10話 初めての街へ
グレンが休みを取った次の日から、いつものように毎日がやってきた。
以前とは変わり、どこか村の者の視線がより一層暖かく感じ、子供達からは羨望の眼差しを向けられグレンは恥ずかしい思いをするのだった。
(なんか、居づらいというか、なんというか。なんか変な気分だなあ〜。いい事には変わりないけど!)
特によく共に行動しているコウガやミナト、アリスまでもそんな態度を出していた。
鍛錬の際に、模擬戦をする時はすぐにグレンの元に集まりグレンに吹っ飛ばされて負けても、次!と模擬戦を行うのであった。
「くっそーー!絶対勝てない。まだ1回も勝ってないぞ......」
「うん、今までよりあの日から実際に戦ってみたらグレン兄の凄さがもっと強くなったよね......」
「ふ、ふん!次は絶対勝つわ!」
「アリスはアカシアにも負け越してんじゃんか」
「それは貴方達もでしょ!!もうなんなのよあの兄弟!!」
「はは、アカシアも気合い入ってるし、これじゃあグレン兄が街に行く前に勝てないで終わりそう......」
「がああ!」
「あれ、みんなそこで何話してるの??」
そこにグレンと模擬戦をしていたアカシアが加わる。
「それは前、グレン兄が街に行く前に1本とるって話で未だに誰も勝ってないからさ」
「はは、多分今の僕達じゃ無理だよ?僕はもう勝つことより自分の戦い方とか、学ぶためにやってるし。だから前よりグレン兄を少しでも驚かせたらなあーて!今だけじゃないし、今後のためにね」
ぐはぁぁあああ
「はは、これはアカシアにも勝てない訳だ......そうだね。がむしゃらにやってもダメ、今後のために相手してもらう!」
「くあーーアカシア先にそういう事を言えよ!」
「ほんとよ! バカみたいじゃない!」
「ははは、みんなは同じかなって思ってた。ごめんね!」
うおあああ!とアカシア達が話している最中もグレンに挑んだ子供達がぶっ飛ばれていくのだった。
そして模擬戦から3週間経った日に、予定通り行商人が村に訪れた。今回の行商ではいつもは2~3日は滞在するのだが、グレンが街に行くとなって次の日朝には村を出て街に向かうことになっていた。
街に行く前日までグレンは模擬戦の時に少し垣間見れたいくつかの雷光の技を鍛錬してみるも、未だに完成まで出来ていなかった。
鍛錬と同時に街に向けて、リュウゲンや街に買い付けに行っているライル等の下で人の暮らしについて教えて貰い準備を進めていた。
街で生活をする場所や、魔法の鍛錬をする場所など、あらかじめセンがライルに買い付けに行く時に手紙を領主に渡すようにしてくれており、街での生活の心配はそこまでなかった。
しかし街で鍛錬ができるとグレンも他の物も思っていたのだが、想定外の事が3日前に街からの手紙で起こった。
宝具の一族である事に加え、未だ過去の歴史の中で貰った辺境伯という貴族の身分が一族にあったため、街で鍛錬を行うことは領主では判断ができなかったのだ。
そのため、一帯を納めているハートレイ公爵まで手紙が行ってしまった。
現当主のラインハルト直々の手紙が届き、そこには辺境伯の当主の息子である、グレンをそれ相応の待遇で招くと書いてあったのだ。簡単に言ってしまうと、街で鍛錬しないで俺が住む街に来て鍛錬しろとのことだった。
そこからは、貴族としての知識も、付け焼き刃状態で覚えることになり、夜遅くまでリュウゲンから指導して貰った。
朝、目の下に隈を付けて起きてくるそんなグレンを家族の者は苦笑いするのだった。
そうして何とか最小限のことは覚え今日に至ったのだ。
「グレンおはよう。朝ごはん出来てるから顔を洗ったらご飯食べない。準備はもう出来てる?忘れ物はない?」
「おはよ母さん。ありがとう、大丈夫だよ?」
レイはいつもやり落ち着かない様子であり、そんな母親を見て笑いが零れた。ご飯を食べていると外からセン、起きてきたエルとアカシアがやってきた。
グレンが今日村を経つためアカシアは今日の鍛錬が休みにしていた。いつものようにエルがリュウゲンを呼びにいき、久しぶりに家族全員でご飯となった。
「あれ、父さん狩りは今日休み?」
「何を言ってる、お前が街に行くんだ、俺が街まで護衛で行くんだぞ?」
「え、父さんわざわざいくの?」
「ほっほ、グレン。人の住む街に行くのじゃ、一族いや貴族の当主が行くのは礼儀じゃのう」
