第34話 魔界拠点
魔界Cの山脈に囲まれた盆地のエリア、ここには切株となった世界樹が隠されていた。侵入を果たしたモット達は周囲の調査と転移魔法陣作成の二手に分かれた。調査に向っていたモットのPTは世界樹の盆地に住む魔物血族者の住民達と接触、彼等はモット団に出ていくように訴えたがモットは拒否した。
長老「何度も言う、この魔界から立ち去れ。魔王を怒らせると我々も被害を被る」
長老は事情を詳しく話してくれた。彼等は魔界Cで最底辺の扱いを受ける魔物血族者。かつて邪神ジャドールを崇拝していた為に魔界Cへ追放された暗黒教団ジャドプターの末裔だった。
魔界Cで生き永らえる為に彼等は進んで魔族との血を交えたが、いつしか上級魔族から迫害を受けるようになった。そこに目を付けた先代の魔王は勇者達による自身の討伐を防ぐ代わりに、彼等を奴隷として提供する協定を人間側と結んでいた。
ジャドプターの民と呼ばれるようになった彼等は、魔界Cへやって来た人間から虐げられる日々を送ることになり、魔王の腹心の統治下で繁殖や移住が行われている。
この世界樹の盆地に住まうジャドプターは世界樹を守護して実等の栽培を行って魔王に献上することで、人間の娯楽地への強制連行が免除されている。このままモット団による侵入を許してしまったら、自分達は大量処分されてしまうと恐れていた。
モット「だったら僕等が守ってやるぞ。僕も魔物血族者だ!」
長老「なんと、魔物血族者が人間のギルドを率いているのか?」
モット「今なら怪人、人間に擬態させたアンデッドの軍勢もいる」
長老「何だか分からぬが、やはり信用はできん。お前さん達の力でも…」
モット「だったら、こうしよう」
モットは住民に配慮した上で計画を少し変更して長老にこう説明した。それは世界樹の切株を転移ゲートとして使わせてもらう代わりに、ジャドプターのいる盆地から別の場所へ拠点を移すことだった。
また、魔王側にばれた場合は最優先でジャドプターの民を守り抜くことも条件に加えた。
長老「それならば、こちらも受け入れよう。しかし、あまり馬鹿な真似はするな」
モット「僕等が馬鹿ならとっくに君達を皆殺しにしている。魔族狩りに来たハンターギルドとウチは違うんだ」
長老「ワシ等は何人殺されようが、魔族や人間に犯されようが決して挫けずに生きてきた。ジャドール様を語り継いでいく為だ」
長老「しかし、お前さん達が何かをやらかせば、ワシ等は皆殺しになるかもしれない」
モット「心配ない、いざというとき僕にはとっておきの力もある。君達の崇拝する何かよりな」
長老「我らのジャドール様を冒涜するのは勝手だが、その慢心にいずれ足元を掬われるぞ…」
モット「その時はその時だ。では一旦、世界樹の転移魔法陣へ戻ろう」
サカキ「モット君、今彼等から得た情報によれば、この盆地を囲む山脈の一番近くに資源ハンターギルドが点在する開拓エリアがあるみたいだ」
資源ハンターギルドは鉱物や木材、時には食料等の採集生産により自給自足や交易を行っている冒険者ギルドの一種で、目的の資源に応じて不定期に拠点を移動しながら生計を立てている集団である。
かつては人間界に多く存在したが、仲間割れや資源の奪い合いによる紛争規模のギルドバトルを繰り返しており、第三次大戦後の復興の妨げになるとして、争いを好まない都市国家によってその多くが魔界の未開拓地域に追いやられた。
この魔界での資源ハンターギルドは大手冒険者サービス企業の支配下にない土地で、独自に都市国家規模の拠点を築いてそれらが幾つかの連合を形成する形で、魔族狩りのハンターギルドとの交流やギルドバトルも行っている。
モット「ちょっと僕の端末でも調べてみる」
モットは帰りの道で開拓エリアを確認した。幾つかの廃墟となった資源ハンターギルドの拠点が世界樹の盆地の近くにあった。
