第8話 堀を築いてみる
翌朝。
冒険者たちは言った。
「泊めてくれてありがとう。助かったよ」
「それにとてもよい村だったわね」
「また来よう。オレたちのパーティ名はアイアン・アームという。覚えておいてくれ」
こうして彼らはまた西へ旅立って行くのだった。
「気持ちのいい人たちだったな」
「また会えるといいですね」
巫女装束のナルメが俺の腕へ指をふれながら言う。
「うん。そうだな……」
俺は冒険者たちの去っていった西の森を見つめて、ふと気づいた。
「そう言えば。オークもゴブリンもそうだけど、モンスターは西の森の方からやってくるよなあ」
それから占いによると次のモンスター襲撃も『20日後に西からアンデッド騎士が7匹』という。
その次は『27日後に南からスライムが12匹』というので、必ず西から来るというわけではないのだろうが、西の森から湧き出してくるモンスターが村を襲撃してくることが多いのではないだろうか?
アンデッド騎士というのもちょっと強そうだ。
そう考えた俺は、川の西向こうへ渡り、『堀』を作ってみることにした。
こんな感じにさ。
―――――――――
【堀・完成予定図】
■ 川
■ 川
森 ■ 川 村
■ 川
■ 川
―――――――――
■が土を掘って一段下げる場所だ。
水は入れずに空堀でいいんじゃねえかな。
森から村へ攻めてくる魔物が掘にハマり、これを這い上がってくる時に上から狩人に攻撃させるという戦略である。
まあ……
今のところ土を掘る道具というものがないから手で掘るんだけどね。
さらに、堀と言っても生半可な高さではあまり役に立ちそうもない。
たとえば先日のオークは川の深さくらいなら簡単によじ登ってきたワケだ。
そう考えると、俺の身長の三倍くらいの深さまで掘っておきたいところ。
それも川に沿って、村の幅までずっと……
そう考えると大変だが、神である俺は常人をはるかに凌駕する身体能力を持っている。
素手であろうが土を掘りまくれば、みるみるうちに穴が出来上がっていった。
「……にしても、すげー地味な作業だな」
「神さま、何をなさっているの?」
俺がひとりで作業をしているとナルメが後ろから声をかけてくる。
「ああ。モンスターの襲撃に備えて堀を作っているんだよ」
「堀?」
「落とし穴の長く続いたようなものさ」
「わあ、楽しそうね。私も手伝います!」
ナルメは巫女装束の朱色袴をするりと脱いで、白衣からヌっと小麦色の乳房を出すと、魚採りの時のような裸体をガニ股にしてせっせと土を掘り始める。
「おいおい。いいよ、女の子がそんなことまでしなくて」
「どうして?」
「泥で汚れるし……俺がやっておくから」
「神さまをお助けするのが巫女の仕事でしょう? 一緒にやらせてください」
少女は太陽の下でニコっとほほ笑んだ。
「そうか……じゃあ、そっちを頼む」
「はい!」
結論から言うと、裸の少女と泥んこになって土作業をするのはとても楽しかった。
ひとりでやると『作業』って感じだけど、ふたりでやると『活動』って感じがするしな。
モチベはモリモリ上がり、おかげで『今日の目標』にしていた15歩分の堀の長さは簡単にクリアする。
それからも俺たちは日の沈むまで土を掘り、川で互いに身を清め合ってから祠へ帰った。
「……神さま」
「ん?」
暗くなってきたことだしもう寝ようと二人で横になったのだが、ナルメがなにやら声をかけてくる。
「どうした?」
「私、神さまのお役に立てているでしょうか?」
さっき土を掘る量が少なかったので、それを気にしているらしい。
「この村にナルメがいてくれて本当によかった。俺はそう思っているよ」
そう言って、少女のサラサラな髪をやさしく撫でてやる。
「神さま……」
「もう寝ろ」
「はい」
こうして祠に夜の静寂が戻ったかと思われたが……
「神……神よ」
ふいに天使が俺の耳に直接語りかけてくる。
美少女の唇が、俺の耳にぷるぷると触れてこそばい。
「うひゃひゃひゃひゃ」
「神さま? どうされたの?」
あまりこそばくて笑ってしまって、せっかく眠りかけていたナルメが目を覚ましてしまった。
「な、なんでもない。思い出し笑いさ。悪かったな」
「?……そうですか」
天使の姿は俺にしか見えないので、なんかヤベー奴みたいになっちゃったじゃん。
いいかげん天使なんだったら耳じゃなくて頭に直接語りかけろよ!
「何を言っているのです。そんなことできるわけないじゃないですか」
その割りに俺の心の声は伝わるのな。
「それより先日は失礼いたしました」
なにが?
「巫女にどうやって英雄を産んでもらうか……その説明を果たせませんでした」
ああ、それね。
もういいよ。
「今こそ申し上げます。そもそも神がこの世界に顕現した時、成り成りて、成り余れる所が一ヶ所あったのです」
あ? この世界に顕現したのこの前だけど?
「対して、巫女には成り欠けた所が一ヶ所あります」
ああ、説明すんのね。
「神の成り余れる所で、巫女の欠けている部分を……さ、ささ、刺し塞ぐことによって……」
ぷしゅー!
気づけば銀髪の美少女天使の白面は真っ赤で、無表情ながら目をグルグル回していた。
もういいって言ってるだろ!
わかったから無理すんな。
「そうですか。わかりましたか……」
と答えるが、天使は消えない。
なに? どうしたの?
「おわかりになったのであれば、さっそく英雄をお作りになってください。ささ」
ささ、じゃねえよ。
今日はそんなことしないって。
ふたりとも疲れているし、あんたも見ている。
「どうか私の目などお気になさらず」
気になるわ!
「天使など所詮はガイド機能。いてもいなくても同じ……ミジンコ以下の存在とお考えください。ささ」
そこまで自分を卑下せんでも……
「くーくー……zzz」
そうこう言っている間に、ナルメは可愛らしい寝息を立てて巫女装束の胸を上下させ始めた。
頑張って手伝ってくれたし、やっぱ疲れてたんだな。
「チッ……」
舌打ちが聞こえて振り返れば、そこにいたはずの美少女天使の姿は雲のように消えていたのだった。
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