06話 再出発
日中に衝撃的な話しをリュウゲンから聞いたグレンはその日の夜に昔の夢を見ていた。
(あ〜夢か......)
昔を思い出し、あの時の自分に伝えて上げれたらと思う。
宝具が無くても一族や周りの人々を救った人がいることを。諦めきれなかった自分にこれからはちゃんと前を向いて歩けると伝えて上げられたらと。
グレンは昔から周りに助けられてきたと、実感しこれからはより自分の力で強くなっていくと改めて誓ったのだった。
ふわあーとあくびしながら起きたグレンは夜に1度起きたあとはぐっすりと朝まで眠れた。
(最近は、あまり寝付けなかったから久しぶりにこんな爆睡した気がするなぁ)
「まだ日が出てないな。顔洗ってご飯食べて鍛錬に行くか」
グレンは身支度を整え部屋から庭の桶に向かった。ふと庭にある水を出す魔道具に魔力を出そうとすると手からバチっと音が鳴り光が広がるのみで魔道具から水は流れない。
(やっぱりダメか。純粋な魔力自体が雷と光?の性質になってるんだなあ。んー雷光とでも言うかな?はあ〜まずは母さんに頼むか)
と改めてしみじみと自分の力を実感する。
そんなことを思っていると家の中から母親のレイが顔出した。レイは一瞬びっくりした目で見た後に微笑んだ。
「あら、おはようグレン。今日は早いのね?顔を洗うのね、ちょっと待ってて?」
レイが魔道具に魔力を送ると水が溜まり始めた。
「これくらいすぐやるんだから、ちゃんと頼りなさい?ご飯よそっとくわね」
「うん。ありがとう。大盛りでお願い!」
そんなグレンに嬉しそうに分かったわと言って家に戻っていった。
相変わらず外は寒く、寒い寒いと唸りながら速攻で顔を洗い家の広間に戻るとテーブルにはご飯が湯気を立てて置かれている。
村のご飯の主食は麦であり、それを蒸したものが食べられている。他にもじゃがいもや数種類の野菜が育てられ、村の家畜のニワトリや牛が育てられている。王国の野菜や家畜とは、サイズが異なり村で育てたものは全部が一回り大きく育っているようであった。また魔物や時折魔獣の肉、川で取れる魚など人間と同じような生活水準の食べ物が食べられている。そのため、王国との交易ではこうした村で作った食べ物や魔物や魔獣の肉も交易品の1つであり王国では高い値段で買われているのであった。
今日の朝のオカズには卵焼きと、肉と野菜炒め、野菜のスープであり、美味しそうな匂いでグレンのお腹は鳴り続けた。
頂きますと手を合わせ、ガツガツとご飯を食べ始めた。
「え、グレン兄!」
と久しぶりに自分より早く起きているグレンを見て少しびっくりしたような声を出したアカシアが起きてきた。そのままグレンの前に座りご飯を食べ始める。
「久しぶりにグレン兄より遅く起きた気がするなあ。今日は一緒に行けるんだね〜!」
2人が食べ終わってから片付けを行い鍛錬に行こうと玄関にむかうと、グレンの部屋の方からぐれんあにさま〜〜とエルの声が響いていた。
「ぐれんあにさま!!きょうはじぶんでおきれたのね〜!」
いつもエルは自分が起きたらあとそのままグレンを起こしに行くのが日課であったのだ。
部屋に行くといつも寝ているはずのグレンが居ないことにびっくりしグレン探すのに家を走り回っていたようだ。
「えーーわたしのおしごとだったのに〜〜」
と自分の仕事が無くなってしまったことに残念そうな顔で呟いた。
グレンは苦笑いし、アカシアはぶっと吹き出していた。
「ふふふ、さあエル、お兄ちゃん達に行ってらっしゃいしましょ」
そんなエルを後ろからレイが撫で、エルと共に2人をお見送りをし、グレンとアカシアは行ってきまーすと言いながら家から出ていったのだった。