モット「仮の拠点に使えそうだな」
サカキ「一時的にそこに移動するのか?」
モット「ああ、一番大きいここの廃墟を占領しよう。僕等はそこで資源ハンターギルドを装えばいい」
モット達が世界樹の切株の手前まで戻ると、魔界C側の転移魔法陣が完成しいた。それによって、首狩り荒野側との通信も可能となっていた。
モットは各幹部達に住民とのやり取りと、仮拠点への移動について説明した。巨大戦艦や飛行艇はしばらく首狩り荒野での待機となり、先ずは歩兵や物資のみを転移ゲートで移送することにした。
モット「当初の目的ではギルド領地の確保に総力を挙げて大暴れしてやりたかったが、ここの先住民に世界樹をゲートとして使わせてもらう代わりに魔王側にバレないようにすると約束をした」
マルチダ「それなら仕方あるまい」
モット「歩兵の主力は明日で構わないが、念の為に住民や世界樹ゲート見張る改造魔獣を物資と一緒に今夜直ぐによこしてくれ」
マルチダ「成程、万が一我々の存在が露見しかけてもモンスターベースの私の配下でカモフラージュするのだな。了解した」
モット「通信を終了する」
リリンダ「総司令官殿、僕は転移ゲートの守備でよろしいのでありますか?」
モット「モットソルジャーと一般兵を数十人、冒険職のPTを4組置いていく。指揮は任せたぞ」
サカキ「仮拠点の側には俺の配下全員とモット君の作った新型怪人達も連れて行くんだな?」
モット「ああ、こんなこともあろうかと魔界Cでの長期滞在に役立つ怪人を連れてきておいてよかった(異世界病の奴等が素体だが)」
サカキ「大人数での移動は慎重にしないとな」
モット「先ずは僕らが目的地に行く道中で転移魔法の中継地点を作っていけばいい。後はそれを伝って幾つかに分けた主力部隊を転移させれば簡単だ」
ポニョン「巨大転移魔法陣のゲートを作ってたおかげで同一世界内での転移魔法が簡単になってきたわ」
モット「三賢者は僕のPTと共に一番先に出発する、次にビーストファイターズ、次にベスタの調査兵団、首狩り荒野から転移させた歩兵部隊を随時向かわせる段取りだ」
モットがこれからの予定を話し終えて数十分後、世界樹の周囲に作った巨大転移ゲートからモットの指示した戦力と物資が送られてきた。指揮官はキメラだった。
モット「意外と早いな」
キメラ「巨大戦艦で乗り込むという話ではなかったのですかな?」
モット「事情は伝えたハズだ。回りくどいが、ここの状況ではジャドプターの民への配慮も必要だ」
キメラ「下民ごときに気を使うとは、いずれ痛い目にあいますぞ」
モット「マルチダの側近がいちいち口を挟むな、それより監視・連絡用の改造魔獣は?」
モットの指示でキメラが連れてきた改造魔獣、それは30体のコンバットハーピーだった。
キメラ「彼女等は斥候や探索に特化した改造魔獣。飛行能力に加え、風魔法や魔法武器、重火器の使用も可能である」
モット「よし、半分はジャドプターの民の監視、もう半分はリリンダ達とこの転移ゲートを見張れ」
しかし、モットの命令にコンバットハーピー達は微動だにしなかった。
キメラ「ギルドマスター、我ら改造魔獣軍団の主は吸血バハムートであるマルチダ様のみ。それだけは忘れるな」
モット「分かったからさっさと配下を動かしてマルチダの所へ帰れ」
キメラ「仕方ありませんな。言われたとおりに散れ、コンバットハーピー!」
モット「めんどくさい奴らだ…」
キメラ達が転移魔法陣で首狩り荒野側に戻っていくのを確認すると、モット達は世界樹の周りの森に潜んで野営をした。
翌日、モットは部隊を率いてその場を後にした。またPT編成で加えたポニョンや転移魔法の使える魔法職達に世界樹の盆地と仮拠点での移動を円滑に行うた為の転移中継地点も同時に作ることにした。
