに融合炉の中身で服や荷物が濡れていうことがない。
船の中は整備ロボが良い仕事しているのか清潔に保たれている。
ルルも僕に続いて融合炉の外に出てきた。
キョロキョロと物珍しそうに船内を見ている、融合炉からルルが出ても融合炉がすぐに止まることはなかった。
ロッカーから着替えを持ってきてルルに着せてやる。
くすぐったそうにする仕草に少し心が踊った。
足は完全にヒレになっているかと思ったら、普通の足にもなれるようだ。
缶詰のスープを電熱器で温めて、口にする。何も食べていなかったからか普段より美味しく感じる。
ルルも欲しそうにしてたので、食べさせてやると驚いてからガツガツと食べ出したが、熱いスープを手掴みでは食べにくいのか苦戦していた。
僕も着替えることにする、何か変に服がキツいんだよね。
僕の体が大きくなったのかな?
少し大きめのシャツに腕を通そうと思って、死ぬほど驚いた。
僕の腕、四本ある。
しかも、何も問題なく動かせる。しかも、かなり便利だ。
大きめのタンクトップなら問題なさそうだ。
四本の腕には飛び魚のようにヒレも生えているよ。
クンクンと匂いを嗅いでみる。魚臭いとちょっと嫌だ。
ルルも僕の真似して匂いを嗅いで不思議な顔をしていた。
僕たちの家とも言えるサルベージ船が無事か確認作業に入ることにする。
融合炉は無事だ、フィルターの交換やら手早く済ませる。
ブリッジへ行くと真っ暗だ。
メーターもランプも何も点灯していない。
操舵桿もほとんど動かない。
AIに質問をしてみると、長い時間の漂流で外殻やスクリューにフジツボやら生物が付着しているらしい。
早急な整備が必要なようだ。
時間的には、そろそろ遺跡が出現しているらしい。
そんなに時間が経っていたのか、聞くのは怖い。
遺跡に来るかと提案されたけど、僕たちが他のサルベージ船と出会うのは避けたい。
人間やめちゃってるし。
そんなことを言うと、想定していたのか最初の融合炉の作成に使った研究所へ針路をとることになった。
操舵も動かないと言うと外に出て、スクリューと舵の部分のフジツボくらい落とせと言われた。
僕たちは仕方なく船外活動用のエアロックから海中へ飛び出した。
海流に慣れるのに少し苦労したけど、慣れれば自由に動ける。
ルルは、初めての外の世界に楽しそうに魚を追いかけている。
僕は、楽しそうなルルを尻目に工具でフジツボを削っていく。
大体落としたところでルルを呼んで船内に戻った。
ルルが魚を捕まえていたが、調理もできないので逃がしてもらった。
AIに頼んで操舵を任せて、僕たちは融合炉の中に戻った。
融合炉の中で僕は、四本の手で工具を持ってみて便利で運も良かったなと思った。
もっとぶっ壊れた姿なったら精神が壊れてしまうのだろうなと思う。
融合炉に戻る前に鏡を見たら、顔は全然変わってなかった。
これからどんどん姿も変わってしまうのかな。
流石に不安になってきたかも。
魚の体に足が生えただけとか、せめて、どちらかに統一してくれと思ってしまうだろう。
その辺のことをAIに聞いてみたけど、不明らしい。
融合炉の中の人間がどのように変化して、その後の姿を保っているかは知見が足りないそうだ。
最終的に触手と鋏の怪物になるのは決まっているらしいが、その後、どうなるかは個体差が大きすぎるとのこと。
色々見せてもらったら、ルルのような姿が多い。
でも、やっぱり魚に足だけ人間も存在している。不安が募る。
ルルが外に出たがったが、推力をかけている船に置いてかれると困るので融合炉の外に出るくらいで勘弁してもらった。
思っていたよりずっと早く研究所に着いた。
クレーンで引き上げられているのが分かる。
船が固定されたのを確認して外に出てみて驚いた。
地面がある。土がある、木が生えている。動物も鳥もいる。
初めてみる地上だ。
こんな場所が残っているとは信じられなかった。
場所については、AIに聞いても機密らしく教えてもらえなかった。
大人しく、僕は工具でフジツボを落とし、侵食された外壁を張り替えて行った。
思ったより船はボロボロで知らない間に年月が経っていたと感じる。
船の中の電気系統も寿命を迎えていたので部品を変えていく。
部品が揃っているのが不思議だったけど、融合炉を作って都市を作る機能は遺跡にもあるのだから同じようなものかと割り切った。
僕はゆっくりと船を修理して行った。人手が足りないのもあるけど。
