02話 一族の歴史
北山から颯爽と下ったグレンは西の門を潜り村へと戻ってきた。
朝よりも人々が行き交う姿があり、際立って盛り上がっている箇所では野菜や肉などの売り買いが行われていた。
その横を通り過ぎ、村の中心へと向かう先に長老が住む屋敷があった。
「おーーい、じいちゃん!グレンが来たぞ〜!」
「ほっほっ、来たかグレン。ほれ中へ入れ」
村の長老の名はリュウゲンという名で、グレンの実の曾祖父であり、2代前の当主でもある。
80歳の見た目であるが、実年齢は205歳という年齢であり150歳まで当主をしていた。身長は170cmと村の中では小さいが、裾から見える腕には無駄のない筋肉が着いている。
白髪で彫りが深く鼻の下の髭を左右に伸ばし、顎の髭は長く伸びていた。顎の髭を触り杖をつきながら歩く姿は年相応ではあるが、威厳や目の奥の瞳に力強さが残っている。
リュウゲンの後を追い、中に入ると大きな広間があり、その中心に庵があった。そのままついて行くとこじんまりとしたリュウゲンの部屋まで行き着いた。
「ほれ、そこに座れ。もう少ししたらセンとレイが来るはずじゃ」
「え、父さんと母さんも来るの?」
「そうじゃ、お前の大事な話しだからなあ。現当主も呼ぶじゃろ。それまで茶でも飲みながら鍛錬の話を聞かせておくれ。」
「なんか大事みたいで、なんかなあ。あ、俺は麦茶で!そうそう今日やっとレグさんに勝てそうだったんだよね〜そしたらさ……」
グレンは今日の朝の話をリュウゲンに話し、お茶を飲みながらボリボリとお菓子を食べて話す。
リュウゲンも顔を時折くしゃくにしながら、笑いグレンの話しを聞いている。
一刻も立たない時に、外からセンとレイの声が聞こえてきた。
ガラガラと戸を開けると、グレンと同じ綺麗な銀髪で彫りが深く、ゴツゴツとした大きな筋肉を持った190cm程の巨躯で額に大きな傷を持った父親のセン。そして黒髪で涙袋にホクロがありる奥ゆかしい顔立ちの美女で、出るところは出るメリハリのある身体を持ったギャップのある母親のレイが部屋に入ってきた。
「じいさんお入るぞ」
「リュウゲンさん、失礼します。センさんこの上に座って? グレン、朝の鍛錬頑張って来た?」
「父さんおはよ。母さん、朝早すぎるし、眠いしでもうクタクタだよ」
グレンは軽口を叩くが、父親のセンにキッと睨まれ首をすくめた。
「ほっほっ、グレンは色濃く一族の血を引いておるが、言動はワシに似て自由じゃなあ」
そんなやり取りを見てリュウゲンは笑うのだった。
「じいさん、早速だか分かったことを話して欲しい。この話が終わったらまた山に入るかもしれん。東の山の方で魔物か、魔獣らしきものがいるみたいなのだ。他の狩人がそいつを追っているが、まだなんなのか検討もつかん」
「ほーそうか。狩人達が追えんとは高位の魔物か魔獣かのう。村の方に向かってこんなら、魔獣かもしれぬが。それなら早速話すとしようかのう」
神妙な面持ちで、グレン家族はリュウゲンの話をまつ。
「単刀直入に言うとな。グレン。お前さんは宝具は今後も使えないことじゃ。これはグレンが1番分かっていることかのう」
父のセンと母のレイは顔を顰め、顔を下に逸らす。これまでこのように断定して言われた事がなく、まだ何かしらの道があるのではないかと期待していた分、落胆も大きかった。
「前にグレンにはまだ早いが、こんな時だ。一族に関してワシから話そうかのう。これは成人の義を終えたものから代々聞かされることじゃ。この村の一族に関してからじゃ。まず我ら一族の祖先は魔獣と魔人族との混血だと言われており、生粋の戦闘民族じゃ」
グレンは神妙な面持ちから、ビクッと目を開く。まさか自分に流れる血がそんな大層なものだとは思っていなかった。
「ほっほっ。びっくりしたじゃろ。まさか魔獣と魔人族とはのう。ワシも先代から聞いた時は信じられんかったわい。しかしのう、グレン。人間が書いた本を見たことがあると思うが、我らの中に人間には無い力があるじゃろ。ワシのように長寿であり、体の奥底から溢れ出る力やぐつぐつ熱くなる血が」