無理やり協力させたジャドプターの民の案内によって、山脈を抜け出した一行は、数時間で資源ハンターギルドの放棄された拠点へと到着した。
そこは廃墟となった町を囲った砦のような場所で、魔法で錬成されたレンガのブロックで築かれた建物も残っている。
ニキータ「どうやら無人のようですね。我々が占有しても問題ありません」
モット「大規模地面魔法で作り上げた人工の丘に、崩れたレンガの砦か、結構な広さがあるな」
サカキ「あちら側には放棄された畑が広がっているな」
モット「サカキ、水芸モグラに水を引かせられるか?」
サカキ「今堀太郎達に水脈の確認をさせているところだ」
モット「なるべく短時間でここを使えるようにするぞ。B級・C級怪人、君達の出番だ」
モットは魔界Cでの長期戦に備えてこの前収容施設から脱走させた転生者等を特技や能力に応じた怪人にしていた。
主な新怪人
銅の剣男:聖剣の限界突破に失敗した爆発で転移してきたらしい勇者見習い。鍛冶場担当。
芋女:前世が令嬢と自称する農家の娘。食物の魔法栽培を担当。
赤ランプ男:トラックに跳ねられて転生したと言う異世界の警備員。警備担当。
ワープリング男:トラックの運転手だったと言う超術使い。車両整備と転移魔法陣担当。
ストラテージ男:この世界を仮想空間だと思っているゲーマーの転移者。仮拠点の総合管理担当。
レンガ男、コンクリート女:転生者ではないがモットがダムの建設現場から解放した元捕虜。建設作業担当。
包丁女:転生先でも殺傷事件を起こしたヤンデレ。ベスタ軍との決戦で多大な戦果を挙げて戦闘要員幹部に昇進。
ハゲワシ番長、プルタブ男、蝶女:ミッドカットでスカウトした浪人、戦闘要員。
彼等に配下のモットソルジャーや一般兵を与えると、それぞれの能力に応じた役割を与えてモット団の仮拠点の整備に着手した。
ちなみにサカキは戦闘部隊の訓練、ナデシコは時折芋女の栽培の手伝いをさせられ、三賢者は他の資源ハンターギルドへの挨拶やジャドプターの民との接触、モットはひたすらトイレを作り、肥料も生産した。
2日後、怪人達の働きもあってモット団の仮拠点はほぼ修復強化され、常時食料の魔法栽培が可能な農地や、多数の歩兵を収容できるテントと丸太小屋が周囲に併設されて、他の資源ハンターギルドに劣らないくらいの見栄えになった。モットは世界樹の盆地に残してきた戦車隊を呼び寄せ、仮拠点に作らせた建物内に隠した。
モット「これで表向きの活動拠点がほぼ出来上がった。次は本来の目的の一つであるウソウソプリウムの採掘だ」
ニキータ「それでしたら私達が他のギルドから得た情報が役立つと思います」
三賢者が獲得した情報によればウソウソプリウムは資源ハンターギルドの中でも過激で規模の大きい勢力が支配するエリアにあるらしい。
ドロン「連中は高値で売れる資源を得る為なら何でもするし、ひたすらに生存競争を楽しむような戦闘狂らしいぜ」
ポニョン「探すより買った方が早いかもね…」
モット「なら、どちらもやってみるか同時に」
ニキータ「まあ、その方が確実かと存じますね」
サカキ「資源探索部隊はレンジャーイノシシのいる俺達ビーストファイターズに任せてくれ、ベスタの調査兵団も同行したいようだ」
モット「任せたぞサカキ。ウソウソプリウムを保有しているギルドとの買い取り交渉は僕自らやろう、三賢者は案内を頼むぞ。仮拠点の指揮はストラテージ男だ」
ストラテージ男「このゲームなかなか面白いっすね!」
モットは三賢者と共に一番近くにあった魔界C第47駐屯地にやって来た。ここは資源ハンターギルドの有志達によって運営されている。
また、ここは中立となっており、ギルドバトル後における交渉や資源の取引が行われている。
モット「大手冒険者サービス企業の支配下ではないのか」
ニキータ「タケノコではありませんが、転送サービスはありますね」
