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第21話 誤入力

 モットがふと振り返るとそこには食人女と左前足を接合したキメラが立っていた。先ほどモットの使った範囲蘇生魔法を吸収して復活していたらしい。


モット「くっ、まだやるつもりか!」


食人女「いや、私の負けだ」


モット「…」


食人女「好きにしろと言いたいところだが、もし叶うのであれば私の望みを聞いてくれ」


モット「何だ?」


食人女「お前は私と同じ魔物血族者でありながら人間社会にうまく溶け込んで生きているようだな」


モット「まあ、そうだけど」


食人女「私はキメラや使い魔、召喚獣以外の者達と暮らしたことはないが、お前とならうまくやっていけそうだ。だから…私をお前の仲間に加えてくれ!」


モット「何だと…」


 唐突に仲間になりたいと言われて困惑したモットは壊れたギルド端末を落とした。その衝撃でギルド端末が起動して新メンバー確認画面が表示された。そこには現在999人と表示されている。


食人女「それとだ、お前は私を倒せるだけの強い男。いずれは私と夫婦になって添い遂げたい」


モット「げっ!!」


 モットは顔を赤らめた。


モット「いや、無理だ(っていうかこの前読んだ転々探索部に出会って直ぐに求愛されるシチュエーションは発狂した転移・転生者の妄想って特集になってたし)」


 転々探索部とはモットが愛読している自称異世界人に関する雑誌である。この世界で確認されている異世界転移・転生と思われる者の体験談や、彼らを肯定否定する学術論文が掲載されている。元々は大人気の週刊誌であったが、異世界病患者の保護団体や彼等から得たテクノロジーの独占を企む権力の圧力によって週刊誌から月刊誌に追いやられ、現在は不定期発刊となっている。


モット「それに、誰がお前みたいな化け物女と!」


 キメラは口を開いて光の属性を付与した牙を見せつけてモットを威嚇した。


食人女「お互いに化け物であろう。お前こそ妻になる人間の女はいるのか?」


モット「いないよそんなもん(この女、好きにしろと言っていながらこんな面倒な要求を!)」


心の声「(それにまずいぞ、この女の要求を拒否すればこのキメラが黙っていないだろう)」


心の声「(今の僕にもう一度戦ってこいつ等に勝つ自信はない…)」


モット「(だけど、今ちょうど新メンバーが999人、あと1人で目標達成だ。それにこの女は結構強くて十分な戦力に使える)」


心の声「(正気か?僕はアンデッドなんだぞ、子供作れないし、結婚したとしても食われる心配はないが、尻に敷かれるかもしれないぞ)」


モット「(だったら、適当な嘘を言ってその気にさせて利用してやればいい。用が済んだら弾除けか鉄砲玉にでも…)」


モット「それじゃあこうする!」


食人女「断るか、ならば私を殺せ。お前のような強い男に出会えて満足だ」


モット「いいや、貴様はかなり強い、魔法攻撃がほぼ効かないし、テレポートや範囲攻撃、召喚獣の使役、魔力の集積のスキルも優秀だ。殺すのは惜しい」


モット「だけど貴様との婚約はしない。僕は誰のモノにもならない。それに貴様が僕の仲間を殺したことは許さない」


食人女「何が言いたい?」


モット「だから、僕の手下の末席に加えてやる!」


キメラ「グルルルル!」


モット「まずは下っ端として僕の命令には全て従え、そして誰よりも活躍しろ。僕の妻にふさわしい地位と実績になった際に僕から結婚を申し込んでやってもいい!!(全部嘘だけどな、コイツ等に心を読むスキルなんてあるまい)」


