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第46話 無限の瞳と第四皇子

無限の瞳

 伝説の七勇者のリーダー、ミリアム・ギリアムが持っていた勇者の力。この力の所有者の目には∞の文様が刻まれており、使用時にはその目の分身のような魔法の目が対象を包み込んで効果を発揮する。不死身や再生能力等の使用者からして無限に近い能力を任意で破壊することが可能なチートスキルで、特定の属性に対しての耐性や、本来なら必ずそうなるはずの事象すらも無にすることが可能。

 1000年前、騙し討ちによって人間の女の姿となったジャドールから不老不死を奪い去っている。現在この力を有するミリアムの末裔は皇帝カンベール2世を含め2人しか存在しない。


スペルジェム

 魔法等を魔鉱石の結晶に封印、記憶して作られた宝石。これを持てば魔法のスキルを持たない者でも使用できる。呪符(スクロール)との違いは威力の幅が大きく、魔法以外のスキルも記憶できる自由度と、低威力の魔法であれば使用者の魔力を消費する代わりに何度でも使用できることで、初心者用の魔法の杖等に応用されている。

 無限の瞳が込められたスペルジェムは一回限りではあるが、かなり強力な力を持つ。使用時にはスペルジェムに含まれる魔力だけでは足りず、使用者の魔力も著しく削る。その為、十分な魔力を持たない者が使用すれば身体に大きな反動をもたらすので非常に危険。

 突如現れた精霊神シャドー・オブ・ワルキューレ、帝国ゾルダーやブラウリッター達の影に背幽霊のように憑依すると、それに驚いたゾルダーの攻撃を吸収して、青い炎として皇子の座乗艦に浴びせている。


下士官「撃つな馬鹿者!むやみに攻撃すると妖しいシャドー達同様にカウンターをしてくるぞ」


ブラウリッターD「奴の弱点は酒だ。この酒で…うっ」


帝国ゾルダーE「どうしました青騎士殿、ぐはっ!」


 シャドー・オブ・ワルキューレは乗り移る対象を次々に変えた。さらに、乗り移られた帝国ゾルダーやブラウリッター達が次々に倒れている。彼等の体は銃弾や矢によって貫かれていた。


