第41話 ドラゴン商社の負債者
ドラゴン商社
大手冒険者支援サービス企業でケチ姫が創業した。ケチ姫を頂点にドラゴン関連の冒険職の正社員とその他契約社員の運営員から構成されており、竜騎士やドラゴントレーナーのエリートの就職先となっている。主な業務は冒険者への商業施設の提供、回転式無作為販売機の開発と提供、魔界でのナビゲーションサービス等がある。
しかし一方で都市国家間に戦争工作を仕掛けての兵器販売、イベントと称して過疎化した村にモンスターを放って誘致したハンター達に高額なランダム装備を販売、不要とみなした冒険者やギルドをBANと称して粛清する等の横暴も同時に行っている。
ケチ姫が独自に開発した依存性のある課金クリスタルという複製不可能な独自通貨も使用しており、多くの契約冒険者をその沼に引きずり込んでいる。
突如として魔界Cに現れた飛行集団は、ケチ姫が経営するドラゴン商社運営の精鋭であった。彼等はモット団の1部隊を見せしめに全滅させて、魔界Cでの留守を任されたマルチダに直接交渉を要求した。
マルチダはサカキ、ナデシコ、消毒マン、キメラ率いるマルチダ四天王、護衛のモットソルジャーや使い魔兵達と共に指定された地点へと赴いてケチ姫と対峙した。上空にはヤマタノオロチがドラゴンや戦闘ヘリと向かい合っている。
マルチダ「不在のギルドマスターモットに代わって、この魔界Cでのモット団代表を務めるマルチダだ」
ケチ姫「あらあら、どんな化け物かと思いましたが、私の同族の方でしたか」
マルチダ「同族だと?お前など知らん」
ケチ姫は対面したマルチダが龍族の血筋であると直感的に感じ取っていた。
ケチ姫「マルチダさんと言いましたわね、貴女龍族でしょ?例外を除き殆どの龍族は私の祖先、七勇者スイーツ・スイートの血を引いていますのよ」
ナデシコ「確かに髪の色だけは同じね」
キメラ「血の繋がりがあるから何だ、要求を言え」
ケチ姫「まあ、なんてみすぼらしい猫ちゃんですの。そうですわね、とりあえずモット団の皆様が今回やらかしたことでの損害を賠償して頂ければ、私達ドラゴン商社は撤収致しますし、今後一切こちらから干渉は致しませんわ」
ケチ姫達ドラゴン商社が示した賠償金は途方もない額だった。その内訳は世界樹のゲートの無断使用、過剰な戦力の持ち込みと行使、改造人間の禁術使用による巨大化、禁止区域への不法侵入、無償提供マップへの改ざん等の違反行為。
次に機密事項であった魔王の存在の暴露と無許可討伐、魔王側との取り決めであったジャドプター達の奴隷解放と反乱扇動等による魔界Cでの情勢破壊行為。
さらにはドラゴン商社得意先ギルドに対する回復不可能な加害行為と設置ガチャの物損による賠償、邪神ジャドール復活時の隠蔽工作費用も請求されていた。
マルチダ「払えるか、こんなもの!」
ケチ姫「それでしたら全員この世からBANさせていただきますって言いたいところですが、マルチダさんは私の親戚のようですので、それに免じてチャンスを差し上げましょう」
ケチ姫はマルチダにギルドバトルを申し込んだ。ケチ姫を倒すことが出来ればドラゴン商社は魔界Cでの損害をなかったものとして扱い、完全撤収するとまで約束した。
ケチ姫「嘘はつきませんわよ。ですが参戦はこの場の戦力のみで援軍は無し、互いのリーダーを倒した側が勝ちというのはどうでしょう?」
マルチダ「どのみち争いは避けられないか、受けて立つ。総員戦闘配置だ!」
キメラ「敵の数はおよそ300、こちらは500、数ではヤマタノオロチも含めて勝っております」