キメラ「グルルルル!」


食人女「待てキメラ、一応仲間に加えてもらえるのだ。それで良しとしよう」


 モットはアイテムBOXからギルドソルジャー用の着替えを取り出した。


モット「破けた人皮の服の代わりにこれを着ろ。ウチのコスチュームだ!」


食人女「このヘルメットの変なマークは何だ?」


モット「我がギルドモット団のエンブレムだ(あ、辺りが暗くなったせいで色を見間違えてた。下の着替えにこ自分用に買った赤いジーンズを渡してしまった)」


 食人女はモットに渡されたギルドソルジャー用のコスチュームを身に着け、最後にMと黄色で刻まれたセラミックのヘルメットを装着した。


食人女「着てみたがこれでいいのか」


モット「ああ、今日から貴様はモット団のギルドソルジャーだ(まあいい、青ジーンズの一般ソルジャーと見分けがつく)」


モット「後、この剣は記念に持っておけ」


 モットは食人女にキメラを倒した際に使用した獅子の装飾の大剣を渡した。


モット「貴様が食った冒険者の持ち物だったが、新たに剣の名前がいるな、獣王剣とでも名付けよう」


食人女「ああ、しかしお前は何でも私にくれるのだな」


モット「その代わりにそこで寝ている怪我人には危害を加えるな、他の手下達にも!」


食人女「分かった。約束する」


モット「そうだった、新メンバーに加えるならギルド端末に登録しなくては」


食人女「端末?コンセントやマルチタップに繋ぐやつか?」


モット「後で説明する、それより貴様の名は?」


食人女「…」


モット「僕はモット・アシュラ・じゃしんだ!登録するから名を教えろ」


食人女「無いのだ…捨て子だったから」


モット「だったら僕が今付けてやる!」


モット「食人鬼、龍太郎、ゴキゴキ虫…」


キメラ「グルルルル!」


モット「分かった、まじめに考える(ここの周囲には薔薇が咲き乱れてるから、そにちなんでローズって、消臭ウーマンと被るから他の呼び名で…)」


 食人女にふさわしい名前を思いついたモットは割れたギルド端末に文字を入力して登録ボタンをタップした。ギルド端末の新メンバー表示が1000人とカウントされた。そしてモットは食人女に登録した名前を見せた。


モット「よし、何とか出来たみたいだ。今日から貴様の名前は薔薇にちなんでマチル…ん!?」


食人女「マルチダ?これが私の名前…」


モット「(しまった、間違えた!一度消してやり直すと人数が減ってしまうし、めんどくさいな…)」


食人女「お前がくれたこの名前も大事にする。今日から私はモット団のマルチダだ!」


モット「!?」


心の声「(ええええええええっ、マジかよ!)」


マルチダ「どうしたキメラ?」


モット「ん?」


マルチダ「キメラがこう言っている、仲間に加わったのだからお前が倒した私の召喚獣達の蘇生を手伝ってくれとな」


モット「そう言えばコイツも回復魔法が使えたのか、蘇生魔法も?」


マルチダ「そうだ、最悪私が殺された場合はキメラが私を蘇らせるつもりだった」


モット「分かった。だがその前に、いでよスケルトン!」


 モットはスケルトンを数体呼び出してサカキとリリンダを守らせると、今まで倒したモンスターの死体の所まで行き蘇生を試みた。

 モットは先ほどと同様に蘇生魔法を使用して倒したモンスター達を蘇らせた。キメラは1体づつでモットは一定範囲内の知覚したモンスターを複数蘇生できている。


モット「残るはカラフルなタイタンか。そういえばコイツ等はどこで契約したんだ?」


マルチダ「大都市の東側で年に数回モンスターを使ったイベントがあるだろ。冒険者に扮した私がそこからテレポートで搔っ攫っている」


モット「パチモントーナメントか、どうりでイベントの度に一部のモンスターが行方不明になってたわけだ」


 パチモントーナメントとは不定期にミッドカット冒険者協会が主催する捕獲モンスターを従えた大手ギルドによるバトルトーナメントの祭典である。

 開催期間中ミッドカットにはドーム状の巨大なバリアが出現して安全を守りながら、バトルの様子が周辺都市にも中継される一大娯楽でもある。また、勝ち負けを予想した当局運営の賭博も人気である。