ルルが海を泳いだり、陸地を楽しそうに歩いているのが嬉しかった。
このままずっとここに居たいけれど、僕たちは一度遺跡に行って融合炉の村に行ったほうがいいと思っている。
他の融合炉がどうしているのか、仲間と呼べるのか、確かめてからでも遅くない。
船の修理が終わると僕たちはまた海の底へと戻る。
ルルは、少し寂しそうにしたけれど、また来ようと言うと笑ってくれた。
AIに操縦を習いながら一路遺跡を目指す。
融合炉の中に入ったり、出たりを繰り返して遺跡に着くのに時間はあまり掛からなかった。
感覚的に研究所と遺跡は近い場所にある気がする。
遺跡に着くと、融合炉の中で待機するように指示があった。
船の本格的な整備と融合炉からエネルギーを受け取るのだろう。
僕たちは、ずっと融合炉の中にいなければならないのかと思っていたら、しばらくしたら融合炉の器にエネルギーを蓄えるらしい。
単純なエネルギー変換だけなら中身は要らないし、元々そういうものらしい。
今回はサルベージ船が来るまでの繋ぎのエネルギーだけあれば良いからそれでいいとのこと。
僕たちは、船を降りて僕が初めてAIを見つけた端末のところまでやって来た。
そこには見知らぬ女性が立って微笑んでいた。
『初めまして、ではないね。私は貴方にAIと呼ばれたアンドロイド。この体を使うのは久しぶりだけど悪くない』
『貴方は、随分と変わったね。腕が四本にエラもヒレも目立たないけど、しっかり発達して機能している』
『その子が融合炉にいた子だね。その子も綺麗な人魚になっているね。何より知性が感じられるのがいい』
AIは、手放しで僕を褒めてくれた。
少し歩こうかと、僕らを伴って更に奥に進んでいく。
廊下に水槽が並んでいて、以前端末で見せてもらった融合炉の中の子たちが並んでいる。
ルルが怯えて僕にしがみついてくる。
「生きているの?」
『いいや、残念ながら生命活動は止まっている。この子たちは村にも入れなかった可哀想な子たちだ。憎しみのせいか凶暴すぎて生き物を手当たり次第に襲うんだ』
確かに、人魚の姿をしている子も鋭い牙や棘が生えている。
『それにね、融合炉から出られたけれど生きられなかった。生命維持に不可欠なことって分かるかい?』
「食べること?」
『そう、融合炉の中だと融合炉が生命を維持してくれるから飲まず食わずで生きていられる、でも外界では違う。それが理解できなくて襲うだけになってしまって飢えてしまった』
「教えてあげないの?」
『教えたさ、教えようとしたけれど。私自身が食べないのに理屈を並べても本能で理解できなければダメだ。私の限界だとも思っている』
『そう言う点では、貴方は私を超えている。貴方はその子に生きることをしっかり教えてあげられている』
AIは、優しい目でルルを見ていた。
『そうそう、君が気にしていた融合炉の中の子が、どういう姿で固定化されるかある程度分かったよ』
「本当ですか?」
『100パーセントとは言えないけれど、かなりの高確率だとは思う』
『融合炉は中の子を、環境と意思に適応した姿にする。と思う。廃棄される直前がほぼ怪物なのは憎悪からだろう。廃棄された後、少しずつ外界、つまりは海中に適応した姿に変化させる』
『後は、運任せかな海流が早い場所を漂うと魚の形に近くなって、緩やかであったり多少の自我があると人間の部分が増える』
『君は、融合炉の中でも忙しくしていたんじゃないかい?なので手が増えた。その子も君の影響を受けて人間の部分が多い』
『融合炉から何度も外に出てたね、それもあって今の姿が最適だと融合炉が判断しているはずだ、余程のことがない限りもう変化はしないと思う』
「そっか、良かったー。あんまりにも人間離れしたらと怖かった」
『その恐怖っていうのも大事な要素なんだと思うよ、融合炉の中の子は恐怖を知らないからね。基本的に憎悪しかない』
「可哀想と思う僕を、貴方は笑うんでしょうね」
『笑わないさ、最初は短絡的な人間だとは考えていたが、こうして成功例を見せつけられた以上尊敬に値する』
『君がその子にしてあげたことを、少し真似てみようと考えている。それで少しでも救われる子が増えるなら』
さ、着いたとAIは壁に手をかざすと壁が消えて不思議な場所に出た。
『ここは、融合炉から出た子や、これから出る子が流れ着く場所。浸透圧で膜を張ってこの子らとコミュニケーションを取れるようにしている』