???「私の精霊神は一定範囲内の戦闘員の影に潜り込んで移動できる。そして、憑り憑かれた目標は守りの魔法効果を失い、私の放った全遠距離攻撃が確実に命中するのよ」


下士官「精霊には精霊だ、魅羅駆瑠四式はまだか」


 精霊神が大暴れする中、動きを封じられて傭兵旅団に包囲されてモットを救出しようと、サカキ達が動いていた。


サカキ「何かは知らないが今のうちだ」


ナデシコ「この鎧の兵士達は魔法やエネルギーのやり取りを無効にするけど、植物で絡め捕ればぶん殴るだけで破壊できるよ」


ヤイヴァー「突破します。マスターを救出しましょう」


魔法騎士「血生臭いオーラですね。人質お構いなしに突っ込むのはモットの子分らしい」


 サカキ達の前に懐中電灯剣を構えた白いマントの魔法騎士が立ちはだかった。


サカキ「さっきの皇子の言動から、お前等はモット君を殺せないはずだ」


魔法騎士「その判断力は評価しますが、私のPTはそう簡単に突破できませんよ」


サカキ「コイツ等は怪人!?」


 魔法騎士は見慣れない怪人5体を率いてサカキ達に挑んできた。


魔法騎士「いいですか皆さん、フードはそのままで、正体は明かさないように戦って下さい」


植物系怪人「チェッ、せっかくの再会なのによぉ」


動物系怪人A「それ以外は何をやってもいいんだろ」


動物系怪人B「浄化してやる」


動物系怪人C「お前等、足引っ張んなよ」


甲殻類系怪人「ロブロブ!」


機械系怪人「その方が好都合だ」


リリンダ「フードで顔を覆っていてよく分からないでありますが、白い動物っぽい怪人3体に植物、水生生物、サイボーグもいるでありますね」


魔法剣士「怪人ギルドはモット団だけじゃありませんので」


 サカキ達は傭兵旅団に所属する謎の怪人達と戦闘になった。一方、動きを封じられたモットの目の前で見張りをしている旅団長Zは衝撃の一言を放った。


Z「感謝するぜ。モットが刑務所タウンで親父を死なせてくれたお陰で、俺に勇者の力が戻ってきたんだ」


モット「(時間停止みたいなスキルを使える奴、アシュラさんの息子だったのか。それに僕の事をこんなにも詳しいんだ?)」


 皇子の座乗艦周囲、急遽出撃した十数体の魅羅駆瑠四式は人造精霊妖しいシャドーを展開してシャドー・オブ・ワルキューレと取り憑かれた帝国ゾルダーを包囲した。精霊同士による攻撃は互いに有効となるらしい。

 ブラウリッターと帝国ゾルダー達からカウンターの原動力となる攻撃を受けた魅羅駆瑠四式の怪しいシャドーは剣や青い炎でシャドー・オブ・ワルキューレを攻撃したが、ワルキューレはそれらの攻撃を耐え凌ぎ、持っている銃から拡散誘導する青い炎の塊を周囲に放った。

 妖しいシャドー達は手持ちの盾を構えたが、吸収カウンター可能なダメージの許容範囲を超えたようで、その炎に飲み込まれて消滅した。本体である魅羅駆瑠四式は精霊を失って瞬く間に故障していった。


???「紛い物の量産型がオリジナルに勝てるわけないわ」


下士官「魅羅駆瑠四式が全滅しただと!?」


???「同族の魂はこれで救えた。安らかに眠りなさい」


ピーナツォン「間違いない、奴は焼野原のエルフが使役する精霊神だ」


ワンザー「このままでは旗艦が破壊されます。私が討伐に向かいましょうか?」


ピーナツォン「旗艦は放棄する。お前は私とコレを守って撤収準備を急げ(こっちまで来てみろ、この石で…)」


ワンザー「しかし、旗艦には捕らえた散弾のアンドロイドが」


 魅羅駆瑠四式を全滅させたシャドー・オブ・ワルキューレは皇子達の方角に向かって移動してきた。魔磁禍瑠六型の予備機6機が迎撃に出た。それらの間に隠れるように帝国ゾルダーが大量の酒樽を持って待ち構えている。


下士官「まだ撃つな、奴はカウンター系だ。ゾルダー達を囮にして接近してきた所を魔磁禍瑠六型で放り投げた酒を浴びせる」


???「撃たなきゃカウンターをされないとでも思った?そんなこともあろうかと、私にマッチした改造魔獣なんちゃらを借りてきたのよ」


バーナーフェニックス「ゲルシア殿、もう一回ですか?」


ゲルシア「さっきより高温でお願いね。私は直接火を受けるとそのダメージを全てをシャドー・オブ・ワルキューレに移すことができる。つまり離れていても単独でカウンターの炎を出せるのよ」


バーナーフェニックス「こんなに炎耐性が飛びぬけた人間は初めてですよ、装備品の火器にすら引火しませんし」


 モット達の援護に現れたのは焼野原のエルフの異名を持つゲルシアであった。ゲルシアはみいとこのモットに匿ってもらった恩を返そうとしている。


ゲルシア「焼き尽くせ、銃火砲ホワイトフレア!!」


 ゲルシアは改造魔獣バーナーフェニックスから火炎放射を受けると、シャドー・オブ・ワルキューレの銃から収束させた一筋の白い炎を放った。その炎は魔磁禍瑠六型と帝国ゾルダー達を包み込んだ。


