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第14話 暗殺依頼

 モットとサカキの2人は数名の部下を連れて軍事国家のベスタの国境都市カママチへとやって来た。ここにはサカキが武器購入の交渉に紹介してくれたある人物がいるらしい。

 モットはポニョン達に教わった人間体への擬態魔法でかつての肉体を取り戻して、町中を堂々と歩けることに喜んでいる。


モット「ちょうどここにもタケノコ転送サービスの支店があったんだな」


サカキ「俺には原理はよくわからないが便利な移動手段だ」


ニキータ「そういえばギルドマスター、ドロンさんを転職セミナーに行かせて良かったのですか?」


モット「大丈夫だ、いざとなれば前衛には侍のサカキがいる。サカキは冒険者アカデミー一の剣士候補生だったんだ。(熱さと巨乳に弱いが…)」


サカキ「照れくさいなあ」


ポニョン「ドロン今頃どんな上位職に決めているんだろう」


 予定より早めに来たモット達はしばらくカママチを歩き回った。町のいたるところに建国の勇者タキオン・タマキオンの石像が見られ、それらの側面には1000年前に邪神を葬ったタマキオンの伝承が記されている。伝承の最後には勇者タマキオンが魔界へと旅立ってその後の姿を見たものは誰もいないと刻まれていた。


 また、軍事国家だけあって、街中には多くの軍人が出歩いている。この国は徴兵制により国民の多くが紛争地帯へと駆り出されている。東の帝国の下請けが主な任務らしい。その関係から東の帝国兵士も駐屯している。


サカキ「見ろ、モット君。そこら中にいる赤いアーマーの重装歩兵は東の帝国兵士、ゾルダーだ」


モット「何だか態度も悪いし嫌な奴らだな、絶対に友達になりたくない連中だ」


サカキ「そうだろ、俺の部下で奴らに実験台にされた者がいるんだ」


モット「そういえば、確かあの国も七勇者の1人が作った国だっけ?」


ニキータ「そうですね。現在のギリアム朝の祖先ですよ」


ポニョン「淵の国もそうだったわね。そっちは子孫が増えすぎて平民化したそうだけど」


モット「今の総合職扱いの勇者と違って、魔王とかを倒した昔の勇者は結構偉くなれたんだな。羨ましい…」


サカキ「勇者のモット君には悪いが実際のところ昔の勇者はかなり汚い手を使ったと俺は考えている。勝った奴らは調子に乗って好き放題やるからな」


モット「好き放題か、確かにそうだ(僕がギルドを強化してやろうとしていることも同じかもしれないが…)」


モット「ん?ちょうどいい所に中古本屋があるぞ、悪いけどみんな時間をくれ。ネクロマンサースキルの応用本と七勇者の歴史書があれば買っておきたい」


ニキータ「大丈夫ですよ、早めに来たので時間に余裕はあります」


ポニョン「どうぞギルドマスター」


サカキ「相変わらず勉強熱心だね」


 モット達は中古本屋で適当な書籍を購入した後にサカキの案内でベスタ軍の施設に隣接する屋敷へと向かった。この屋敷に住む人物はかつて現在の政権を擁立した中心的人物で、総統との対立によりこの付近の軍事施設の統括に左遷されたカタール准将と言うらしい。

