駆け出しの冒険者との遭遇
およそ、一週間ぶりの投稿。
リアルが忙しいうえに、他に投稿している小説を書かないといけないため、投稿が遅れています。
でも、他に投稿している小説の一つが一段落つきそうなので、それが終わったらそっちを休んで、こっちを書いてもいいかも…
アロナダンジョン上層
「ん?なんだあいつ。」
新しくダンジョンにやってきた、駆け出しの冒険者が奇妙な魔物を見つけた。
それは、人型で、フラフラと歩いていた。
「なあ、あれなんだと思う?」
「…アンデッド系の魔物か?けど、アロナダンジョンにアンデッド系の魔物なんていないはずじゃ…」
「おい!あいつ、防具を着てるぞ!!」
冒険者の一人が、アンデッドが防具を着ていることに気付く。
それにつられて、他の冒険者達も目を凝らして確認する。
「まるで、冒険者みたいだな…」
「そうか…ダンジョンで死んだ冒険者が、アンデッド化したのか。」
「なるほどな、それなら納得…か?」
「確かに…アロナダンジョンに瘴気なんてあったか?」
アンデッド系の魔物は、死体に瘴気が当ることで発生する。
或いは、他のアンデッド系の魔物の攻撃を受けたことで、瘴気が体に入り込み、死後アンデッド化する。
しかし、後者はアンデッドに殺されて、かつそのアンデッド自体もそれなりの力がないと起こらない。
つまり、
「強力なアンデッドでも現れたのか?」
「アロナにか?」
「それは…」
冒険者達が話し合いをしていると、アンデッドが襲い掛かってきた。
どうやら、気付かれたらしい。
「チッ、来やがったか!!」
「防具を着ているとはいえ、相手は一体だ。気にするこたぁねぇ!!」
そして、冒険者達がアンデッドを迎え撃つ準備終え、アンデッドがすぐそこまでやって来る。
そして、
「ん?」
近くまで近付かれた事で、全体的に見えるようになった。
そこで、何処かで見た顔だと思った。
「オラァ!!」
冒険者達の中で、一番筋肉のある冒険者が斧を振り下ろし、アンデッドの首を切り落とした。
「へっ!強くなったら、処刑人とか言われるのかね!」
「そこまで生き残れてたらな。」
冒険者達が、高らかに笑っている中、一人の冒険者がアンデッドの顔をまじまじと眺めていた。
「ヘッダさん?」
「ん?」
そして、冒険者達に聞き覚えのある人名を出した。
「このアンデッド、ヘッダさんじゃ…」
「何言って…嘘だろ…」
「これ、ヘッダさんじゃねえか…」
ヘッダ
この冒険者達に良くしていた、男気溢れる先輩冒険者だ。
冒険者としてのイロハを、彼らに教えた恩師のような存在である。
妻と子供がいて、前に子供が喋れるようになったと、自慢していた。
そんな、頼れる先輩冒険者がアンデッドになっていたのだ。
「そんなバカな…ヘッダさんは、このダンジョンでアンデッドに殺されたのか?」
「そのアンデッドは、そんなに強いのかよ…」
「ヘッダさん…あんた、こんなところで死んで、妻子はどうするんだよ…」
各々の感じたことを述べていると、コツリ…コツリ…と、足音で聞こえてきた。
持っていたランタンで照らしてみると、目隠しを付けた女だった。
「あんた…誰だよ。ダンジョンでそんな格好して…っ!?」
明らかに普通じゃない。
間違いなく人間ではない。
となると何か?おそらく、ヘッダさんを殺したアンデッド。
そうとしか考えられない。
「お前、人間じゃないな。ヘッダさんを殺したアンデッドか?」
普通に考えて、彼はおかしな事をしている。
アンデッド系の魔物は、全体的に知能が低い。
野生動物よりも馬鹿だ。
それなら、話し掛けても意味はない。
しかし、このアンデッドからは知性が感じられた。
「ヘッダ…?…誰…それ…?」
