第1話 さらばゼムノス団
主人公:モット・じゃしん
年齢:21 性別:♂ 冒険者分類:勇者(上位総合冒険者) 家族:無し
得意属性:闇、地、回復
スキル:闇耐性、鳥語、マンドラゴラ直抜き
経歴:
幼少期にある事件で親族を失い、とある修道騎士団に保護されるが、協力関係にあった義勇軍と敵対して壊滅に会う。かろうじて故郷に逃げ延びて地元の冒険者育成学校に通った後に、上位ランクの冒険者である勇者を目指して大都市ミッドカットへ進学。名門勇者大学卒業後は就業先のギルドを探すもうまくいかずに途方に暮れていた際にとあるギルドに拾われ半年になる。
ここは風魔法使いギルドミッドカット支部の小さな砦、ギルドバトルの始まりの合図とともに彼らは乗り込んできた。ミッドカット北のオカマチ山に野営地を構えるゼムノス団だ。
冒険者ギルド同士の競合が激しいこの付近では、ギルドメンバー達がまともに屯する場所を確保することは非常に難しい。
だが、彼らゼムノス団が風魔法使いギルドに戦いを挑んだのは砦を奪うためではない、砦などのギルド所有物には高額な税金がかかる。金持ちのギルド以外は皆外での野営や路上にギルドのたまり場を設けている。
つまり風魔法使いギルドには金がある。彼らは風魔法使いギルドの所持金に目を付け、賞金としてギルドバトルで奪うつもりだった。
魔法使いといえば物理攻撃に弱い。さらに、属性の偏った風魔法使い達にとってバランスのとれた職業編成(戦士・僧侶・セージ・アサシン・錬金術師・勇者等)のギルドメンバーとの戦いは明らかに不利だ。
しかし、ゼムノス団のギルドメンバー達が風魔法使いギルドの支部長室へと突入していく最中、未だ入り口付近で力の弱い風魔法使いに相手に物理攻撃で押されている勇者がいた。
モット「か、風なんて空気だ!」
仲間が怒鳴る。
錬金術師「何やってんだモット!こいつらの弱点の地属性魔法使えるだろ?」
モット「だってゼムさんが自重しろって」
錬金術師「それはテメーが棒みたいな形にして進路妨害するからだ、調節しろよ」
モット「仕方ないクエ」
モットは少しいじわるなメンバーに指図されるまま地属性の魔法球を3つ召喚して、目の前の風魔法使いを吹き飛ばした。狭くなった通路を1人で進んで別の風魔法使い3名と対峙したが、相手の魔法によって地属性魔法を封じられてしまった。
モット「また怒られるけど、僕の一番得意な闇魔法ならいける、ダークネスバーン!」
少し大きめの暗黒魔法球が風魔法使い3名に向かってホーミング、このうち2名をダウンさせた。
戦士「モット、ここは俺に任せてゼムノスさんについていけ」
そう言われるとモットは支部長室がある風魔法使いギルドの奥へと走った。ギルドマスターであるアサシンの後ろまで追いついた。
アサシン「遅いじゃないか、初めから闇魔法を使っても良かったんだぞ。まあいい、俺が風魔法支部長の相手をするからモットは奴らの金を奪うんだ。ネコババするなよ!」
モットは急いで支部長室の風魔法使いギルドの金庫に目をつけた。そして、モットが金庫を奪って風魔法使いの砦から出たと同時にゼムノス団は勝利した。
負けた側は魔法使いだけの職業に偏り、雇用費用の安いギルド兵士を雇わなかっとことが敗北の原因だった。
勝利手続きを終えて野営地に戻ったゼムノス団一行は戦利品の清算を行った。
僧侶「ちょっと、いくらなんでも少なすぎない?回復魔法で引っ張りだこだったのよ」
戦士「俺なんて鍛冶屋に武器を壊されたままなんだ。修理代くらいくれよ」
錬金術師「チェッ! こんなんじゃ奴らを生け捕りにして売ったほうがマシだぜ」
アサシン「モンス、それは言わない約束だろ。みんなも悪いが今日の分はこれだけにしてくれ」
ゼムノス団のギルド資金は財政難だった。ギルドマスターに認められた者しか参加できない深夜活動ではそこそこ収入があるらしいがギルドマスターの言う秘密の投資に消えていくらしい。
モット「(貯金はあるから僕はなくとも平気だけど、さすがに今回は不満が出るか)」
あまりにも少ない分け前にメンバー達からは多くの不満が出た。ギルドマスターといつも一緒にいる彼女のセージはその場をたしなめた。
セージ「みんな言い過ぎよ、ギルドマスターも大変なのよ」
アサシン「みんながもう少し育ってくれれば深夜活動に参加させてやる。だから、俺たちの戦いはこれからなんだ!」
しかし、それは終わるセリフだと突っ込まれた。
アサシン「だからこそ厳しい時代を生き残りいつか俺のホーリースラッシュで世界を照らしてみせる。」
そう言うとギルドマスターのアサシンは自らの鎧にスキルを使用して鈍く輝いてみせた。
モット「僕は光より闇がいいクエ!」
深夜活動を知らないメンバー達はギルドマスターのパフォーマンスに呆れ脱退すると言い出した。
光魔法使い「皆さん、落ち着いてください。今は仲間割れをしている場合じゃ…」
アサシン「嫌なら辞めればいい。俺にはゼムノス団をデカくしてミッドカットでやりたいことがある。俺についてくる奴だけが残れ!」
モット「みんな仲良くするクエよ!」
モットの一言がいじわるな錬金術師の逆鱗に触れた。
錬金術師「おいモット、さっきから五月蝿いぞ!何が闇勇者だバカバカしい、いつも足を引っ張りやがって」
モット「僕は闇魔法が得意だから闇勇者。それ以下でもそれ以上でもない」
錬金術師「それに時々話す鳥語も耳障りだ、いい加減にしろよ。もう息するな、ゾンビになれ!」
モット「ちょー、それは無理ー!」
アサシン「おい、モンス!出て行くのは勝手だがそれはモットに対して言いすぎだぞ!」
ギルドマスターがモットを庇ったのは、彼がギルドマスターにとっての弟分に思えたからだった。しかしその時、モットの中で心の声がした。
モット「(誰かが世界の均衡を管理しないからこうなるんだ。ここにいて何もできないんなら僕がギルドを新しく作ろう。)」
モット「決めた!僕は世界一のギルドを作ってこの腐った世界を叩き直してやるんだ!」
ギルド脱退を口にしたメンバー達はモットの発言を聞いて爆笑した。
錬金術師「はっはっはっは!急にどうしたんだ、変なものでも食ったのか?」
僧侶「うわぁ、みんなが喧嘩するからモットが壊れちゃったよ」
セージ「前から少し変わってたけど、残念な子になっちゃったの?」
光魔法使い「モットさんも落ち着いてください。(ん、このオーラは?)」
ある魔法使いの目にはモットの体から黒い魔力が放出されるように見えた。
モット「ゼムさん、みんな、今までお世話になりました。僕は故郷に帰ってギルドを結成します」
突然の心の声で吹っ切れたモットはゼムノス団の一同にお辞儀をすると、山道を降りていった。
ゼムノス「モット、お前もか、(俺に勇者の力さえあればこんなことに…)」
ギルドマスターのゼムノスはモットを引き止めることができず、その後ろ姿を虚しく眺めることしかできなかった。