第36話 巨大化アイテム
初心者狩りに遭ったモット団は総力を挙げて敵対ギルドとその傘下に対しての報復攻撃を行った。その勢いはすさまじく、わずか数時間で敵側の小拠点や施設をことごとく破壊して、敵勢力圏の半分以上に侵攻していた。
アダマンジャー本拠点。
アダマンジャーギルドマスター「今度は何処が落とされたんだ?」
アダマンジャー呪術師「精錬場、鉱山、監視塔、砦、キャンプ地、奴隷の宿舎、それらが多数です」
アダマンジャー黒騎士「奴らは巨大な飛行戦艦で我々の砦や拠点を破壊して、呪われた歩兵を一気に降下させて攻め込んでくる」
アダマンジャー狙撃手「呪われた歩兵?」
アダマンジャー宣教師「殺すと溶けて白骨化する奴らです。アンデッドなのかホムンクルスなのかよく分かりませんが、聖職者系の攻撃には弱いようです」
アダマンジャーテイマー「捕虜にしていたのを何人か尋問したら、情報を話そうとした瞬間に溶けやがった…」
アダマンジャー呪術師「裏切れば自滅するように呪いがかけられているのですね」
アダマンジャー魔導技師「こちらの保有する戦車や航空機で応戦しましたが巨大戦艦のバリアのようなものに阻まれ、改造されたモンスターにことごとく撃破されています」
アダマンジャーギルドマスター「そうか…」
アダマンジャー狙撃手「ボス、どうするんです?」
アダマンジャーギルドマスター「ドラゴン商社に救援を求めたが管轄地域外として相手にされなかった。同盟ギルドも今回の知らせを受けて俺達との同盟を解消してきた」
アダマンジャーギルドマスター「だが、手はある。魔王軍だ!」
アダマンジャー歩兵「ギルドマスター、魔大臣タマと名乗る魔王軍の使いが面談を求めてきました」
アダマンジャーギルドマスター「来たか」
アダマンジャーギルドマスターの元に数体の悪魔兵を従えた緑のマントのアンデットが現れた。
魔大臣「お前があの時仲間を売った敗残兵のせがれか」
アダマンジャーギルドマスター「そうだ、昔親父のシュマルツが世話になっていたな。ガルドだ」
アダマンジャーギルドマスターは魔大臣を名乗るアンデッドと取り決めを行うと、全兵力に勢力圏からの撤退を命じて、魔大臣が用意したポータルに入って何処かへと姿を消した。
数時間後、無人となったアダマンジャーの本拠点にモット達は降り立った。
モット「途中で数が減ってきたと思ったら、同盟や傘下も含めて逃げやがったか」
サカキ「魔界Cでの逃げ場は彼等がよく知っているかなら」
モット「まあいい、いつか見つけ出して皆殺しにしてやる」
サカキ「モット君、ギルド交流チャット見てくれ、俺達への称賛でいっぱいだ」
サカキがモットに見せた魔界Cでのギルド交流チャットには「モット団よくやりました」や「アダマンジャーざまあ」等のアダマンジャーに恨みを持つギルドによる称賛の嵐だった。
モット「ひとまず事後処理だ。救出したジャドプター達を世界樹の盆地に集めておけ」
???「それでどうする?」
モット「ひとまず彼等を懐柔して魔界Cでのギルド領地で…ってお前みたいなダミーリッチいたっけ?」
ハヤト&カリア「ご主人様、彼は今湧いてきた正体不明のアンデッドです」
モット「何者かは知らないが、者共やっちまえ!」
突然モットの目の前に現れたのは魔大臣を名乗るアンデッドであった。武器を構えて取り囲んだモットソルジャーや怪人達を素手で軽く蹴散らして、モットの護衛のハヤトとカリアまで闇の衝撃波で跳ねのけると、モットの前まで迫ってきた。
サカキはそのアンデッドに光の剣で切りかかったが、片手で掴み取られて防がれた。
サカキ「コイツ、弱点のはずの光属性の刃を受け止めてやがる」
魔大臣「まあ待て、私はこの魔界の政務を担当する魔大臣タマだ。お前達が不正転移と過剰な戦力を持ち込んだモット団というギルドだな?」