「ふふふ、大丈夫そうね、グレン。グレン、アカシア行ってらっしゃい」
いつもより大きく感じたグレンの背中とアカシア見て慈愛のこもった顔でそう呟いた。
「おかあさま?なんかいったー?」
「いいえ?なんでもないわよ〜。さっエルもご飯食べてリュウゲンおじいちゃんの所にお勉強しに行きましょうね」
グレンとアカシアは一緒に広場まで向かうとまだ数人しか集まっていなかった。
「お、おっ??グレン! 今日は早いじゃないか」
「グレン兄じゃん!」
今日鍛錬担当のコウガの父親とコウガはグレンにびっくりしながら迎え入れた。
他の子供たちも今日は雨か?と珍しい光景に冗談を言い合っている。
「ま、たまにはね」
「グレン兄、僕より起きたの早かったからびっくりしちゃったよ〜」とえへへと笑いながら周りの子と話す。
そうしている内に、他の子供たちも次々と合流してはグレンが先にいることをびっくりしながら挨拶をしていった。
特にアリスに限っては、金髪の髪をはためかせながらグレンに詰めよる。
「ちょっ!え!グレンじゃない。あの毎日遅刻してたグレンが何で私より早く着いてるのよ!」
理不尽な小怒りでグレンは肩を竦めながら笑うのだった。
全員集合したため、鍛錬の開始となった。今日も北の山の走り込みからだ。
コウガの父が先頭で走り、そのすぐ後ろにはグレンが走っている。
(ほー。コウガからレグがグレンに抜かされそうだったと聞いたが、あながち間違いじゃなかったのか。どれどれ、これは着いてこれるか?)
コウガの父である、ギランは村の中でも上位の力を持つ戦士である。
茶髪の髪を刈り上げ、彫りが深いイケメンで、野性味のある顔立ちだ。体格は村の中でも大きい方であり、鍛えられた筋肉がもりもりと付いているが無駄な所がない。
年齢はグレンの父と同じ歳であり、今年で88歳。
ギランには子供が3人いたが、長男は魔物との戦いで戦士しており、次男のコウガ、三男のサイガがいる。
体格的には決してスピードタイプではない。それでも子供たちが追いつけ無いほどのスピードで走っているのだが、1段階さらにスピードを上げた。
(げ、ギランさんまたスピード上げたし!)
グレンもスピードを上げるのだが、流石に離されていく。
ちらっと後ろを確認するが、他の子供たちは遠く後ろの方まで離されていた。
(くっあの体格であのスピードはおかしいよっ。あんなスピードなら他の子たちは着いていけないでしょうが。けど、まあちょうどいいやっ!)
「よしっ!」
グレンは今日からは、自分の雷光の力を存分に使うことを決めていた。両足からぶわっと迸り光る魔力を纏うと先程に比べられない速さで疾走する。この前のレオンとの鍛錬で身体強化魔法をこの身で感じたグレンはそれを参考にしていたのだ。今まで力を使ってはいたが、ただ漂わせるだけだったものを纏わせるようにすることで、より効率的になり今までにはない効果を発揮していた。
突然後ろから圧を感じたギランは咄嗟に後ろを振り返るとグレンがすぐ側まで近づいていた。
特に両足に注目するとバチバチと光ながら迸る何かをみてギョッと目を開き驚く。
(おいおいおい。なんだそれ......?それがお前の力なのか??)
いつの間にか並走していた2人は抜きつ追い越しを繰り返し、最終的にはギランに軍配が上がったのだった。
ガハハと笑いながら仰向けに倒れ込むグレンの側までギランは近づく。グレンとは変わって平然としているギラン。
「おい!グレン。さっきのはなんだあれは?びっくりしたぞ?」
と興奮した面持ちで話す。
(く、そー、もう少しだったけど......)
