進化
さて、どれくらいの時間が経ったかな?
二、三週間くらい?
あれからもう何百回と魔物と戦った。
傷を負うこともあった、時には腕を千切られそうになった。
「それでも、私は五体満足に生きてる。」
自己再生があったとは言え、吸血鬼の再生能力は凄まじい。
血を吸うだけで、大体の傷が治る。
それに、再生すればするほど、その速度は速くなる。
切り傷くらいなら、一秒も掛からずに再生する。
「また狼か…私の思考の邪魔をしないで欲しいね。」
空気の読めない狼が、後ろから私に飛び掛かってきた。
もちろん、狼が近付いてきてる事や、私を襲おうとしてる事も分かっていた。
分かっていたけど、警戒していなかった。
だって、私の敵じゃないから。
飛び掛かってきたら、その場所に剣を置くだけで、後は勝手に自爆する。
そろそろレベルが上がってもいい頃だと思うけど…
私は、ステータスを開いてみる。
『個体名:ヒメユリ
種族:吸血鬼(進化可能)
職業:剣士(転職可能)
Lv:30
スキル:鑑定、上級剣術Lv1、筋力強化Lv9、魔力強化Lv4、俊敏強化Lv8、防御強化Lv7、防魔強化Lv2、持久強化Lv4、魔力操作Lv5、闘魔術Lv2、闇魔法Lv4、操血術Lv2、超再生Lv1、魔力回復強化Lv3、気配感知Lv8、敵意感知Lv6、悪意感知Lv3、魔力感知Lv5、霊体感知Lv1、心の眼Lv2、言語理解Lv-
五感:視覚、嗅覚、味覚0
聴覚、触覚1.5
直感2
スキルポイント:150』
やっぱりレベルが上がってた。
レベルが30になった事で、進化出来るようになったらしい。
「進化ね。重要な人生の分かれ道になるでしょうね。」
こういう時、ラノベだと特殊進化を選ぶんだけど、ここは現実。
正当か、特殊かは、しっかり吟味したい。
「取り敢えず、進化先を確認しないと。」
私は、種族の横にある進化可能の文字を、頭の中で押す。
すると、
『進化候補
・上級吸血鬼
・血色吸血鬼
・騎士級吸血鬼
・盲目吸血鬼』
進化候補が4つ出てきた。
一つずつ見ていくか。
『上級吸血鬼
全体的に強化された上位の吸血鬼。何かに特化している訳ではないが、その分バランスのとれた力を持っている。いずれ、真祖へ至る可能性を秘めている。』
ふうん?
つまり、バランス型の進化って事か。
バランス型は、文字通り均等のとれた型だ。
良く言えば万能、悪く言えば器用貧乏。
安定した戦いが出来る。
しかし、致命的過ぎる欠陥もある。
それは、格上相手にとことん弱いという事。
格下、同格相手なら持久戦で勝てる事が多いだろう。
しかし、格上相手では決定打となる何かがない為に、一矢報いるという事が難しい。
出来るのは、常に後手に回っての防戦一方。
ジリジリとした敗北だ。
可能性は低めに考えておこう。
『血色吸血鬼
操血術を扱う事に特化した吸血鬼。自身の血を攻撃織り交ぜる事を得意としていて、トリッキーな戦い方をする。直接戦闘能力は低めだが、その分、搦め手や操血術での戦闘で、時には格上に勝利することもある。』
吸血鬼の特権とも言える、操血術を得意とする吸血鬼か…
操血術は、様々な使い方出来て汎用性の塊だ。
私は、再生にしか使ってないけど、血を矢のように飛ばしたり、槍のように尖らせて刺したり、鎖のようにして相手を絡め取ったり、檻のようにして閉じ込めたり、或いは使い魔のようにして情報を集めたり、様々な使い方が出来る。
操血術に特化したことで、直接戦闘能力が低くなってしまったが、操血術を上手く使えれば、些事な問題だ。
保留かな?