モット団とドラゴン商社の戦いが始まった。ドラゴン商社側は戦力を地上と空中の半分に展開させて、ケチ姫は自ら地上での戦闘に参加した。無数の竜騎士、ドラゴン使い、ドラゴンの被り物をした運営歩兵が敵部隊の主力となっている。
一方マルチダ率いるモット団側は地上にマルチダ、四天王、消毒マンの軍団が中心となって陣形を構えた。空中のヤマタノオロチにはサカキ、リリンダが指揮を任された。ナデシコ率いるメカ娘のフラワー隊は飛行能力を持つ味方を率いて、地上と空中両方の援護となった。
戦闘が始まった。その場で対峙してたケチ姫とマルチダは互いの眷属を衝突させ、魔法の撃ち合いを始めた。上空のヤマタノオロチはモット団とドラゴン商社が入り乱れている為に、主砲のイオンカノンを地上へは撃てない。
ドラゴン商社の空中部隊はヤマタノオロチのイオンカノンの死角に隠れて接近した。さらに、特殊な転移スクロールを使用してイオンシールド内部へと入り込んで、対空砲火やミサイルを躱している。
マルチダ「入り込まれただと、魔王軍の竜騎士より手ごわい奴らだ」
ケチ姫「あの戦艦は利用価値がありそうですわね。空中戦部隊はできるだけ無傷で占領しなさい」
イオンシールド内に侵入した竜騎士達が内側から穴を空けた。それによってドラゴンを模した戦闘ヘリことドラコプターがヤマタノオロチの甲板に着艦して、多数の歩兵を送り込んでいる。そして上部のイオンカノンが2基破壊された。その知らせを聞いて焦るマルチダにナデシコから通信が入った。
ナデシコ「安心しな、あの船には私の配下を配置しておいたから。やりなさいラッパラッパ!」
ヤマタノオロチの甲板ではナデシコの部下のメカ娘と共に異形な姿の怪人が出現した。それはメカ娘の部位を蠢くコードで繋ぎ合わせたような姿をしており、ラッパ銃のような花を全身から咲かせている。
その怪人はドラコプターから乗り移ってきた運営歩兵に向けて全身の花から散弾を発射して撃退すると、飛び回るドラゴンを氷の属性を付与した砲弾で撃墜して見せた。
マルチダ「死体と機械パーツに植物を合成したのか?」
ナデシコ「そうよ、気持ち悪かったけど色々と試行錯誤してアダマンジャー側に付いていたメカ娘の死体とサイボーグ巨人のコアをベースに作った私特製の怪人、ツギハギメカ娘よ!」
ローズ「私がAIを入れてあげたけどね」
ナデシコ「3体作った内の1体しか連れてきてないけど、サカキ達の援護にはなるわ」
マルチダ「少しは安心して戦えるか、一気に行くぞ!」
キメラ「御意!」
四天王はケチ姫SPの上級竜騎士の相手を引き受けた。マルチダはケチ姫との距離を詰めて、近距離で魔法を撃ち合った。その攻撃は互いに命中したがダメージを受け付けない、彼女もマルチダ同様にあらゆる魔法攻撃が効かないようだった。
ケチ姫「無駄ですわね、私には先祖から受け継いだチートスキルによってあらゆる攻撃が無効となりますの」
マルチダ「私の攻撃魔法無効と何が違うんだ」
ケチ姫「貴女のスキルは下位互換のようですね。毒、呪い、物理攻撃は防げますか?」
ケチ姫は呪いを込めたコインと怪しい色の液体を召喚してまき散らした。それらを受けたモットソルジャーや使い魔兵が苦しんでいる。地上への援護が必要と判断したナデシコは部下に空中を任せて、マルチダの元へ向かった。
マルチダ「何だコレは?(私には無効化できない)」
ケチ姫「カースマネーと工場廃液召喚ですわ。前者にはありとあらゆる呪い、後者には廃棄物エキスと毒素をブレンドしておきましたの!」