「そっか......父さんありがとう。」
「グレン兄。ラインハルトさんの所に行くならレオン君も凄く強くなってるんだろうねえ!」
「れおんくん?」
「ふふ、エルはまだ産まれてなかったものね。1度村に来たことがあるグレンと同じ歳の子なのよ〜」
「そうなんだ!グレンおにいさまのしってるひとがいて、えるはあんしん!」
「はは、ありがとうエル。」
そんなエルに皆が笑うのだった。
行商の出発となり、広場に家族で行くとそこにはコウガ達や村の人々がお見送りに来ていた。
「グレン兄!ほんとに行っちまうんだな、最後まで勝てなかったから帰ってきた時に絶対勝つ!!」
「はは、コウガずっと悔しくてこればっかり言ってるよグレン兄さん」
「んだよ!悔しいじゃねぇか......勝ち逃げされて!」
「ふん!グレン次は絶対に負けないから!」
「はは、俺も負けないように頑張るんよ。帰ってくる時が楽しみだ。」
「僕もグレン兄さんに負けないように頑張る!」
「グレン!そろそろ行くぞお!」
ガハハと近寄ってくる巨体にビックリするグレン。
「あれ?ギランさん狩りどうしたの?」
「ガハハ、俺とセンが今回は護衛だ!若いもんと交代したわ!」
「こいつが俺も着いていくってうるさくてな。仕方なくだ。」
「はは、街まで安全な旅になりそうだ。」
道中で一族の当主とそれに加え巨体であるギランが一緒の旅となった行商人と護衛達は2人の圧力にビクビクするのだった。
「ぐれんおにいさま!!ちゃんとおてがみだしてね!きをつけてね!」
と泣き顔でエルが近寄るのをグレンが抱きしめる。その横にレイとアカシア、リュウゲンも寄ってくる。
「グレン。何かあればすぐ帰ってきなさいね。ちゃんと忘れずに!手紙を書くのよ?」
「グレン兄、僕も頑張る......!だからグレン兄も無理せず頑張ってね!」
「ほっほ、グレンや。自分の力に過信せず、その胸にある一族の誇りを忘れぬようにのう。次会う日まで元気にのう。」
「ありがとうみんな。強くなってまた帰ってくる。みんなも元気で!」
そうして、行商人とその護衛3人、セン、ギランと出発となった。グレンの家族や村の者に手を振り期待を胸に前へと向くのであった。
街まで2日かかり、行く道中では魔物が2度襲ってくることがあったが、ギランが尽く討伐し護衛達は特にすることは無かった。
「これ、俺たち要らないよな......」
「ハハ、ほんと、この前来た時は若い方々でその人達も凄かったけど、あのギランて人バケモンすぎるや......」
「ああ、これがこの一族の力なんだな」
道中は安全に進む中、グレンはというと初めての野宿を楽しみながら、これまで学んだ事の復習や雷光を体内で流し続ける鍛錬を惜しまず行っていた。
そして2日後、街に着いたのだった。
「おお!久しぶりにここに街に来るなあ!」
「グレン、爺さんからも言われてると思うがこれから名乗る時はアビスを付けろ。」
「ガハハ、人間のしきたりは慣れんな! まあ頑張れグレン」
そうして一行は領主の屋敷に向かう。執事に屋敷の中を案内され部屋に入ると懐かしい人が出迎えに来たのだった。
「よーグレン、俺を覚えているか?」
「え! ディーンさん! すっごい久しぶりだ!なんか前より貫禄?が出てる気がする。」
「はは、グレンもでっかくなったなあ!見違えるほどだ。それに相当やるようになった感じがするな、!おっと、失礼しました。この度ハートレイ都市まで案内をさせていただきます。第1師団の隊長の1人、ディーン・バッツ。ほか数名アビス辺境伯様の護衛をするために召喚致しました。」
「セン・アビスだ。息子のグレン。こちらがギラン。ハース領主殿、ディーン・バッツ殿、今回は我々のわがままでこの様な大事になりかたじけない。都市まで息子をよろしく頼む。」
「はっ承りました。」
(えー!ディーンさんて、隊長で貴族の人だったのか......! 相当強いんだろうなとは思ってたけど)
ディーンの立場にびっくりしたと共に、街から都市へ行く道でわざわざ隊長が護衛とはハートレイの人の自由さをグレンは感じていた。
人が住む場所での暮らしが無く本でしか学んで来れなかったためそのように感じてしまったのだろう。実際は確かにラインハルトを含め自由奔放に立ち振る舞うことはあるが、今回は宝具の一族で辺境伯でもあり、その当主の息子という事もあり、ハートレイ公爵領だけではなくバレンティア王国の王まで話がすでにいってしまっていた。
