第29話 改造魔獣軍団
巨大戦艦の強奪に成功した翌日、事後処理に追われるモットは息抜きに負傷者の治療を行っている艦内の機密エリア(怪人開発室)へと足を運んだ。
ここでは魔法では治せない負傷者が治療を受けている。
モット「ミニン、ウオ君の調子は?」
ミニン「何とか一命を取り留めて、ここの設備をいじれるようにはなったけど…」
そこには顔半分をサイボーグ化した半魚人姿のウオヘイがいた。受けた矢の呪いによって感覚の殆どを失ったウオヘイは、高性能レーダーとのサイボーグ合成手術を受けて怪人となった。
ウオヘイ「心配をかけたなモット君、これから小生は合成怪人魚レーダーだ」
ミニン「感覚が戻るまでの応急処置が他に思いつかなくて、人体と機械を融合する怪人製造カプセルが運良く使えたもんで」
モット「一応人間体には戻れるんだな?」
ウオヘイ「無論だ」
ミニン「それと消毒マン達のお陰でここの設備はある程度使えるようになったけど、属性合成怪人の製造装置は危険だからコードを全部抜いておいた」
モット「あの怪人技術は新ベスタ政府によって禁じられたからな。まあ一応処分せずに置いといてくれ」
モット「(それにしてもあの時、風水ビビンバの倒し方が思いつかなかったら、ヌヌーティに貰ったこの石を使う所だったな)」
その日の夕方、モットは主要メンバーをブリッジに集めて報告会を開いた。
モット「先ずは現在の世界情勢だ。知ってのとおりベスタは僕らモット団の協力者であるカタール准将が大統領に就任して、東の帝国との属国を解消した」
サカキ「ついにやったな。この船を始め多数の兵器を譲り受けることが出来たもんな」
モット「それに僕らをギルド承認してくれるそうだ」
リリンダ「所で気になることがあるのでありますが、東の帝国は一連の出来事についてどう対処してくるありますか?」
モット「そのことなんだが…」
東の帝国は速やかに使者を派遣して、不可侵条約と断交を要求、カタール大統領もこれを受け入れた。
帝国から贈与された巨大戦艦は元々建造途中で破棄か払下げをする予定であり、技術の流出等も問題ない範囲であったらしい。
帝国の政治や軍事的な決定については10人の将軍に皇帝を加えた11人による合議制が採用されており、ベスタでの一件は革命の飛び火を避ける為に柔軟な対応で済ませた。
モット「てな感じだ」
リリンダ「僕がやった帝国の戦車部隊も不問になったのでありますね」
次にモット達は巨大戦艦完成までの人員の配置を取り決めた。念の為に造船所の警備はサカキ配下のビーストファイターズが担当、艦内警備と建造の手伝いを消毒マン率いるサイバー家電獣、巨大戦艦完成後の運用準備をマルチダ、負傷者の回復・改造をウオヘイとミニン達科学班に委ねた。
それ以外の一般メンバーは三賢者達も含めて本部や通常のギルド運用に配置。新メンバーと転生者達は回復が済み次第に正式メンバーとすることになった。
今回の戦いでモット団の犠牲者は半数以上に及んだが、モットやニキータ達回復職の蘇生魔法によってほぼ復活出来ている。
モット「負傷者は人体再生やサイボーグ化も含めて明日には全員回復出来そうだ。肉体ロストで蘇生不能となった味方の魂はミニンに委ねる」
ミニン「了解、ありがたくスケルトン培養に使わせてもらう」
モット「マルチダ、ブリッジのシステムはどうなった?」
マルチダ「あの男やクルーから得た知識で完成後の運用はある程度可能だ。私の眷属にもその一部を与えて手伝わせている」
サカキ「それでさっきからブリッジ内で使い魔が機器をいじっているのか」
モット「次に重大な発表だ。この船の名前を考えた!」
ドロン&ポニョン&ニキータ「それって重要なのか…」
リリンダ「かなり重要でありますよ。この船は我らの旗艦。鹵獲前の名前なんてふさわしくないであります」
サカキ「それでどんな名前にしたんだ?」
モット「今よりこの巨大戦艦をヤマタノオロチと命名する。由来はひい爺さんが転生前にいた国の神話の怪物だ」
ミニン「まあ、何だっていいけど」
サカキ「名前が決まったら次は艦長だな」
モット「えっ!?(うっかり考えてなかった)」
リリンダ「そうでありますね。誰がこの船の指揮を執るかで命運が決まるでありますから」
モット「それは…」
ウオヘイ「この船の強奪作戦に最も貢献していて、運用知識を有する者では?」
サカキ「それならマルチダ以外適任はいないよな!」
その場にいるモット以外の全員がマルチダを艦長に推した。呪いを受けながらも転移魔法や召喚獣を駆使して先の戦いを勝利に導いたマルチダの活躍は全員に知れ渡っている。
また、サカキ達最終決戦に参加したメンバーは、やむ負えなかったとはいえモットが人質になったマルチダに対して行った仕打ちを目撃しており、せめてマルチダにはそれ相当の褒美を与えてほしいという気持ちもあった。
