カウントダウンするラブ日傘〜卒業パーティーで婚約破棄された傷物の私に年下の美少年が迫ってきます・短編
私の家には代々伝わる日傘がありますの。
ただの日傘ではありませんのよ。
その名も【カウントダウンするラブ日傘】
「何だそれ?」というお顔をなさいましたわね。
我が家に伝わる家宝で、本当は効果は秘密にしなくてはいけないのですが、あなたには特別に教えてさしあげますわ。
【カウントダウンするラブ日傘】は持ち主が思いを寄せている殿方から告白されるのを予知すると、カウントダウンを始め、告白される日を教えてくれる日傘なのです。
お母様もお祖母様もひいひいお祖母様も、この【カウントダウンするラブ日傘】の予知通り、【カウントダウンするラブ日傘】が予知した日に、思いを寄せている殿方から告白されましたのよ。
告白される日が事前に分かるって便利ですわよね。
髪型を整え、美しくメイクをし、流行りのドレスを身にまとい、お気に入りの場所に意中の殿方を誘導すれば、最高のシチュエーションで告白して貰えるんですもの。
やはり好きな殿方には、一番綺麗な自分を記憶に留めておいてほしいものですわ。
お母様やお祖母様やひいひいお祖母様と違い、私には幼いときから婚約者がおりますからこの日傘の出番はこなそうですわね。
と思っておりましたが……卒業パーティーを一カ月後に控えたある日、【カウントダウンするラブ日傘】がカウントダウンを始めましたの。
カレンダーと照らし合わせ日付を計算すると、アルフレッド様から告白されるのが卒業パーティーの日だと分かりましたわ。
そういえば婚約者のアルフレッド様からは一度も「好きだ」と言われたことがありませんでした。
アルフレッド様は照れ屋ではにかみ屋さんだから、恥ずかしくて「好き」と口にできないのだと思っておりましたわ。
まさか卒業パーティーで愛の告白を計画されていたなんて、意外と大胆な方だったのですね。
アルフレッド様に告白されると分かったからにはこちらもそれなりの準備をしなくては!
一流の職人を呼んで最高のドレスとアクセサリーを作らせなくてはいけません!
【カウントダウンするラブ日傘】がカウントダウンを始めたとき、卒業パーティーまで一カ月を切っておりましたから焦りましたわ。
でもアルフレッド様が勇気を出して告白してくださるんですもの、安物や既製品で妥協したくありませんわ。
その日は最高級のドレスとアクセサリーを身に着けまとい、アルフレッド様の記憶に一番美しい私を焼き付けたいんですもの。
えっ? パーティーで身につける物は婚約者が贈って来るんじゃないのかですって?
私はアルフレッド様からそういったものを一度も頂いたことがございません。
ええ誕生日プレゼントも、女神の生誕祭のプレゼントも、国王陛下の誕生日パーティーで着るドレスも、贈られたことがありませんわ。
アルフレッド様のご実家の伯爵家は貧しいので仕方ありませんわ、貧しい方に強要するのはよくないので目を瞑っておりますの。
ですが私、結婚後の経済的な不安は一切ありませんのよ。
私とアルフレッド様が結婚すれば、アルフレッド様のご実家の伯爵家は、私の実家の公爵家の援助を受けて一気に持ち直しますの、ですから何も問題はありませんわ。
アルフレッド様には父から支度金として月々お小遣いが渡されております、公爵令嬢の婚約者ともなるとそれなりに身だしなみに気を遣っていただかないといけないのです。
アルフレッド様は最高級のシルクで作られた衣服を身にまとっていただいておりますわ。
父の話では、アルフレッド様には毎月衣服を十着新調してもお釣りが来るほどのお金を渡しているそうです。
婚約者が余ったお金を何に遣っているか知っているかですって? もちろん把握しておりますわ。
アルフレッド様は余ったお金をペットの治療費に当てているのです、とてもお優しい方ですわ。
私や父がアルフレッド様を晩餐に誘っても、アルフレッド様は誘いを断ってペットの看病をしておりますのよ、見上げた心がけですわ、将来は獣医師になりたいのかしら?
伯爵家の領地経営は私がやりますから、アルフレッド様には獣医師になって頂いて、たくさんの動物たちの命を救っていただきたいですわ。
ペットの名前ですか?
アルフレッド様は確か【ミア】と言ってましたわ。
人間の女みたいな名前ですって?
そんなこと気にしておりませんわ。
えっ? 私とアルフレッド様の婚約の経緯を知りたい?
