第4話 リスポーン
オークのむれが村を襲撃に来た。
全部で10匹。
村の西を流れる小川の向こうから、寸胴な巨躯でドスン、ドスンと村の方にやってくる。
「きゃあ!! 魔物だわ!」
「デケえ! ありゃ敵わねえ」
「助けてくれえ!」
それまで朗らかに魚を採っていた村の若い衆たちも、めいめい悲鳴をあげて川からあがってきた。
「オークはなんでも食べる獰猛な魔物。人肉もオークの好物のひとつです」
天使はあいかわらずの無表情でそんな恐ろしいことを説明する。
村人たちが心配だ。
「おい! ケガ人はないか?」
俺がそう怒鳴ると、川から這い上がってきた村人は「い、今のところみんな無事ですだ」と答える。
ホッ……よかった。
でも、この様子じゃ村人はオークと戦えそうにないな。
俺がやるしかなさそうだ。
問題は今の俺で倒せるのかというところだが……
「オークは決して強い魔物ではありません」
天使が俺の肩にのしかかって来て疑問に答える。
「しかし、10匹という数はすこし多いです。オークの攻撃力はそれなりにありますから、囲まれてしまうとかなりのダメージを負うかもしれません」
ダメージ?
痛いってことか……
「戦闘を阻害するような『苦痛』や『怯え』といった感覚は伝達をキャンセルすることができます。ご自分の肉体へ命じてみればわかるでしょう」
確かに、それはやっておいた方がよさそうだ。
俺は自分の肉体へ『怯え』と『苦痛』を伝えないよう命じた。
スン……
これでいいのかな?
違いはよくわからなかったが、その間にもオークが迫ってきている。
ヤツらが川を渡ってしまったら村を守りずらそうだ。
その前に決着をつけたい。
俺は敵の方へ向かって走り、岸で跳躍した。
「え……?」
すると、ふわっという浮遊感の後にジャンプはぐんぐん伸び、小川とは言え40歩はあろうかという川幅をひとっ飛びに超えて向こう岸まで着いてしまったのだった。
「なんてジャンプ力だ……」
と自分で驚く俺。
――神は初期値で常人をはるかに超えた身体能力を持つ。
そんなことを天使が言ってたけど、まさかこれほど跳べるとは……
が、それもいいことばかりではない。
コントロールせずに降り立った地点は、不幸にも敵のド真ん中。
つまり10匹のオークに囲まれてしまったのである。
グルルルル……ゴアアア!
吼えるオークたち。
近くで見ると魔物は想像以上に醜悪だった。
異常に低い鼻、胴体のガタイにくらべバランスの悪い手足の短さ、頭髪はおろか睫に至るまで毛が一切生えておらず、獣のようでいて二足歩行しているものだからひどく不気味である。
ただし、そんな異形の魔物を前にしながら、俺に怯えはない。
肉体へ命じた『痛みと怯えの感覚伝達のキャンセル』が成功しているのだろう。
ゴアアア!
そこでオークたちが一斉につかみかかってきた。
こいつらの動きはのろい。
だが、さすがに10匹に囲まれていると速い遅い関係なく揉みくちゃの乱戦となり、取り押さえられてしまう。
数匹のオークに肩を抑えつけられ、敵の拳が俺の鳩尾をえぐる。
「痛っっ!……くない?」
そう。
痛みの感覚伝達もキャンセルしているので、殴られ、蹴られしてもこちらはまったく痛くない。
俺は攻撃をくらいながらも、拳を繰り出し敵を打つ。
「おらああ!」
つーか、攻撃する時って本当にこういう声がでちゃうんだな。
俺のパンチが一発当たり、二発当たり、三発当たると1匹のオークが倒れた。
その間、数十発の敵の攻撃を受けているが、こちらはまったく痛くないのだ。
俺は引き続き囲まれ、ボコボコにされながらも攻撃を繰り出し、2匹目を倒した。
「よし、これなら勝てるぞッ!」
と思った時。
フッと視界が暗くなり、気づけば俺は祠の天井を見上げていた。
あれ?
「おお神よ。死んでしまうとはなさけない」
そばでは天使がこちらを見下している。
「え、俺。死んじゃったの? 全然痛くなくなったのに」
「痛みの感覚をキャンセルしても肉体にダメージは受けているのです。身体が死んでしまうとこうして祠で再生成することになりますので、気をつけてください」
なるほど理解した。
俺は跳ね起きて、格子戸を開けて祠から飛び出す。
「あーッ! 神さまがお亡くなりになってしまっただー!」
「な、なんてことだ」
「もう終わりよ……」
川辺では村人たちが泣いている。
悲しんでいるところ悪いが、俺は彼らの横を走り抜け、また「とうッ!」と川をジャンプした。
「あら? 神さまだわ!」
「神さまが生き返っただぁ!」
「すげー!」
後ろでそんな声が聞こえる。
空中で、風を切る頬。
そして、今度はオークに囲まれない位置へ着地した。
グオ……?
オークたちは今殺したはずの敵がすぐにあらわれて不思議そうに顔を見合わせた。
だが、ヤツらからすれば俺は一度ボコった相手だ。
ゴッゴッゴ……ゴアアア!(笑)
なんかこちらをバカにしたような笑いで肩を揺らしていたが、やがてそれはおぞましい咆哮へと変じ、魔物のむれは再び俺へ襲いかかってきた。
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