心の中で人間とは違うことは、グレンにも分かってはいた。人間が書いた本にはじいちゃんみたいに長生きする人や、戦闘になると血が滾ることあったからだ。ましてや、北山のような所を何も使わず生身の体でスイスイと登れるはずもない。
リュウゲンは曾孫のグレンの頭がキレることをよくしっておひ頷くと、続きを話した。
「昔の一族らは何千と住む都が大陸の中央にあったそうじゃが、ある時を境に、極小数になってしまった。
その時に起こったのは全大陸を含めた戦じゃのう。いくつもの種族がその時に消えたとも言われおる。最初我らは魔族側であったようじゃが、その前から人間とも交流はあってのう、魔族側の長がそれをよしとせず、我らを義賊だと評し、根絶やしにしようとしたのじゃ。
その時の長は徹底的に対抗したのじゃが、流石の数には負け一族の大半は人間の陣地に逃げのびた。そして元々交流があった人間、バレンティア王国の王が助けてくれたのじゃよ」
ふぅーとリュウゲン息を吐くとお茶を啜り、頭をフル回転させているグレンを見る。
グレンもリュウゲンやセン、レイをみて次から次へと入ってくる情報を消化しながら頷く。
「ほっほっその様子はちゃんと着いてこれてるのうグレン。お前さんは頭が良いのう。センやレイはこれを聞いた時、何が何だかと質問攻めされた記憶があるのう」
「さて続きを話そうかのう。バレンティア王国も魔族や他の種族に領土を奪われていたのじゃが、バレンティア王国の王、バレンティア・フリードは、手堅く親身になって助けた。
人間にとっては、一族は自分だけの武器を作り、肉体は強靱で畏怖の対象ではあったため魔族の手先だ奴隷にと反発が大きかったそうじゃ。しかしその前にフリードの親だった先王を魔物から助け都で介抱し王国に返させたことがあったためその反発の声を沈め手を取りあったのじゃ。
お互いに協力し人間は盾に、一族は矛になる盟約を結んだそうじゃ。フリードと共に協力し、魔族を次々と打ち返した一族は他の貴族と共に領土を奪還し今のバレンティア王国の領土となった。
そのため例外に一族に辺境伯としての身分と、この北西にあら広大の山を授け、魔獣を狩ることを託したのじゃよ。それが今我らが住むこの場所じゃ。
そのためバレンティア王国にも我らの祖先が祀られておる。今も少なからず交流はあるのじゃ。それが月に1度来る行商でも分かるじゃろ?あれは、王都で有名な物などが運ばれておるのよ。そして我らは魔物を排除しそれらを渡しておる。これが大まかな我ら一族の歴史じゃよ。」
グレンは自分の知らなかった一族の歴史を知り、祖先を誇りに思った。
(俺にも流れる血が、そんな歴史を歩んできたのか……。こんな山奥で過ごす理由も今なら理解出来る)
「ちなみに、我ら当主の一家は、貴族としてアビスという性を持つのじゃよ。そしてここからがグレンお主の力に関してでもある。魔族をどのように打ち返したのか、それは我らの強靭な肉体や力だけではない。我らの大いなる力は己自身が作り出す宝具じゃよ。
魔獣と魔人族の血が混ざりあい、新しくできた血が力であり、この世界ではわしら一族しか持つことが出来ない力なのじゃ。この血が流れる以上、宝具を化現させることが出来るはずだとワシも思っておったが……グレンの1番の理由は先祖返りが濃厚だと考えておる」
目を開きながら、センはリュウゲン聞き返した。
「じいさんの話を聞くに、2つの種族の混血によって、今の俺らの力が出来たと言った。しかし先祖返りだ?何百年も経ってるのに先祖返りするなんて、有り得るのか?? グレンの流れる血も俺と同じであるのはグレンの力を見ても分かることだ。先祖返りってのはどっちかの血が色濃くでることだろ?」
(先祖返り……? よりによってなんで俺なんだ、!)
