絶望
気が付くと、真っ暗な部屋にいた…
「暗すぎて見えない…見えない?」
まさか、
『五感:視覚0』
「そんな…本当に盲目になったの?」
こんな、何処かも分からない異世界で、目を失うなんて…
いや、それだけじゃない。
私は、嗅覚と味覚も失ったんだ。
正しく言えば、自分の意志で捨てたんだけど…
「調子に乗って、五感を弄るんじゃなかった…」
私は、今更後悔していた。
調子に乗ると、ろくな事にならないって知ってるのに…
けれど、私はやってしまった。
もう、後戻りは出来ない。
この、何処かも分からない異世界で、一人、無限の暗闇の中、進まなきゃいけない。
視覚を失った私が止まれば、待っているのは死だ。
人間は、視覚情報に頼りすぎていると、昔、本で読んだことがある。
今は吸血鬼だけど、元々人間だから、人間に近い行動をするに違いない。
だって、さっきからずっと、有りもしない視覚に縋ろうとしてる。
「ハハッ!自分でも分かってるのに…………う、うぅ。」
言葉にできない恐怖で、涙が溢れ出してきた。
私は…どうすれば…
そもそも、なんでこんな所に…
私が、あの生活に満足してなかったからか。
目の前の苦痛から逃れるために、より深い苦痛へと、私は逃げてきたんだ。
それも、みんなを巻き込んで…
最低だ…
私のせいで、みんなを命の危険に晒してしまった。
私がちゃんと話を聞いていれば、こんなことにはならなかったのに。
リセットボタンとかは、ないのかな?
やり直したい…
今度は失敗しない…
必ず成功させる…
だから神様…私にもう一度だけチャンスを…
『どうしよっかな〜』
・・・?
今、声が聞こえたような…
『そりゃあそうでしょ、応えてあげたんだから。』
「!?」
その声は…
『そうだよ、あなた達を転移させた神。蝶の神だよ?』
やっぱり、ああ、これで私は…
『何を勘違いしてるの?』
え?
『君を助けるメリットが見当たらないね。』
え?…え?
『私が君を助ける理由は無い。わからない?つまり、助けてあげないって事だよ。』
…………え?
『天は二物を与えず、だっけ?私は一度チャンスをあげた。それを台無しにしたのは君だ。もう子供じゃないんだから、自分の尻くらい自分で拭かないと駄目だよ?』
…………自力で、生き延びろと?
『そういうとこ。相当非戦闘員な構成にしてない限り、生き延びられるようになってるから大丈夫。まぁ、そこで生き残れるかは、その人の実力と運次第だけどね。』
…………そんな所に私を放り込んだの?
『何言ってるの?君が選んだ道でしょ?君が望んでここに来たんだ。私のせいにしないで欲しいね。』
…………
『何?図星なの?自覚あるんだね、自分が選んだ道だって。なら、歩けばいいのに。』
…………そんな簡単に
『簡単だよ。転移先を未設定にした人は、ぎりぎり生き残れるくらいの場所に転移するようになってるからね。』
…………どうしてそんな危険な事を
『どうして?そりゃあ、せっかく異世界に行くんだから、ハラハラドキドキの冒険がしたいでしょ?サービスだよ、サービス。』
…………一つ、質問していいかな?
『いいよ?なんでも聞いてちょうだい。』
……………どうして、こんな事をしようと思ったの?
『ふふっ、それはね…』
……………
『面白そうだから、だよ。』
……………は?
『平和なぬるま湯に浸かってた地球人たちが、常に危険と隣り合わせの世界へ送られたら?そういう状況が《面白そうだから》十万人を集めて、異世界ヘ送ったんだよ。』
……………そんな理由で?
『そんな理由?立派な理由じゃないか。君達人間の有効活用として、最高の理由でしょ?』
………………人を、何だと思って
『下等生物だね。』
………………は?
『高々百年程度しか生きられない?一人では小型犬にすら容易く殺される?そんなことしなくても弱って死ぬ?鋭い爪も牙も?遠くを見たり、全体を見たり、暗いところを見たりする事も出来ない?耳も、鼻も、舌も、目も、肌も、全てが器用貧乏な下等生物だよ。人間はね。』
………………
『それだけじゃない。羨むだけで、自分は行動しないし。自分を高めるんじゃなくて、相手を引きずり落として。気に入らないから暴力で解決して。金に物を言わせて、事実を覆い隠す。下等なだけじゃないね。醜い、醜悪、目が腐る。そんな生物だよ。人間はね?』
………………
『ハァ…八つ当たりは終わった?もう帰っていいかな?どうせ君はすぐには死なないし。』
………………どういうこと?
『第六感を信じなさい。物理的な目で見るから駄目なんだ。心の目で物事を見直さないと。そうしたら、少しはいい未来が待ってるかもね。』
………………第六感を信じる
『例え大切な仲間に裏切られても、第六感だけは信じなさい。それは貴女の力だから。誰も信じられないなら、自分を信じればいいんだから。』
………………自分を信じる
『まぁ、せいぜい私を楽しませてよ。ヒメユリちゃん?』
それから、蝶の神の声が聞こえる事はなかった。
あのイカれた神の言うことは信じられないけど、第六感を信じてみようと思う。
私の直ぐ側には剣がある。
これが分かったのも第六感のお陰だ。
なら、第六感に賭けてみたい。
私の命を