下士官「殿下ぁ!!」


ワンザー「ブラウリッター、耐火付与で殿下を守れ、私と殿下周囲のPTはエンチャントアイスで熱を相殺する」


 ブラウリッター達は盾を構え、極大魔法防御の陣形を取って、炎に対する属性付与によってシャドー・オブ・ワルキューレの攻撃を耐え凌いだ。


ピーナツォン「ここでやられてなるものか!」


ワンザー「殿下、前に出るのは危険です!」


 皇子ピーナツォンはブラウリッター達の隙間から身を乗り出すと、ブラウリッターに憑依したシャドー・オブ・ワルキューレに向かって奇妙な模様の石をかざした。


ピーナツォン「不滅で永久に続くモノ、力の定めを越えしモノ。星々の輝きより明るく漆黒より深い無限の瞳よ、森羅万象の理に反するモノを破壊せよ!!」


ワンザー「殿下、無魔法のお体でそれを使えば反動が!」


 ピーナツォンの使用した謎の石が砕け散り同時にそこから無限の文様が刻まれた無数の目が出現した。魔力からなるそれらは∞の形の輪のようになってシャドー・オブ・ワルキューレを包み込むと、数秒で消えた。

 ピーナツォンは魔法使用の反動でその場に倒れた。ブラウリッター達が慌てて回復を施している。


ワンザー「殿下は任せた。私はあの精霊神を仕留める」


ゲルシア「しまったわ、なんか気持ち悪い魔法喰らっちゃった!?」


ワンザー「逃がさぬぞ、領域封じ小麦の園!」


 ワンザーはシャドー・オブ・ワルキューレの周囲に光輝く小麦を出現させて移動を封じた。続いて石炭、鉄鉱石、クリスタルの鉱床を出現させて、それらから三角の魔法陣を出現させた。


ブラウリッターF「乗り移られた私の失態、覚悟は出来ております。団長は使命を果たしてください!」


ワンザー「すまん、三角魔法陣採掘破!」


ゲルシア「きゃああああ!」


 3種の鉱床からなる魔法陣はワンザーが大剣を突き立てたことによって、上方向へ砕け飛んだ。同時にシャドー・オブ・ワルキューレと憑り憑かれたブラウリッターを巻き込んで打、突、斬のダメージを与えた。

 特性上通常での攻撃が効かないはずのシャドー・オブ・ワルキューレにワンザーの攻撃が通用した。また、後方でシャドー・オブ・ワルキューレを操作していたゲルシアも反動のダメージを受けて叫びながら倒れた。

 憑り憑かれたブラウリッターは鎧が半壊してその場に倒れた。同時にシャドー・オブ・ワルキューレは妖しいシャドーの時と同様に消滅した。


バーナーフェニックス「ゲルシアさんがやられた。どうしよう、マルチダ様に怒られる。とりあえず、私の血を」


 バーナーフェニックスは倒れて動かなくなったゲルシアに血を飲ませると、戦線に向かって飛び去った。

 モットのいる戦線付近ではサカキ達が傭兵旅団の正体不明な怪人達と激戦を繰り広げていた。また、便槽から消えたモットを追って駆けつけた三賢者のPTも援護に加わっている。


