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第30話 改造勇者

 色々あって朝起きたら体の半分がアンデッドと人間で分かれていたモット。擬態魔法も使用できない上にうまく体を動かせない状態であったので、艦内の怪人開発室へ連れてこられ、ミニンによる診察を受けていた。


マルチダ「何とかならないのか?」


ミニン「これはさすがに私にも分からんなあ…」


ウオヘイ「何かしらの原因となる行動があったはずだが」


モット「くっそ、両手両足を同時に動かせない」


ポチ「ご主人様、報告が遅れましたが、アンデッドに詳しいリッチを捕獲しております」


モット「そう言えば昨日、この付近で謎のリッチの目撃情報があったから調査を命じていたな」


ポチ「そのリッチの知恵を借りてはいかがでしょうか?」


マルチダ「連れてきたらソイツに食われるのではないか?」


ポチ「その心配はございません。そのリッチはロドリデゲスと名乗っておりますが、何故か金と引き換えに我々の勧誘を受け入れる意思を示しています」


ポチ「現在はご主人様の許可が出るまで頭部と体を切り離して封印しております」


モット「ロドリデゲス?どっかで聞いた名だが、頭部だけここに連れてこい」


 数分後、艦内の死体安置部屋からモンスター封印カプセル中に入ったロドリデゲスと名乗るリッチの頭部が連れてこられた。


ロドリデゲス「お初にお目にかかります。ワイを雇ってくれるご主人さんですか?」


サカキ「何だかモット君の声に似てないか?」


ロドリデゲス「リッチの声は生前の魂の声が再現されますから」

 

モット「まあいい。金さえ払えば眷属に加わるんだな?」


ロドリデゲス「もちろん。ワイは稼いだ金を使うことで力を得るリッチなんですが、ネクロマンサーの業務で色々としくじりまして、無一文のこの有様です」


モット「それなりの給料をやろう。とりあえず僕を診察してくれ」


ロドリデゲス「お安い御用です」


 ホームレスリッチのロドリデゲスはモットと契約を交わすと、すぐにモットの体を診察した。ロドリデゲスは魔界Bで300年近くネクロマンサー業を営む友好的なアンデッドで人間擬態魔法等にも精通している。

 ロドリデゲスはモットの体を調べ終えると、申し訳なさそうな声でモットの体と魂は数日後には崩壊すると診断した。現在の状態はその予兆だった。

 主な原因としてモットには幾つかの相対する力が混在しており、かつての人間体の状態では調和がとれていた。しかし、それらが急激な変化や刺激によってバランスを崩したので、モットの魂も含め肉体の内部崩壊を招いたことだった。

 急激な変化や刺激、それはモットが魔物血族者の力でアンデット化している事を自覚してしまったことから始まり、頻繁に人間体とアンデッド化の切り替え、死霊(魂)の捕食、潜在能力(肉食バクテリア生成)の覚醒、無理に使用した回復魔法等が当てはまる。

 また、先日の戦闘からはダメージの肩代わりとは言えターンアンデットを数回受けたり、属性魔法の調和を刺激するオーラ魔法を使用したりした事。他にはアンデッドの禁忌に触れる行為に及んだ等の要因も併せこれらが短期間に集中した為、内部崩壊に拍車をかけてしまったそうだった。


マルチダ「禁忌!?」


モット「待てよ、光と闇の貫通矢を喰らったこともあった」


ロドリデゲス「ええっ、そんなん喰らったら内部崩壊のスイッチが入りますよ」


リリンダ「まるで僕や風水ビビンバのような属性合成怪人の弱点でありますね」


モット「治す方法は?」


ロドリデゲス「はっきり言ってありません。それにご主人さんの魔物血族者やアンデッドの力はともかく、それに反する聖なる勇者の力ってのは除去不可能なんです」


 ロドリデゲスが言うには、モットは聖なる勇者の血が複数流れており、その血が魔物血族者の血と反発しあっているとのことだった。


モット「その聖なる勇者って?」


ロドリデゲス「この世界で言う伝説の七勇者です。ワイには分かります。過去に何人かの子孫に会って血のサンプルを取引していましたから…」


モット「僕も七勇者の子孫、しかもその内の数人だと?」


ロドリデゲス「具体的に申しますと、カイム・カムイ、キュリア・キャリア、この2人の血筋です」


モット「うわっ、よりによってモンスの奴と共通の祖先か。僕はキノコ操れないけど」


ロドリデゲス「しかもこの血は正常で魔物血族者の血によって支配され、ご主人さんに恩恵を与ていた痕跡がありました」


ロドリデゲス「具体的にはヒール等の回復魔法の使用可能。それらを受けたり使ったりした際のアンデッドの特性を無効化。代償として人間体の際の基礎能力が著しく低下していますが」