「しゃ、喋りやがった…」
「失礼…ね……喋る…くらいは…出来る…わよ」
言葉はカトコトだが、喋れないというより、喋りなれていないが正しいだろう。
つまり、スラスラと話せるだけの知能がある。
「ここに首が転がっている人の事だ!!お前は、ヘッダさんを殺したのか!?」
「…分からない。」
「何?」
冒険者は、それがとぼけているように思えて、激昂しそうになる。
しかし、それを抑え込む。
「人間は…四人食べた。……その…ヘッダという…人間に…妻子がいるなら…私が殺した。」
「やっぱりお前が…!!」
冒険者は、奴を殺したいという思いを、必死で押さえつけて、奴を睨みつける。
「女と…子……どんな感じなんだろう…」
「は?」
「彼は…怒っていたけど……彼の妻子を…私が食べると……約束したから…」
「なん…だと…」
駆け出しの冒険者は、ついに堪えきれなくなった。
殺した挙げ句、愛する妻子まで喰い殺すというのだ。
まさに、鬼畜の所業。
冒険者は、勢いよくアンデッドに斬り掛かる。
しかし、剣はアンデッドの持つ剣によって、受け止められる。
しかも、その剣は…
「それは…ヘッダさんの剣!!どうしてお前が!?」
「どうせ…もう使わないだろうから……私が…貰っておいた…」
「貴様ァーー!!」
冒険者は、がむしゃらに剣を振り続けるが、全ていなされる。
そして、逆に剣を弾かれて大きな隙が生まれる。
アンデッドは、そこで口を開き、真っ白な鋭い牙を首に突き立てた。
そして、全ての命を啜り、喰い漁った。
「ハァ…ハァ…」
なんなんだあいつは…
二人いた仲間は死んだ。
飛び掛かった奴は、奴にでも足も出ずね喰い殺された。
逃げ遅れた奴は、魔法で串刺しにされた。
残っているのは俺だけだ。
「みーつけた…」
「ひっ!?」
後ろから、奴の声が聞こえた。
俺は、錯乱しそうになるのを必死で抑えて、鞄から閃光弾を取り出す。
「これを見ろ!!」
そういったあと、閃光弾を放り投げた。
すると、すぐに破裂して眩い閃光が現れる。
これで、目くらましをする。
しかし、
「効かないね…」
「なっ!?」
奴は、あっという間に俺の前に回り込んでいた。
そして、すぐ目の前に来られたことでわかった。
こいつは目隠しをしてる。
逃げることに必死で、目隠しの存在を忘れていた。
「クソッ!」
「当たらない…」
俺は、奴目掛けて斧を振り下ろすが、やすやすと躱される。
振り下ろした斧を、奴の方向へ振り上げるが、それも躱される。
このアンデッド、想像の何倍も早い…
しかし、ようやく俺の斧が奴の体を捉える!!
「お前の体を、キズモノにしてやらぁ!!」
「あ?」
「っ!?」
俺は、大きなミスをした。
攻撃が当たりそうになって、余計なことを言った。
それが、奴の逆鱗に触れてしまった。
「なっ!?」
奴は、俺の渾身の一撃を、片手で受け止めやがった。
「馬鹿な!?俺には筋力強化Lv3が!」
「あっそう。私は筋肉大強化があるんだけど?」
「は?」
突然、流暢に喋るようになったやつの口から、とんでもない言葉が放たれる。
筋肉大強化?
どうしてアロナダンジョンに、中級スキルを持ってるアンデッドが居るんだよ…
そもそも、ここにアンデッドが居るのことの方がおかしい。
知性を持つアンデッドは、そこそこな数はいる。
だから、知性についはおいておこう。
アロナダンジョンは、初心者向けのランクの低いダンジョンだ。
初心者向けと言っても、初心者脱却の最終試験のようなものだが…
「ぐはっ!?」
「何考え事してるの?私を前に、ずいぶんと余裕そうね?」
俺は、奴に鳩尾を殴られて、現実へ引き戻される。
奴は、口を少し開いて、露骨に牙をアピールする。
牙を?
