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バッドエンドルート

「……萌。」


「その顔……、決めたんだね。」


時間は、既に放課後。夕焼け空のオレンジ色の光が、彼女を照らしていた。


「……私、やっぱりアイツのこと、何とも思ってないよ。」


「……嘘。何で、まだ嘘をつくの?」


八の字の眉と、潤んだ瞳で、彼女は私を見つめてくる。アイツも、こんなに女の子らしい部分に惚れたのかな。

そう思うと悔しくて、ギュッと、拳を握りしめる。


「私さ……萌のこと、裏切れないよ……。」


「え?」


「……ううん、なんでもない!ほら、アイツのこと、好きなんでしょ?じゃあ、告白しなきゃ……よね。」


「……」


「萌?」


「……私ね、今日、告白するつもりだったの……。」


「え!?」


紗月(さつき)陽翔(はると)くんのこと好きなら、諦めようって、思ってたんだ……。」


そう言うと、うつむき、恥ずかしそうに頬を染めた。そして、パッと顔を上げ、本当に嬉しそうに微笑んだ。


「けど、私の思い違いだったんだね。良かった……。これで、思いを告げることが出来るよ……!」


「……そうよ……、そうよ!だったら、早速行かなくちゃね。」


「うんっ。だから、今日は一緒に帰れないんだ……。ごめんね。」


「っ、全然、良いのよ!私は応援することしか出来ないけど……、頑張ってね。」


「ありがとう……!頑張って伝えてくるね!」


そう言うと、萌は駆け足で教室を出ていった。私は、少し手を振った後、私自身の頬が濡れているのに気がつく。


「あれ……?」


必死に手で拭った。もし、萌が帰ってきた時に見られたら……顔向け、できない。

なんで、なんでなんだろう。気持ちとは裏腹に、溢れ出る涙。自己中心的な感情に、私は情けなくなった。


___


「……帰ろ。」


泣きすぎて腫れぼったくなった顔を、トイレの鏡の前で眺める。一応水で顔を洗い、冷やしてはみたが、速効的な効果はあまり期待できない。


(蜂合わせるのが気まずくて、時間帯をズラしたけど……上手くいってるかしら。)


ポケットから出したハンカチで、目を覆う。まだ涙が滲み出てきそうなので、目一杯、一つ深呼吸をした。


(……どんな結果であれ、支えるのが、友達……よね。)