私の父とアルフレッド様のお父様が王立学園で同級生だったのです。
ある日、父の学生時代のお友達が公爵家に尋ねてきましたの。
父のお友達の履いていた靴は、元は高級な靴だったのでしょうが何度も使用したためか随分とくたびれておりましたわ。
ジュストコールは色あせ、ベルトは流行遅れのものでした。
お友達が久しぶりに会いに来たというのに、父はあまり嬉しそうな顔をしていませんでした。
父は私に「私たちは難しい話をするから外に遊んでいるよう」とおっしゃいました。
私は父と父のお友達の様子が気になって、外に遊びに行くふりをしてこっそり屋敷に戻り、ドアの隙間から部屋の様子を伺っておりましたの。
当時幼かった私には難しい話は分かりませんでしたが、父のお友達は父の前で土下座をして、しゃっきん……がどうの、このままでは路頭に迷う……とか、少しだけでも用立ててくれないか……とおっしゃっておりましたわ。
父は厳しい表情でお友達を睨めつけて、ぎゃんぶるのせいだ……とか、身からた出た錆だ……とおっしゃって、お友達を早急に帰らせようとしておりましたわ。
なかなか帰らないお友達にしびれを切らした父が杖を振り上げたので、私はドアを開け二人の間に割って入りましたの。
「お父様止めて! この方はお父様のお友達でしょう? お友達と喧嘩はよくないわ!」
部屋に入ってきた私に驚いて父は杖を下ろし、
「レイチェルすまない、びっくりさせたね、私たちは別に喧嘩をしていた訳じゃないんだよ」と、
優しい顔でおっしゃり私の頭をなでてくださいました。
そのとき金髪の少年が部屋に入って来て、
「お父さん! カッコ悪いことはもうやめて!」
と言って、父のお友達に抱きつきましたの。
その金髪の少年がアルフレッド様ですわ。
金色の髪に青い瞳の美しい顔の少年に、私は一瞬で心を奪われてしまいましたの。
私気がついたら、
「名も知らぬ金髪の君、いいえ理想の王子様、その髪の色も美しい青い瞳も素敵ですわ、私あなたに一目惚れしてしまったみたい、あなたと結婚したいわ」
とプロポーズしておりました。
アルフレッド様のお父様は目をキラキラさせて、
「でかしたぞアルフレッド! これで伯爵家は救われる!」と言って大喜びしておりましたわ。
アルフレッド様のお父様とは対象的に、父は苦虫を噛み潰したようなお顔をしておりました。
アルフレッド様が、
「僕にはミラが……!」
とおっしゃったとき、アルフレッド様のお父様がアルフレッド様の口を塞ぎ、
「ミラは家で飼ってる犬の名前です、アルフレッドは犬好きなんです!」
とおっしゃっておりました。
アルフレッド様が今可愛がっている愛犬の名前も「ミラ」でしたわね。
あれから八年もたちますがまだ生きておりますのよ。
今年で十六歳になるんですって、長生きな犬ですわね。
「アルフレッド様とおっしゃるのね、素敵なお名前! アルフレッド様は犬好きなんですのね。
私も犬が好きなんです!
今度ミラにリードをつけて一緒に散歩しましょう!」
と言ったらアルフレッド様に睨まれましたわ。
きっとアルフレッド様はミラという名の犬を独占したかったのですわ。
それから数日後、アルフレッド様と私の婚約が正式に決まりました。
アルフレッド様のお父様とお母様がにこにこしながら、アルフレッド様も私に一目惚れしたとおっしゃいましたわ。
お互いに一目惚れしたなんて、私とアルフレッド様の出会いは運命だったのですね!
正式に婚約したあと、アルフレッド様と二人きりで何回かお茶会をしましたわ。
アルフレッド様は私に会うときは、いつも眉間にシワを寄せておりました。
アルフレッド様に不快な思いをさせてしまったかと心配になりましたが、アルフレッド様のお父様曰く
「アルフレッドは嬉しいときや楽しいときに眉間にシワが寄ってしまうんだよ」
と説明してくださいました。
アルフレッド様は私といるとき嬉しくて楽しくて仕方ないと分かり、ホッといたしましたわ。
ね? 分かったでしょう?