「どう?びっくりした?これが俺の持ってる力だよ。けど父さんもだけど、ギランさんもやっぱりバケモンだね」
ハアハアと息をするグレンはニヤリと笑いながらスッキリとした顔で話すのだった。
(俺の力か......。ふっ一丁前な顔しやがって。乗り越えたんだなグレン)
ギラン達戦士は長の息子であるグレンが宝具を未だ持てないことで少数の周りから哀れみや軽蔑じみた目で見られていることを知っていた。
ギラン自身もグレンが誰よりも宝具を求めていたことを知っていたし、周りの目を和らげるように村ではよく自分の息子のようにグレンの相手をしていたのだ。
例え宝具がなくてもかけがいのない一族の子である。
一族は宝具だけではなく、絶大な肉体を持つ。その力の反動なのか子は出来づらい習性があったのだ。
(宝具だけに目が行きすぎだ......。大事なものを忘れちまってる大人が多すぎる。グレン、その力は一族、いや俺の希望だぞ)
しみじみとギランは思うのであった。
ギランとグレンが着いた半刻しないほどで、他の子たちが頂上に着き始めた。
「お、おやじ、グレン兄......。飛ばしすぎだろ、!」
肩で息をしながらコウガが文句を言って2人のそばに近づいてくる。
コウガの後ろにアカシア、ミナト、アリスも息を切らしながらやってきた。
「ちょっと、!途中から見失ったじゃないのよ!ギランさんもギランさんで。今日の師範なんだから......。2人だけで楽しんじゃって!」
「グレン兄ちゃん、早すぎるよ......」
「ははは、流石グレン兄さんだね!」
そんな子供たちをみて、ギランは笑うのだった。
「よーし。集まれ〜。素振りするぞー!そして今日は、アカシア、コウガ、ミナト、アリスは自分の宝具を使って素振りするのを始めるぞお! 集中してやるようにな」
普段鍛錬の師範となるのは、戦士として認められて狩りに慣れてきた若いものが交代で行うのだが、今回ベテランであるギランが担当するのは、化現させた宝具での初めての素振りなのど実践だったからであった。そのため、ギランが本日の師範と分かった子供たちは朝からどこかワクワクした様子があったのだった。
呼ばれた4人は子供たちの中で特に、宝具を出すことが上手くなってきた為、今日から実践に移行していく。
グレンより年上の3人の子供たちは以前から素振りの時は宝具を使って行っており、模擬戦なども宝具を使っていた。それ以外の子供たちは木刀で素振りと模擬戦を行っている。
宝具の中で、武器ではなく道具を化現させた子供たちは、宝具を素早く出せるようになった者から、同じ様な宝具を持つ者の所へ行きそこで第2の鍛錬が開始される。言わば弟子入りである。多くは自分の親の元へ行くが、違った場合も数少ない子供であるため可愛がりながら厳しく指導しているのであった。
中には村の中で初めてみる宝具を出したものは長老が指導に当たるが直近ではそういった者は居ない。
4人はおっしゃーとそれぞれ喜びあい、ハイタッチするのであった。
「お前らはしゃぎすぎて、宝具を振り回すんじゃねえぞ!」
アカシアは1人グレンに近づき、どこか申し訳なそうな顔でグレンの顔を見る。
「うん?アカシア良かったじゃないか! 毎日頑張ってたもんなあ!」
笑いながら俺のことは気にすんなとアカシアの頭を撫で回すのだった。
それぞれ素振りをできる間合いを取り、子供たちは素振りを始める。
アカシア達、4人はギランの側に集まり、宝具を化現させるために目を瞑り自身の宝具のイメージを強めるために集中する。すると自分の手の中に宝具の感触を感じ始めた。
目を開けるとそこには4人の手の中に宝具が握られていた。
「よーし。素振りをするが、それぞれ宝具の能力は使うなよ?過去に能力を使って大怪我したやつもいるからな!あと、長老からも聞いていると思うが宝具を出した時は出てないときより、力が強くなっていることを忘れんようにな。それはお前たちが1番感じている事だと思うがな。それからコウガ!お前はさっきからニヤついて、ちゃんと集中せんとゲンコツするからな! よし。始めっ!」
宝具の能力として、独自の能力の他に握力や極力、腕力など力自体を強くしたり、肉体が頑丈になるなど2次的効果も得られていた。その効果の幅はそれぞれバラバラであり、元々の倍以上力が強くなった者もいれば気持ち程度に強くなる者もいる。
また目が良くなったり、鼻の利きがよくなったりと五感が強くなる者もいた。これはその宝具の形や重さ、用途によって左右されていることが多かった。そしてこの2次的効果も、宝具が成長するのに伴って大きくなっていく。
身体が成長すると共に宝具が成長すると、宝具を出していない時もその2次的効果の恩恵を得られるようになり、言わばそこまでいくと1人前と言われる。
コウガの赤剣やアリスの大剣は身体の力がより漲るのを感じ、アカシアやミトの黒剣や青剣を持った時は瞬発力が上がるのを実際に感じていた。
ぶんっぶんっと音を立てて大剣を振り下ろすアリスに、ほかの3人は冷や汗をかきながら少しずつ、アリスに気が付かれないようにそっと距離を空けていくのだった。
そんな様子を注意してギランは見続け、ある程度素振りに慣れてきたと感じたため、他の子供たちの様子を見に離れていく。
ふっふっと声を出しながらグレンは周りの子供たちとは離れ、端の方で素振りを行っていた。
(んー走っていた時は足に雷光を纏わせれたけど、腕に纏わせるのはちょっとまだ難しいな〜。普段から使ってれば良かった......。まっこれから使える時に使えばコツを掴めるかな?)