モット「ああ分かった。マルチダがヤマタノオロチの艦長だ」
マルチダ「だったら階級は上げてもらえるのだな?」
モット「(そういえばマルチダを仲間にしたときに、それなりの身分になったら付き合ってやるみたいな約束をしてしまったっけか)」
モット「今よりマルチダを少尉に…」
マルチダの傍にいたキメラはモットを威嚇してベスタ軍から奪った大佐の階級章を吐き出した。
モット「じゃあ大尉」
キメラ「グルルゥ!!」
モット「大佐だ大佐、リリンダと違って軍人じゃないから将軍はまだ早いからな」
一同はマルチダに向かって拍手喝采した。モット団の旗艦ヤマタノオロチはマルチダが艦長として配下の召喚獣達と運用することになった。
サカキ「これでマルチダも俺達幹部の仲間入りだ」
マルチダ「では早速、艦長としてこの船の設備を好きに使わせてもらってよいな?」
モット「ああ、好きにしろ」
マルチダは以前欠損したキメラの前足を治すと言ってウオヘイを連れて怪人製造室へと向かった。
サカキ「それとモット君、マルチダに就任祝いとして新しい服をプレゼントしてみてはどうだろう?」
モット「士官用の服か、今までギルドソルジャーの服だけだったからな。通販で買っておく」
同時刻、東の帝国の帝都ナッツドブルグ。
将軍A「皇帝陛下は随分と丸くなられたな。ベスタごとき捻り潰してしまえばいいものを」
将軍B「無理もない、第一皇子によるゲリラ亡国での暴挙が全世界に知れ渡り、我が帝国は猛批判を浴びた」
将軍C「だからと言って小国に舐められてはいつか痛い目に会うぞ。未完成とはいえ最新鋭のチーズヘッグ級2番艦は革命に手を貸したどこぞのギルドへ寄与されたと聞く」
将軍B「あんな奇抜なだけの金属の塊、手にしたところで帝国の基地すら落とせまい」
将軍A「確かにな、運用に困り果てた1番艦は政治犯の監獄船として帝都上空を飛び回るだけの飾りだ。あの厄介者も乗せて」
将軍D「あの方まで囚人呼ばわりするのは聞捨てならんな」
将軍A「おお、貴殿か。もうベスタから戻ったのか?」
将軍D「ベスタの新大統領とは戦友の仲。話など容易につけられる」
将軍B「流石は帝国のサソリと呼ばれただけのある」
将軍C「話は変わるがデスマルコ将軍、最近貴殿の御子息が第三皇子と共に新型怪人の研究と称して世界各地を探りまわっているそうだが」
デスマルコ将軍「愚息の任務内容について何も存じ上げない。何せ皇帝陛下直属の騎士団長であるからな」
将軍A「帝国の誇る青いミスリルの騎士、ブラウリッター達が怪人開発局と組んでいるとは、流石に我らも口出しは出来ぬ…」
翌日、ヤマタノオロチの上級ゲストルームで書類に目を通ていたモットは艦長のマルチダにブリッジへと呼び出された。
そこには白い仮面を付けた執事のような集団と、ローブで身を隠した無数の集団が整列している。
モット「艦内放送で呼び出しておいて一体なんだ?」
マルチダ「昨日から徹夜で魔物強化装置を使って、この船の乗員や配下の軍団を作っていた」
消毒マン「オイラも手を貸したんだよ」
モット「召喚獣を怪人に改造したのか?」
マルチダ「そうだ、サカキのビーストファイターズを参考に軍団を結成した」
???「そして我らが、主に仕える改造魔獣軍団である」
マルチダの傍にいた改造魔獣がローブを脱ぎ捨て姿を見せた。その容姿はライオンの顔をした鎧の戦士で、両肩にヤギの頭部を持ち左腕がサイボーグ化されている。
モット「その剣はあの時の獣王剣。まさか、あのキメラか?」
キメラ「いかにも、我はキメラウォリアー。主の為に前足ことこの腕を捧げ、自らの意思で最初の改造魔獣となった召喚獣」
マルチダ「キメラには消毒マンに調べさせた多くの軍事知識も改造の際に付与している。この船で指揮を執る私の最も信頼できる補佐になってくれるはずだ」
モット「新たな怪人の軍団を作りやがったのか」
キメラ「ギルドマスターとは言え、今後我が主を不当に扱うのであれば我等改造魔獣軍団が容赦はせん。甲板での行いも忘れはせんぞ」
キメラはモットに向かって光属性を付与した獣王剣を向けた。
マルチダ「キメラ、よせ。この傷についてはそのうち私なりに清算をさせる。裏切りは無しでだ」
モット「(傷くらいここの設備で消せるものを…)」
モット「あの白い仮面をつけた執事のような奴らは戦闘員か?」
マルチダ「使い魔に人間擬態を付与した。お前の召使を参考にした姿だ」
使い魔兵「ワレラコトバヲハナセマス!」
モット「言葉はまだ練習中か」
マルチダ「ああ、使い魔達は複数を魔物強化装置に押し込んで人間擬態を付与したからな。一応はこの船の乗員としては最低限の働きは出来る」
モット「分かった。ヤマタノオロチは改造魔獣軍団に運用を任せる」