モット「そうだ。僕がそのギルドマスターの闇の勇者モットだ」
魔大臣タマ「勇者か、下らん称号を…」
魔大臣タマはモット団に対して、この魔界での行いは人間側との協定に反するとして、即座に退去するように警告してきた。しかし、モットはこれを拒否。魔大臣タマは魔王軍を招集してモット団を壊滅させるとの脅しもしてきたが、モットは動じなかった。
モット「だったら魔王軍とやらを招集して、僕らと対決してみたらどうだ?」
魔大臣タマ「よかろう。しかし、その前に我が力を思い知らせてやる」
魔大臣タマはアイテムBOXから手持ち大砲のような弓を取り出すと、上空のヤマタノオロチに向かって一発矢を放った。その矢はヤマタノオロチのイオンシールドを貫通して船体の一部を貫いた。
モット「やりやがったな、被害状況は?」
サカキ「艦内の設備が一つ破壊されたみたいだが航行に支障はないそうだ」
魔大臣タマ「次の一撃で沈める」
魔大臣タマはモットとサカキの攻撃を素早く躱すと、高台に移動してヤマタノオロチの機関部を狙って爆発魔法を込めた矢を放とうとした。
魔大臣タマ「沈め、人間の兵器!ぐっ!」
しかし、魔大臣タマは何故かヤマタノオロチを撃つのを止めた。
魔大臣タマ「(何だ、この感じは?体が動かない)」
魔大臣タマ「気が変わった。今日の所はこれで済ませてやる。我が魔王軍は3日後にお前達が居座る世界樹の盆地を攻撃する。ジャドプターの民もお前達も皆殺しだ」
モット「いいだろう。僕らが勝ったらこの魔界は貰うからな」
魔大臣タマ「逃げ出すなら今の内だぞ、さっき見せたようにお前達の空飛ぶ船も我が力の前には無力だ」
魔大臣タマは何処かへとテレポートしていった。モットはその日のうちに事後処理を済ませてヤマタノオロチで世界樹の盆地へと向かった。
マルチダ「さっきのは何だったのだ?イオンシールドを貫通してこの船の汚水処理設備で爆発したぞ」
ナデシコ「修理が終わるまでトイレ使えないじゃないの」
モット「僕の記憶が間違えなければ、あの力は以前にも見たことがあるやつだ」
サカキ「ああ、ベスタ軍からこの船を強奪した際にな」
マルチダ「あのまずかった勇者の末裔の使っていたスキルか?」
モット「高確率でソレだ。どのようにしてこの魔界に伝わったのかは不明だが」
翌日、世界樹の盆地ではモット団が魔王軍との戦いに備えて準備を進めていた。
モット「アダマンジャー側から奪った資源のウソウソプリウムは本部へ最優先に送れ、モットソルジャーの生産を急がせる。他の有価物はギルドオークションで売りさばいて少しでも軍資金を稼ぐんだ」
リリンダ「総司令官殿、破損した戦車と同型のものを新生ベスタ軍から安く買えたであります。航空爆撃機モブファイターも購入できたであります」
モット「魔導アーマーとロボット兵も追加で頼む」
リリンダ「魔磁駆瑠シリーズはメーカーのマッパカンパニーへの直接注文になるであります。首狩り荒野にいる部下に即日納品出来るか問い合わせさせるであります」
サカキ「モット君、さっき貰った予算で獣人向けの木製クロスボウ戦車を18両を購入したぜ、明日の昼には転移ゲートから送られてくるはずだ」
モット「本来なら本部を守らせている再生怪人とサイバー家電獣達も呼びたいが、仮拠点での失敗もあるから手薄には出来ないな」
マルチダ「兵は足りるのか?私の作れる使い魔兵や改造魔獣にも限りがあるぞ」
モット「見ての通り、昨日の報復攻撃で得られた戦利品を売った金や物々交換で装備や兵器を整えている」
マルチダ「ジャドプターと言うのだったか?ここに連れてきた魔物血族者の奴隷達から志願兵を募ったらどうだ?」
モット「それは無理だった」
