手紙
こんにちは
初めての方は、はじめまして
カイン・フォーターと申します。
ノリと勢いで書いてるので、失踪するかもしれません。
失踪したら、時間が出来た時に書いてると思って下さい。
失踪していなければ、毎日投稿(できるとは言ってない)をしたいと思っています。
とあるゲーム
体を見れば牛、体毛を見れば狼、尻尾を見れば蛇、顔はライオンのような、巨大な獣。
『終末の厄災』シリーズに出てくる、『終末の獣』というボスモンスターだ。
数々のプレイヤー達をリスポーン送りにしてきた最高難易度のボス。
しかし、そんな終末の獣も虫の息だ。
『姫!トドメを!!』
ボイスチャットで、一番うしろで戦いの行く末を見守っていた女性に声がかかる。
『いくよ!巫女姫の聖鈴!!』
巫女装束のような衣装を身に纏った女性が、大技を放つ。
シャリーン
神社でよく聞く、鈴の音と共に白銀の風が吹く。
やがて、白銀の風は『終末の獣』に纏わり付き、その身体をボロボロと崩していった。
『StageClear』
ボスを倒した事で、ステージクリアの文字が浮かび上がる。
『いよっしゃああぁぁぁ!!』
『やりましたな!これで《巫女姫》の名声が更に上がりますぞ!』
『姫!お見事です!!』
『姫!やはり専用技の威力は桁外れだな!あのカチカチの身体を持つ終末の獣を消滅させるんだからな!!』
『姫!ドロップアイテムを拾いに行きましょう!!』
彼等が何度も『姫』と呼ぶ理由。
単純に、彼女が《巫女姫》という、ユニークジョブに就いているからという理由もある。
だが、一番の理由は、『姫プレイ』というプレイスタイルにあるだろう。
姫プレイとは、女性キャラが周りからちやほやされたり、プレゼントを貰ったり、味方に守ってもらって攻略を任せる、姫を相手にしているようなプレイスタイルのことだ。
もちろん、普通のパーティのように報酬は山分けだし、プレゼントも余裕がある時に、気持ちを送るような物だ。
それに、本人も《四姫》と呼ばれるユニークジョブ保持者の一人のため、普通に強く。
支援回復を万能にこなす後方支援に特化している。
『それじゃあ、ドロップアイテムを回収したら、今日のところはここまで。また明日、続きをしましょう。』
姫の指示により、早急にアイテムを回収したパーティメンバー達は次々と退出していった。
「ふぅ」
ヘッドセットを外した女性は、一度深く息を吐く。
ゲームの中の話とはいえ、長時間ゲームを続ければ当然疲れる。
彼女は、ベットから起き上がると、麦茶を飲みにキッチンヘ向かった。
途中で、28の写真が壁に額縁を付けて、掛かっているのを見つけた。
私の誕生日祝いの写真だ。
そして、すぐに目を逸らす。
今年で29歳になるのに、親と兄が養うからと、今まで一度も働いたことがない。
現実まで姫プレイをされているのだ。
いや、違う。
現実で、自分の力で何かしたことがほとんど無いため、ゲームで姫プレイをしているのだ。
老化を感じさせない美しい見た目が、彼女を自立させなかった。
望めば周りがやってくれる。
家事は家政婦がやってくれるし、勉強も家庭教師に教わった。
もともと頭が良かったから、テストで赤点を取ったことはないが。
「自立、できるのかな?」
それだけが心配だ。
いつまでも周りを頼る訳にはいかない。
最低限、家事くらいは出来るようになりたい。
もちろん、料理も洗濯も掃除も出来る。
それくらい出来て当然だ。
問題は、周りを頼りすぎて自分が何をすればいいのか分からないこと。
こんな生活を続けていては、碌な死に方出来ない。
「いっそのこと、ゲームの世界に行けたらいいのに。」
本棚には、ラノベが大量に並んでいる。
特に多いのは、ゲームのキャラクターとして、異世界転生するもの。
自分もそうなりたいという願いが伝わってくる。
コップに麦茶を入れて、一気に飲み干す。
部屋に戻って昼寝でもしようと思ったその時、
ピンポーン
家のインターホンが鳴った。
宅配だろうか?
でも、何か注文した覚えはない。
親か兄から、何か送られてきたのだろうか?