 カタール准将の指示によりモットとサカキの2人だけの面会が認められ、2人が屋敷に入るとそれ以外のメンバーは屋敷の庭の休憩所で待つことになった。


モット「軍事施設の統括者ってかなりの大物じゃないか?」


カタール准将「いいや、大したことはない。私など名ばかりの統括者で研究施設等には一切の干渉ができんのだよ」 


サカキ「お久しぶりですカタール准将!」


カタール准将「おお、サカキ・緑川君、この前の依頼では世話になったな」


サカキ「突然無理を言って申し訳ねえ」


カタール准将「いやいや気にしなくてもいい。こちらは型落ちした戦車と飛行艇を購入してくれるギルドがあると聞いている」


モット「さっそく商談に入ろう」


カタール准将「そうだな、これがこちらで用意できる物と金額のリストだ」


モット「結構な額になるな(僕の預金にも及ばない。何故サカキはこんな無理な金額を示されると知っててここに来たんだ?)」


カタール准将「本来なら途方もない額の代金を頂くところだが、君達が私の計画に加担するのなら話は別だ」


 カタール准将がベルを鳴らすと、部屋が閉め切られて護衛は外に出て行った。


カタール准将「これから私が話す内容は他言無用だ」


モット「なんだかやばそうだが了解した」


カタール准将「君達のギルドが私の極秘作戦に参加した後にそれを成功に導けば、このリストの物品は全て無償で提供する」


モット「ええっ、話がうますぎる」


カタール准将「非常に危険なリスクを伴うぞ、それでもいいな?」


モット「死ぬような目には会ってきた。その極秘作戦とやらに協力しよう(もう死んでいるけど…)」


カタール准将「良かろう、まずは君達の本気を確認させてもらいたい」


モット「流石に初対面の相手に極秘作戦を話したりはしないか、信用もないし」


カタール准将「そうだ、今から私が別の依頼をする。それを誰にもばれることなくこなしてくれば君達を本番の極秘作戦に加えよう」


カタール准将「ただし、その依頼が失敗したり誰かに知られたらその時点で君達はこの国で犯罪者として追われることになる」


サカキ「マジか」


カタール准将「失敗したら失敗したで君達の逃亡手段を手引きする。極秘作戦の目くらましにも使えるのでな」


モット「で、僕らを試す依頼の内容は?」


カタール「ここに3名のベスタ兵士の名簿がある。この3人をできるだけ苦しめて殺せ!」


サカキ「シバリ、ヤミミ、ミケア、皆女性兵士か」


モット「一体どういう事だ!?」


カタール「先月、この町の隣にある軍の研究施設で爆発事故があり、施設の警備を務めていた私の養女が跡形もなく吹き飛んで死んだ。名をリリンダと言う」


カタール「リリンダは私の部下の娘で、両親は私が向かわせたある任務で殉職した。唯一の親族であった叔父はミッドカット事変の実行犯として処刑されている」


モット「(あのミッドカット事変か、VRゲーム内に閉じ込められた嫌な思い出だった)」


カタール「両親のことで罪悪感を感じた私はリリンダを引き取り、生活費や学費を支援した。彼女は士官学校を首席で卒業して軍に入隊して、同級生であったこの3人と同じ部隊で例の研究施設に配属されていたのだ」


カタール「養父と言っても数回しか彼女に会ったことしかない私には分からなかった。仲の良い同級生と思っていたリリンダはこの3人に…」


モット「まさか、この3人がリリンダって子を虐めていたとか…」


カタール「そうだ!!士官学校時代からずっとな」


サカキ「…」


モット「もしかしたら事故もこいつ等の仕業かもしれないな」


カタール「その可能性は非常に高い。我がベスタ軍では軍内での悪ふざけや嫌がらせが横行しており近年問題にもなっている。ここに左遷される前の私は総統に対策を進言したが聞き入れてもらえなかった」


カタール准将「私の部下はそういった問題に疑念を持つ者や実際に被害を受けた者が大半だ。エリア統括の地位を使ってできるだけ私の管轄内に集めてはいるが、リリンダの配属には力が及ばなかった」


モット「研究施設には干渉できないって言ってたな」


カタール准将「今はその施設は取り壊されて完全な空き地になっている。しかしリリンダがいじめを受けていた痕跡は消せていなかったようだがな」


サカキ「ところでターゲットの3人はどこにいるんだ?」


カタール准将「研究施設から一番近い武器保管庫の警備に転属になっている。そして今日の夕方頃にリリンダの住んでいた長屋にやって来る手筈になっている」


モット「成程、後は僕らに実行させるだけか」


カタール准将「彼女等が転属になった武器保管庫が私の管轄内だったのが好都合だった。そこにいる部下を使っていじめの事実を聞き出せた上にリリンダの部屋の証拠が残っていると吹き込ませることができた」