マルチダはケチ姫から飛んでくるそれらの攻撃をテレポートで回避した。しかし、テレポート先を先読みしたケチ姫はマルチダに向かってアダマンタイト製のフレイルを飛ばした。マルチダは避けきれずに腹部に衝撃を受けた。
マルチダ「がはっ!(よりにもよってアイツと同じような棘球か)」
キメラ「マルチダ様、ここは我らに!」
ケチ姫の前にマルチダ四天王が立ちはだかった。キメラはマルチダにヒールを使うとケチ姫に向かって獣王剣で切りつけた。しかしケチ姫の体には刃が通らず、受け流されてしまった。左手のかぎ爪で一突きしたがケチ姫の腹部には通らない。キメラが引くと今度はゴーゴンが毒鞭でケチ姫のフレイルを持った右手を封じて石化光線を浴びせた。さらにミミックが粘着爆弾をケチ姫に浴びせて、タイタンがレーザーでそれらを起爆した。
だが、煙が引くとケチ姫が何事も無いように立っていた。マルチダは先程ケチ姫がまき散らした呪いのコインと工場廃液をポータルで吸い込んでケチ姫の正面に浴びせた。ケチ姫はそれらの攻撃すら耐え抜き、ドレスの水滴を払いながら余裕の表情を見せた。
ケチ姫「ドレスが少し破けてしまいましたわね。装備再生成!」
マルチダ「コイツ、私より耐性の幅が広い」
ケチ姫「よく分かっておられますわね。先祖から私が受け継いだスキルは【被ダメージ遮断】。私自身に害を及ぼすあらゆる要因は全て私の意思で拒絶できますの!」
マルチダ「何が違うのかは知らないが、自分の方が優れているとでもと言いたいのだな」
ケチ姫「そうですわね、勝てない相手に挑んで散っていく雑魚達も私を飾る花ですわ」
キメラ「ふざけるな小娘が!貴様ごときにマルチダ様は屈しない。我等四天王だけで十分だ!」
マルチダ四天王は再びケチ姫へと飛びかかった。キメラがタイタンの援護を受けながらケチ姫に向かってフルパワーのホーリーブレスを放ったが、ケチ姫はチェーン部分に光を付与して回転させながら防ぎ切った。
そして素早くフレイルをタイタンに命中させて、工場廃液も浴びせてダウンさせると、死角から攻撃を仕掛けてきたゴーゴンの顔面に大きなカースマネーを叩きつけて弾き飛ばした。
次に切りかかってきたキメラをケチ姫はフレイルで軽くあしらい闇を付与したハイヒールで腹部に蹴りを撃ち込んだ。同時に爆弾両手に飛びかかってきたミミックをガチャのカプセルに閉じ込めて動きを封じた。ちょうどその時、ナデシコがマルチダの援護にやってきた。
ナデシコ「マルチダ、援護に来たよ!」
ケチ姫「あらあら、今度は魔法少女に比べておクソ雑魚なメカ娘さんですか」
ナデシコ「てめぇー、ぶっ殺す!変身!」
ナデシコはサタンフラワーに変身してケチ姫に蔦や根を伸ばした。養分を吸引しようとしたもののケチ姫の体には傷ひとつ付かなかった。キメラとマルチダはこの隙にナデシコから渡された生命活力の実に齧り付いて傷を癒しながら、ケチ姫の眷属に襲われているゴーゴンとミミックの救出したが2体は戦闘不能となっていた。
ケチ姫「所で他のモット団の皆さんもだいぶやられているようですわね。そろそろ、さらなる絶望をお見せして差し上げましょう」
ケチ姫の合図と共にドラゴンの被り物をした数名の敵冒険者がその場へ集まってきた。そして彼等が被り物を取ると見覚えのある顔が並んだ。
マルチダ「お前達は死んだはずでは?」
ガルド「ぜえ、ぜえ、待ってたぜ。俺達をこんな目に合わせたお前らに復讐する時をな!」
キメラ「確かに死体は闇のバクテリアに飲み込まれたはず。まさか、理論上不可能と言われた禁呪リスポーンか?」