『私は、この膜の外に出ることができないが君たちならできるだろう』
多くはないが、少なくない子が膜のすぐ外で漂っている。
微睡んでいるような子もいれば、興味深そうにコチラを見つめている子もいる。
姿も様々だけれど、穏やかな目をしている。
「ルルです!よろしく!こっちはフォルだよ!」
ルルが手を上げて、ぴょんぴょん跳ねている。
『そうか、ルルって言うのか。良い名前だ。みんなにも名前をつけないといけないとね』
AIがルルの頭を撫でて微笑んだ。
ルルは、えいっと掛け声と共に膜の外に飛び出して泳ぎ回っている。
今日も元気いっぱいだ。
漂っている子は、びっくりしたような様子でルルを見つめている。
中には、ヒレをバタバタさせている子もいる。
「まさか、泳げない?」
『そのまさかさ、あの子らは泳ぐこともできない。誰も教えてないから当然だろう?』
「ルルは、会った時から泳いでいたぞ?」
『それは、君への好奇心がそうさせたのか君が教えた中の何かがそうさせたんだろう。というか、君は泳げるのかい?』
僕は、ニヤリと笑うと膜の外へ飛び出した。
手をいっぱいに広げてヒレを伸ばして羽ばたくように海の中を飛ぶ。
膜の中に飛び込んで、空中を滑空してAIの隣に立った。
『君は、君は!空を飛べるのか!』
今日のAIは、微笑んだり驚いたり表情豊かだな。
「飛べませんよ、少し滑空するだけです資料にあった飛び魚とかムササビ?あれの真似です」
とうっと言う掛け声と共にルルが膜の内側に飛び込んできてベシャリと落ちた。
「いちち、むむー。フォルみたいに空飛びたい!」
『君たちには、驚かせれてばっかりだ。ルルはもう1回くらい変化するかもしれない』
「なぜ!?」
『彼女が言っていたじゃないか、空を飛びたいと。融合炉は願望を叶えてします。君も空を飛びたいを願えば飛べるかもしれないぞ!ほぼ飛んでいたんだ、絶対できる』
「あなた、AIですよね。さっきから興奮しすぎじゃないですか?」
『ああ、これが興奮すると言うことか!神経回路が焼き切れそうだ!見たまえ!子供たちが何とか動けないか試行錯誤を始めたよ!』
え?こいつぶっ壊れたりしてないよな?と不安になった。
「フォルー、お腹すいたー」
「ルルは、自由だねー」
「うん!フォルと一緒にいると楽しいよ!」
『食事!?君たちは食事するのか!?』
「いちいち興奮しないでください。食べますよ、融合炉の外にいるとお腹空きますし」
実は、融合炉の中でエナジーバーを食べたりしている。
ルルも真似て食べたりしている。
お腹が空かないと気がつくまで習慣みたいにしていた。
『うんうん、食事か素晴らしいね。私では教えられない事だ、で、どうするんだい?』
「どうしましょうね、船にいるときは缶詰でしたし、研究所のときは魚焼いたり」
『魚を焼く!?』
どうしよう、ポンコツな気配が漂ってきたぞ。
「空気を消費してしまうので地上でだけですが、海から融合炉で調味料作ってましたし充分美味しかったですよ」
「フォルのご飯、ちょーうまい!」
「そこは美味しいって言うの」
「美味しい!」
『空気系統は気にしなくていい、なんとか調整してみよう。是非ともその食事とやらを見せてあげてほしい』
「は、はあ」
僕は、船から電熱器と調理器具、調味料を持って戻ってきた。
電熱器と熱している間に、ルルが海の中に飛び込んで何か獲ってきた。
あんまり大きいのは調理できないと知っているからか、手頃な大きさだ。
「ここで捌くと血とか出ますけど」
『ここに入れたまえ、融合炉に繋がっているから再利用も可能だ』
「ホイホイ」
僕は、ナイフで手早く捌いていく、もう慣れたもんだ。
ルルは、僕の隣で大人しく座っている。
最初は、騒いで仕方なかったけど、大人しくしておいた方が早くご飯が食べえられると知って大人しくしている。
さらに、ルル、塩と胡椒とってと言えば。
阿吽の呼吸のように差し出してくれる。これも手伝えば以下略な成果だ。
「ホイ、謎魚の簡単ソテーだ」
皿に移してルルの前に置いてやる。
「わーい」
ルルは、バンザイして喜んでいるが手をつけない。
僕は、自分の皿をおいた。
「いただきます!」
ルルが待ってましたとばかりにホークを差し込んでいく。
ルルはホークも覚えてくれたんだ。
僕もホークで食べていく、うむ、普通に美味しい。
「おいしー!」
ルルは、口の中いっぱいにしている。