モット「この緑のタイタンで最後だ、潰れた片目は直せなかったが…」


マルチダ「ご苦労、戻れタイタン!」


 蘇生が終わった召喚獣のモンスター達はマルチダの召喚BOXへ吸い込まれていった。


モット「便利だな、アイテムBOXのモンスター版か」


マルチダ「お前も眷属のスケルトンを呼び出せるだろ」


モット「いや、どちらかと言えば体内に収納している」


 蘇生魔法を連発したモットはSPポーションを数本飲み干して口を拭いた。


モット「明日、サカキ達を起こしたら貴様の事を話しておく、それまで休んでおけ」


マルチダ「ああ」


モット「今日は疲れた、蘇生魔法の練習にはなったがあれだけ使ったら体にくる…」


マルチダ「私の住処に風呂代わりに使っている大釡がある。それで湯を沸かして入ればいい」


モット「いや、出汁を取られるみたいで…(後でこっそり泉で水浴びを済ませておこう)」


 翌日、サカキとリリンダが目を覚ました。モットはスケルトン達と2人を一晩中見守っていた。


サカキ「あれ、あの時何があったんだっけ?」


リリンダ「むにゃむにゃ。おはようであります」


モット「2人共戦闘不能で眠っていたんだ。(死んだことは伝えないほうがいいか)」


モット「突然だが1000人目の新メンバーを紹介する(捨て駒だけどな)」


マルチダ「食人鬼ことマルチダだ。この度はモット団の一員になった。よろしく頼むぞ」


 初めての自己紹介でマルチダは少し照れていた。


サカキ「ああっ、討伐したんじゃなかったのか?」


リリンダ「仲間にできたのは良いのですが、依頼はどうするでありますか?」


モット「いろいろあって主従関係を結んだ。依頼のことはなんとか誤魔化そう」


 モット達は依頼をどうするか決めることにした。


サカキ「俺等は迷いの森の元凶である食人鬼を討伐することになっている。報告の際に討伐の証拠を提示しなければいけないぜ」


モット「一応討伐した事には違いないが、やっぱ証拠がいるよね」


リリンダ「でしたら食人鬼が逃げたことにすればいかがでありますか?」


モット「それでは依頼失敗になってしまう、まずいな」


サカキ「言いにくいのだが…マルチダの体の一部でもな…」


マルチダ「私は負けたのだ。その覚悟は出来ている」


モット「その手があったか!(どこを切り落としてやろうか?)」


マルチダ「もう一度ドラゴンに変身する。私の一部を切り取って持っていけ」


キメラ「グルルルル!」


 すると、マルチダのキメラが左前足を噛みちぎりモット達の前に差し出した。それを持って行けと言いたそうだ。


モット「主を守るために自分の足を?いい忠誠心だ。その申し入れを受理した」


マルチダ「キメラ…」


 キメラは自分自身に回復魔法を使い傷を塞いだ。そしてモットを睨みつけると召喚BOXへと戻っていった。

 その後モット達はマルチダが生活していた痕跡を消してから迷いの森から出た。あの空間はマルチダがいなければ自然と森に融合するらしい。その際にモットはマルチダ達が食した人間の骨を全て回収して、ついでに珍しい色の薔薇も保管カプセルに入れて持ち去った。

 最も近いサブPTの野営地へと向かう途中、なぎ倒された木々が目に入った。野営地に入るとそこは何者かに踏み荒らされていて誰もいなかった。


モット「いったい何があったんだ!?」


サカキ「俺のギルド端末が壊れていなければ」


モット「僕のも今故障中でメンバー登録や観覧くらいしかできないんだ」


リリンダ「とりあえず、他の場所に行ってみるであります」


 そこから別の野営地に行ってみるとそこには無事だったさっきの野営地にいたサブPTと死んだと思われていたレンジャーイノシシの姿があった。


サカキ「おお、生きていたのか!?」


レンジャーイノシシ「御大将!吾輩は生存したである」


サブPTリーダー「昨日巨大化した状態で私達の野営地に突っ込まれまして…」


レンジャーイノシシ「あれから吾輩はモンスターを引き付けて猪突猛進していたであるが、迷いの森のトラップを踏んずけてしまい方角だけでなく何が何だか分からなくなってしまったのである」


モット「てか、元に戻ったのか?」


レンジャーイノシシ「巨大化の効き目は3分位だったのである」


サカキ「もう二度と勝手な真似をするんじゃねえ、巨大化の薬は残っているなら俺が預か…」


モット「いや、何かに使える。残りはミニンの所にでも回しておけ(何とか量産して他の怪人にも使えないだろうか?)」


 モットは合流したサブPTのギルド端末から依頼完了の報告を行った。そして、他のサブPTとも合流を果たして森の出入り口へと向かった。


モット「そうだマルチダ、今から依頼主が直接来るらしいから念のためにテレポートで隠れておけ」


マルチダ「分かった」


 森から出るとしばらくして護衛を連れた議員が様子を見に来た。モットは迷いの森はキメラの仕業であったと報告して、偽造した証拠の前足を渡した。


モット「(さて、どうなる)」


ドラコソ議員「…確かにこの足の持ち主は高い知能を持った魔物ですね」


サカキ「それじゃあ約束の報酬は?」


ドラコソ議員「貴方方のギルド公認は既に議会で可決させました。残りの報酬は準備ができていますが、2週間程適当な冒険者PTを送り込んで最終確認をさせますのでお待ちください」


モット「分かった。それでいい」


マルチダ「(この女の護衛、人に化けた使い魔だな)」


ドラコソ議員「この度はありがとうございました。これでミッドカットの闇が一つ消えることでしょう。それではモット団の皆様の今後の活動に期待します」


 話を終えるとドラコソ議員達はその場を去った。茂みの中に隠れていたマルチダはモットの前に出てきた。


モット「さてと、支部に戻って確認が済むまで今回の依頼の参加者全員休養としよう」


サカキ「休養かぁ。その間にギルド端末を買い替えておくぜ」


モット「そうだったな、どっかの馬鹿に壊されたせいで…。僕のは修理サービスが使えるかもしれないな」


マルチダ「…」


モット「僕は明日、転送サービスでタケノコ共和国に行ってくる。ギルド端末修理のついでに新しいのを買ってきておく」


サカキ「いいのか、モット君?」


モット「もちろんだ。ここんところサカキの部下の世話になってるしな」


マルチダ「私はどうすればいい?」


モット「そうだな…、僕が責任もって監視するから一緒に来い!」


 何とか依頼報告を終えたモットは一部の部下を残して空間転送サービスでギルド端末の修理に向かった。ちなみにレンジャーイノシシには部隊が与えられ、議員の許可を得た上でしばらく森の管理を行いながら資源採取を任せることになった。


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