モット「よし、やってやろうじゃないか」


サカキ「移動手段は?」


カタール准将「隣町のリリンダの長屋までのトラックを手配する。また、失敗した際の逃走用にも使ってくれ」


モット「了解した。依頼の契約書は?」


カタール准将「これだ、まだ君の名を聞いていなかったな。ギルドマスターの実名でサインを頼む」


サカキ「モット・アシュラ・じゃしん!?」


カタール准将「その名は、まさか!?」


サカキ「いつの間にアシュラっていう名前を?」


モット「アシュラは色々あって恩人の名前を勝手にもらったんだ」


カタール准将「いや、何でもない。人違いのようだ(七勇者の末裔の名はともかく、まさかこんなことが…)」


 カタール准将と依頼の契約を交わすとモットとサカキは屋敷の外の仲間と合流して民間用に払い下げられたトラックの荷台に乗り込んだ。

 目的地に向かう中、モットは他のメンバーに秘密の依頼である長屋に向かうことだけを話した。サカキは何やら外を気にしながら時々自分のギルド端末を操作していた。

 リリンダの住んでいた長屋の近くまで来るとトラックから降ろされて部屋の鍵を渡された。付近の部屋はカタール准将の部下の手配で全て空き部屋になっている。


サカキ「お前達2人はここの屋根に潜んでおけ、誰かが入ってきたら外からドアを抑えろ」


猫耳兵「御意!」


モット「なかなか気が利くなサカキ、他はこれから僕がすることには誰も手を出すな、全員部屋の中に潜んでいろ」


ニキータ「了解しました」


ポニョン「なんだか妙だけどいいわ」


猫耳兵「にゃにゃーっ!」


サカキ「おう、後はモット君に任せた…」


 モット達はカタール准将から言われたとおりにリリンダの部屋に入り、ターゲットの3人の兵士がやって来るまで待機した。

 それからしばらく待機していると鍵をかけたドアノブから音がした。どうやら何者かが無理やり開けているようだ。そして女性兵士と思われる声も聞こえた。


兵士A「しめしめ、同僚が言っていたとおり周りの部屋には誰もいないわね」


兵士B「今日の昼まで准将の部下がこの辺をうろついていたけど、賄賂払えば本当にいなくなってくれるなんて」


兵士C「あの事件以来誰もここを開けてはいないって聞いたよ。絶対に証拠はあるはずよ」


兵士A「よし空いた。部屋の奥まで入るわよ」


 モットはアンデッドに化けると暗闇の中一歩前に出た。


ベスタ兵A「やっぱ暗視スコープだけじゃ暗いわね、少しだけなら明かりを…」


モット「その必要はない!」


ベスタ兵C「ひゃっ!?誰かいる!」


ベスタ兵B「ちっ、話が良すぎるって言ったじゃないの!」


ベスタ兵A「ミケア、ヤミミ、狼狽えないで。何処の回し者かは大方予想が付くわ。ここで返り討ちにすればいい」


ヤミミ「待ってシバリ、部屋の奥に数人隠れている」


モット「そいつ等には手を出すなと言ってある」


シバリ「ずいぶん舐めたマネしてくれるんじゃないの!」


 次の瞬間、一番手前にいた兵士はモットの腹部を刃物で突き刺した。しかし、モットは首から下を部分的にアンデット化しており相手の不意打ちを受けて見せた。


モット「残念だったな、訳あって僕は不死身の体になることができるんだ」


 モットは首から上もアンデッドになると殺人泥爆弾を取り出して兵士の両手ごと強く握った。


シバリ「ぐぎゃーぁ!手が手が!」


 そして次に拳くらいの石を兵士の口に押し込むと歯に引っかかるように変形させ声を封じた。


モット「ソイツはお前の両腕からじわじわと体を溶かしていくぞ。悪いな、苦しめて殺せと依頼されている」


ミケア「化け物!?来るなー!」


 2人目の兵士はクロスボウを乱射して何本かの矢はモットに突き刺さったが、完全にアンデッド化したモットにはダメージを与えられなかった。


モット「言っただろ僕は不死身って、何かの属性でも付与しておけばよかったな」


ミケア「アンデッドにはエンチャントファイア…」


モット「不正解だ!!」


 モットは自分の頭蓋骨から刺さっていた矢を引き抜くと2人目の兵士の額に突き刺した。


ミケア「うぶぁ!」


モット「おっと、叫べなくしておかなければ!」


 モットは左肩に刺さっていた矢を引き抜くと額の矢で悶える兵士の下顎に向かって突き上げた。それを見た3人目の兵士は急いでドアに向かったが、外に潜んでいたサカキの部下の猫耳兵がドアを抑えて逃亡を阻止している。