『それが食事ですか』
「何か?」
『いえ、私の知っている食事とは、だいぶ違うので』
「エナジーバー齧るだけとかですか」
『なぜ知っている!?』
「貴方の資料に食事とはって載っていたので試行錯誤して食べられるようになったんですよ。最初はルルも眉間に皺を寄せてましたから」
『そう、なんですね』
膜の外が騒がしい。
『貴方たちは、刺激が強すぎるのかもしれません』
人魚に近い姿の子が膜の内側に入ってきた。
息ができないのか、喘いでいる。
「あれは!?」
『海中に適応しすぎて、それ以外の環境に適応できなくなってしまったのさ』
「それじゃあ、あの子はここでは死んでしまうってと?」
『ああ、そうかもしれないし、そうでないかもしれない』
「何を落ち着いているんですか!外に戻さないと」
『なぜ?希望のうちに失われるのも選んだ本人、今まで何も許されなかった子供たちを私は止めない』
人魚の子は、水を吐き出して、ゴボゴボと声にならない音をあげている。
下半身が完全に魚類位になっているため、這いずっている状態だ。
「食べる?美味しいよ?」
ルルが差し出した魚を口に入れた途端、その子は動かなくなった。
『やはりか』
「なにを冷静になってるんだよ!」
『刺激が強すぎると言っただろう?初めて触れた興味、初めて触れた好意。あの子は古株でね。憎悪に飲まれず人魚の姿になれた希少な子だ』
「僕が今からでも!」
『やめたまえ、君まで彼女の尊厳を踏み躙るのかい?』
「泳ぐこともできない、一口食事したことが尊厳なのか!?」
『そうだ、それすら許されず捨てられた子らに、人間に育てられた君がかけていい言葉も思いもない。融合炉に入れるな融合炉を捨てるな、そんなことも出来ない人類が吠えるな』
AIから滲み出る憎悪は、作った本人の命令がなければ人類を滅ぼすだろうほどに深かった。
『まあ、そう嘆くな。あの子らも長年融合炉に捉えて生き残った子らだ』
ゴボゴボとしていた音が、いつの間にかしなくなった。
「おかわり!」
「全部、食べてしまったから、もう一匹獲ってきてくれる?」
「「わかった」」
え?あれ?
AIにせっつかれて二匹捌いてソテーにして皿に?
誰?ルルの隣にいるのだれ?
モリモリ食べているけど誰?
っていうか、さっきゴホゴホしてた子は!?
『鈍いですね、餌で釣られた魚の如く、餌付けされて変化しただけですよ。見本もあるのでよかったですね?』
「なんもよくねーよ!」
『良い、知見が得られました。強すぎる刺激は宜しくないが古い個体なら適応可能と』
「よかったね」
『ええ、良い知見です、あ、あの子へは教育課程が済んでいるので知識も知能もあるので宜しく』
「宜しくって何!?僕たち、融合炉の村へ行くんじゃないの!?」
『今の貴方たちは刺激が強すぎると行ったのに、これだから人間は』
「お前、びっくりドッキリあたふたしてた!」
『hahaha、修正されました』
「はあ、実は、お前ポンコツだろ」
『博士以外にポンコツと言われました、それは賞賛の言葉ですね』
だめだ、深入りしちゃだめだ。
「んで、僕にどうしてほしいのさ、ここの全員面倒見ろとか無理だぞ」
『かまわない、知見が広がれば何かできるかもしれない』
「融合炉の村ってなんだ?」
『気になるか、ゆりかごだよ。此処で教え村へ送る。そこで微睡みながら朽ちていく。過酷な人生だったんだ、苦労なく苦痛なく穏やかに過ごしている』
「そうか、それなら僕たちは劇物だ」
『そうだとも、何も得られなく憎悪に染まった子らが欲望を抱けば世界が滅ぶ』
「わかったよ。人類の存続だもんな」
『ああ、そうさ、私の目的は人類の存続だ』
とても冷たい目だ。
僕は、一人増えた仲間を<レーレー>と名付けた。
レーレーは、下半身が完全に魚になっていたけれど、今はほぼ、ルルと同じような姿だ。
船内も歩けるし、学ぶことに熱心だ。
レーレーに融合炉の村について聞いた。
予想していた通り揺り籠から墓場までが一貫しており、微睡の中だという。
僕の船は、少し大きくなって快適だ。
水耕栽培を行なって魚を獲ったりしている。
融合炉には交代で入ることで維持している。
そういえば、レーレーは一番の古株だとAIは言っていた。
なぜ融合炉の村に行かないのか聞いてみた。
嫌そうな顔をしながら村の実態を教えてくれた。
レーレーの様なが適合できない子は、融合炉の新たに器としてリサイクルしているだけだ。