モット「僕がヒールを使えるのは七勇者の血のお陰なのか、人の姿のままだと弱いのも」


ロドリデゲス「しかし、ご主人さんがこれまで肉体に与えてきた負荷のツケはそう簡単に収まりません」


モット「つまり僕は人間体のまま、平穏に暮らしていれば長く生きられたのか?」


ロドリデゲス「正解です。一応ワイ等アンデッドにもまちまちですが魂の寿命があります。ご主人さんのポテンシャルなら数千年は魂が持つと思います」


モット「力を追い求めた結果、人間以下に命を縮めたのか、僕は…」


サカキ「諦めるのはまだ早いぜ、何か方法はあるはずだ」


ウオヘイ「待てよ、リリンダ君、さっき何て言った?」


リリンダ「えっと、まるで僕や風水ビビンバのような属性合成怪人の…」


ウオヘイ「ソレだ!!」


ミニン「怪人製造装置でうまいこと合成すれば怪人として安定するかもしれないな」


ロドリデゲス「怪人?人体改造ですか?ご主人さんの肉体と魂が耐えられるなら、血や能力、属性の反発を融合する形で抑え込めるかもしれないが…」


モット「分かった。僕は怪人になる!」


モット「このまま体が崩壊していくのも嫌だし、勇者や魔物の末裔だろうとも、せっかく持ってる力を失いたくないからな」


ウオヘイ「私の時のように複数の怪人製造機器を繋いで複合するか」


ミニン「しかし、ビビンバとか言う属性合成怪人の製造装置は危険すぎる」


リリンダ「僕みたいに精神を追い込まなきゃ肉体を属性に変化させることはできないでありますよ」


モット「その心配はない。確かアイテムボックスに…」


 モットは力を振り絞ってアイテムボックスから何かを取り出した。それはヒビの入ったハート型のクリスタルを埋め込んだ大きめの回路だった。

 モットが言うには勇者大学生時代に作った心の闇増幅器で、装着者の負の感情をトラウマから生成して増幅する常人には耐えられない装置だった。


ミニン「それって、夏休みに会った時に私に付けさせようとしたやつじゃん!」


モット「あれは冗談だ。とりあえずコイツを改造レーザーで僕の胸に埋め込んでくれ」


 こうしてモットは自ら怪人となる決意をした。科学班やウオヘイの部下達が複数の怪人製造機器のコードやパイプを人体改造用のカプセルに接続。消毒マンとローズがプログラムのチェックとシステムを統合してくれた。数時間後準備が整った。