10歳までに宝具が化現する一族の中で、宝具が化現しないグレンを周りの一族のもの達は良しとしなかった。一族の子なのかとセンとレイが居ないところで囁かれることもあった。それは自分の宝具に誇りを持ち、戦闘民族として戦ってきた血が思わせてしまっているのか。現当主の長子として責任や重圧がグレンには重くのしかかっていた。
「センの言う通り、グレンに一族と同じ血が流れているのは言うまでもないことじゃ。ワシも同じように考え疑問じゃった。しかしな、これを見てみい」
懐から1枚の紙を出し、グレン、セン、レイに見せた。
中に描かれていたものは、戦場の中で武器を持った者達と、魔族との戦闘をしている描写であった。角が生え、翼をはためかせながら飛ぶ人間のような面立ちとの魔族と、武器を持ち果敢に戦う戦士達がいる。
その中で一層際立つのが絵の中央に描かれた1人の人間だった。雷が落ちてきたかのように迸る雷を纏い身体から光が線上に伸びていくように描かれ、目の前の魔族を蹴散らす姿であった。
「え……!ここに描かれているのは、?リュウゲンさん……」
「この武器を持って戦っているのは我らの一族だと分かるが、共に戦うこの光を纏っているのものも一族の者なのか、?」
「えっ!」
グレン達家族は何かを気づいたようなそして、理解したくないと言うような顔で、絵を凝視している。
「その者は、まさしく我が一族の者じゃよ。そして、今のグレンと同じじゃないかのう?ワシもバレンティア王国に過去の戦について手がかりがあるかと思ってのう、長年聞いていたのじゃよ。そしたらのう、この絵が出てきたと言うわけじゃ。それと同時にこんな言い伝えも王国にはあったらしいのう」
矛の一族の戦士達は、自らの武器と共に魔族の肉を断ち、盾となる王国の人間は矛の一族を護り、どんな魔法も打ち返した。しかし最後の敵は巨大で強大な力を持つ魔族であり、いくつもの仲間達を屍に変えた。
矛と盾、共に絶望を感じていた時、矛の一族の戦士が1人、魔族の前に立ちはだかった。
その者は雷と光を纏い、雷の如き速さで駆け、いくつもの武器を創成し、魔族を切り裂く。時には雷を手から出し魔物を蹴散らし勇敢に立ち向かった。最後に自分の命と引き換えにその強大な魔族を討ち取った。
「この言い伝えが王国にはあるそうじゃ。一族の言い伝えでは宝具を持つ者達の活躍しか伝わってない。しかし1つだけ気になることがあってのう。それはお主たちもよく聞いてきたことじゃよ。それは幼き子が悪さをした時に言う言葉があるじゃろう?」
はっとレイは顔を上げ呟く。
「悪いことしたいけない子は心無しの魔が、心を食べにきちゃうぞ……」
うむとリュウゲンは頷くとまた話し始める。
「そうじゃ。そもそもじゃ、心無しとはなんなのかじゃよ。心を持つと表現する魔物、魔獣は滅多にない。
そして昔から宝具はその者の心が形を作ると言われておるな?そこから考えて見るとじゃ、魔物や魔獣ではなくそして心がない、言わば宝具を持たない一族の者の事を言っておると今さらながら思うのじゃ。
王国に伝わる言い伝えが我が一族に伝わっていないのは、もしかすると、この絵の者が宝具を化現させる事ができずに一族から仲間と思われず心無しと言われた者なのかもしれんのう。
我らは宝具が命であり誇りじゃ。そんな宝具を出せない仲間に救われた一族は、これを恥てこの言い伝えを記憶から消し残さなかったのかもしれぬ。そして心無しの言い伝えだけが残ってしまったのかのう。
そして宝具が出せていないグレンと心無しは同じ状況にあると思うのじゃ。」
「そんなリュウゲンさん……。グレンは大切な私たちの息子ですよ!」