ニキータ「またしてもこんな所で実の兄と」


魔法剣士「実の弟で刃を交えるとは」


ドロン&サカキ「ええ!?」


ポニョン「ニキータ、さっきから様子が変だと思ったら」


魔法剣士「立派な僧侶になったようですね」


ニキータ「兄さんこそ光魔法使いじゃなかったのですか?」


魔法剣士「あっちはサブ職業ですよ」


ナデシコ「アンタ達兄弟再開中に悪いけど、この手ごわい怪人連中もどうにかしてよ、ウッドスパイク!」


植物系怪人「そいつは同感だ。俺だって色々話したいこともあんのに、正体隠せって言われてんだぜ。人面根!」


獣系怪人A「オラオラ、アークショットホルン!」


獣系怪人B「死ね死ね、ゴールデンストリーム!」


獣系怪人C「咆哮波!」


機械系怪人「メタルウィップ!」


甲殻類怪人「プラズマ波動ロブ!」


 サカキ達は苦戦を強いられている。その頃、モットの前で自らが刑務所タウンにいた看守のアシュラの息子だと名乗ったZは皇子達からの伝達を受け取った。


Z「精霊神は撃破、モットは放置して撤収準備を急げか」


 Zは部下達に撤収を命じた。蘇生可能な帝国側の死者を回収している。


魔法剣士「撤収命令です。皆さん退きますよ」


獣系怪人A「チィッ、時間切れか」


植物系怪人「あばよ…」


機械系怪人「あのメカ娘もデルの…」


ナデシコ「何かぶつぶつ言って下がりやがった」


サカキ「後追いはするな、今は必要最低限の戦闘でモット君の周囲を確保せよ」


 傭兵旅団の怪人達はその場からテレポートスクロールで姿を消した。魔法剣士はモットの目の前にいるZの隣まで飛ぶと2人でモットに話しかけた。


Z「死にたくなければ魔界Cにいろ、次に会う時があれば容赦はしないぞモット!」


魔法剣士「それじゃあ、また会いましょうモット」


モット「(あっ!その顔はゼウス!!)」


 ゼウスはモットがゼムノス団に所属していた際に世話になった眼鏡の光魔法使いであった。なんとなく三賢者のニキータと容姿が似ていたが、よくあるモブ顔だと思っていた。

 その頃、傭兵旅団に撤収命令を出した帝国の調査部隊もスキル反動から回復したピーナツォンに被害状況を報告して撤収準備を進めている。


ピーナツォン「やったぞ。目的のサンプルも手に入ったし、あの焼野原のエルフを仕留めた。犠牲となった将兵には感謝している」


ワンザー「ええ、余りにも犠牲が多いようで…」


ピーナツォン「何だワンザー、帝国ゾルダーが目の前で幾ら死のうが気にも留めないお前が?」


ワンザー「私も心変わりするのですよ殿下」


 その時、ピーナツォン達の前にバーナーフェニックスが現れて、世界樹の実を使って巨大化してきた。


バーナーフェニックス「ゲルシアさんの仇を討たねば、命果てるまでご奉仕を!」


ピーナツォン「邪魔者め、ブラウリッター!」


ワンザー「ここは私が!」


 ワンザーは懐からピーナツォンが使ったのと同一の石を取り出すとバーナーフェニックスの前に振りかざした。


ワンザー「不滅で永久に続くモノ、力の定めを越えしモノ。星々の輝きより明るく漆黒より深い無限の瞳よ、森羅万象の理に反するモノを破壊せよ!!」


ピーナツォン「お前も父上から受け取っていたのか!?」


バーナーフェニックス「何だこの目のような魔法は?」


ワンザー「冥途の土産に教えてやる。我が帝国の皇帝に代々伝わるチートスキル、無限の瞳だ!」


 ワンザーは大剣に水を付与すると巨大化したバーナーフェニックスを横一文字に切りつけた。


バーナーフェニックス「何だか分からないが私の体は滅びても数回は炎の卵となってそこから復活するのだ。命が完全に尽きるまで、お前達に損害を与えてやる」


ワンザー「そのフェニックスの復活能力を破壊した」


バーナーフェニックス「うっ、体の炎が消えていく。卵になれない!」


 バーナーフェニックスは卵になれないまま灰となって崩れ落ちた。


ピーナツォン「無限の瞳のスペルジェムは強力だな、それにしても雑魚相手にもったいないぞ」


ワンザー「先程殿下が傭兵旅団長も連れて撤収を優先すればこのようなことに使わなくて済んだはずです。こちらの損害も」


ピーナツォン「結果が同じならよいではないか」


Z「お取込み中失礼、ご指示どうりこちらの撤収準備は完了しましたぜ」


ピーナツォン「よくやった。褒美に怪人製造装置をもう一種くれてやる」


Z「それはありがたい皇子様。しかし俺達が欲しいのは周囲に影響を与えるアレだ」


ピーナツォン「分かっておる。お前達が扱えるように設計を簡潔にしておいた」


機械系怪人「こちらの評価も頼みたい。子分達を人間界で待たせているのでな」


ピーナツォン「お前達もZ同様に採用だ。サイボーグ海賊団」


 一定間隔で調査隊を囲んだブラウリッター達が転移魔法を唱えると、飛行艇も含め、彼等は何処かへと飛び去って離脱した。残されたのは機械兵団の残骸と大破した飛行艇、帝国ゾルダーの人骨だけだった。

