ごめんだなんて言わないで
こんにちは。水無月 宇宙です。
本作品を選んでくださり、ありがとうございます。
この作品を読んでくださる人に、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
カランコロンとなる下駄の音。
打ち上がる花火の光。
たくさんののぼりが立つ屋台の匂い。
夏祭りが開かれているこの場所に、私はどうしているんだろう。
「奈々!」
「…!」
呼ばれた気がして振り返るけど、そこは人混みで、誰も私のことなんて見ていなかった。
もちろん、声の主である、私のかつての恋人など、いるはずもなかった。
あれ、私はここにどうやって来たんだろう。
えっと、気付いたらここにいて…。
ん?今、何時だろう?
てゆーか、何日だっけ?
…何も分かんないや…。
私の名前は奈々。
それは分かるんだ。
それから、私のかつての恋人…ん?
“かつて”の恋人…?
あれ、いつ別れたんだっけ?
喧嘩した覚えはないけど…。
私はまだ好きだから、相手――凌空が私のこと嫌いになったのかな…?
何で何も分かんないの……?
思い出すのは凌空との思い出だけ。
喧嘩したこともあったけど、全部仲直りしたはず…。
それなりに仲良くやってたはずだし…。
嫌われるようなこともしてないけどな…。
ドーーーン!!
「……!?」
びっくりした…花火、終わっちゃったのか…。
最後の花火はすっごく大きかったな…。
…花火…?
憶えてる中での最後の凌空との思い出に花火が関係してる気がする…。
でも、なんだっけ?
「終わっちゃったねー」
「綺麗だったなー」
「帰るー?」
花火が終わると、人波は帰り方向へと流れていく。
帰り、混むだろうな…。
ちょっと時間ずらそうかな。
「……………」
あ、ここちょうどいいかも。
人あんまいないし、静かだし。
私は屋台が並ぶ通りから一本外れた道へと入っていった。
「……!?」
誰もいないと思ってたのに、一人の男の人が座り込んでいる。
周りには数本お酒の空き缶が置いてあるし、あんまり関わらない方がいいかな…?
「……!」
お酒の名前が目に入って動きが止まる。
「…うめ、しゅ…」
凌空が大好きなお酒。
そう思うと、男の人も、凌空に似ているような気がする。
さらさらした、茶色がかった髪。
すらっとした、高めの身長。
気づくと私はその人の肩を叩いていた。
「…?」
「…あ、え…と」
やばい。
何言えばいいんだろ…?
私、完全に不審者じゃん…。
「…奈々…?」
「…!」
凌空だ。
やっぱり凌空だ。
少しやつれてるように見えるけど、やっぱり凌空だった。
「凌空!」
私が名前を呼ぶと、凌空は目線を下げて、小さく笑った。
「凌空?」
「…俺、ついに幻覚まで見えるようになっちゃったのか…」
幻覚?
何言ってるの?
「どうしたの?私、奈々だよ?ねえ、幻覚って何?」
「…あ゛ー…」
凌空は低く唸ると、手に持っていたお酒を一気に飲んだ。
「あっ!駄目だよ、呑みすぎたら」
慌てて止めると、凌空は小さく舌打ちした。
「…ちっ。うっせーな…黙れよ…何だよ、どんだけ俺を苦しませれば気が済むんだよ…」
「ど、どうしたの…?」
何か、今日の凌空、怖いよ…?
「あ゛ー…俺も死ねってことかな…」
「え!?何言ってるの!?凌空、死んじゃだめだよ!?」
凌空は私をちらりと見て、ため息をついた。
「…はは、奈々が言ったって、説得力ないんだよ…」
どういうこと…?
「ねえ、凌空?私、ここにどうやって来たか分からないんだけど…どうやって来たか分かる?凌空と一緒に来たっけ?」
私の言葉に、ずっと俯いていた凌空がゆるゆると顔を上げる。
「うわ…顔真っ赤だよ?どんだけ呑んだの…?」
「…俺は一人で来た。奈々も一人で来た」
そうなの…?
「ねえ、その…私達って、付き合ってたよね…?」
「そうだなぁ…」
悲しそうに笑う凌空。
こんな顔させたかったわけじゃないのに…。
けど、知らなきゃ。
そうしないといけない気がする。
「…別れたの…?」
「どうだろうね…?」
「…?凌空は、私のこと嫌いなの?」
「……なれたら、良かったのにな…」
?
さっきから何言ってるか分かんないよ?
でも、嫌いじゃないてことだよね…?
それならどうして別れたの?
いや、別れてないのかも…?
「ねえ、凌空?どういうことか教え」
「うるさいんだよ!」
!?
なに…?
何でそんな苦しそうな顔して怒鳴ってるの…?