「お前…吸血鬼か?」
「お前?何、その口の聞き方は?」
「ぐほっ!?」
今度は、横腹に回し蹴りをくらった。
しかし、わかった事がある。
やつの正体だ。
「なんで、アロナダンジョンに吸血鬼が居るんだよ…」
「どうしてだろうね?まあ、冥土の土産に教えてあげてもいいけど?」
こいつは、確実に俺のことを殺すきだ。
「この世界に、転生者っている?」
「転生者…いるにはいるが…」
「私が、その転生者だからだよ。」
は?
こいつが転生者?
「転生者ってのは、元人間で、平和な世界からやって来たから腑抜けてるんじゃ…」
「腑抜けてる?殺しが出来ないってこと?」
「そうだ。だが、お前は人を簡単に…」
すると、奴はニヤリと笑って、
「人間なんて、ただの餌でしかないよ。私は、吸血鬼だよ?人間は私の大好物だよ。」
「チッ、人を辞めた化け物め…」
転生者は、世界に繁栄をもたらした。
しかし、こいつは世界に絶望を齎す存在だ。
俺じゃ、勝てないことはわかってる。
だが、
「へえ?逃げないの?」
「男には、勝てないとわかっていても、戦わないといけない時があるんだよ。今がそうだ!!」
すると、奴は楽しそうに笑って、
「やってみなよ、人間。」
「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
俺は、斧を振り上げて、奴へと斬り掛かる。
すると、奴は何処からともなく剣を取り出して構える。
俺の渾身の一撃は奴の剣で容易く受け止められる。
当然だ、俺と奴とじゃ筋力が違いすぎる。
傍から見れば、筋骨隆々の男の攻撃を、華奢な女が止めているように見える。
しかし、奴は筋力大強化に加えて、吸血鬼だ。
力で勝てるわけがない。
「くう…」
「もう疲れてきた?」
「はっ!んなわけねえだろ!!」
そんなことはない。
俺の体には、どんどん疲労が溜まっている。
力自慢とはいえ、何度も斧を振り下ろし続ければ、かなり疲れる。
対して、奴はまだまだ余裕そうだ。
斧を握る手の力が弱くなる。
そのせいで、攻撃の威力もどんどん下がっていく。
「ハァ…ハァ…」
「よく、その状態で戦えるね。」
「ハァ…ハァ…」
「返事をする力もないのに、どうして私に立ち向かって来るの?」
どうして?
そんなもん…
「気合だ…」
「なるほどね。でも、そろそろ厳しいんじゃない?」
「だったら、殺してみろよ。疲れきった人間一人殺せねえのか?」
「そう?じゃあ、殺してあげる。」
すると、奴は俺の斧を弾き飛ばした。
俺には、それを掴むほどの力が残ってねぇ。
奴は、ゆっくりと俺に近付くと、白く鋭い牙を剥き出しにしてきた。
「最期まで戦い続けた、貴方の志に敬意を評して、私の秘密を教えてあげる。」
「そうかよ…」
すると、奴は目隠しを外した。
その顔は、まるで呪いでも受けたようだった。
「その顔…」
「私はね、転生するときに目と、鼻と、舌を捨てたの。そのせいで、見るたり、匂いを嗅いだり、味わったり出来ないの。」
「なんで、そんなことを…」
「調子に乗ってたのよ。私は、仲間に囲まれてまるで姫のような扱いをされていた。だから、これくらい大丈夫だって、調子に乗ってた。」
こいつは、周りにもてはやされて、調子に乗っていたのか…
「それに、うかれていたせいで、仲間ともはぐれてしまった。私って、馬鹿だよね…」
「…」
「そうだ。名前も教えてあげる。」
すると、目隠しを付け直して、にっこりと笑いながら、
「私はヒメユリ。調子に乗って、酷い目を見た吸血鬼よ。」
ヒメユリ…
転生者らしく、変わった名前だ。
「じゃあ、その首に噛み付かせてもらうよ。」
「好きにしろ…」
ヒメユリは俺の首に牙を突き立てた。
すると、これまでの疲労が嘘のように消えた。
そして、この世の苦悩から解放されるような快楽に包まれた。
俺は、そのまま眠るようにその命を散らした。