 帝国の調査部隊が撤収して数十分後、傭兵旅団長Zが解いてくれたのか、モットは移動停止状態から解放された。


モット「ハアハア、死んでるけど死ぬかと思った。もう一生動けないかと」


サカキ「時間というか移動の停止なのか」


モット「そうなんだ。その場からどうやっても動くことができない状態にされてた。この間に戦ったアダマンジャーのガルドよりはるかに強化されたスキルだったよ(しかもアシュラさんの息子って)」


 モットは被害状況の報告を受けて事後処理を指揮した。しばらくしてモットの前に後方で動かなくなったゲルシアが運ばれてきた。目撃した仲間から活躍を聞くとモットは蘇生を試みた。


モット「数少ない親戚だし、お子さんも悲しむ。それに救援に来てくれたんだ。リザレクション!」


ニキータ「さっきから蘇生魔法を試しているのですが効き目がありません」


モット「僕のもダメみたいだ。精霊神を撃破されたゲリラ人はその反動ダメージを喰らうってのは聞いたが(それにしてもあの石、僕の持っているやつも)」


ポニョン「ゲルシアさんの体、心肺が停止してるけど死後に起こる反応が見られないわ」


ニキータ「そのようです。彼女の体から死のオーラを感じません」


モット「もしかして魔法以外で起こせば生き返るかも!?」


ヤイヴァー「ならば私にいい考えがあります(くたばれ、ゲリラ人!)」


 ヤイヴァーはゲルシアの喉元にチョプを放った。一同が唖然としたその時、ゲルシアが血を吹いて飛び起きた。


ゲルシア「ゲホゲホッ!」


モット「何が起きた」


 生き返ったゲルシアの話によると、精霊神が倒された場合に、反動でダメージを受けた本体のゲリラ人は仮死状態となって、時間経過で自動蘇生できるらしい。しかし、バーナーフェニックスが蘇生効果のあるその血を無理やり飲ませたことで、自動蘇生が阻害されて心肺が停止したままになっていたそうだ。


モット「よくやったヤイヴァー、200下僕ポイント追加だ」


ヤイヴァー「感謝致しますマスター(死んでいればよかった)」


サカキ「このナイトキングダム人のモットソルジャーが君を起こしてくれたんだよ」


ゲルシア「ありがとう。貴女は命の恩人よ(マジであり得ないわ、コイツいつか撃ち殺す)」


モット「所でゲルシアさんの精霊神はどうなった?」


 ゲルシアが念じても精霊神シャドー・オブ・ワルキューレは現れなくなっていた。


モット「あの皇子が使った石のせいだ。精霊に効かないはずの攻撃が効くようになっていた(あの騎士団長も焼き鳥みたいなマルチダの部下に使っていたな)」


ゲルシア「気にしないで、私が勝手にやったことよ。それに、私がこの力に覚醒したのは夫を失って悲しみと怒りで我を忘れた時だったの。モットちゃんに恩を返せたから、あの人も喜んでいてくれると思う」


モット「そい言えばどうやってここに?」


ゲルシア「戦闘実況を見ていてモットちゃんが危なくなってたから飛び出してきたのよ。娘はマルチダちゃん達に預けてきたわ」


モット「戦闘実況ってことは、マルチダの奴に全部知られてたか」


ドロン「モットの旦那、帝国が放棄した飛行艇からショットシェラーが見つかったぜ」


 帝国に捕獲され停止状態になっていたショットシェラーはローズによって無事再起動した。ショットシェラーは恩人となったゲルシアの下で働きたいと言い出し、相棒のバニーバレットと共に傭兵アマゾネスに加わった。

