表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

手紙

こんにちは

初めての方は、はじめまして

カイン・フォーターと申します。

ノリと勢いで書いてるので、失踪するかもしれません。

失踪したら、時間が出来た時に書いてると思って下さい。

失踪していなければ、毎日投稿(できるとは言ってない)をしたいと思っています。

とあるゲーム

体を見れば牛、体毛を見れば狼、尻尾を見れば蛇、顔はライオンのような、巨大な獣。

『終末の厄災』シリーズに出てくる、『終末の獣』というボスモンスターだ。

数々のプレイヤー達をリスポーン送りにしてきた最高難易度のボス。

しかし、そんな終末の獣も虫の息だ。


『姫!トドメを!!』


ボイスチャットで、一番うしろで戦いの行く末を見守っていた女性に声がかかる。


『いくよ!巫女姫の聖鈴!!』


巫女装束のような衣装を身に纏った女性が、大技を放つ。

シャリーン

神社でよく聞く、鈴の音と共に白銀の風が吹く。

やがて、白銀の風は『終末の獣』に纏わり付き、その身体をボロボロと崩していった。


『StageClear』


ボスを倒した事で、ステージクリアの文字が浮かび上がる。


『いよっしゃああぁぁぁ!!』

『やりましたな!これで《巫女姫》の名声が更に上がりますぞ!』

『姫!お見事です!!』

『姫!やはり専用技の威力は桁外れだな!あのカチカチの身体を持つ終末の獣を消滅させるんだからな!!』

『姫!ドロップアイテムを拾いに行きましょう!!』


彼等が何度も『姫』と呼ぶ理由。

単純に、彼女が《巫女姫》という、ユニークジョブに就いているからという理由もある。

だが、一番の理由は、『姫プレイ』というプレイスタイルにあるだろう。

姫プレイとは、女性キャラが周りからちやほやされたり、プレゼントを貰ったり、味方に守ってもらって攻略を任せる、姫を相手にしているようなプレイスタイルのことだ。

もちろん、普通のパーティのように報酬は山分けだし、プレゼントも余裕がある時に、気持ちを送るような物だ。

それに、本人も《四姫》と呼ばれるユニークジョブ保持者の一人のため、普通に強く。

支援回復を万能にこなす後方支援に特化している。


『それじゃあ、ドロップアイテムを回収したら、今日のところはここまで。また明日、続きをしましょう。』


姫の指示により、早急にアイテムを回収したパーティメンバー達は次々と退出していった。


「ふぅ」


ヘッドセットを外した女性は、一度深く息を吐く。

ゲームの中の話とはいえ、長時間ゲームを続ければ当然疲れる。

彼女は、ベットから起き上がると、麦茶を飲みにキッチンヘ向かった。

途中で、28の写真が壁に額縁を付けて、掛かっているのを見つけた。

私の誕生日祝いの写真だ。

そして、すぐに目を逸らす。

今年で29歳になるのに、親と兄が養うからと、今まで一度も働いたことがない。

現実まで姫プレイをされているのだ。

いや、違う。

現実で、自分の力で何かしたことがほとんど無いため、ゲームで姫プレイをしているのだ。

老化を感じさせない美しい見た目が、彼女を自立させなかった。

望めば周りがやってくれる。

家事は家政婦がやってくれるし、勉強も家庭教師に教わった。

もともと頭が良かったから、テストで赤点を取ったことはないが。


「自立、できるのかな?」


それだけが心配だ。

いつまでも周りを頼る訳にはいかない。

最低限、家事くらいは出来るようになりたい。

もちろん、料理も洗濯も掃除も出来る。

それくらい出来て当然だ。

問題は、周りを頼りすぎて自分が何をすればいいのか分からないこと。

こんな生活を続けていては、碌な死に方出来ない。


「いっそのこと、ゲームの世界に行けたらいいのに。」


本棚には、ラノベが大量に並んでいる。

特に多いのは、ゲームのキャラクターとして、異世界転生するもの。

自分もそうなりたいという願いが伝わってくる。

コップに麦茶を入れて、一気に飲み干す。

部屋に戻って昼寝でもしようと思ったその時、


ピンポーン


家のインターホンが鳴った。

宅配だろうか?

でも、何か注文した覚えはない。

親か兄から、何か送られてきたのだろうか?