階段を一つ、一つ降りるごとに、私の脳内で、意見が対立し合い、ぐちゃぐちゃになる。


『萌は、高校だけの、その場限りの友達かもしれない。だったら私が……』


『いやいや、大嫌いって言ってしまったのに、今更好きなんて言えないでしょ。それに、あなた、友達の好きな人をとるの?』


『そうだけど、私の気持ちはどうなるの?』


『そうなったら、彼女の気持ちはどうなるの?』


……。あ〜、やめやめ!もう、考えるの、やめよう。


私は、首をブンブンと横に振った。


私の決断は正しかった。そう思わなかったら、醜い私が出てきてしまう。

それに、アイツは……私のこと、好きじゃなかった、はずなんだから。


『……あぁ、変だな。』


あのときの言葉を思い出す。どうせ私が告白して、振られて、今以上に気まずくなるぐらいなら、しなかった方が良かった。

アイツを見返すため、頑張って伸ばした髪の毛をいじりながら、下駄箱先へと向かった。


「紗月ちゃん。」


不意に、声をかけられる。顔を上げると、そこには、山内くんが立っていた。


「え……、山内くん?今日、部活は無かったんじゃないの?誰かと待ち合わせ?」


「ん……少し、紗月ちゃんと話したいことがあって。時間ってある?」


「えぇ……。あるけど。」


「ありがとう。じゃあ、こっちこっち。」


彼はそういうと、ちょいちょいと手招きする。

私は首を傾げ、促されるまま一緒に外へと出た。


先導され、少し歩くと、色とりどりのお花が咲いている、花壇へと連れてこられた。


「わぁ……綺麗……」


校舎の裏側にある花壇は、園芸部が育てていたもののようだった。


私は、部活が終わった後、寄り道はせずに、そのまま直帰していた。

だから、こうやって、改めて花壇を見るのは初めてだ。


間近で見るため、レンガのガーデンフェンスの近くにしゃがみ込む。


「色とりどりのお花があって、とっても素敵ね。全部同じ種類なのかしら?」


「これは、ペチュニアって言ってね。一年草で、ガーデニング初心者でも、育てやすいお花らしいんだ。」


私と同じく、隣にしゃがんだ彼はそう言った。


「へぇ……、詳しいのね」


「いや、全然。園芸部に知り合いがいるから、その人に教えて貰っただけだよ。」


「ふぅん、そうなの。けど、どうして私をここに……?」


「……ペチュニアには、花言葉があって。色によっても違うんだ。紫は『人気者』、ピンクは『自然な心』、そして白は……『淡い恋』。」


「え……?」


彼はそう言うと、すっくと立ち上がる。私も、釣られるように立ち上がった。


「……貴方のことが、ずっと前から、好きでした。僕と、付き合ってくれませんか。」


真剣な表情と、真っ直ぐな瞳で、そう伝えられる。


「…………。」


「…………。」


少しの沈黙の後、私はゆっくりと、後ろを振り返る。当然、私達以外には誰もいない。

改めて向き直ると、私は口を開いた。


「えっ……?えぇ!?わ、私!?」


「ッ……フフ……、君以外、誰がいるのさ」


突然の告白に、驚きを隠せないでいると、彼は、口に手の甲をあて、クスクスと笑い出す。

私のリアクションに、緊張の糸が解けたのか、雰囲気が、いつもの山内くんに戻っていた。


「……けど、なんで私なの……?あまり、山内くんとは、話してなかったと思うんだけど……。」


「……僕、休み時間のときに、陽翔の所にしょっちゅう遊びに行ってたでしょ。その時に、君を見かけて……笑顔が可愛いなって……思って……、それで」


語尾がすぼんでいくのと同時に、彼の耳と頬も真っ赤になっていく。


「ご、ごめんなさい!なんで私なんかをって……思って……」


私は慌てて、手を手前でブンブンと横に振りつつ、今度は私の語尾がしぼんでいく。


「……なんかって、どういうこと?」


彼は、悲しげな表情で、こちらを見つめる。


私は、そんな彼の顔を見れず、俯き、地面を見る。


「……私、性格が……悪い、から。」


ギュッと目を瞑り、私は顔を上げ、彼の目を見た。


「それに、私、ついさっき、失恋したばっかりで……そういう気持ちにはなれないの。だから……折角告白してくれたのに……ごめんなさい。」


冷えた風が、サアァ……と、私達を通り抜ける。肌にチクチクと突き刺さって、いつも以上に痛く感じた。


「…………ううん、良いんだ。……寧ろ、()()()()__」


「え?」


「……なんでもない!要件はそれだけだよ。僕の話、聞いてくれてありがとう。」


地面に置いていた荷物を持ち上げると、彼は私に背を向け、歩き出す。すると、思い出したかのように、こちらに振り返り、こう言った。


「良い忘れてた。君は、性格、悪くないよ。ずっと君のことを見てきた、僕が保証する!」


そして、彼は、いたずらっ子のような笑顔で、こちらにVサインを作ってみせた。


「……そう言ってくれて、ありがとう!」


私も、それに答えるように、笑顔でVサインを作った。


再度、帰路へとつく、彼の背中を見送る。鼻を啜るような音に、聞こえないフリをして。

___


……あれから、数年。私は、大学のキャンパスの中の窓辺から、綺麗に咲き誇るペチュニアを見下ろし、高校時代の日々を思い出していた。


あの日の翌日、萌はいつも通りに学校に来て、私といつも通りの日常を送った。その日、唯一の違った部分は、目の部分が腫れていた事だ。


その日以降、彼女の口から、陽翔という単語が出てくることは、なかった。


その後、高校を卒業した私達は、別々の大学へと進学した。私は、一般入試で、地元の大学へ。萌も一般入試、陽翔と山内くんは、スポーツ推薦で、都内の大学にそれぞれ通っているようだ。


毎日顔を合わせる機会がなくなってから、彼女らとは、連絡をとることもなくなった。

私は、何度も文を打っては消すを繰り返していた。

挙句の果てには送信ボタンを押せず、結局、時間だけが過ぎてしまっていた。


空気を嚥下したかのように、ずっと喉に何かがつっかえている感覚がする。


あの時、萌に正直な気持ちを話せていたら。

あの時、陽翔に謝れていたら。


何か、違った結末があったのだろうか。


爽やかな青空を見ると、当時の青い春を思い出し、何度も後悔の念に苛まれる。


「紗月〜?三限、始まっちゃうよ!」


「うん。今行く!」


私は、窓辺に背を向け、新しくできた大学の友人の元へと駆け寄った。

現実だと、溝ができた友人関係なんてこんなものかなという想像で執筆しました。

上手くバッドエンドになってると良いのですが(汗)


最後に、萌と山内くんのストーリーも執筆しようと考えておりますので、もう少々お付き合いください。

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