 ゲルシアと一部の仲間を先に帰らせると、モットは残った部下達と事後処理を遅くまで続けた。残骸となった機械兵団は回収してモトマチの本部で分析するらしい。

 東の帝国の帝都ナッツドブルグ。皇帝カンベール2世は調査部隊からサンプル回収に成功したと報告を受けた。


カンベール2世「そうか、息子達がやってくれたか。明日は政務を休む」


デスマルコ将軍「いよいよですな陛下」


 魔界C、モットは事後処理を終えると、周辺で一晩明かして、翌朝に魔王城へと戻り、三賢者やマルチダ達と会議を開いた。


マルチダ「昨日の件は水に流そう。帝国が来た原因はお前がゲルシアを連れてきたせいではなかったし、ゲルシアは彼女なりにお前を助けてくれた。勇者の力を失ってな」


モット「分かった。それで今後のことだ、2日後に主力を連れてモトマチの本部へ帰ろうと思う」


ドロン「いいのか旦那、魔界Cがまた妙な奴等に襲われでもしたら」


モット「その時は本部から早急に援軍を送る。それに魔界Cはジャドプター達の自警団でどうにかなるだろう」


マルチダ「確かにここへの転移魔法陣ルートは確保しているしな、一部の戦力を交代で駐留させる手もある」


モット「色々と大変だが後はジャドプターの代表者達と上手くやってくれ」


ニキータ「承知致しました」


ポニョン「任せて」


ドロン「俺の故郷のガノン村を再建していいと言われたら断る訳にもいかないしな」


 モット達は会議を終えて、各幹部達に魔界Cからの撤収準備を命じた。しばらくして、魔王城にジャドプターの長老達が押しかけてモットを引き留めようとした。


長老A「お願いです。ジャドール様、このまま魔界Cを治めてください」


モット「統治の事なら三賢者に任せてある。それに、僕は勇者であって、王でも皇帝でも邪神でもない。アンタ等に神格化されて崇められるのは迷惑だ!」


長老B「そんな~」


モット「ついでに言っておく、僕の像を建てたり絵や写真を拝む、その他妙な宗教活動は禁止だ」


長老C「ううっ、ジャドール様の末裔にあられる貴方様がそこまで仰るなら…」


長老A「では、せめてサインだけでも下さい!」


 同時刻、東の帝国帝都ナッツドブルグの研究施設、カンベール2世は自ら閉鎖していたこの施設にある人物を呼び寄せた。

 その人物は通称00-Tと呼ばれる第三皇子ピーナツォンのクローンであり、カンベール2世同様に勇者の力を有している。

 カンベール2世は00-Tを魔物強化装置のようなカプセルの中に入れ、何かの操作を行った。


カンベール2世「終わったぞ、00-Tよ。これでお前の寿命は通常の人間と同じになった。次期騎士団長たる者にふさわしい寿命だ」


00-T「私は普通の寿命になったのですね?」


カンベール2世「いかにもだ。しかし、気を付けよ。仮にお前が一度命を落として蘇生を受けると、本来の寿命に戻る。もう一度テロメア操作を行わねば、急速老化に苦しむことになるだろう」


00-T「蘇生ですか?」


カンベール2世「お前が死んだりせねば問題無いのだ」


00-T「命は限りあるモノ、陛下に与えられたこの命、尽きるその時まで大事に致します」


カンベール2世「うむ。ところで00-Tよ、お前が以前話していた勇者大学での親友のモットについて知っていることを詳しく教えてはくれぬか?」


 00-Tは素性を隠し偽名を名乗りミッドカットの勇者大学に留学していた。過去の行いに罪悪感を感じたカンベール2世による配慮によるものだった。

 00-Tは勇者大学でモットやアックスといった初めての友人を作り、長期休暇で帰国した際に数回カンベール2世に彼等のことを話していた。

 カンベール2世は魔界Cでのモット団による戦乱と00-Tの話に出てきた友人モットとの関係性を疑っていた。

 00-Tはモットの特徴と保有スキル、使用魔法や弱点属性について語った。また、モットは勇者仮免試験の実技でヒールだけが上手くいかずに、友人のアックスから特訓を受けて何とか習得することができたことや、モットはマンドラゴラを耳栓無しで直抜きして学費稼ぎに売りさばいていたこと、時々鳥語を話しながら無意味に石柱を地面から錬成する等して謎の行動をとっていたこと、そして、卒業の為の長期ダンジョン遠征演習において00-Tはモットの正体を知ってしまったことを話した。