この事は、一部の高位の貴族のみしか知らない情報になっており、グレンの安全を第一にとハートレイ公爵に話がいき、ディーンが護衛役となっていた。
本人が思ってないほど事が重大であったのだ。しかしグレンはそんなことも露知らず気楽にのほほんとしているのであった。
挨拶が終わり、談笑をしたあとすぐにセンとギランは村に戻ることになった。
「もう行ってしまうのですな......色々宝具の方のお話を聞かせて頂きありがとうございます。我々の街は貴方がたのおかげで高位の魔物が山から来ずにこうして安全に暮らすことが出来ております。本当に感謝しています。村の方で何かあればいつでも言ってください。私も1番矛になって向かいましょう!」
街のハース領主は昔から宝具の一族が憧れであり、今回ちゃんと話すことができて、夢心地であった。話の中でギランが乗ってしまい宝具を出してみせ、領主はひれ伏す様な反応をして喜んだのだった。
「村に4日以上不在は今まであまりなかったからな。早いが早く帰るとする。グレンお前の信じるように進め。俺は何年もかかるのではないかと思ってはいる。だから思う存分やってこい。あーレイやエルにはちゃんと手紙は書くようにな。頑張れ」
「ガハハ! 次会う時、お前が成長しているのを楽しみにしよう。それまでグレンに追いつけるようにコウガを含めて鍛えておくぞ。壁があったらぶち壊していけっ!」
「ありがとう。父さん、ギランさん。そんなに長いこといたら帰った時が怖いよ......けど中途半端にはしたくないから思う存分やってくる! また会う日までお元気で!」
センとギランは街から出ると来る時よりも何倍もの速さで山の方へと駆けていくのであった。
(ここからは1人で再出発か。なんか実感がなかったけど、1人でやっていくんだな......少し不安があるけどそれよりもこれから色々見れることが何よりも楽しみだ!)
そんな大きな背中を見てグレンは、今までの感謝を。そしてこれからの不安の気持ちと、それよりも勝った期待を抱くのであった。
屋敷に戻り、ディーンからハートレイ都市まで行く今後の予定をグレンは聞いていた。明日の朝イチにはこの街を出て都市に向かう予定である。
「んーそうだな。昔の様に道中では前のように話すから頼むな」
「はは、ディーンさんに改められるとなんか変だから前のままでいいよ。俺だって貴族として過ごしてきたわけじゃないしね......」
「ありがたいぜ。けど都市ではそうも言ってられないこともあるからな。まっグレンなら大丈夫だと思うがな。あーあと都市の中で動き回る時は顔を覆うようにしとけよ?」
「え?なんで?」
「なんでって、お前街の人見てどう思った......?」
「ん?特になんも思わなかったかな。んー強いて言うなら視線がこっちに向いてたのはわかったけど」
「ああ、グレンが思うより、そのなんだ......まず髪がキラキラしてるんだよお前のは。あとは顔だな、どこぞの王太子か?ってなるくらいの綺麗な顔なんだよ。村の人はみんな顔が良すぎるんだ。要するにだな、モテるんだ確実に」
「えーそんなこと思ったことないけど」
「まあ人の住む所にいなかったからな。けど肝に銘じとけ、厄介事になったら俺が困るからな。頼むぞ?」
「んーまあ言うことは聞くけどさ」
「よし、そうしたらまずハートレイ都市までは約2週間前後の旅になる。俺たちは少人数だからそれよりも早く着くと思うが少し急がないとな。明日の朝にはここを旅立つ」
「ん?そんな急ぐの?」
「あーラインハルト様とレオン様がな、グレンが来るのを相当楽しみにしててな。無駄に立ち寄らずに都市に来いと命令だ」
「はは、そっかそれは急がないとね」
「せっかくの旅立って言うのにすまんな......まあ多少は街に寄ったら色々案内はしてやるからさ」
「さあさあ! 話は明日の道中でも! さっ、グレン様。お食事が出来たので私とも村の事をお聞かせくださいませ!全く......せっかくこの街に来たのに今日しかないとは......」
とハース領主が割り込んできてグレン達を連れていき晩餐をするのであった。
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