レベルアップ
「いてっ!?」
私は、また転んでしまった。
視覚を失ったうえに、第六感にまだ慣れてないせいで、ちょっとしたくぼみに引っ掛かってコケてしまう。
これで、もう十回目だ。
「そこにあるのは分かるのに、どうしても引っ掛かっちゃう。」
直感の影響で、どこに何があるかが、大体分かる。
それも、前後左右どこでもだ。
今は出来ないけど、扱えるようになれば全方位を二十四時間見続けているようなものだ。
「早く、直感に慣れないと…っ!?」
直感が、一際強く反応したことで、それに従って剣を突きだす。
すると、何かに突き刺さるような感触があった。
そして、剣を引くと、ドサッ!という音が後ろから聞こえた。
臭いは感じないが、ソレから、血が流れ出しているのが分かった。
「毛むくじゃらで…四足歩行で…尻尾があって…犬みたいな口…狼か?」
後ろから、音もなく近付いてきた生物の正体は、狼だった。
触ってみないと、ソレが何なのか、私には分からない。
失ってから初めて、視覚があることの有り難さが、分かるようになった。
「もう、視覚を取り戻す事は出来ない。でも、生まれながらに盲目の人も居るんだ。私だけ諦める理由にはならない。」
そうでなくても、目が見えない人は、沢山いる。
そういう人も、今日を一生懸命に生きてるんだ。
誰かに出来たことなんだ、私にだって出来るはず。
自分で言うのもあれだけど、私は人より頭が良いし、運動神経も抜群だ。
そんな私なら、目が見えないくらいのハンデ、大した事無い!!
すぐに慣れて、目が見えるやつより強くなってやる!!
「そのためにも、直感の使い方を学ばないと…」
今は、なんとなく感覚に流されて、そこから情報を得ている状態だ。
私は、直感を使えているように見えて、実際は、流れるプールで泳いでるふりをして流れてるだけ。
このままだと、今の直感で感知出来ない相手と遭遇したら、絶対に勝てない。
そうならない為に、せめて1パーセントでも使い方を覚えないと…
「っ!?また!」
今度は、飛びかかってくるのを感じた。
しかし、直感に従って避ければ、反撃だって出来る。
私の振った剣は、敵の腹を掻っ捌いて深手を追わせた。
「グルルルル!!」
やっぱり、狼か。
仲間の弔い合戦か、それともただ単に私に襲い掛かってきただけか。
まぁ、どっちでもいい。
「私の糧になれ、犬っころ。」
私は、愚直にも飛び込んできた狼の頭に剣を振り下ろした。
すると、何か硬いものを叩く感触と共に、体から力が湧き上がって来た。
「もしかして、レベルアップか?」
私が、ステータスを確認してみると、
『個体名:ヒメユリ
種族:吸血鬼
職業:剣士
Lv:3
スキル:鑑定、剣術Lv3、筋力強化Lv3、俊敏強化Lv1、魔力操作Lv2、闇魔法Lv2、自己再生Lv3、気配感知Lv3、敵意感知Lv1、心の眼、言語理解Lv-
五感:視覚、嗅覚、味覚0
聴覚、触覚1.5
直感2
スキルポイント:20』
レベルが3になり、スキルのレベルと新スキルがあった。
ついでに、スキルポイントも20増えていた。
「そうか…この世界には、ステータスという概念があるんだ。なら、もっと魔物と戦えば、更に強くなれるはず。」
新たに手に入れたスキル、俊敏強化と敵意感知。
俊敏強化は、速くなるスキルだろう。
敵意感知は、自分に敵意が向けられると、それを感知するとかかな?
俊敏強化は、速くなるから攻撃が避けやすくなるだろうし、感知系スキルは、直感と併用すれば強い。
二つとも常時発動スキルだから、常に効果がある。
感知系スキルには、最高の作用だね。
「スキルポイントで新しい感知系スキルを手に入れるか?でも、感知系スキルって、簡単に生えてきそうだからやめとこう。」
それよりも、小腹が空いた。
そこに食べのもが二つ転がってる。
いくらか地面に溢れてるけど、十分な量の“食い物”はあるはずだ。
私は、転がっている二つの狼の亡骸の首筋に牙を突き立てた。
「うーん、あえて言うなら不味いかな?」
そもそも、私には味覚がない。
だから、血液はドロドロの生ぬるい液体という事になる。
そして、嗅覚もないから、臭いも分からない。
吸血鬼だから、血のニオイを美味しそうと感じるかも知れないけど、私には嗅覚も無い。
だから、血液はそこまで美味しくない。
そもそも、味覚がないから、ほとんどの料理が美味しくないだろう。
逆に、どんなにクソ不味い料理でも、パクパク食えると思う。
「どんな工夫をしても、私が美味しいと感じる事は無いんでしょうね。」
私は、料理を楽しめない体になってしまったみたいだ。
芸術も、音でしか楽しめないだろう。
あとは、触れる芸術という物があれば、それも楽しめるはず。
でも、目で、耳で、舌で楽しむ芸術は楽しめなくなった。
「こんな事が考えられるって事は、心にだいぶ余裕が出てきたって事なんだろうなぁ。」
そのことに嬉しく思う反面、気が抜けてると叱咤する考えもあった。