ケチ姫「そんな非現実的なことではありませんわ。アダマンジャー幹部の皆さんは我がドラゴン商社のテクノロジーで復活させて差し上げましたの!」
アダマンジャーの主要幹部達はドラゴン商社による復活を保証する保険契約を結んでいた。それはモット団に攻め込まれてドラゴン商社に斬り捨てられた際に、無効となっていたが、魔王軍敗北後にケチ姫によって特約を追加され有効に戻されていた。
特約とは魔界Cでの魔王軍敗北の責任を取り、ドラゴン商社への債務を負うものとして、復活後は無条件にケチ姫直属の奴隷となることだった。
ガルド達は魂をドラゴン商社魔界C支社によって回収され、保険契約で登録していた遺伝情報から急速錬成したクローン人体への移植で再生。他の幹部達も同様に再生させらていた。
ガルド「クローンで寿命がだいぶ減る上に、ドラゴン商社で奴隷扱いされる俺達の人生、どうしてくれるんだ!」
狂戦士ゲレニア「ボスはまだマシなほうだよ、アタイなんか泥パックで殺された後、強制回収されるまでスケルトンとして操られていたんだから」
テイマーオリオン「何で俺が龍族に飼われなきゃならないんだ」
宣教師シェルト「金払えば自由の身になれますよね?」
ケチ姫「老後の福祉は削りたいので再生アダマンジャーの皆さんが生きられるのは20年程にさせて頂きます。ですが、稼ぎによっては人間の運営員としての待遇を用意して差し上げますわ」
ちょうどその時、ヤマタノオロチにもアダマンジャーの幹部達がサカキとリリンダの前に現れた。
呪術師マジュバ「アンチイオンホール!」
黒騎士ガーキン「へへへ、今度こそ、蛇腹剣夜目血苦柳夢+11!」
魔導技師ドマル「よくも私の傑作をあんな珍妙な怪人に!」
狙撃手トルボー「インチキ散弾女ロボは何処だ!」
リリンダ「この者達、精神をだいぶやられているでありますね」
サカキ「ああ、モットソルジャー達の方がマシな気がするぞ」
一度倒され復讐に燃える再生アダマンジャー、彼等の士気は以前より上がっている。マルチダは彼等の一斉攻撃をテレポートで回避したが、回避先でケチ姫からのフレイルが肩を擦れた。その瞬間、マルチダはテレポートを使用できなくなった。
マルチダ「この感じ、まさか」
ケチ姫「ちょうど今、ガルドさんのそぎ落としを付与しておきましたの」
ガルド「モットとか言うゴミ屑の女だったな。テレポートはもう使えないな、先ずはお前の首を棒に刺してあの男に見せつけてやる!」
ガルドは精霊神ウルカヌスを出現させ、マルチダに狙いを定めて突撃してきた。キメラはマルチダを庇おうとしたがオリオンとゲレニアが立ちはだかった。さらにナデシコはシェルトの精神勧誘スキルにより体の自由を奪われそうになっていた。
ナデシコ「ちょっと体が、勝手に…。味方は異端者、悔い改めなさい…」
操られたナデシコは味方に光弾や植物魔法を乱射してきた。
マルチダ「ナデシコから離れろ」
キメラ「やむ負えない、花女を昏倒させる」
オリオン「させるか、サモン害虫!」
ゲレニア「アタイの剣はね、血を吸えば吸うほど猛獣のように狂暴になるのよ」
キメラ「ええい、邪魔をするな!」
体を操られたナデシコは特大魔法を放とうとしている。マルチダは味方の被害を避けるためにその攻撃を1人で受けようとしたが、宙に浮かせたアダマンタイトの武器を足場代わりにしたガルドが行く手を阻んだ。
ウルカヌスで魔法攻撃を吸収してくるガルドはテレポートを封じたマルチダを追い詰めて、武器を振りかざそうとした。その時、何かがガルドとウルカヌスを攻撃して撃ち落とした。