ミニン「理論上はモットさんの要望に添えるはずだ」


ウオヘイ「しかし失敗すればモット君はロストしかねない」


マルチダ「本当にやるのか?」


モット「このままではあと数日で体が崩壊する。最後の賭けだ」


サカキ「頼む成功してくれ」


モット「心配するなサカキ、僕が怪人になった暁には、どこか面白い狩場に行こうじゃないか」


マルチダ「また一緒にできるか?」


モット「生きていたら考えておく(あの夢を見たタイミングも何かの運命を感じる。成功するさ)」


ウオヘイ「改造用のスーツは着たね。変な物を装備するとそれも合成されちゃうよ」


ミニン「念のためにアイテムボックスの魔法は封印しておいた」


モット「おっと、マルチダ。このサークレットを預かっていろ」


マルチダ「これは、あの時も外さなかった不思議な石の?」


モット「友達に貰った大事なものだ。僕の改造が終わるまで持っているだけだからな」


マルチダ「分かった」


モット「今まで怪人ギルドって名乗って幾つか怪人を作ってきたけど、僕自らが怪人の素体となるとはな…」


 心配する仲間達に見守られながら、モットは装置の中へと入りカプセルを閉じた。ミニンとウオヘイが同時にレバーを引くと装置は起動した。


サカキ「いよいよか」


キメラ「マルチダ様、少し外の様子を見てきます(本当は今ここで装置をぶち壊してやりたいが、マルチダ様が傍におられる。それよりも…)」


マルチダ「いいだろう」


キメラ「ギルドマスター殿の無事を祈ります」


 ヤマタノオロチ建造中の造船所の敷地とその外側の廃材の山、この周囲はサカキの配下が警備を担当している。


N阿弥陀仏「造船所のエネルギーがあの船に集中している。ついに始まったか」


ゾウマシンガン「せっかく戦艦を手に入れたも束の間、ギルドマスターも難儀よのう」


アサシンドッグ「ビーストファイターズ、いやモット団を獣人の支配下に置く絶好のチャンスだぞ」


N阿弥陀仏「ワシ等にこんな運が巡って来るとはな。大将気取りの猫耳男とギルドマスター、目障りな幹部達を一掃できる」


アサシンドッグ「我々があの船の占領後に動力炉を中心に爆弾を仕掛けたことは誰も知らない」


ゾウマシンガン「N阿弥陀仏、其方の亜空間生成のスキルは恐ろしいものぞよ」


N阿弥陀仏「ワシは触れた場所ならどこでも亜空間を作り出せる。小さいが爆弾くらいなら収納でき、ワシの解除の呪文と共に亜空間は消滅して内部の爆弾が出現する」


アサシンドッグ「よく考えたものだな」


???「まったくだ!」


N阿弥陀仏「貴様は新入りの合成獣!」


キメラ「召喚獣の亜空間に出入りしていたこの私がお前達の企みに気づいていないとでも思ったか?」


N阿弥陀仏「おのれ下等な合成獣め」


ゾウマシンガン「我らの企みを知られたからには消えてもらうぞよ」


キメラ「遅い!」


 ゾウマシンガンは機関銃を構えたが、キメラの獣王剣で両断された。


アサシンドッグ「よくもゾウマシンガンを!」


 アサシンドッグはキメラに切りかかったが、キメラの両肩のヤギが吐き出した瘴気によって弱点の鼻を狂わされ、怯んだところをキメラに掴み上げられた。


アサシンドッグ「待ってくれ、俺は御大将に不満はあったが、この猫野郎に…うぐっ!」


キメラ「弱すぎる犬野郎の最後の言葉が猫野郎とは皮肉だな」


 キメラは機械の腕でアサシンドッグの首を握りつぶした。


N阿弥陀仏「動くな、ギルドマスター改造中のヤマタノオロチをワシはいつでも爆破できるんじゃ」


キメラ「爆弾なら全て除去した。ダミーとすり替えている」


N阿弥陀仏「何じゃと!?」


キメラ「私も老いぼれた化け猫と同じようなことが出来るのだ」


キメラ「この私が怪人になる前に爆破しておくべきだったな」


N阿弥陀仏「だったら何故じゃ、何故爆弾の事を直ぐにお前の主に報告しなかった?」


キメラ「あえて反逆者を泳がせればこうして尻尾を出すと思ってな。主に悟られぬ様に忠義を果たす事も時には必要だ」


N阿弥陀仏「こうなったら猫の恨み!ワシの命を削りお前に呪いをかけた、ワシに攻撃を加えれば呪いが発動しお前も同等のダメージを受けるのじゃ」


キメラ「それがどうした?」


N阿弥陀仏「一方的にワシが戦えるのじゃダークネスバン!」


 キメラはN阿弥陀仏の闇魔法を全て回避して、毒蛇の顔のついた尻尾でN阿弥陀仏の首筋に嚙みついた。キメラは無傷のままだった。


N阿弥陀仏「ギャフーン!何故じゃ、ワシの呪いでお前も毒を受けるはずじゃ?」


キメラ「我の顔を見よ、獅子は猫の王者。下等なお前の呪いなどいくらでも跳ねのけられる。それに自分の毒の免疫くらい持っている」


 キメラは獣王剣に大量の光の魔法を送り込んで、N阿弥陀仏の腹部を貫いた。


N阿弥陀仏「うぎゃあああ、コレが王者の魔力、我が恨みより恐るべし…」


 廃材のエリアで爆発が起き、その爆炎の中から翼を生やしたキメラが飛び去った。


キメラ「マルチダ様、ビーストファイターズの裏切り者達を粛清しました(後は改造の失敗を祈るまで)」


 改造開始から3時間14分後、巨大戦艦内部の怪人開発室ではモットの改造がついに終わった。モットの安否はカプセルを開かなければ分からない。

 ミニンとウオヘイがカプセルロックを外すと、中からバラバラになった骨がこぼれた。

 誰もが改造は失敗したと思ったその時、モットの骨は闇の魔法を纏いながら人型に集合した。次に合成された心の闇増幅器等の装備が形成され、頭部には髪のごとく紫の炎が燃え盛った。