マルチダ「2、3万はいるのにか?人間界への転移も拒んでいるそうだが」
モット「頼めば作業とかは手伝ってくれるから、こちらで保護した恩は伝わってはいるんだけど、彼等は戦いに直接関与することには非協力的だ」
マルチダ「こちらの数は増やせてもせいぜい1万足らずだ。この盆地で守りながら籠城するのはリスクが大きいぞ」
モット「魔王軍の数や兵装は不明、何でも貫く矢を放つ魔大臣もいるし、そいつ等を従える魔王の力も未知数だ。だから奥の手は考えてある」
モットはマルチダとサカキを連れて、リッチ達に守られた荷物の前までやって来た。モットが木箱や樽を開けていくと、そこには謎の杖、妙薬、毒々しい果物等が詰められていた。
サカキ「この妙薬って、ハト釘バット達が持っていたやつか?」
モット「そうだ、契約料が高く付いたが、製法を得ることができたおかげで、眷属のリッチ達に量産させた」
ヤマタノオロチ強奪作戦における巨大化怪人の活躍を評価していたモットは、人間に化けさせたポチとロドリデゲスに怪人巨大化アイテムを売っているという謎の老婆を探させていた。
ロドリデゲス達は妙薬の成分から謎の老婆の居場所を割り出して接触を果たし、怪人の種類に応じた巨大化アイテムとその製法をローンで購入していた。
モット「怪人の分類で巨大化方法が少し異なるらしいが、どれも使うと数分間だけ巨大化して、圧倒的な攻撃力を得られる。但し、怪人としての改造を受けてない者には強すぎて効果を発揮しないそうだ」
サカキ「つまり、この妙薬をまた部下達に使えってことだな?」
モット「レンジャーイノシシの件もあってサカキには悪いが、勝つための手段は選べない状況だ」
マルチダ「時間経過で元に戻るのだな、それならば配下の改造魔獣に配っておくぞ」
モット「一応2人には強制はしない。僕の配下の怪人達にも選ばせるつもりだ」
サカキ「分かった。モット君を信じてこの妙薬を獣怪人達に配っておく」
モット「まあ、使うかどうかは魔王軍の戦力次第だ」
マルチダ「この変な色の果物が改造魔獣用だな」
モット「ああ、それは世界樹の実デカデカの味、モンスターベースの怪人にのみ大いなる力を発揮すると聞く。人間が食べると腹を下すぞ」
サカキ「世界樹の果実に妙薬みたいな薬でも注入してるんだろうか…」
モット「ちなみにこの杖は大怨霊の杖、倒された直後のタイミングにしか使えないが、怪人の魂を呼び止めて蘇生して巨大化させられる。一般怪人向けだ」
マルチダとサカキはモットから巨大化アイテムをそれぞれ与えられて配下へと分配した。怨霊の杖は使用条件からモットと一部のリッチ達が持つこととなった。
モット「ポチ、ロドリデゲス、お前達は今までの働きからダミーリッチの呪いを解いてやった。そのかわりに一般怪人がやられたらタイミングよくこの杖を投げて巨大化させるんだ」
ポチ「合点承知」
ロドリデゲス「これで身代わりにされる恐怖からは解放される」
最終手段である怪人達の巨大化の話を終えるとモットは鍛冶場へと赴いた。ここではアダマンジャーの拠点等から奪った鍛冶設備が移設され、銅の剣男の指揮の下、ジャドプターの鍛冶職人も加えて近接用武器を量産、精錬している。
銅の剣男「これは大総帥様、只今モットソルジャー向けの新武器を製錬しているところですよ」
モットソルジャー用の近接武器でステンレスの刀だけでは不十分と考えたモットは彼等に携帯させる新武器として、斧、両手剣、鎌、チェインフレイルを新たに作らせていた。
マルチダ「この棘ボールは…」
モット「僕がマルチダの頭をカチ割った時のミスリル球を量産した。素材をケチって純度は低いけど、チェーンで敵を絡めとることも可能だ」