ガルド「うがっ!」
消毒マン「使用人さん達から貰ったデータの敵がいたので飛んできたよ」
地上部隊の西側でサイバー家電獣を率いて戦っていた消毒マンがやって来た。ガルドは何が起きたか分からずに悶えている。呆れたケチ姫がガルドを回復すると今度は消毒マンめがけてアダマンタイトの武器を振り落とした。
ガルド「すり抜けられた、そぎ落としも発動していないだと!?」
消毒マン「無駄だよ、オイラは防御時に魔力を捨て去ってプログラムだけの存在になれる。物理攻撃もその他スキルは通用しない」
そう言うと消毒マンは両腕から生成したアルコールバスターをガルド目掛けて解き放った。ガルドはアルコールに包み込まれ、マルチダの吐いた火炎放射で爆発飛散した。
ガルド「ぬあああああ!!」
シェルト「ギルドマスター、ハイリザレーショ…」
ナデシコ「よくも操ってくれたわね」
シェルトは慌てて蘇生魔法を唱えたが、それと同時にナデシコへの支配が少し解除された。ナデシコは力を振り絞って、蔦で巻き付けたレーザーソードを矢のように飛ばしてシェルトに突き刺した。そして完全に自由を取り戻すと、痙攣するシェルトに急接近して上半身を両断した。
ナデシコ「後で食ってやる。カルト女」
ケチ姫「とても不愉快ですわね。せっかく蘇生してあげましたのに、こうも簡単に倒されるなんて納得できませんわ!」
ヤマタノオロチの甲板ではガルド達が倒されたことも知らずに再生アダマンジャー達が戦っていた。
その戦闘によってヤマタノオロチはイオンカノンが上部全てと下部の2基が破壊され、他の武装もことごとく損害を受けて、一定時間で穴を修復できるイオンシールドを除けば、ほぼ宙に浮く無抵抗な塊と化していた。また、内部に侵入した敵をサカキ配下の三獣将率いるビーストファイター達が迎撃している。
サカキは黒騎士ガーキンの装備の前に苦戦を強いられていた。ラッパラッパは狙撃手トルボーと打ち合いをしていたが、魔導技師ドマルの機械分解スキルで弾薬生成機能を破壊されて一気に弱体化した。
サカキ「斬撃を吸収して武器から放出するだと!?」
ガーキン「この鎧は斬撃を吸収して相手へと跳ね返すんだ。お前達のカマイタチ程度では効かないぜ」
ドマル「属性合成怪人、お前も私のテクノロジーの前に屈するのだ。可逆反応封じ!」
マジュバ「くらえ、冷え性の呪い!」
リリンダ「しまったであります」
属性の勢いを弱められたリリンダは弱体化してその場で膝をついた。
トルボー「その程度か、機械植物生命体?」
ラッパラッパ「我、残弾数あと僅か、補給求む!」
銅の剣男「サカキさん下がってくれ、ここは俺の出番のようだな」
サカキ「お前は、鍛冶場担当の?」
銅の剣男「これでも前の世界で高精練レベルの聖剣を扱っていたんだ!」
銅の剣男は体を傾けて頭部の剣をガーキンに向けると突撃した。
ガーキン「アホか、そんな剣士のマスコットみたいな姿に俺の装備が負けるはずがない。只の銅とヒヒイロカネ製の蛇腹剣じゃ硬さが違うんだよ!」
銅の剣男「かかったな、精錬紅蓮突破苦呆の構え!」
ガーキンの放った蛇腹剣が銅の剣男の頭部に触れた瞬間、蛇腹剣はあっという間にバラバラになった。何が起こったか理解できないガーキンの胴に銅の剣男は頭部を叩きつけた。
銅の剣男「鎧もだ、精錬紅蓮突破煙稚暗賭の構え!」
ガーキン「ウボァ!」
斬撃を反射するガーキンの鎧が黒い煙と共にその効力を失ってガーキンは跳ね飛ばされた。
