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外へ

ボス部屋の奥


「痛覚が鈍いとは言え、流石に痛い…」


アンデッド特有の痛覚の鈍さの影響で、かなりましであるが、それでも体を何度も地面に叩きつけられれば流石に痛い。

私は、痛みを堪らえようと、ふらふらと歩きながらデカ猿を倒した後に開いた扉の奥へ進む。

デカ猿が死んだのを確認したとき、部屋の奥の扉が開いたのだ。

おそらく、ボス討伐の報酬的なあれだろう。

出来れば剣がほしい。

デカ猿との戦いで、使い物にならなくなってしまった。


「下手な鈍らよりも、爪とか牙で戦った方が鋭くていいんだけど、それはリスキー過ぎる。」


さっきのデカ猿との戦闘みたいに、掴まれて叩き付けられる、なんて事があるかもしれない。

そう考えると、牙や爪を用いての超接近戦は避けたい。


「血で剣を作るのもありだけど、使い捨てだし、血の消費も馬鹿にならない。コスパは良くないだろうね。」


血の剣を使うなら、冒険者パーティを壊滅させる必要がある。

消費を抑えようとすると、剣の鋭利さが低下するだろうから、鋭利さを保ったまま黒字にするには、人間の冒険者パーティ(四人)を吸い尽くしてようやくといったところだ。

それと、血の補充もしないといけない。

デカ猿との戦いで、焦って無駄遣いしすぎた。

破壊力を考えるなら、頭部に放っていれば一撃で殺せたはずなのに、焦って適当に撃ったせいで血のストックが4割以上削れた。

しかも、猿からは大して血を得られなかったという…


「ダンジョン内で血を集めるのは効率が悪すぎる。外に出て、人間の生き血を啜らないと…」


転生した時に、心も吸血鬼化したのか、人間のことを食料としか見ていない。

きっと今なら、残虐非道な人体実験でも平然と出来るだろう。

いや、それ以上に今は血に飢えている…

デカ猿との戦いで血を使い過ぎたせいでお腹が空いた。

吸血鬼の主食は生物の生き血。

早く何かしらの生物の血を啜らないと、おかしくなりそうだ。

飢餓状態ってやつか?

だとしたら、理性を失った獣になる前に、こんな所から早く出ないと。

そして、ようやく報酬部屋らしき場所に来た。


「やっと着いた…何あの無駄に長い廊下。」


体感50メートルくらいはあった。

どうしてそこまで長くするのか、今すぐこのダンジョンを作った奴を問いただしたい。

そんな愚痴を考えながら、部屋の中に入る。

そこには、真っ赤な液体が溜まった、大きな金魚鉢のような透明の壺(?)

私の全身を包み込める程の大きさのあるフード付きの外套。

そして、独特な気配を放つ一振りの剣だった。


「血…」


嗅覚は無いはずなのに、何故かあま〜い血の匂いを感じて、吸い寄せられるように、壺に口をつけて傾ける。

すると、大量の血が私の喉を潤していく。

やがて、血は全身に染み渡り、一言では言い表せないような快感に包まれた。

私は、壺に入れられた血を、一心不乱に飲む。


「ふぅ…」


私は、ものの十数秒程度で血を飲み干した。

自分でも、この体のどこにあの量の血を入れる胃袋があるのか気になるけど、そこには触れないでおく。


「さてと。腹ごしらえも終わった事だし、この二つの詳細でも調べますか。」


血と一緒に置かれていたということは、私のために用意された報酬だろう。

私は、まず外套に鑑定を使う。


『名称:遮光の外套

日光を遮断する外套。アンデッドが使用すると、日光に対する完全耐性を得ることが出来る。着ているだけで効果を発揮するため、フードを被らなくても日光でダメージを受けることないが、強い倦怠感を感じることになるため、フードも被ることをオススメする。』


…は?

日光に対する完全耐性?

つまり、私はこれを着るだけでデイウォーカーになれるの?

何このチートアイテム…

フードを被らないと、強い倦怠感に襲われるらしいけど、そもそも顔を隠す為にフード被ると思う。

だって、吸血鬼とバレれば討伐隊が差し向けられるかも知れないからね。

さてと、もう一つは…


『名称:血刀《無名》

主に、吸血鬼が使用する血が染み込んだ刀。所有者の血を垂らす事で、唯一無二の刀となる。また、定期的に血を垂らす事で、所有者の成長に合わせて強くなる、成長する武器である。』


なるほど…吸血鬼の基本装備的なあれかな?

所有者と共に成長するから、身の丈に合った武器としてずっと使えるという利点があるんだろう。

一生使える私の相棒…いいね。

私は、さっそく自分の血を垂らす。

すると、血が刀に吸い込まていき、刀が強くなったのがわかった。

それと同時に、刀と繋がるような感覚があった。


「これで、私だけの武器になったんだよね?」


私は、再度刀を鑑定する。


『名称:血刀《紅百合》

吸血鬼『ヒメユリ』の血を吸った血刀。ヒメユリの意思で召喚、帰還、収納が可能。また、血を吸わせる事で、自身の血を消費することなく刀に血を纏わせる事ができ、その血は操血術にも使用することが出来る。』


これで、晴れて私だけの刀になった。

召喚と収納は、空間収納とは別に保管出来るとかかな?

帰還は手放したとき、某フ○ースみたいに刀を手元に戻せる力だろう。

そして、後半の説明は…まあ、血液タンクみたいなものかな?