「は〜い」
私が、玄関のドアを開けると、
「こちらを渡せと、主より言われております。どうぞ。」
真っ白の服?に見を包んだ金髪碧眼の女性が、手紙を渡してくる。
手紙は、金で刺繍されたような模様が入っていて、手触りは、現代の科学で作られたすべすべの紙とは、一味違う滑らかさがあった。
「それでは」
そう言って、女性は飛び降りた…飛び降りた!?
ここは三十五階のタワマンだ、飛び降りれば挽き肉になる。
私は、慌てて下を見たが、人影は見当たらなかった。
夢でも見たんだろうか?
しかし、確かに私の手には手紙がある。
取り敢えず、これを確認することにしよう。
『幸運な十万人の皆様へ
こんにちは、この手紙を受け取ったあなたは、全人類、およそ96億人の中から選ばれた、十万人のうちの一人です。
この手紙は、全人類から無作為に抽選された人達を、停滞した異世界を動かす着火剤として活動してもらう為に、異世界行の切符を用意しています。
その切符は、手紙を受け取ってから日付が変わるまでに、サインがされなかった場合、効力を失い、また別の人が無作為に抽選されます。
今の自分の在り方に不満のある方、こんな世界嫌だという方、新しい人生を歩みたいという方は、切符にサインしていただくと、異世界へ行くことができます。
もちろん、サインされた場合、ご家族には埋め合わせとして願いを叶える権利が与えられます。
この切符にサインするかは自由です。
要らないのであれば、破いて捨ててもらっても構いません。
ただし、他人への譲渡を行った場合、効力は失われ、渡した方、受け取った方も切符が与えられる権利を、永久に失います。
皆様が切符にサインしていただくことを、お待ちしております。
蝶の神』
『あ、姫!ちょうどいいところに!』
『何?もしかして、貴方のところにも手紙が届いたの?』
『え?もしかして、姫もですか?』
どうやら、あの手紙は全員に配られていたらいし。
というより、このゲームの上位プレイヤーの殆どに配られているらしい。
無作為という割には、優先順位があるらしい。
『姫はサインしますか?』
『もちろん、異世界で人生をやり直したいの。』
『姫の悩みって、贅沢ですよね?』
金持ちだから、何もしなくても周りがやってくれる。
それが嫌だ、というのが私の悩みだ。
自分でも贅沢な、悩みだと思う。
『贅沢な暮らしって、苦労はしないけど、その分面白い事も少ないの。皆が苦労して働いて、その中で新しい人間関係が出来て、その人間関係は面倒くさいものかも知れないけど、楽しい事もあるはずよ。私は、面倒くさい思いはしなかったけど、そこで生まれた楽しい事を知らない。』
『その楽しい事は、金を積んで手に入る楽しい事とは訳が違う…ですよね?』
『ええ、私はそっちの方がずっと楽しいと思うの。』
金持ちに貧乏人の苦しみは分からない。
貧乏人に金持ちの孤独に分からない。
貧乏人は、今の生活をよりよい物にしようと、周りと支え合う。
金持ちは、自分の富や地位を守るために、周りと距離を取る。
私は、何もせず、何も感じないより。
苦しんで、苦しみの中に砂金のような幸福を見つける方が、よっぽど幸せだと思う。
幸せの価値観は、人それぞれだし、あくまでこれは私の意見。
世の中、金が全てなんて言う人もいるだろう。
それは、その人の価値観だ、私とは違う。
『姫が行くなら、私もついていきますよ?』
『いいの?私は、自立がしたいからサインするのよ?姫プレイはもうしないのに…』
『俺も行くぜ?世間知らずのお嬢様を、よく分からない場所に一人で行かせるのは不安だ。』
『我も行きますぞ?このゲームで、姫のために全てを注いできました、次は人生を注ぐとしましょう。』
『姫が行くんだろ?なら皆行くだろうよ。赤信号みんなで渡れば怖くない、だ。』
『言い直すなら、異世界も、みんなで行けば怖くない、かな?』
結局、私は支えられるのか…
でも、みんなと一緒に遊んでる時が、一番楽しかった。
だった、彼等は私の『仲間』だから。
『仲間』となら、一緒に行ってもいいかも…
『それじゃあ、日付が変わる前にサインしてしまいましょう。』
姫の命令は絶対だ。
みんな、すぐにログアウトして、サインに行った。
私もサインしにいくか。
私は、ゲームを閉じて、手紙の中から白金色の切符…というより、チケットを取り出す。
そして、サインをした。
『神木 姫音』
出来るだけ、使いたくない私の名前。