アルフレッド様は私のことが大好きなんですのよ。
私とアルフレッド様がラブラブであることは疑いようがない事実ですわ。
卒業パーティーまであと数日、アルフレッド様に告白される瞬間が待ち通しいですわ。
あらやだ私ったら長話をしてしまいましたわね。
エステに行く時間ですわ、これにて失礼させていたしますわ。
見知らぬあなたを捕まえて、のろけ話を聞かせてしまって申し訳ありません。
私幸せすぎて、誰かにこの気持ちを話したくて話したくてうずうずしておりましたの。
お気に入りのカフェに入ったらあなたがお一人でいたので、つい話しかけてしまいました。
あなたが子供だったからかしら? とても話しやすかったわ。
えっ? 僕はもう十二歳だから子供じゃないですって?
背伸びしたいお年頃なのね、可愛らしいこと。
えっ? そのアルフレッドって人怪しい、気をつけた方がいいですって?
心に留めておきますわ、年上のお姉さんの恋愛話にアドバイスをするなんて坊やはおませさんですのね。
ここの代金は私が支払っておきますわ、坊やもいつか素敵な人と出会って、良い恋愛をなさってくださいね。
☆☆☆☆☆☆
――卒業パーティーの翌日――
卒業パーティーでアルフレッド様に婚約破棄されました。
アルフレッド様のお隣には桃色の髪の女の子がおりました。
お名前はミランダ様、華奢な体格の可憐な少女でした。
アルフレッド様が可愛がっていた【ミラ】とは犬のことではなく、ミランダという名前の人間の少女のことでしたのね。
ミランダ様は子爵家の令嬢でアルフレッド様の幼馴染だとか。
私がアルフレッド様と出会う前に、お二人は結婚の約束をしていたそうです。
それは家同士を交えた正式な婚約ではなく、アルフレッド様とミランダ様の間で交わされた口約束でした。
ですがアルフレッド様とミランダ様は、子供の頃からずっと愛し合っていたそうです。
「レイチェル・カルべ!
俺を金で買い、ミラを犬扱いし、父に土下座をさせ楽しんでいた性悪女め!
貴様との婚約を破棄し、俺は愛するミランダと結婚する!」
アルフレッド様はそう叫ぶと、公衆の面前で私を突き飛ばしましたわ。
突き飛ばされた私を支えてくれたのは、父でした。
アルフレッド様が迎えに来て下さらかったので父にエスコートしてもらいましたの。
父が一緒で助かりましたわ。
父がいなかったら突き飛ばされた衝撃で尻もちをついておりました。
婚約破棄されただけでも恥ずかしいのに、恥の上塗りをしたくありません。
アルフレッド様のお父様が真っ青な顔で駆けてきて、アルフレッド様の胸ぐらを掴み、何か叫んでおりましたわ。
「馬鹿息子!」とか「今すぐ謝罪しろ!」とか何とか、精神的なショックが大きくてはっきりとは覚えておりませんの。
父がアルフレッド様のお父様に、
「婚約破棄を受け入れた、そちらの有責の婚約破棄だ、慰謝料を請求させてもらう。それから伯爵家に融資した金も、毎月アルフレッドに支払っていたお小遣いも返済してもらうよ」
とおっしゃっておりましたわ。
その後父はアルフレッド様とミランダ様を真っすぐに見据え、
「婚約者の父親から貰ったお小遣いでドレスや宝石を買い愛人に貢いで愛をささやいていたとは随分と太い神経をしているな、金の出どころを知っていて品物を受け取っていた相手も相手だが」
とおっしゃった気がしますわ。
その時アルフレッド様もミランダ様も上等な絹地の衣服を身にまとい。
アルフレッド様はピンクダイヤモンドのアクセサリーを、ミランダ様はサファイアのネックレスを身に着けていることに気が付きましたわ。
お互いの瞳の色のアクセサリーを身に着けているお二人を目の当たりにして、お二人の間に私が入る隙間などないと思い知りましたわ。
アルフレッド様はお顔を真っ赤にして、
「黙れ! 守銭奴! 金で俺を買ったくせに偉そうに説教するな! この恥知らずが! 俺はもうお前たち親子の思い通りにはならない! 俺は家を出てミランダとの愛に生きる! 学園で参学し教養を身に着けた今の俺ならどこに行っても仕事に困らないからな!」
と叫んでおりましたわ。
父はアルフレッド様を睨めつけ、
「その守銭奴の金で家庭教師を雇い、本を買い、ノートやペンやインクを買い、馬と馬車を買い、御者を雇って学園に通い、学費を全て出して貰い修学した分際でよくもそんな口が叩けるな、恥を知らないのは貴様の方だ」