ポニョン「ギルドマスター、こちらが今回の資源の取引相手となる資源ハンターギルドの代表の方々です」
ギルドマスター「魔界Cでの希少元素を取り扱うギルド:アダマンジャーのリーダーだ」
モット達は資源採掘ギルドの中でもそれなりの勢力と交渉した。モット団の欲するウソウソプリウムはこの魔界で取れるレアなクリスタルの中に含まれており、通常はドラゴン商社に納品するので出回っていないらしい。
ギルドマスター「今回は特別にこれくらいの金を出すなら、クリスタルから抽出したインゴットをくれてやろう」
モット「これっぽっちで値も張るが、仕方ないな…」
ギルドマスター「奴隷共を使って探索・採掘するコストはかからねえんだが、ドラゴン商社との独占契約があってな。一部の横流しだけでも奴らにバレると面倒になるんだ」
モット達は交渉を成立させて取引を終えると、その場を後にしようとした。
ギルドマスター「おっと、アンタ達は資源ハンターの初心者だったな、良いことを教えてやる。この魔界の奴隷達に優しくしない方が身の為だ。それと、俺達の敵対ギルドとの同盟や参加入りはやめといたほうがいい」
モット「勢力図は大体確認している」
ギルドマスター「へっへっへ、ここは魔界だ。一気にひっくり返るぞ。せいぜい拠点でうまくやってろ…」
47駐屯地を後にしたモットは数名の奴隷を買っていた。
ドロン「旦那、彼等をどうするんです?」
モット「僕等の拠点で労働者として好待遇で雇ってやるつもりだ」
ドロン「しかし、さっきのアダマンジャーの奴等の忠告は?」
モット「こっちはいつでも強行手段に出れる。それに相手は僕等を新参者の雑魚としか思っていない」
モットは購入したジャドプターの奴隷達を好待遇で働かせることで、噂を聞きつけた他のジャドプター達から好感度を得て味方に加えようと画策していた。
モット「ギルド領地には民が必要。直接的な支配に興味はないが、現地人を恐怖以外の手段で従わせて働かせるのが一番だ」
ニキータ「まあ、確かにモットソルジャーだけでは心もとないですからね」
ポニョン「今のうちに仲良くしておきたいのは分かるけど、彼等から奴隷の輪を外しても大丈夫なの?」
魔族A「我々は奴隷主から逃げれない。逃げると故郷の村が皆殺しに遭う。それに、幾つものハンターギルドが我々を善意で保護しようとしたが、残っているのは我らを奴隷扱いするギルドだけだ」
魔族B「我々は奴隷として人間や上級魔族に差し出された生贄。扱いをどう変えようが、心は変わらない。ただ我らの邪神様を信じて生きながらえるまで…」
モット「奴隷生活が染みついてやがるな、拠点に戻ったらもてなしてやろう」
モット達は拠点に戻ると連れてきた13人のジャドプターの歓迎会を開いた。なお、サカキ率いるビーストファイターズの主力とナデシコは資源探査に出かけて不在、世界樹ゲートを守備するリリンダ達も不在となっている。
モット「明日は別の駐屯地で安い奴隷を買い占めるつもりだ」
ストラテージ男「大総帥様、それならこちらで取れた食料を売ってはどうだろう?」
モット「魔法栽培で作った芋や穀物、木材が売れるならそうしよう」
ニキータ「なんだか、攻めるつもりだったのに、本格的な魔界での生活になりましたね」
翌朝、モットは三賢者と護衛のモットソルジャー、一部の怪人達と共に昨日とは別の遠くにある駐屯地へ出発する準備をした。
赤ランプ男「昨日の夜、ジャドプターの民と思われる数名がこちらの拠点を覗き込んでおりましたが、どうなさいますか?」
モット「敵対ギルドの変装した偵察の可能性もあるな、そうでなければこちらの評判を上げるチャンスだ。念の為に警備は厳重にするんだ」
モット達は拠点を後にした。だがこの時、魔界Cでの活動をできるだけ穏便に行おうとするモット団に危機が迫っていた。