ヤミミ「待って、私達は研究所の件を隠蔽しに来ただけよ。それにリリンダの手帳や日記とかがあれば都合が悪くなるから…」


モット「士官学校の時からお前らが彼女を虐め倒していた事実でも書かれていると?」


ヤミミ「それもあるけど…そもそも属性適正者は自殺しない程度まで虐げるように私達は命じられていただけなの」


モット「何の為に、誰から?」


ヤミミ「言えない…機密事項だから」


モット「なるほど、研究所の事故は故意だな。リリンダって娘が適正者で何年も痛めつけた状態で何らかの実験を行うことになっていたが、失敗して爆発した。君達は上からの命令で使われたに過ぎない」


ヤミミ「そうよ!リリンダが士官学校入学時に極秘に行われた属性適正者に合格しなければ、同級生の私達に将来の保証と引き換えに彼女を痛めつけてるように総統から直々に声がかからなければ、今も仲良し4人組の親友になっていたわ」


モット「実に人間らしい弁解だ。大体事情は分かった」


ヤミミ「そうでしょ、私たち以外にもこんなことをやっている兵士はいる。だから…」


モット「しかし、自分達の欲求を満たす為だけに友達になるはずだった同級生を売るクソ共に友とか友情とかを語る資格も価値もないわ!!」


 少し激高したモットは命乞いする3人目の兵士の首を掴むと指の先から闇の魔法を放出した。


ヤミミ「助けて、タスケテクダサイ…」


 3人目の兵士は生きたままミイラのようになって息絶えた。その数分後に2人目の兵士が死亡し、10分くらい経つと1人目の兵士は完全に溶けて骨になった。モットは残る2人の兵士の遺体を殺人泥爆弾で骨に変えて、新しく覚えた魔法を唱えた。


モット「アブソープション!」


 3人の兵士の人骨は服だけを残してモットの体内に吸収された。


サカキ「お、終わったか?」


モット「ああ、もういいよ。さっさとここを出て報告しよう」


ニキータ「いったい今のスキルは?(恐ろしい、物凄い負のオーラだった…)」


モット「ああ、骨を取り込んだやつか。さっき買って読んだネクロマンシー応用テキストにあった死体吸収魔法だよ。体内に取り込んだ死体を都合のいい時に出し入れ出来て、眷属として呼び出すこともできるらしい」


ポニョン「なるほど、証拠は持って帰った方がいいわね」


モット「こいつ等の服と装備品は戦利品に入れておけ」


猫耳兵「了解にゃー!」


サカキ「(こんなに怒ったモット君は初めて会った時以来だな。俺が糞を投げられて泣かされていた時に懐中電灯みたいな剣を振り回してたっけ…)」


モット「(ヌヌーティ、アックス、たとえ僕達がコイツ等と同じ立場であってもこんなことは絶対にしないよな…)」


 モット達はリリンダの部屋を後にするとカタール准将の裏切りを警戒しながら帰りのトラックに乗り込んだ。


サカキ「安心してくれモット君、俺達が口封じに消されるようなことが無いように手は打ってある」


 そう言うとサカキは行の道でも見かけた数台のタクシーを眺めていた。カタール准将の屋敷に着いて依頼達成を報告した。


カタール准将「念のために証拠はあるかね?」


猫耳兵「兵士達の認識票です!」


モット「いでよスケルトン!」


 モットはアンデッド化すると体内から先ほど殺した3人の兵士から作ったスケルトンを呼び出した。


カタール准将「何と!?君はアンデッドだったのか」


モット「何ならこの骨を調べてみるか?」


カタール准将「いや、その必要はない。君達の実力がよく分かった。秘密任務に加えよう」


モット「やったぜ!」


ニキータ「ギルドマスター、骨はもうしまいましょう…」


サカキ「で、極秘作戦とは?」


カタール准将「詳しくは明日話す。今日は私の屋敷で休んでくれ」


 モット団全員はゲストルームに案内され、屋敷に一泊することになった。モットは念の為にさっきのスケルトン兵に命じて寝室を見張らせた。しかし翌朝まで特に何も起きなかった。


ベスタ 

 1000年前、七勇者の1人により建国された多民族の軍事国家。ミッドカット北西の荒れ地の果ての半島一帯にある。弓や鎌等の湾曲した武器が伝統の武術となっている。第三次大戦前に建国者一族を東の帝国へ追放してから不安定な軍事政権が続いていた。現在は建国者の末裔を再び国家総統に迎え戦力増強を行っているが、帝国寄りの政策が取られており、事実上の属国と化している。

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