実は鋼の剣男は怪人になったことで一定精錬レベルの武器の破壊や希少エンチャントの装備品をハズレエンチャントに変更するといった装備系の弱体化スキルを獲得しており、鍛冶場を任されていたことでそれらのスキルに覚醒していた。
この能力覚醒は改造前にモットから与えられた怪人素体化クリスタルの副作用であるが、モット自身もこの効力には気づいていない。
サカキ「これで斬撃を飛ばせる、特製カマイタチ!!」
マジュバ「その程度の風属性、打ち消してあげる。風よ空気と化せ!」
マジュバはサカキ達が放ったカマイタチを呪術で打ち消した。しかし、消えたカマイタチの中から多数の刃物が現れ、マジュバのローブを切り刻んだ。
マジュバ「銃弾みたいに防ぎきれない、いやーっ!」
サカキ「2人倒したぞ。形勢逆転打だ、これ以上ヤマタノオロチ艦内に敵を入れるな」
ラッパラッパ「最終手段承認されたし」
最終手段としてラッパラッパはナデシコが仕込んでいたプログラムによって巨大化した。ヤマタノオロチ甲板上に突如と表れた巨大化怪人にドラゴン商社の軍勢は混乱した。ラッパラッパは足元に根を伸ばして弾薬を吸収して補給している。
ドマル「巨大化したのが運の尽きだ、ゆくぞトルボー!」
ドマルとトルボーは巨大化したラッパラッパに飛び乗って、ラッパラッパの上から遠距離攻撃で抵抗してきた。ラッパラッパはドマルの機械センサー妨害スキルにより2人を体から排除できない。
サカキ「くそっ、あいつ等さえ排除できれば竜騎士とかどうにかなるのに」
リリンダ「サカキ大将殿、僕にいい考えがあります」
サカキ「ん?」
一方、地上での戦闘ではガルドや回復役のシェルトを倒されたアダマンジャーのオリオンとゲレニアが追い詰められていた。ナデシコは害虫の大群を引き寄せるウツボカズラを全身から生み出してキメラを援護した。
オリオン「植物メカ娘の奴、俺の飼いならした害虫共を、ぐわぁーっ!」
キメラ「虫さえいなければこっちのものだ。ホーリーファング!」
害虫による守りを失ったオリオンはキメラに頭部を嚙み千切られて絶命した。マルチダは最後に残ったゲレニアの剣を自らの血で作ったブラッディーブレイドで受け止めるとスキルを発動させた。
マルチダ「武器を血まみれにしたのは迂闊だったな、同化!」
ゲレニア「ちょ、何よこれ、血の剣が私の剣を飲み込んで…イダイ、なんで、また包み込まれてんのよ私!」
マルチダの血と同化したゲレニアの剣の血は瞬く間にゲレニアを飲み込んで、無数の刃となり突き刺さった。
ナデシコ「マルチダ、それも後で食っていいの?」
マルチダ「いいが、私の分も残しておけ」
ちょうどその時、ヤマタノオロチでは巨大化したラッパラッパに乗り移ったドマルがラッパラッパの動作をハッキングしてサカキ達を追い込んでいた。
ラッパラッパ「我、異物による自立行動の妨害を確認」
ドマル「どうだ、巨大からくりゾンビのコアを使用したのが仇となったな。それに私の生成したこのコックピット、ちょっとやそっとの攻撃では破壊できないぞ!」
トルボー「持っていた砲撃スキルがこんなところで役に立つとは」
リリンダ「そろそろで、ありますね」
サカキ「リリンダ、巨大化したナデシコの手下がついに操られてしまったぞ、このままじゃ甲板上の味方はアイツ等の的だぜ」
リリンダ「今であります。銅の剣男!」
銅の剣男「よっしゃ、任せといてくれアーマー精錬!」
リリンダの命令でドマル達に気づかれないようにラッパラッパをよじ登っていた銅の剣男は敵が作ったコックピットの周囲を精錬スキルで頑丈にした。