とおっしゃいました。
その時会場からクスクスと笑い声が起こり「みっともない」「物乞い伯爵令息」と聞こえた気がしますわ。
アルフレッド様は眉間にシワを寄せ「煩い! 黙れ!」と怒鳴り、ミランダ様の手を取り会場を出て行きました。
アルフレッド様のお父様がおっしゃっていた、アルフレッド様は楽しいときや嬉しいときに眉間にシワが寄るという話は嘘だったのだと、このとき気が付きました。
アルフレッド様のお父様はその場で土下座をし、
「すまなかった! 息子を連れ戻して再教育する! もう一度息子をレイチェル嬢の婚約者に戻してくれ……!」
涙を流しながら叫んでおりました。
父はアルフレッド様のお父様を無視し、私を連れて会場を後にしましたの。
私、そのあとどうやって家に帰って来たのか覚えておりませんわ。
気がついたら自室のベッドの上で、涙を流しておりました。
声を上げてわんわん泣きましたわ。
そして現在に至ります。
☆☆☆☆☆
「レイチェル、メイクを落とさなくてはだめよお肌に悪いわ。ドレスを着たまま寝たのね、ドレスがしわくちゃじゃない、ドレスを脱いでお風呂に入りましょう」
「レイチェルや、ホットレモネードとクッキーを作ってきたよ、少しは食べなさい」
お母様とお祖母様が私の部屋に入って来て、あれこれと世話を焼いて下さいました。
私、帰宅してからずっと部屋で泣いておりましたの、メイクは涙でぐちゃぐちゃ、オートクチュールのドレスはシワだらけ、髪はボサボサ、最低の状態ですわ。
ホットレモネードを飲んで、顔を洗って、髪をとかし、普段着に着替えをしたら少しだけ落ち着きました。
「お母様、お祖母様、騙しましたわね、【カウントダウンするラブ日傘】の話は嘘でしたのね!」
「嘘じゃないのよ」
「騙してはいないよ」
「だって、アルフレッド様に「好き」と言われるどころか婚約破棄されましたのよ。
お母様も、お祖母様も、ひいひいお祖母様も【カウントダウンするラブ日傘】の予知通りに思いを寄せる殿方から告白されたと聞かされていたから、私もアルフレッド様から告白をされるものだと信じて疑いませんでしたのに……!」
あら? そういえばひいお祖母様が【カウントダウンするラブ日傘】のお陰で幸せになれたというお話は聞いたことがないですわ? なぜかしら?
「告白とは「好き」と告げられることだけじゃないってことよ」
「お母様それはどういう意味ですか?」
「「嫌い」「婚約を破棄する」と告げられるのも、恋愛関係の告白のくくりってことさね」
「お祖母様、そんな……!」
「私の母、お前のひいお祖母様も当時の婚約者から誕生パーティーで婚約破棄されたのさ、【カウントダウンするラブ日傘】はそのことをちゃんと予知していた」
「それではお母様もお祖母様も、私が卒業パーティーでアルフレッド様に婚約破棄される可能性を考えていたと……」
「お母様は婚約破棄される可能性の方が高いと思っていたわ、アルフレッドはレイチェルの誕生日にプレゼント一つよこしたことなかったでしょう? パーティーでもエスコートしたことなかったし、お茶会ではいつも仏頂面だったし」
「わたしも婚約破棄されると思っていたよ、我が家での晩餐を断って幼馴染といちゃついていたような男だからね」
「お母様もお祖母様も、ミラが犬ではなく人間だと知っていたのですね、知っていて黙っていたなんて酷いわ!」
「ごめんなさい、でもこういう事態にならないとレイチェルはアルフレッドのことを諦めきれなかったでしょう?」
「恋は盲目というからね、どんなクズでゲスで救いようのないカス男でも恋愛フィルターがかかると王子様に見えてしまうものだからね。初恋の呪いを断ち切るには荒療治が必要だったんだよ」
「そうでしたの……」
お母様とお祖母様は私のためにしてくれたのね、私が不誠実な相手と結婚しないために。
「お母様、お祖母様、酷いことを言ってごめんなさい、二人は私のためにだまっていて下さったのに」
「いいのよ、娘のことを思うのが母親ですもの」
「孫が可愛くてしたことさ、一生恨まれるのを覚悟の上でね」
「お母様! お祖母様!」
お母様とお祖母様の思いやりの心が伝わってきて、涙がとめどなく溢れてきた。
☆
一時間ほど泣いたので少し気持ちが落ち着きました。
