第5話 巫女
囲まれてさえいなければ、オークの攻撃を避けるのはたやすかった。
動きがのろいのである。
残りの敵は8匹。
1対8なので攻撃のスキに反撃をくらうことはあるが、その程度では死に至ったりはしないようだ。
さっき死んだ時はくらいまくったからなあ。
対してこちらは攻撃を三発当てれば1匹倒すことができる。
戦況はあきらかにこちらが有利。
俺はオークを一匹ずつ着実に倒していった。
だが、残り5匹になった時。
オークたちはふいに後ずさり、なにやら不穏な唸り声を上げる。
グ……オ……グオオオ(訳:チッ、そいつは強い。弱い村人の方を食べようぜ)
グオー、グオオオオ……(訳:よし、散り散りに川を渡ってヤツが追い難くしよう)
すると残り5匹のオークたちは俺を放ってそれぞれ散らばり川の方へ向かって行った。
「あ! 待てッ!!」
あわててヤツらを追う。
俺は川へ入ろうとするオークの首を後ろから締めかかり倒した。
しかし、その間に残り4匹がもう川を渡り始めている。
俺も川へ飛び込み、バシャバシャと水の中を走ってこれを追った。
水深は腰の深さから肩の高さくらいまではあるので、あまり速くは走れない。
「おらッ!」
なんとか一匹に追いつき倒すが、次の一匹もまた距離のあるところで川を渡ろうとしている。
ヤツら岸に着けば村人を襲うだろうから、一匹も渡すわけにはいかない。
バシャバシャバシャ……
俺はまた猛烈に水をかき分けて、なんとか一匹に追い付く。
「はあはあはあ……待てよ、オラぁ!」
グオオ……!
水中は相手の動きものろいが、こちらの動きもさすがに遅くなる。
つかまえたところでその戦闘は泥試合になりけっこう骨が折れた。
「神さま! がんばれー!」
「素敵よ。神さまー!」
その時、川の中でオークともみ合っていると、岸から村人たちの声援がワーワーと聞こえる。
なんだか運動会で活躍しているような気持ちのよさを覚えて、ちょっと元気が湧いてくる。
「よおし、見てろよ!」
そう言って魔物の屈強な首根っこをねじ伏せるとワッ!と歓声があがった。
あと2匹。
俺はまた川を渡ろうとするオークをつかまえてこれをねじ伏せる。
残り1匹。
「あれ……どこいった?」
見失って川を見渡した時、岸の村人たちの声援が急に悲鳴に変わる。
そう。
その残りの1匹が川を渡り切ってしまったのだ。
グオオオ!(訳:やったぜ。ごちそうだ)
そう吼えるオークの前にはひとりの少女が立っていた。
俺が魚を採った時に壺を持って来てくれたかわいい娘だ。
「きゃッ……!」
怯える少女の肩を、オークは乱暴につかみ、大きな口を開けた。
グオオオ!
「よせ!」
そこで俺はそばに水面に露出している岩を見つけると、これを足場に跳躍した。
浮遊感と共にジャンプはグングン伸び、やがてオークのところまで至ると、俺はそのまま飛び蹴りを繰り出す。
ギョヘ……ッ!
足刀気味のつま先が魔物の首へめりこんだ。
クリーンヒットだったからだろうか。
これは追撃の必要なく、一発で最後のオークはこと切れた。
「わー! 魔物のむれを倒したぞ!」
「すげー! 神だ!」
こうして襲撃をすべて返り討ちにし終えると、村の若者たちは飛び上がって喜んだ。
よかった、誰も犠牲者はないようだな。
「神さま!」
そこへ襲われそうになった少女がサラサラな黒髪を揺らして駆け寄って来た。
彼女は俺の前に来ると清純な乳房の前で指を組みながら、小麦色の太ももをモジモジとさせてこちらを見上げる。
「あの……ありがとうございました。神さま、すごくカッコよかったわ」
むっ!?
俺はなにか神らしい言葉を返そうと頭を巡らすが、そんな間もなくすぐに周りの村人たちが集まり俺をかつぎ、例のごとく宙へ放った。
ワッショイ! ワッショイ!
やれやれ、神ってのも楽じゃねえんだな。
俺はそんなふうに思いながら、村人たちの手の上で青い空を見上げるのだった。
◇
「ダメージが蓄積していますので、一度祠へ戻って回復した方がいいでしょう」
天使がそう言うので、祝勝ムードにわいていた村人たちにはちょっと勝手にやっていてもらい、俺は祠へ戻った。
すると、オークとの戦闘で傷ついた肉体がすべて修復され、疲労感も一切なくなったではないか。
「祠へ戻ると肉体が全快します。もっとも、死んでも全快しますが……」
あいかわらず表情を微動だにせずおそろしいことを言う天使。
「でも確かに力不足を痛感したな」
今回は防衛成功したものの、ギリギリというか……運がよかっただけのように思える。
下手したら何人か死者が出てもおかしくなかった。
もっと言えば、こんな襲撃が何度かあったら村人はすぐに0人になってしまいそうだ。
「イイ村だし今のままで十分って思ったけど、襲撃にだけはもっと備えておかなきゃなあ……」
そうつぶやいた時だ。
なにやら外でパンパンと柏手を打つ音が聞こえる。
それで祠の格子戸を開けると、さっきオークに襲われかけた少女が焼き魚を手に立っていた。
魚採りの時とは違って、簡素な貫頭衣を着て胸は隠し、腰の周りを紐で縛っている。
「やあ、キミか。どうした?」
「神さま。いっぱい戦ってお腹がすいているでしょう? これ、お召し上がりください」
そう言って少女は黒い瞳でジッとこちらを見つめて、焼き魚を奉納してくれた。
「いや、俺は神だし食わなくても平気だよ」
「あら、そうなんですね。でも……とってもおいしいのよ?」
と言うから、せっかくなのでいただく。
「うん。油が乗ってウマい!」
「よかったぁ。それじゃあ失礼しますね」
そう言って退出しようとする少女を見て、俺はハッと思い出して「ちょっと待て」と呼び止めた。
「はい?」
「キミ、名前は?」
「ナルメといいます」
「……じゃあナルメ。今日からキミは俺の巫女になりなさい」
そう言うと、少女はお尻をツンっと跳ね、なぜか顔を赤くして答えた。
「わ、私なんかでいいんですか?」
「巫女は祠で俺に仕えて神の力を高めてくれるらしいんだ。力を高めるだけなら誰でもいいんだけど、そばで仕えてくれるって考えるとキミみたいな心の良い娘がいい」
「か、神さま……」
「それに巫女にすれば『英雄』を産んでくれることもあるらしい。頼んだぞ」
「はい! 私、頑張って元気な赤ちゃん産みますね!」
まあ、果たしてどうやって産んでもらうのかは、さっぱり見当がつかないけど。
「あっ、ちょっとお父さんとお母さんに伝えてきます。きっと喜ぶわ!」
ナルメはそう言って一度実家へ準備に行った。
うん。
これで天職『神官(巫女)』の問題も解決だな。
あとは襲撃に備えて武器や堀を整備して……
「……神。あなたって意外に大胆なんですね」
村の防御を考えていると背後で天使が何かつぶやいたが、よく意味がわからなかった。
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