要は、血を刀にストックして、必要な時に私の血を消費することなく操血術が扱えるようになるという事だろう。

まあ、必要に応じて使ってみよう。

いざという時は、水筒代わりに使えそうだしね。


「さてと、この二つの実践も兼ねて…外に出るか。」


私は、絶対それだろって感じの魔法陣の中に入る。

すると、予想通り空間を移動する気配を感じた。

そして、気付けば今までとはまったく違う場所に居た。


「やっぱり転移魔法陣だったか…じゃなきゃ、おかしいけどね。」


あれが転移魔法陣じゃないなら何なんだよって話だ。

その時、私の体を涼し気な風が撫で回す。

そう、風だ。

そして、手を出してみれば、少しチリチリとするけど確かな温もりを感じた。

そう、私は今、ダンジョンの外にいる!!




















数日後

アロナの冒険者組合


「調査報告ですが、吸血鬼が作ったものと思われる冒険者のアンデッドが複数体存在しましたが、吸血鬼自体は見つかりませんでした。」

「そうか…外に出たとは思えないが、念の為、街に居ないか軽く見張るくらいはしておいてくれ。」

「わかりました。それと、貧民街で子供の行方不明が続いている件ですが、やはりあの犯罪組織が関わっていました。」

「やはりか…衛兵に情報を渡しておいてくれ。」

「いいのですか?」

「街の治安維持は衛兵の仕事だ。それを取っては彼らから恨まれるぞ?」

「そうですね。では、情報を衛兵に渡しておきます。」

「頼んだぞ」
















貧民街のとある施設

荒くれ者やならず者達が集まる、傭兵組合だ。

主な仕事を冒険者に取られているせいで、冒険者組合に入ることが出来ない奴等を集める組織になっている。

そのため、恫喝、喧嘩、窃盗、強盗、強姦、賄賂、時には殺人も起こる。

組織の治安は最悪だ。

そんな傭兵組合の戸を叩く人物がいた。


「傭兵登録をしたいんだけど?」


一人の少女が、組合のカウンターにやって来る。

傭兵登録がしたいらしい。


「あん?ここは、お前みたいなガキが来るところじゃねえ。さっさと帰りな。」


当然の反応だ。

こんな華奢な少女がここに居ては、すぐに外の傭兵の食い物にされるだけだ。


「仕事しろよ。それに、私はこれでも二十は超えてるのよ。」

「二十超えてるなら、仕事くらいあるだろ?」

「仕事が出来たらこんな所に来ないよ。」

「…訳ありか。」


傭兵組合には、荒くれ者やならず者のの他にも、訳あって冒険者になれない者達がやって来る。

そういった奴等の受け入れも、傭兵組合はやっている。

すると、


「おいおい。二十超えた若作りババアが、傭兵になりたいらしいぜ?」

「無茶すんなよババア。」

「背格好は若けえな…俺の宿に来るかぁ?」


汚い声が、登録に来た女性にかけられる。


「早く登録してほしいんだけど?」

「プレートがねぇんだよ。なりたきゃ、外の傭兵から奪いな。」

「要は、力を示せって事ね?」


すると、明らかにチンピラ風の男が、女性に近付く。


「俺が相手してやるぜ?お前が負けたら、今夜俺の世話をしてもらうからな?」

「あっそ。じゃあ、貴方が負けたら、貴方の全てをいただくわ。金も、装備も、傭兵証明用のプレートも。(ついでに命も)」


女性は、誰にも聞こえないような小さな声で、最後にボソッと恐ろしい事を呟いた。

そして、不意をつくように男が殴りかかってくる。


「オラァ!!」


男のフルスイングのパンチが、女性目掛けて飛んでくる。

女性は、その場から一歩も動かずに、男のパンチを食らう。

しかし、


「痛ってぇ〜!?」


ダメージを受けたのは、男の方だった。

そして、


「気合の乗ってないパンチね。」


女性は、男の鳩尾に拳をめり込ませる。

その一撃で、男は気絶した。


「約束通り、貴方の全てをもらっていくね。」


そう言って、男の身ぐるみを剥いでいく女性。

そして、傭兵証明用のプレートを奪うと、カウンターの職員に差し出す。


「これを、私のプレートに変えておいて。」

「あいよ。にしても、あんたやるな。」

「まあね」


それだけ言うと、また男の身ぐるみを剥ぎ始める女性。

その光景を、ある者はニヤニヤしながら、ある者は品定めをするようにしながら、ある者は警戒しながら見ていた。


「ほらよ、登録を変更しておいた。」

「ありがとう。一応聞いておくけど、何か仕事は?」

「ない。仕事が来るのを、首を長くして待ってな。」


ほとんどの仕事を冒険者組合に取られているせいで、傭兵達はやることがない。

戦争でもあれば、大忙しになるが、そんなことは滅多にない。


「そう…じゃあ、適当にぶらついてるわ。」


そう言って、女性は組合を出ていった。


「あの女、どう思う?」

「かなり強えな。下手に喧嘩売れば、痛い目見るだろうよ。」

「全身を外套で隠して…何か、見せたくないものでもあるのか?」


などと、先程の女性に対する様々な考察がなされていた。

突然現れた謎の女。

ある者は、力で彼女を従わせようと考えているようだが、それが叶う日は来ないだろう。


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