モットは出来上がった新武器を主力となるモットソルジャーへ能力や戦果に応じて配備させた。新たな近接武器を与えられたモットソルジャー達はドロン達戦士系の冒険職によって武器の扱いの指南を受けている。
別の場所ではポニョン達魔法職が魔法の杖の一斉攻撃を指導しており、その隣ではリリンダや新生ベスタ兵達によって重火器の射撃も訓練させていた。
モット「戦闘に不慣れな奴が多いし、本部から追加で来たモットソルジャー達はここで訓練させるしかないからな。僕の命令でも技量だけは操れないし」
サカキ「バズーカ砲やショットガンも大量に導入したのか、俺も猫耳兵達とクロスボウ戦車のマニュアルを読んでくるぞ」
こうしてモット団は魔王軍との対決の日までに戦力を整えた。対する魔王軍は魔界C全土から戦闘魔族の軍勢とアダマンジャーを中心とするハンターギルドの連合を集結させていた。
もしもモット団が勝利して魔界Cの覇権を握ったのなら、ジャドプターの奴隷達は全開放されるという噂が流れており、娯楽や奴隷を失うことを良しとはしないハンターギルドの多くは、アダマンジャーの連合に加わっていた。
また、今回の戦いにおいては魔界Cでの多くの娯楽地を管理するドラゴン商社は魔王側との取り決めで介入しない立場を取っている。
決戦の前夜、魔王城。そこには領地を一時放棄したアダマンジャーやモット団による奴隷解放を良しとはしないハンターギルドの代表達が集まっていた。
ガルド「まさか、立ち入り禁止エリアの魔王城で俺達を匿ってもらえるとはな」
魔大臣タマ「良いか人間、お前達は作戦どうりに東西の2方向から世界樹の盆地へ突入するのだ」
ガルド「分かっている、俺達アダマンジャーの連合は東、西はその他のハンターギルド連中に任せる」
魔大臣タマ「私は北からオーク、ゴブリン、リザード、コボルト、アンデッド軍を指揮する。南は任せたぞ魔将ビスタ」
魔将ビスタ「この上級悪魔ビスタ様が直々に悪魔兵、飛行モンスター兵団で先陣を切ってやる。魔大臣殿は魔王様に俺の事を…」
魔大臣タマ「褒美が欲しいのなら手短に敵を殲滅するのだ」
ガルド「今から夜襲を仕掛ければいいものを、決戦予定日を守る魔大臣の旦那は律儀だな」
魔大臣タマ「どう戦ってもこの包囲殲滅戦は我らに軍配が上がる。それに私はこの魔界に来た時から全ての約束は守り通す」
世界樹の盆地、9000の兵を用意したモット団は決戦に向けて世界樹の転移魔法陣を一時解体していた。モット達はヤマタノオロチのブリッジに幹部を招集して作戦会議を行っていた。
リリンダ「転移ゲートの解体は本当によろしいのでありますか?」
モット「逃げ場は無くなるが、敵に裏を掻かれる恐れがあるくらいなら閉ざしておかなければならない」
サカキ「この盆地の周りは岩山の山脈、敵が転移魔法で攻め寄せてくるのは間違いないしな」
マルチダ「下手に転移魔法妨害の結界を張れば、こちらも不便になる」
モット「盆地内に侵入した敵は地道に排除するしかないが、最優先は敵を山脈からなだれ込ませないことだ。山脈地帯は足場も悪いし遠距離攻撃が効果を発揮するので足止めにはこちらが有利だ」
モット「盆地外側の山頂部に遠距離部隊を配置、近距離部隊はその内側で待機だ。飛行艇はヤマタノオロチの背後で飛行能力を持った敵の対処と地上の敵への攻撃を任せる」
次にモットは新幹部としてメカ娘族でナデシコを呼び寄せて階級中佐の幹部に昇格させたことを発表した。
モットはナデシコに雇ったメカ娘族の傭兵30名を配下として与え、遊撃部隊の隊長を任せた。
サカキ「おめでとうナデシコ」
ナデシコ「はいはい、私の部隊はフラワー隊、それに隊長とお呼び」
モット「ナデシコはアダマンジャーへの報復戦闘で一番戦果を上げていたからな。飛行改造魔獣やモブファイター部隊と共に飛行艇艦隊に追従しろ」