「お母様、お祖母様、どうしましょう!? 私十八歳になるのに婚約者がいないわ、おまけに卒業パーティーで公衆の面前で婚約破棄された傷物令嬢になってしまいました! このままではお嫁に行けず弟に迷惑をかけてしまうわ!」
このままだと、弟と弟の婚約者に小言を言う行き遅れの小姑になってしまうわ。
「新しい婚約者を探そうにも、優秀な後継ぎの方はすでに結婚しているか婚約者がおりますし、残っているのは博打が好きか、暴力を振るうか、無類の女好きか……とにかく同年代にまともな人は残っておりませんわ」
私が公爵家の跡取りなら貴族の家の次男か三男で優秀な方をお婿に出来たかもしれませんが、公爵家は弟が継ぎますから私はお嫁に行かなくてはなりません。
婚約者探しが難航するのは必至ですわ。
お母様とお祖母様が顔を見合わせ、にんまりとほほ笑んだ。
「同年代の婚約者が無理なら年下の男子を狙えばいいのよ」
「私の母、お前のひいお祖母様も婚約者に誕生日パーティーで婚約破棄されたあと、年下の男子とお見合いして結婚したんだよ」
「えっ? でも嫡男で婚約者がいない男子となると十二〜十三歳ぐらいですわよ」
十八歳の私とは年が離れすぎていますわ。
「大丈夫よ、昔から『年上の女房は金のわらじを履いてでも探せ』って言うじゃない?」
「お母様、わらじってなんですの?」
「東方の国の履物さ」
私の問いにはお祖母様が答えた。
「つまり、年上のお嫁さんは金の靴を履いてでも探せってことよ」
「レイチェルは器量が良くて学園の成績も優秀、礼儀作法は完璧、領地経営についても学んでる、引く手あまたね」
お母様とお祖母様はうきうきしながら「釣書が何枚届くかしら?」と言って部屋を出ていった。
果たしてそんなに上手くいくでしょうか?
卒業パーティーで婚約破棄された傷物令嬢と結婚したいと考える年下の令息が一人でもいてくださればよいのですが。
☆☆☆☆☆
私の予想に反して、その日の内に釣書が一枚届きました。
お相手はクリューゲル侯爵家の令息ロルフェ様、十二歳。
公爵家の庭にあるガゼボに行くと、栗色の髪の少年がおりました。
翡翠色の瞳の目鼻立ちの整った愛らしい顔立ちの少年。
「あら、あなたは……」
「また会えたね、お姉さん」
お見合い相手は、数日前カフェでのろけ話を聞いてくれた男の子でした。
恥ずかしい! よりにも寄って散々のろけ話を聞かせた相手がお見合いの相手なんて……!
あまりの恥ずかしさに、私はその場にへたり込んだ。
「どうしたの? 大丈夫?」
「うう……あまりの恥ずかしさに立っていられなくて」
「どうして?」
「だってあなたの前で散々アルフレッド様とののろけ話をして、その数日後婚約破棄されたんですよ。羞恥心で気絶しそうですわ……そのまま溶けて消えてしまいたいですわ」
「それは困るな、未来の花嫁がいなくなってしまう」
「はいっ?」
「お姉さんまだあの日傘持ってる?【カウントダウンするラブ日傘】だったかな?」
「持ってますけど……」
「その日傘って持ち主が思いを寄せる人から告白されるのを予知すると、カウントダウンを始めるんだよね?」
「その通りですわ」
「カウントダウンって一日単位なの? それとも時間単位?」
「最初は日単位で、残り一日になったら時間単位でカウントダウンされますわ」
「そうなんだ、じゃあこれから毎日お姉さんに告白をするね、もし【カウントダウンするラブ日傘】がカウントダウンを始めたら、お姉さんが僕のことを好きになったってことだよね? そのときは僕と結婚してくれる?」
「ええっ?」
「僕ね、あの日カフェで楽しそうに話しているお姉さんに恋をしちゃったみたいなんだ」
「ふぁっ?」
思わず間抜けな声が出てしまいました。
それから本当にロルフェ様は私に愛の告白をしてきました。
家族以外から「好き」と言われたことがなかったので、ロルフェ様から告白されるたびに私の顔は深紅に染まり、心臓がバクバクと音を立てました。
【カウントダウンするラブ日傘】がカウントダウンを始めるのは、ロルフェ様とお見合いしてから六カ月後のこと。
――終わり――
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短編「カウントダウンするラブ日傘〜卒業パーティーで婚約破棄された傷物の私に年下の美少年が迫ってきます・後日談」https://ncode.syosetu.com/n3626hf/