グレンはこれまで鍛錬の走り込みの際でしか雷光を使うことはなかった。それは使えば使うほど、宝具が離れていくような気がして怖かったからだ。しかし、一族の者で同じ様な力を使い魔族や魔物を蹴散らす姿を知り、これからは思う存分、その力を使っていくつもりだった。
「グレン、1回木刀無しでやろうとしてる事をやってみろ。お前のその力の使い方は俺らじゃ分からんが、前に相乗魔法を使っていたやつが、1箇所に魔力を込めるのは難しいからまずは体全体に魔力を纏わせることから始めたって聞いたことがあるぞ?昔から宝具出すために集中してたんだ、その時に見えたものを纏ってみろ」
グレンの様子を時折見ていたギランはグレンに近づくりなり、そう言ってグレンの木刀を取って指示をする。
難しいのは当たり前であり、身体強化魔法に関して言えば、学ぶ順序としてまず自分の魔力を感じ、魔力を身体の中で流れるように回していく。そこから身体の外に放出させ纏わせ、それが出来るようになって初めて身体の1部に魔力を集めることができる。
グレンの場合は、初めから足に限定的に雷光を纏わせており最初の順序がすっ飛んでいた。これはグレンが雷光を感じ幼い時から走り込みで使おうとして出来てしまった才能と魔力自体の固定概念がなかった賜物であった。しかしそこから急に手に意識するとなると足に纏わせた雷光をそのまま手に持ってくる魔力の流れを掴むことができず、また足から持ってくるという概念が間違いでもあったのだ。
そのためギランのアドバイスは最初の第1歩として正しいものであったのだ。
「分かった。やって見る」
(いつも見えていた、あの雷光身体に纏わせる。足でやった事を体全体に馴染ませる感じかな?)
以前はグレンの足元から、バリバリ音が鳴り始めていたが、今回は身体全体からそれが感じられる。
徐々に身体を纏わせようと制御していくが、足に纏わせていくのが早かった。
(んー、足に意識が言ってしまう?なんか足に流しやすいのか?まっいいか。宝具を出そうとしたあのイメージをーー)
「グレン!! ちょっと待て!」
そこでギランのストップがかかった。
(ん?なんか掴めそうだったのに......)
力を抜き目を開けるとグレンの周囲ぽっかりと、クレーターができ生えていた草花が煙を上げて焦げていたのだった。
「うわ、全然魔力を使った気がしなかったけど、これやりすぎ......?」
「やりすぎだな......」
ははと笑うギランはさっきのグレンの周りで起きたことにびっくりしていたが、その目の奥はギラギラと光っていた。
(おいおい、これで魔力を使った気がしないだと、こりゃあとんでもねえぞ、セン、お前の息子は。それにしても雷か、触るだけでも痺れるしその雷を飛ばすなんてことが出来たら強力な武器になるな。くっやり合ってみてぇな、)
分析しながらも、流れる血には逆らえないのかグレンの今後の成長を期待しいつか戦ってみたいと思うギランであった。
「次はもう少し抑えて出来るか?あんなのがここで膨らんで制御できなくなったら大変なことになるからな......」
「ごめん。もっかいやって見る!」
(力を抜いて、もう少し抑えて......)
集中力が高まっていくと抑えられた雷光がグレンから溢れ出ると生き物のように身体に纏われていく。しかし、一瞬の集中が乱れると雷光は無作為に広がり霧散した。
「ふー、少し出来た気がするけど。やっぱり難しいな」
その後も繰り返しやっていくが、今日中にはグレンの理想の状態まで出来上がらなかった。