「は〜い」


私が、玄関のドアを開けると、


「こちらを渡せと、主より言われております。どうぞ。」


真っ白の服?に見を包んだ金髪碧眼の女性が、手紙を渡してくる。

手紙は、金で刺繍されたような模様が入っていて、手触りは、現代の科学で作られたすべすべの紙とは、一味違う滑らかさがあった。


「それでは」


そう言って、女性は飛び降りた…飛び降りた!?

ここは三十五階のタワマンだ、飛び降りれば挽き肉になる。

私は、慌てて下を見たが、人影は見当たらなかった。

夢でも見たんだろうか?

しかし、確かに私の手には手紙がある。

取り敢えず、これを確認することにしよう。










『幸運な十万人の皆様へ

こんにちは、この手紙を受け取ったあなたは、全人類、およそ96億人の中から選ばれた、十万人のうちの一人です。

この手紙は、全人類から無作為に抽選された人達を、停滞した異世界を動かす着火剤として活動してもらう為に、異世界行の切符を用意しています。

その切符は、手紙を受け取ってから日付が変わるまでに、サインがされなかった場合、効力を失い、また別の人が無作為に抽選されます。

今の自分の在り方に不満のある方、こんな世界嫌だという方、新しい人生を歩みたいという方は、切符にサインしていただくと、異世界へ行くことができます。

もちろん、サインされた場合、ご家族には埋め合わせとして願いを叶える権利が与えられます。

この切符にサインするかは自由です。

要らないのであれば、破いて捨ててもらっても構いません。

ただし、他人への譲渡を行った場合、効力は失われ、渡した方、受け取った方も切符が与えられる権利を、永久に失います。

皆様が切符にサインしていただくことを、お待ちしております。

                       蝶の神』










『あ、姫!ちょうどいいところに!』

『何?もしかして、貴方のところにも手紙が届いたの?』

『え?もしかして、姫もですか?』


どうやら、あの手紙は全員に配られていたらいし。

というより、このゲームの上位プレイヤーの殆どに配られているらしい。

無作為という割には、優先順位があるらしい。


『姫はサインしますか?』

『もちろん、異世界で人生をやり直したいの。』

『姫の悩みって、贅沢ですよね?』


金持ちだから、何もしなくても周りがやってくれる。

それが嫌だ、というのが私の悩みだ。

自分でも贅沢な、悩みだと思う。


『贅沢な暮らしって、苦労はしないけど、その分面白い事も少ないの。皆が苦労して働いて、その中で新しい人間関係が出来て、その人間関係は面倒くさいものかも知れないけど、楽しい事もあるはずよ。私は、面倒くさい思いはしなかったけど、そこで生まれた楽しい事を知らない。』

『その楽しい事は、金を積んで手に入る楽しい事とは訳が違う…ですよね?』

『ええ、私はそっちの方がずっと楽しいと思うの。』


金持ちに貧乏人の苦しみは分からない。

貧乏人に金持ちの孤独に分からない。

貧乏人は、今の生活をよりよい物にしようと、周りと支え合う。

金持ちは、自分の富や地位を守るために、周りと距離を取る。

私は、何もせず、何も感じないより。

苦しんで、苦しみの中に砂金のような幸福を見つける方が、よっぽど幸せだと思う。

幸せの価値観は、人それぞれだし、あくまでこれは私の意見。

世の中、金が全てなんて言う人もいるだろう。

それは、その人の価値観だ、私とは違う。


『姫が行くなら、私もついていきますよ?』

『いいの?私は、自立がしたいからサインするのよ?姫プレイはもうしないのに…』

『俺も行くぜ?世間知らずのお嬢様を、よく分からない場所に一人で行かせるのは不安だ。』

『我も行きますぞ?このゲームで、姫のために全てを注いできました、次は人生を注ぐとしましょう。』

『姫が行くんだろ?なら皆行くだろうよ。赤信号みんなで渡れば怖くない、だ。』

『言い直すなら、異世界も、みんなで行けば怖くない、かな?』


結局、私は支えられるのか…

でも、みんなと一緒に遊んでる時が、一番楽しかった。

だった、彼等は私の『仲間』だから。

『仲間』となら、一緒に行ってもいいかも…


『それじゃあ、日付が変わる前にサインしてしまいましょう。』


姫の命令は絶対だ。

みんな、すぐにログアウトして、サインに行った。

私もサインしにいくか。

私は、ゲームを閉じて、手紙の中から白金色の切符…というより、チケットを取り出す。

そして、サインをした。


神木 姫音(かみき ひおん)


出来るだけ、使いたくない私の名前。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