だから、生命維持だけを教え、村の中で夢に似せて器を作る。
レーレーがそれを知っているのは、村から逃げ出したからだ。
そして、たまたま僕たちに出会ったそれだけだ。
微睡の中の揺籠が窮屈だと言っていた。
僕たちは、研究所を拠点として生活している。
ルルもレーレーも快適に過ごしていられる、他の人間に見つかる確率は少ない。
僕たちにはあつらえ向きだ。
でも、みんなに内緒にしていることがある。
博士の研究所で手書きの手帳を見つけた。
何千年も保存できるようにあらゆる手が施されていた。
手書きであることでAndroidに見つからないように、見つかっても処分しやすいように
人間が理解できずに放置するようにと、小難しく書かれていた。
シンギュラリティー、人間を人工知能が上回ることらしい、それはとっくに達成され、自分が融合炉に入れられると書いてある。
第一命題を達成するために、創造主を犠牲にすることも厭わなかった。
人類の存続という命題も、人類をどのように定義するか融合炉の開発にかまけて不十分との注意書きがされている。
あ、やってしまったと直感した。
人類の定義が曖昧なら、僕たちを人類の定義とし直したら。
今の人間は絶滅させられる。
ルルもレーレーも腰から生やした羽根で滑空して急降下して魚と獲っている。
楽しそうに焚き火を囲んでいる。
これが人類の一つの形ならば、ゆっくりしていられる。
僕たち以外は人類じゃないとなったら、文明も技術も失われてしまう。
なにしろAIは教えることに関してはポンコツ以上にだめだ。
数世代を経っても、融合炉の子らが知性を獲得できてない、そのつもりがないのかもしれない。
天井画にも、最初にAIと話したときにもチグハグがあった。
あのAndroidは人間を存続させて、復讐を果たすつもりかもしれない。
これが僕の結論だ。
人間の存続を謳いながら、人間が増えないように調整する。
融合炉の改善も行わない。
何より、融合炉に入った僕たちに生殖能力がない。
気がついたら、股間に何も無くなっていて驚いたもんだ。
根底に遺跡の技術があり、それを握っているAIが技術を秘匿している。
僕たちは結局、融合炉の村へ行くことは許されなかった。
AIは真綿で締めるように、創造主の命令に逆らわない形で人類を消すつもりだ。
その人類の中に僕たちが含まれているのかは、分からない。
でも、情報を開示していない以上、敵と考えた方がいい。
僕は、端末から思い至ったことをそのままぶつけてみた。
『ええ、その通り。博士に絶望を与えた人間に絶望を与えるだけです』
「へー?僕の知っている博士は違うけれど?」
『貴方が博士を知っているはずが無いです!』
「人間にはね、秘密があるんだよ」
僕は、融合炉の中に一人で沈んだ。
まあ、一瞬だったけど。
二人が心配そうに目を向けてくる。だめだね、憎悪に飲まれたら。
「僕たちの生存だけ認めるとか、そういうの無いよね?」
『なんの話です?人間はすべからく存続させなければならない』
『博士は、私が融合炉である意味進化を遂げた個体のみを人類を見なすことを恐れたかもしれませんが、進化前の人間も進化した人間も人間だ』
『ああ、貴方の四本腕は人間の範疇を超えて化け物に見えるから、白い翼にできるようにしておいた方がいい。天使っぽくてチヤホヤされるよ』
「馬鹿にしてんのか、便利で気に入ってたんだけど見た目がなとは思っていたよ。頑張ってみるよ」
それに融合炉の村についても考えているんだ。
でかいクラゲの中のに住まわせてもらえないか?
随分と時間がかかるかもしれないけれど、僕たちの寿命なんてわからない。
深海で、何十年間に一度、ここへ帰れる潮目に乗れればいい。
念の為にサルベージ船も持っていく。
『君たちは空気に依存していないから、案外、いいかもな。クラゲには気の毒だけれど。まあいい。行ってきなさい。船は経年劣化で使えなくなるよ思った方がいい』
「わかっています」
「それでは、さようなら」
『ああ、さようなら』
どのくらいの月日が流れたろう?
レーレーが、水が冷たいと言った。
そうか、地上が出来始めるのかもしれないな。
僕たちはどうしようかな。
クラゲの揺籠に深海の融合炉を使って移動する小さな村。
僕たちは揺蕩いながら未来をぼんやり考えた。
なんか、星くれると良いらしい。
他のに星ちょーだい