マルチダ「こちらの布陣は確認できた。お前は私と先陣を切ると言ったが、改造魔獣とビーストファイター達の巨大化と同時で良いのだな?」
キメラ「マルチダ様、その件について私に提案があります」
キメラ「巨大化について良くない印象を持った怪人達が多くいます。そこで、ギルドマスター自身が最初に巨大化するのはどうでしょう?」
キメラの主張では怪人達に得体のしれない巨大化魔法で戦わせるのであれば、怪人であるモット自身が最初に巨大化して、その有効性と安全性を証明するべきではないかと言うことだった。モットは少し考えてその提案を受け入れた。
モット「分かった、僕も怪人だ。巨大化アイテムの安全性を証明してやる」
キメラ「ならば私もマルチダ様達に付いて戦いましょう」
サカキ「しかし、モット君、いったいどんな巨大化アイテムを使うんだ?」
キメラ「ギルドマスターは魔物血族者。改造魔獣に近いので世界樹の実が最適かと」
マルチダ「…」
モット「任せておけ、巨大化して肉食バクテリアをまき散らしてやる。マルチダのテレポートで移動しながら敵の大群を一気に減らしてな」
マルチダ「最後の作戦会議はこれで終わりだな。明日は早い」
翌日の早朝、夜明けと共に敵の大群が世界樹の盆地を囲むように現れた。モット団と魔王軍・ハンターギルド連合軍による大規模戦闘開始の時が迫った。
魔大臣タマ「十分明るくなった、全軍攻撃を開始しろ!」
魔将ビスタ「行くぞ、飛べる奴は俺様に続け!」
ガルド「俺達にケンカを売ったことを後悔させてやる、転移魔法で距離を詰めるぞ!」
ハンターギルドマスターA「東のアダマンジャーに後れを取るな、魔界Cの娯楽を否定してルールを守らない奴らは皆殺しだ!」
モット団の旗艦ヤマタノオロチのブリッジでは敵の攻撃開始の報告を受けモット、マルチダ、キメラが出撃を準備していた。
モット「北の魔物達の数が一番多い、マルチダ、先にここへ飛ばしてくれ!」
マルチダ「分かった。テレポート!」
モット達が転移した北の山頂の陣地、多くの遠距離部隊が攻撃を開始していた。
モット「撃ち方止め、僕がデカくなったら左右に分かれて攻撃を再開しろ!」
ショットシェラー「了解シェラ!」
モット「やるぞ、世界樹の実デカデカの味!」
モットは邪神大総帥の姿になると世界樹の実をポーションや魂を口から取り入れる要領でいっきに食べた。すると、モットの体から何かが湧き上がってくる感じがした。気が付くとモット体のは16mくらいの大きさになっていた。
モット「くっ、成功はしたが、これが重力か、手足の動作が鈍くなっている」
魔大臣タマ「何だ、アレは?」
モット「とりあえず魔法を試す。ダークネスバン!」
モットが出した5つの巨大暗黒球は前方の山脈から向かってくるオークとゴブリン達を岩肌ごと消し飛ばした。
その様子は戦況報告部隊によってモット団全体に中継されており、それを見た怪人達からは歓声が上がった。
サカキ「よし、これなら勝てるぞ、ビーストファイターの獣怪人第一班、妙薬を使え!」
ラビットファイアー「ワシが一番じゃ!巨大化!」
バニーバレット「弟ばかりににいいとこは見せられないな」
長老「あの闇魔法、まさかな…」
モット「どうだ、巨大化は成功したぞマルチダ」
マルチダ「そうだな、私も!」
キメラ「マルチダ様!?」
マルチダは隠し持っていた世界樹の実に齧り付くと、吸血バハムートに変身して巨大化した。
モット「僕よりでかくなりやがった。重力で動きにくいか?」
マルチダ「お前と違って私は浮遊できる。体の重さによる制約は無い」
キメラ「しかし、くれぐれも無理をなさらないように」
モット「おっと、巨大化の効力が切れる前に敵を減らさなくては、喰らえ、土砂召喚からの人食い地獄沼!」