「おい、じいさん、予想だけで話して満足か?グレンが心無しだと!? ふざけるのも大概にしろ!! グレンは今も頑張ってーー」
バンっと空気を震わすほどの力で杖を床に打ち下ろしリュウゲンはセンが喋るのを遮った。
「子供に親の期待をかけ続け、前を向いてないのはどっちじゃ!! いつまでそうしているつもりじゃ!!やっている事はこの心無しと同じでは無いのか!?」
「くっ、 ! 何を言いやがる!! グレンは一族の俺の息子なんだ!! 心無しと同じだと!?」
吠えるように叫ぶセンと、涙を流し続けるレイ。
「父さん!!母さん!!」
そこにグレンの悲痛の叫びが響く。今までで聞いたことの無い声量でその場が静寂となった。
グレンは涙が込み上げ流れるのを拭きながら話し始める。
「父さんも母さんも知ってるし、分かってるでしょ、?おじいちゃんが教えてくれた事は本当の事だって気づいてるんでしょ?だって、絵の描かれた人と俺の力は同じじゃないか!! もう分かってるよ……。俺が宝具を出せないことなんて、もう無理だって気づいてるんだよ……。宝具を出そうとすると必ず自分の身体から雷が迸って光りが溢れるイメージしか出てこないんだよ!いくら武器も道具もイメージしようとしても無理なんだ、。もう3年だよ、?無理言って3年も続けたんだ……」
センとレイはグレンの心の想いを聞き、頭をガツンと殴られたかのような錯覚が起きる。
10歳になる前からずっと笑顔で、宝具のことを楽しそうに語り、いつか自分も父さんや母さんのような宝具を授かるよと頑張っていた。宝具を持たなくてもグレンの成長の速さや肉体的、精神的な強さからセンとレイに限らず一族の者は期待をかけていた。
しかし10歳を過ぎても、宝具が出なかったことで周りの目は期待の目から、悲観や軽蔑の目へ変わった。村でも初めてのことでセンやレイも、そんな目に少なからず気づいてはいたが、現当主であることから下手に動けない状況からどうすれば良いのか分からなかった。
そんな時でもグレンは、俺が10歳越えて宝具を出す初めての人になるかもね!と前を向いていく姿にセンやレイは逆に勇気づけられていた。周りの目も段々とグレンのその姿から嫌な目をする者は少なくなったのだった。
そんなグレンのいつも見せない悲痛な表情や想いを聞いて、センも自然と涙が溢れレイはより一層涙が流れていく。
ガバッとレイは立ち上がり、思い切りグレンの頭を抱きかかえる。
「グレン、グレン……。ごめんね、ごめんなさい。少しでも希望があればって、けど私がちゃんと向き合えてなかったね、グレンに甘えてた……」
「グレン。済まなかった、。お前に辛い想いをさせ続けたな……。なのに俺は、!」
センもそんな2人を一緒に抱き込み共に涙を流した。
「父さん、母さん。ほんとはこの村に居てもいいのかなって思ったこともあったんだ。だけどね、父さんや母さん、じいちゃん、アカシアやエルのおかげでこれまで頑張って来れたんだ。じいちゃんありがと、話しを聞かせてくれて。あの人は勇敢に戦士として最後まで戦ったんだね。俺が想像するよりもっと酷い扱いを受けていたかもしれないんだ。けど負けずに戦った。そしてみんなのために勝ったんだ。だから俺もこの力をみんなのために使う。この力と向き合うよ!」
グレンの告白に、センとレイは優しく抱きしめる。
「グレン、俺が鍛錬してやる。お前を1人前にしてやる!そして誰もが憧れる戦士になれ!」
「グレン、私たちはいつでも貴方の見方だから。これからもグレンが信じる道を進んで行ってな」
リュウゲンは目尻をサッと拭い、グレンを抱きしめる家族の姿を見ながら、家族としてのあり方や、グレンの心の強さを見てこれからの進む行く末に幸福があることを祈るのであった。