ドマル「なんだ、なんだ!?」
リリンダ「サカキ大将殿、ラッパラッパの左足に集中攻撃であります」
サカキ「おう、フレンドリーファイアーは好かないが勝つ為なら仕方ない」
銅の剣男がラッパラッパから降りたのを確認すると、リリンダとサカキはラッパラッパの両足を切断した。バランスを崩したラッパラッパはヤマタノオロチから転がり落ちた。
リリンダ「イオンシールド一時解除であります!」
ドマル「焦ることはない、この化け物は飛行能力を有していたはず。すぐに飛行機能にアクセスできれば…」
ラッパラッパ「時間切れ、自爆30秒前…」
ドマル「しまった、この化け物は巨大化後に強制自爆するぞ」
トルボー「こ、コックピットから脱出できないぞ」
銅の剣男「悪いな、俺が外から塞いでやったんだ」
サカキ「ヤマタノオロチを急上昇、イオンシールドの範囲外へ遠ざけろ」
ラッパラッパ「我、自爆のメロディーを奏でる!」
ドマル「ふざけるな!」
トルボー「くっそったれー!」
ラッパラッパはドマルとトルボーをみちずれに空中で木っ端みじんに爆発した。自爆と同時に巨大化の効力が切れて地上への被害は少ないようだった。
リリンダ「先ほどナデシコ隊長殿から配下の怪人は巨大化すると5分後に自爆すると聞いていたでありますよ」
サカキ「そうだったのか、色々と突っ込みどころはあるが、敵が混乱している。今はこのまま押し切るぞ!」
上空での謎の爆発を見たマルチダだったが、ヤマタノオロチの損害ではないとすぐに分かった。
キメラ「マルチダ様、ヤマタノオロチからの報告です、再生アダマンジャーは全滅しました」
マルチダ「キメラ、ナデシコ、消毒マン、よくやった。後はケチ姫を討ち取るまでだ」
ケチ姫「みんなあっけなくやらてしまいましたね。所詮は斬り捨ててもいいような末端の負債者でしたか。こうなれば、私自ら本気を出して皆さんを絶望させて差し上げますわ」
再生アダマンジャー達の全滅を知ったケチ姫であったが、未だに余裕の表情を見せている。ケチ姫の本気とは?
ケチ姫
姫を自称するドラゴン商社のCEO。七勇者スイーツ・スイート直系の子孫で龍族。魔界Aで代々奴隷として暮らしていたが、ある日拾った高価なクリスタルの価値を知ったことで、暗い性格から豹変して商人の才能に目覚めた。後に稼いだ金で自分を買うことで自由の身となって冒険者支援業を始め、多数の企業を買収して大企業ドラゴン商社を築き上げて、業界のトップに成り上がった。
先祖から受け継いだ能力は寿命以外で死なないスキルで、ドラゴンにも変身できて多くのドラゴン類を眷属として従えている。肌は青いがマルチダとは血縁が近いようで髪の色は同じ。
姫を自称しているのは結婚願望があり、いつか鎧を着た王子が白い船に乗って迎えに来ると信じているから。
ツギハギメカ娘
メカ娘の残骸にナデシコが生み出した命の実を与え、それに戦闘能力に影響する1種の植物とメカ巨人ゾンビの機械コア、サイバーノイドのローズに作らせたAIを加えて誕生させた。臓器や機械部分が露出しており、生前とはかけ離れた異形の姿をしている。魔法耐性は低く、機械的な会話しかできない。巨大化できるが、数分後に自爆する。
ラッパラッパ
ナデシコ配下のツギハギメカ娘第1号。素体はアダマンジャー側に雇われていたメカ娘の死体。合成されたテッポウユリから滑腔砲と散弾が発射可能で、その攻撃には全ての属性を付与できる。同じ散弾使いのショットシェラーより戦闘力は劣る。