モットは向かってくる魔物の大群に向かって範囲攻撃の肉食バクテリアを放った。その攻撃は急斜面を通して広がり、敵数百体をあっという間に飲み込んで骨に変えた。マルチダは生き延びた魔物達に弾幕魔法を浴びせ、北方向からの敵の第一陣を壊滅させた。
魔大臣タマ「バカな、あの力は…そんなはずはない!」
魔大臣タマは何かに焦りながら巨大化したモットに向かってホーリーアローを放った。それに気づいたマルチダはモットを抱え飛び上がると、キメラと共に西方向へテレポートした。
長老「間違いない、あのお力はまさに…」
モットの戦闘中継を見ていた世界樹の盆地の長老は突然立ち上がり他のジャドプターの民の代表者達に呼びかけて何らかの行動を起こそうとしていた。
マルチダによって西側の陣地に転移していたモットは、さっきのホリーアローで左足にかすり傷を負っていた。巨大化の影響か、その傷は通常時より強い痛みを伴い、自己再生の能力が働いていなかった。
モット「地獄沼解除。傷が痛む、巨大化が切れるまで回復はできない」
マルチダ「巨大化はまだ持つな?私がお前の肩を支える。ここでもさっきの魔法を使え」
モットはマルチダに言われるまま、ハンターギルドに向かって人食い地獄沼を使った。ハンター歩兵達は数十人始末できたが、残りは地獄沼を避けて遠距離部隊との戦闘を始めた。
モット「味方は巻き込めない、解除する。って体が!」
ちょうどそのタイミングでモットの体が縮んで戻った。モットはマルチダの肩に乗って人間体になると、ホーリーアローの傷を回復した。
モット「巨大化後はすごいSPを削られる。SPポーションを飲んでかしばらく経過するまで再度巨大化は出来ない」
マルチダ「分かった。交代で使うぞ」
キメラ「 (迷いの森で冒険者を狩っていた時よりもマルチダ様が生き生きとしておられる。これがあの男を…) 」
味方を巻き込めないマルチダ達は山脈を登ってくるハンター達の各個撃破を試みた。巨大化したマルチダには弱点の矢や銃弾が飛んできたがモットが傷を回復させた。マルチダは出血した血液でブラッディブレードを作り出し、多くのハンター達を切り裂いた。
マルチダ「まだ数が多い、くっ、私も時間切れだ」
キメラ「マルチダ様、ここは私がある程度食い止めます。世界樹の実デカデカの味!」
元の大きさに戻ったマルチダ達に代わって今度はキメラが巨大化して敵の注意を引き付けた。
モットはその隙に戦況を確認した。多くの怪人が巨大化して奮闘している。ヤマタノオロチ率いる飛行艇艦隊は南方の悪魔兵やドラゴンなどの飛行型モンスターの侵入を防いでいた。
モット「東側が突破されそうだ。マルチダ、キメラ、後は後続の部隊に任せて東側に飛ぶぞ」
マルチダ「了解した。戻れキメラ!」
キメラ「御意」
巨大化の手段を取ったモット団に混乱した魔王軍側ではあったが、一部の怪人は大きな的のごとく集中攻撃を受けて倒される者も出ていた。さらには転移魔法で世界樹の盆地内に侵入したハンターギルドの姿もある。
そんな中、ジャドプターの民が急に団結して老若男女問わずに移動を始めた。モット団側に長老はありったけの武器をよこすように懇願した。
謎の老婆
実は異世界転移者。若い頃は元の世界で秘密結社の幹部であり、怪人の巨大化を担当していた。組織がヒーローに滅ぼされた際にこの世界へと逃げ延び、科学者としてある国で怪人製造に関わっていたが、巨大化の案を何度も却下された為にその国を抜け出して、巨大化アイテムを含む怪しげな薬を売って生活していた。
モット団の使いであるロドリデゲスに居場所を突き止められた際には老後の資金と引き換えに怪人巨大化のあらゆる手段が記された資料を提供している。