「黙れよっ!もう俺のことそんな苦しめんといてよ!何?そんなに俺のこと嫌い!?俺のこと置いてったくせに何で今更来るの!?」
凄い剣幕でまくし立てる凌空は、凌空じゃないみたいだった。
「俺だって…俺だってな!毎日毎日謝って謝って…許してくれんのは分かっとるけど…分かっとるけど…」
「だ、大丈夫…?」
凌空は、泣きそうな声を出しながら、こぶしをぎゅっと握る。
「……ごめんな、俺が…守れんかったから…」
何を言っているのか、分からない。
傷をえぐりたくもない。
けど、これだと思う。
私が何も分からないのは、これが鍵だと思う。
直感だけど。
「凌空…何言ってるか分かんないよ…教えてよ」
「…いつまでいんだよ………でるくせに」
「え?」
最後の方がぼそぼそしてて、上手く聞き取れなかった。
聞き返すと、凌空は涙をためた瞳で私を睨みつけた。
「死んでるくせにっ!」
え…?
何を、言ってるの…?
私が、死んでる…?
「は、はは…何言ってんの…?冗談きついって…」
無理やり笑って、凌空を見ると、顔をゆがめて、私を見つめていた。
「…やっぱり、許してくれるわけ無いよな…」
「なにを?」
「…ううん、大丈夫だよ。俺、ちゃんと償うから…」
そう言うと、凌空はふらふらとどこかへ歩き出した。
「…え、どこ行くの?」
私が声をかけても止まることはなく歩き続ける。
酔ってるってのもあるけど、なんとなく違う理由で凌空を放っておけない気がした。
「待って」
私は早足で凌空に追いつくと、私のことなんて見えていないらしい凌空について行った。
「…めん。ごめんな、奈々」
「!?」
頭に響いた声。
それは間違いなく、凌空の声だった。
何がごめんなのか。
分からないけれど、とっても苦しそうな声だった。
「ね、ねえ凌空?ここ、車多いし、危ないよ…違う道行こ?」
車通りが激しい通り。
ここに立つとなんだか胸騒ぎがして落ち着かない。
「大丈夫…すぐ、そっちに行くから…」
「何言ってるの?ねえ、あっち行こうよ」
キーーーーーーッ
「…ひっ」
「奈々!」
ドン…ッ
「…ぅ…」
「奈々っ!?」
―――――――奈々…ごめん。
「…あ…っ」
思い出した。
思い出しちゃった。
ここで、私は…事故に遭ったんだ。
「……凌空…」
ずっと凌空が何を謝ってるのか分からなかった。
でも、今分かった。
凌空はずっと、私を守れなかったと、苦しんでいた。
でも凌空は、守れなかったわけじゃない。
私を守ろうとして―――大けがを負った。
今ではもう完治してるみたいだけど、事故に遭った当時は、車いすに乗るほどだった。
「私、何でここに来たのか分かったよ」
その言葉で、行き交う車をぼーっと見ていた凌空が振り返った。
「凌空のこと怒ってるわけじゃない。凌空に死んでほしいわけでもない。私は、ただ」
私がずっと願ってたことは、ただ。
「凌空に、幸せに生きてほしいんだよ」
その一言で凌空が崩れ落ち、泣き出した。
「凌空がずっと…十年間も私に謝り続けるからさ、私、会いに来ちゃったんだよ?」
「…奈々…だって俺…守れなくって…だから……」
「ううん、凌空はさ、守ってくれたでしょ。感謝してるから」
ずっとこうやって、一人で抱え込んで、苦しんできたんだね…。
私のせいで…いや、私のために。
「凌空、今までありがとう。私の心残りは、凌空だけだから」
「…い、やだ…いかないで…」
「ちゃんと幸せになるんだよ?まだまだ死んじゃだめだからね?」
「…むりだよ……」
…こんなに弱々しい凌空は初めて見た。
私が生きていたら、抱きしめてあげられるかな。
涙を、止めてあげられるかな。
でも…もう、できないから。
「凌空…大好きだよ」
「いや…奈々…」
私は笑顔で手を振った。
泣きたいけど、私が泣いたら駄目だよね。
だから私は涙をこらえて笑顔を保つ。
「ばいばい、凌空。次会うのは少なくても四…いや、五十年後だからね。それより早く来たら口きいてあげないから」
十年前の今日は、突然で言えなかったから、今、言うよ。
「凌空、ありがとう。さようなら」
最後までお読みいただきありがとうございました。
楽しんでいただけたでしょうか。
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誤字など見つけた人は、教えてください!
できる限り、早急に直します!!
少し、悲しい終わり方になってしまいましたが、どうでしたか?
僕は少し、羨ましくもあります。
こんな風に、本気で人を想うって、どんな感じなのでしょうか。
僕には、推しという存在はいますが、恋愛感情を抱く相手はいません。
みなさんは、どうですか?
ぜひ、教えてください。
それではまた!!他の作品も読んでくださると嬉しいです!