マルチダ「ああ、任せてくれ」
キメラ「我が主、改めて我等改造魔獣軍団、命果てるまでご奉仕致します」
マルチダ「キメラ、それにお前達、私の名はマルチダでいい」
キメラ「仰せのままにマルチダ様(何故こんな男が適当に付けた名に固執なされるのか、貴女様はいずれ魔王になられるお方)」
改造魔獣&使い魔「マルチダ様、マルチダサマ!」
キメラ「(いずれこの男を亡き者にして…)」
その日の晩、モット部屋にマルチダがやって来た。
モット「誰が入れた?見張りのハヤトとカリアは?」
マルチダ「生憎私はこの船の艦長だ。テレポート対策された部屋でも権限があればどこでも入れる」
モット「よりによって僕のゲストルームの隣は艦長部屋だったか」
マルチダ「安心しろ、お前に反乱を起こすつもりはない」
モット「何の用だ?」
マルチダ「キメラが休めと言って夜間のブリッジ業務を引き受けてくれた。しかし艦長室で過ごすには寂しくてな」
モット「あの獣を枕に出来なくなったからか?」
マルチダ「そんな所だ。それに…この傷の借りも返してもらいたい」
モット「いかれた奴だ。消せばいいものを」
マルチダ「お前も相当だ。私が変身で服を破かないかずっと気にかけていた癖に」
モット「風邪を、ひかないか心配だった…」
マルチダ「随分と照れ屋なアンデッドだな、それなりの身分になったらと言ったのはお前だぞ」
モット「その約束だがまだ保留だ。でも、傷の借りでは今回だけだぞ…」
マルチダ「ああ、それでいい…」
その夜、モットは過去に見たある夢を再び見た。目の前で親族を全て失い、自らも命を落とした際、保護されて目が覚める前に見ていた不思議な夢だった。
夢の中、子供のモットは暗闇の中にいた。モットはそこがあの世だと思い、家族の名を呼んだが返事がなく、先に死んだはずの家族はいなかった。何もなすすべなく彷徨っているうちに悲しみや恐怖が和らいで辺りを見渡せるようになった。そこは苔のような物体に覆われた薄暗い森のような場所だった。
突然目の前に古く小さな小屋が現れた。モットを待っていたかのようにその小屋から見知らぬ女が出てきた。女はモットを小屋の中に招き入れた。この時モットはこの女に何処か懐かしさを感じた。
女「坊や、1人になってしまったみたいね」
モット「みんな死んだ。僕も死んだの?」
女「大丈夫、坊やが死ぬにはまだ早い。私の命を分けてあげる」
女「だけど、本当の命は坊やが必ず手に入れてね」
モット「どういう事?」
女「大人になれば分かる。我が子達を終わらせる訳にはいかないの」
女はモットの頭に手を置いてそう言った。
女「坊やは闇を恐れない。だけどあの7人は闇を恐れ私をここへ追いやった。あの7人に打ち勝つのは坊やだけ」
女「坊やはもう2人も取り込んでいるわね、おかげで私は力を少し取り戻せたの」
モット「何の力?」
女「そうね、闇の勇者の力。坊やならきっとそれになれる」
女「そろそろ行きなさい。これでお別れね」
突然モットの体は浮かび上がると女を離れて小屋の天井をすり抜けようとした。
モット「待って、置いていかないで!」
女「今の私はこの姿になっても生きながらえている。だから、坊やは命を繋いでおくれ…」
モットの体は小屋をすり抜けてそのままを上昇した。女のいた小屋が見えなくなった時、子供の頃のモットは目を覚ましていたが、今回は夢の続きが見れた。
夢の場面が切り替わった。さっきの女が何者かに追われ、捕まり、押さえつけられ、殴られている。その者達が去ると女は動かなくなって横たわっていた。
女の体は次第に崩れていき苔のようなものに変化した。モットはこの時、あの空間を覆っていた苔のようなものはこの女の一部であると悟った。
モットは目を覚ました。
モット「ふああ、何だったんだあの夢は?だいぶ前の続きを見るなんて、しかも鮮明にセリフまで…って!?」
モットの顔半分に違和感がある。
モット「ぬわぁ!!」
マルチダ「…どうした?ってお前、顔が…」
モット右半身だけがアンデッド化していた。さらに擬態能力も使えなくなっていて手足がうまく動かせない。モットはマルチダに肩を支えられながら、怪人開発室へと向かった。
キメラウォーリア
性別:♂ 年齢:不明 弱点(属性):虫、闇
改造魔獣軍団副団長となったキメラの怪人。強奪した巨大戦艦ヤマタノオロチの怪人開発室にて、人型の付与、義手の移植、軍事知識刷り込み等の改造を受けて生まれ変わったマルチダの召喚獣。
武器はマルチダから授かった獣王剣と、左手の付け換え可能な義手【キメラアタッチメント】。必要に応じてハーピーと同等の翼を生やして飛行することが可能。
怪人となったがマルチダのみに絶対的忠誠を誓っており、邪魔者であるモットの始末を目論んでいる。