『騎士級吸血鬼
貴族系の吸血鬼。上級吸血鬼と血色吸血鬼を足して、割ったような力を持つ。全体的に劣っていところがあるが、状況にしか応じて臨機応変な対応が出来る。いずれ、王級吸血鬼へと至る可能性を秘めている。』
つまり、上級吸血鬼以上に器用貧乏と…
でも、操血術で上級吸血鬼に勝り、直接戦闘能力で血色吸血鬼に勝る。
ある意味バランスが取れている。
…上級吸血鬼で良くね?
上級吸血鬼だって操血術は使えるんだから、鍛えればそれくらい出来るようになるはず。
うん、上級吸血鬼でいいね。
でも、王級吸血鬼ってのが気になる。
鑑定してみるか。
『王級吸血鬼
最上位吸血鬼の一種。現存する王級吸血鬼は一体だけで、世界最強の一角を担っている。眷属や配下、仲間を増やすことに長ける真祖とは違い、個としての力を重視する。吸血鬼の中では最強の種族と言われている。』
いや、は?
出世し過ぎじゃない?
個としての力を重視するって事は、全体的な戦闘能力が高いってことだよね?
直接戦闘能力も操血術も強いって事のばず。
これ、騎士級の弱さで判断して、他の選ぶっていう地雷だったんじゃないの?
王級を鑑定してて良かった〜。
もう、これで良くね?
一応、盲目も見とくか。
『盲目吸血鬼
視力を持たない吸血鬼。視力を持たない代わりに、他の感覚に優れている。また、探知能力も高いので、視力が無いからと油断してはいけない。』
うん、要らない。
王級の後だと霞んで見える。
そもそも、私、もとから盲目だし。
探知能力が高い?こちとら第六感で近付くものを全て感知するけど?何か?
他の感覚に優れている?
嗅覚と味覚が無いから、恩恵を受けるのが聴覚と触覚だけだよ?
リターンが少なすぎるのよ。
ハイリスク、ローリターンってマジ!?
ただのクソ雑魚ナメクジになるじゃん私。
という訳で、盲目は絶対に選ばないと。
「よし、騎士級吸血鬼にしよう。」
私は、王級吸血鬼への道を目指して、騎士級吸血鬼に進化することにした。
進化先を、騎士級吸血鬼にすると、突然強烈な痛みが全身を駆け巡った。
「あああああああああああああああああああああああ!!?」
痛い痛い痛い痛い痛い!!
まるで、全身の細胞が焼かれるような痛みだ。
きっと、体が作り変えらているんだろう。
細胞を騎士級吸血鬼の物へ、作り変えられる痛み。
それは、時間にすれば三十秒程度だっただろう。
しかし、あまりの激痛に何時間も経っているように感じた。
やがて、痛みが収まると、進化前より遥かに強くなっているのが分かる。
「なんだか疲れた…休憩がてらステータスの確認でもしよう。」
私は、新しくなったであろうステータスを開く。
『個体名:ヒメユリ
種族:騎士級吸血鬼
職業:剣士
Lv:1
スキル:鑑定、上級剣術Lv1、筋力大強化Lv1、魔力強化Lv8、俊敏大強化Lv1、防御大強化Lv1、防魔強化Lv6、持久強化Lv8、魔力操作Lv7、闘魔術Lv4、闇魔法Lv5、操血術Lv5、超再生Lv3、魔力回復強化Lv6、気配感知Lv10、敵意感知Lv10、悪意感知Lv8、殺意感知Lv4、魔力感知Lv7、霊体感知Lv3、心の眼Lv3、言語理解Lv-
五感:視覚、嗅覚、味覚0
聴覚、触覚1.5
直感2
スキルポイント300』
めっちゃスキルレベルが上がってる…
元々レベルが高かったスキルは二次スキルに進化してるし。
スキルポイントも300まで増えてるじゃん。
剣術を上級剣術にしたときに150も使ったからね。
これは普通に嬉しい。
「だいぶ強くなったんじゃないの?これなら下の階層に降りられるかも。」
一度、階段を見つけたから、降りてみたとがあった。
もちろん、敵が強すぎてすぐに撤退したけど…
今の私なら、下層でも戦える気がする。
けど、今は疲れてるから、また今度だね。
私は、進化の疲れを癒やす為に、もうしばらくゆっくりすることにした。