ロドリデゲス「こんな、ことが!?」


モット「成功だ!僕は生きている!」


ウオヘイ「おお!」


サカキ「心配したぞー!」


マルチダ「うまくいったな」


キメラ「クッ!」


リリンダ「指揮官殿、赤い衣のリッチの姿とは違って、属性合成怪人の特徴である魔法属性も体に加わっているでありますね」


モット「この闇魔法の部分は僕の骨と合わさって血肉の役割を果たしているようだ」


 モットの怪人改造は成功した。複数の怪人製造装置の組み合わせによって、魔物血族者のアンデッドと闇魔法の勇者の複合型合成怪人となった。

 その後念の為に行ったロドリデゲスとミニンの分析によれば、モットはこれまでどうりの魔法やスキルが使用可能で、僅かながら能力は強化されたとのことだった。

 しかし、合成による安定化の代償としてモットの寿命は本来のアンデッドよりはるかに短くなり、人間の平均値にまで縮まっていた。


モット「仕方あるまい。人間同様の短い人生、太く堪能して生きてやればいい」


マルチダ「(これでいつか私と添い遂げれるな)」


モット「そう言えば僕にも怪人体での名前が必要だな」


キメラ「頭火葬大元帥はいかがか?」


リリンダ「無礼でありますよ、司令官殿はサイボーグリッチハイブリッド暗黒ビビンバ勇者大総統が良いであります」


モット「どっちも却下!」


モット「そうだな…(総統や元帥の称号は付けてもいいとしてだが)」


サカキ「モット君のじゃしん家にちなんで、邪神大マスターってのは?」


マルチダ「邪神大総帥ってのはどうだ?」


モット「それだ、マルチダの案にする!」


マルチダ「これで私に名前を付けた借りは清算できたな」


ミニン「それじゃあ、私達科学班は本部に戻っておくよ」


 巨大戦艦ヤマタノオロチを手に入れたモットは自ら怪人【邪神大総帥】となり、怪人ギルドの頂点に君臨した。

 ヤマタノオロチはあと数日で完成する。モットは改造後の体を休ませながら今後のギルド方針を考えた。

挿絵(By みてみん)

魚レーダー

性別:♂ 年齢:23 弱点:電気、呪い 役職:モトマチシティー市長兼怪人改造担当

 頭部に高性能レーダーを合成した半魚人の怪人。幼少期に魔界Cの滅んだ半魚人の村から亡命してきた過去がある。冒険者アカデミーでは別クラスのモットと数回PTを組んだことがある。

 卒業後は生活用品店経営の回復術師として過疎の進んでいたモトマチシティーに貢献を果たしている。また、その信頼から若者を集めて青年自警団を結成して、モット団に加わるまで治安を維持していた。


邪神大総帥

性別:♂ 年齢:22 弱点:光、聖水、回復魔法使用中のダメージ、魔力の枯渇

 モット団ギルドマスターのモットが怪人となった姿で、勇者とアンデッドの合成怪人。過去に命を落としており、その際に魔物血族者の潜在能力によって復活、高度な人間擬態能力で自分自身ですらアンデッドとは気づかないまま生きているかのように成長していた。

 本来は回復魔法が使えないが、勇者大学での特訓と引いていた七勇者の血によって回復魔法が使用でき、その際はアンデッドのダメージ関連の特性が無効化される。

 しかし、度重なる肉体への負担により、複数の相反する力が体内で暴走を起こしてしまい、やむ負えず怪人になって安定化させた。

 怪人になったことで骨の部位を覆っている闇の属性魔法が筋肉のように働き、腹部の心の闇増幅器の回路によって常に供給制御されている。それによって闇や回復魔法、アンデッドの使役、土から肉食バクテリア生成するなどの魔法やスキルが大幅に強化された。

 弱点以外の属性や物理攻撃で体の部位や装備等を破壊されても元の姿に自動再生できるが、魔力の消費を伴っていることが判明し、激しい攻撃を繰り返し受けた場合それらが尽きると回復魔法と肉体の自動再生が出来なくなる。


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