カンベール2世「正体だと?」


00-T「あの時モットはレクイエムを聞いて倒れました。キュアでも意識が戻らなかったので、私は遠征PTから離れて中継キャンプに留まり、付きっきりでモットの傍にいました」


00-T「そして、私は見てしまったのです。収集品の中にあった聖なる銀の鏡でモットの状態を映しだした際に、モットの肉体が魔力で生成された高度な擬態魔法による姿だと…。モットはアンデッドだったのです。生身の肉体は既に朽ちて骨と化していました」


カンベール2世「なんと!?(サイボーグ化したスケルトンのような怪人の情報と繋がるな)」


00-T「私が覚えている限り、モットの骨部分には成長した痕跡がありました。アンデッドなのに人間同様に生きているかのように擬態しているのです。モット自身も自分自身がアンデッドであることに気づいていませんでした」


カンベール2世「それで、どうなった?」


00-T「私は悩んだ末に、モットをこれまで同様に友として接することにしました。誰にも正体を明かさずに、卒業して別れてからも」


カンベール2世「高度な人間擬態のアンデッドになれるのは魔王クラスの魔物血族者位だな」


00-T「しかし、私はある誓いを立てました。次にモットと巡り会えたその時、もしも彼が人の道から外れ、人類の脅威となることをしていれば、私は勇者ミリアムの血筋として自ら友を討ち、せめて魂だけでも救ってやろうと…」


カンベール2世「アンデッドの市民権は一部の都市国家や冒険者ギルドでは認められている。しかし、自分がアンデッドで周囲と違うと気づいたその時、果たして他の人間との共存ができるかどうかは保証できない。隠れ魔物血族者の暴走のようにな」


00-T「ですが、モットは決して人類に牙を剝くような人物ではないと思っています。私のこのランス、武具作成演習で作ったものですが、モットの助けがあって完成した武器なのです」


 00-Tは勇者大学でのとあるエピソードを語った。それは指定された材料、手法で武具を製作する勇者大学の実技で、00-Tとモットは共にミスリルを取り扱っていた。

 しかし、00-Tはミスリルのるつぼを割ってしまい、作りたかったミスリルのランスの製作が危うくなった。

 するとモットは自分のるつぼとの材料交換を提案して、00-Tに高純度のミスリルを譲って、自分は不純物だらけになったミスリルで棘ボールとサークレット、そして巻き糞のような怪しげな物体を作った。それによって00-Tはモットの素材を使って現在も愛用している大型のランスを作ることが出来た。

