下層へ
今日は疲れてるので短いです。
「確か、この辺のはず…あった!」
私は、下層への階段を探して、三時間ほどダンジョンを彷徨っていた。
あっ、今更だけど、ここはダンジョンらしい。
難易度は割と簡単な部類らしい。
レベル1の私が生き残れるくらいだから、そこまで危険なダンジョンでは無いはず…
「下層…前に来たときは命の危険を感じたけど、今はそうでもないね。」
直感が、危険信号を出してる事に変わりはないけど、前みたいに本気でヤバいってほどじゃない。
正直、危険だって分かってるのに、進む事を選んだ私はバカだったと思う。
好奇心で降りた事を、本気で後悔する前に逃げて良かった。
「さて、どんな化け物が私を出迎えてくれるのやら。」
私は、懲りずに好奇心で下層へ降りた。
うん、やっぱり私はバカだ。
「甘い」
私は、後ろからの攻撃を軽々と躱す。
鑑定してみるか。
『個体名:無し
種族:キラーエイプ
Lv15
スキル:ナイフ術Lv4、筋力強化7Lv、俊敏強化8Lv、防御強化7Lv、斬撃耐性Lv2、毒耐性Lv1』
「レベルはあっちの方が高いけど、他で勝ってる。斬撃耐性がちょっと気になるけど…」
私が、そんな独り言をブツブツ呟いていると、キラーエイプが飛び掛かってきた。
ふん、この程度簡単に避けられるわね。
私は、カウンターとして猿に剣を振り下ろす。
「ゲギャア!?」
私の剣は、猿の体を深々と切り裂いた。
返り血を浴びて、少し不快な気分になる。
血は吸血鬼の私からすれば食料だけど、体にかかるのは嫌だ。
スープを体に掛けられても嬉しくないでしょ?
それと一緒で返り血を浴びるのは不快なんだよね。
私は、苛立ちのままに、猿の腹を蹴り上げた。
「グギャア!!」
直感で、何処を狙えば効くのか手に取るように分かる。
それに、どのように足を動かしたら当たるのかも、見えなくても分かる。
直感とは、単純に勘が優れているのではなく、感覚で急所を掴んだり、気配を感知したり、さまざまな扱い方が出来る。
上手く扱えば、五感を捨てても問題無いほどに強力な物だ。
「ギイイイイ!!」
攻撃を受けて、怒り狂ったキラーエイプが、ヒメユリに向かって飛び掛かる。
その鋭い爪が、ヒメユリの体めがけて振り下ろされる。
しかし、それが当たる事は無い。
キラーエイプの動きを全て感じ取れているヒメユリに、今のままでは攻撃を当てる事は出来ない。
「所詮猿ね、猿は猿らしく実験動物にでもなってなさい。」
突如として、キラーエイプの体に無数の矢が突き刺さる。
その矢は、赤黒い色をしていた。
ヒメユリが生み出した血の矢だ。
操血術の練習として、自身の血で作った矢を撃ち込んだのだ。
そして、矢は突然ドロドロになり、傷口に入り込んでいく。
「じゃあね。」
ヒメユリがそう言うと、突然キラーエイプが痙攣しだした。
そして、倒れ込みそのまま絶命した。
「うーん、やりづらい。この猿が瀕死だったから出来たけど、実戦向きじゃないね。」
猿の体に入り込んだ私の血。
あれを、体内で棘にして、内側から穴だらけにしてやったのだ。
棘に変わった血液は、脊髄を破壊して猿を痙攣させた。
そして、脊髄破壊の影響で間もなく猿は死んだ。
我ながら、えげつない技だと思う。
けど、簡単に抵抗されるからあんまり実戦向きじゃない。
「操血術を、もっとマスターすれば、魔法が要らなくなるかもね。」
そんなれば、魔力を剣技と再生に注げる。
より強い剣術と、より早い再生が出来るはず。
まぁ、操血術を使うのにも魔力を使うからそんなに変わらないけど。
でも、魔法を使うより消費魔力が少ないから、多少は良いのかも?
自分の血液を消費するのはあれだけど、血液は吸血をすることでストック出来るから、積極的に吸血していこう!
「という訳で、いただきま〜す。」
私は、猿に噛み付いて血を啜った。
どうせなら、人間の血も吸ってみたい。
出てこないかな〜人間。
まぁ、魔物じゃないんだからそんな簡単に出てこないか…
でも、ダンジョンに来た人間なら居るかもね。
人間の血って、美味しいのかな?
あまりにも人間の血が美味しすぎて、他のを飲めなくなったらどうしよう。
人を襲う吸血鬼として、討伐されないかな?
…そもそも、私に味覚なんて物は無いんだった。
「捨てなきゃ良かったな~味覚。」
それを言ってしまえば、視覚も嗅覚も捨てなきゃ良かったって思うけど。
無いものを欲しがっても仕方ないか…
私は一生、このまま3つの感覚を失った状態で生きていくんだ。
これは、私が選んだ道だからね。
なら、最後まで歩こうじゃない。
「せっかく新しく手に入れた第二の人生だ、楽しいことばかりじゃつまらない。挫折しそうなくらいの苦難があったほうが楽しいに決まってる。」
人生、思い通りにならない方が、楽しいことを見つけられるかも知れない。
私は、このどこまで行っても真っ暗な世界で、生きていくんだ。
例え真っ暗でも、楽しいことはあるはずだしね。
今の私は、視界は真っ暗でも、心はとっても明るかった。
「吸血鬼が出現した?こんな弱いダンジョンにか?」
「はい。確かに血を吸われた魔物の死体がいくつも転がっていましたから。」
「分かった、一応封鎖して数ヶ月は見張りを置いておこう。」
「それが良いと思います。万が一、吸血鬼が外に出てきたら大変ですから。」