 カンベール2世は00-Tの持つランスをよく見た、持ち手部分にモットのサインが彫られていた。それはモット団のエンブレムと酷似している。


カンベール2世「やはり、そうか…」


00-T「陛下?」


カンベール2世「いや、それほど重要な問題ではない。お前の言うモットと名乗る人物が率いるギルドが最近目に留まってな(この子に事実を言うのは酷だろうな)」


00-T「そうでしたか陛下、私はアンデッドであっても友を信じております。そのギルドに出くわすことがあるのなら、モットであるかどうか確かめたい限りです」


カンベール2世「そうか…お前の友だ、私もモットとやらに直接会ってみたいものだ」


00-T「その時には私が一人前の騎士団長としてお守り致します」


カンベール2世「そうだな、この話はここまでにして本題に入ろう。00-Tよ私はお前を第四皇子として認知する」



00-T「!?」



 魔界C、その日の夕方、マルチダに呼ばれたモットは魔王城屋上にやって来た。城の周りを見晴らすと、建設中の建物が多く見える。


マルチダ「だいぶ町らしくなってきたな」


モット「全部城の形の集合住宅になる予定だ」


マルチダ「この城の立場がなくなるぞ」


モット「ここは宮殿ってことにすればいい。で、いったい何の用だ?」


マルチダ「預かっていて欲しいものがある」


 マルチダはモットに箱を手渡した。その中には2つの指輪が入っており、指輪は純金製でミスリルの装飾が施されていた。微弱ながら呪いの力も含んでいる。


モット「婚約指輪のつもりか?」


マルチダ「そうだ、婚約した異世界人はよく揃いの指輪をするらしいからな。お前が私と添い遂げることを望むときに、渡してくれればいい」


モット「いつの間に作ったんだ?」


マルチダ「お前が色々と留守にしていた間にな、銅の剣男に作らせた。指のサイズはお前が寝ている時に計っておいたからちょうどよいはずだ」


モット「なるほど、材質の金は海底洞窟でくれてやった呪いの指輪を二分してるな、このミスリルはもしかして…」


マルチダ「私の頭を砕いた棘ボールの破片だ。なんとなく思い入れがあったからな」


モット「アレは学生時代に作ったやつだった。まさかこんな形で再利用されるとはな(正確にはヌヌーティがるつぼを落とした時のだが)」


マルチダ「預かってくれるな?」


モット「分かった。お互いにこれから生き延びて、また大きな戦いを乗り越えたらその時にでもマルチダに渡す」


マルチダ「ああ、それでいい。無くすことはないだろうが、消失したらまた代わりを作らせる」


モット「僕からも頼みがあるマルチダ。もし、僕が先に死ぬというか魂ロストしたら、残った骨をあの墓地に埋めて欲しい」


マルチダ「お前が親族の墓を移設した魔王墓地にか?」


モット「そうだ、両親や妹、親族と同じ場所に自分の墓が欲しい。まあ、今までさんざん好き勝手やってきておいて、自分だけ埋葬してもらえるのは都合が良すぎるけどな」


マルチダ「構わないが、骨すら残らなかった場合はどうする?」


モット「僕が完全に死ぬとモットソルジャー用の細胞のコピーは消滅するが、ミニンに渡してあるコピー元の遺伝子サンプルは人間のに戻るはずだ。それで体の一部でも作って埋めといてくれ」


マルチダ「承知した。だが、お前の墓はジャドプター達から崇められそうだな」


モット「さっきも言っていたように僕は勇者のままでい。単なる一人の勇者として扱うようにしてくれ。死後も拝まれたり泣きつかれたりされるのは勘弁だからな」


マルチダ「変わっているな、お前のそういう所は」


モット「それに、ちゃんとマルチダもあの墓地に葬ってやる。この指輪を渡さないことがあってもな」


マルチダ「できればお前の妻としての埋葬が良いがな(それに私の親がいるのなら)」


 2日後、魔界Cの植民地を三賢者達に託したモットは住民達から惜しまれながらも、モット団の主力を率いて魔界Cを後にした。

シャドー・オブ・ワルキューレ

 ゲルシアの精霊神、女神の影の精霊で目視できる範囲内であれば戦闘員(争う意思のある者)の影に乗り移って移動できる。乗り移られた対象は防御と回避能力を著しく低下させられ、シャドー・オブ・ワルキューレに向けてゲルシアが放った矢や弾丸が自動誘導により命中する呪いも受ける。

 戦闘では武器の銃から受けた攻撃を炎に変換して拡散、誘導、放射、収束の状態で撃ち出せる。また、炎熱の属性に対して絶大な耐性を持つゲルシア本人が受けたダメージを全て引き受けて、遠距離からの操作でカウンターの炎として発射することができる。

 しかし、無限の瞳によって実体攻撃無効を破壊されたことにより、ワンザーの使用した物理ダメージを伴うスキルの前に敗北、消滅した。遠い血縁のガルドが使うウルカヌス同様に(アルコール)が弱点。


焼野原のエルフ

 ゲルシア達傭兵アマゾネスが補給部隊を襲う際にエルフに変装していた為に付いた異名。正体がゲリラ人であることが明るみになっても呼ばれ続けた。その為、某ロッパ残留エルフ協会から懸賞金を掛けられている。


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