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DEEP THE GREEN  作者: 楓 海
2/8

突然のキス

読んで戴きましたら倖せです。

 エドワード・カートランドは無造作にベッドに横たわり明日がレポートの提出日だというのに、のんきに居眠りをしていた。


 不意に近付いて来た影が言う。


「エディー..............?


 アーン、起きそうもないな

 ステキな寝顔

 いいや、キスしちゃお.......」


 エディーは眠りながら深い森林の匂いに包まれ、不意に触れて来た口唇に反応していた。


『心地好いキス.............

 きすぅ!? 』


 エディーはパッチリ目を開けた。


 目の前すぐ傍の長い睫毛。


 エディーは慌てて顔を引いて口唇を離し、その顔を見た。


 垂れ下がる銀髪の間から瞼が開き、二つのグリーンアイズがエディーの目を覗き込んだ。


 「キ、キミ..........誰!? 」


 エディーは手でベッドの上をまさぐり眼鏡を探した。


 グリーンアイズは低く掠れた声で言った。


「そんな物無くても見える筈だけど」


「え? 」


 言われてみればいつもより視界がはっきりしている様な気がする。


 グリーンアイズから目を逸らし、視線を泳がせた。


 エディーは酷い近眼の上に乱視で眼鏡無しでは総てがぼやけて見えた。


 それがどうだろう、視界がとてもクリアだ。


 エディーはグリーンアイズから逃れようと身体を(よじ)って転がりベッドから落ちた。


「いでっ.........」

 

 グリーンアイズの持ち主は立ち上がり、床に転がるエディーを覗き込んだ。


「大丈夫、エディー........? 」


 エディーはグリーンアイズの全貌を見てその美しさに目を奪われた。


 長くうねる銀髪、くっきりした目鼻立ち、熟れた果実のような口唇が誘うように輝いている。


 ほっそりした肢体に、付くべきものが付いていない事に気付いてエディーはハッと我に返った。


「キ、キミ............どっち........? 」


 グリーンアイズはきょとんとエディーを見詰める。


『しまった!

 失礼な事を言ってしまった!


 いや、突然人の部屋に入って来ていきなりキスするって、向こうの方が失礼じゃない?


 だいたいこの人、誰?


 って言うか、どうして眼鏡掛けてないのに見えてるの?! 』


 と、エディーは散々思考を巡らせてやっと言葉を絞り出した。


「キミ、いったいボクに何したの?! 」


 グリーンアイズはにっこり微笑んだ。


「本当は初めましてじゃ無いけど、初めましてエディー」


『や......そうじゃないでしょ........』


 と、エディーは心で呟いた。


「だからキミ、誰?! 」


 グリーンアイズは指をヒラヒラさせた。


「こんばんは、僕はグリーン」


 それから小首を傾げ言った。


「ねえ、僕もエディーって呼んで構わない? 」


「さっきから散々そう呼んでるでしょ」


 グリーンは肩をすくめ笑った。


「そうだね」


 エディーは少し落ち着くと立ち上がって小さなため息を吐いた。


「いきなり人の部屋に入って来てキスするなんて非常識過ぎるよ」


「ごめんなさい

 でも怒らないで

 エディーに逢えると思うと凄く嬉しくてはしゃいじゃったんだ」


「ボクはキミなんて知らないのにキミはどうしてボクを知ってるの? 」


 グリーンは机の椅子に腰掛けながら言った。


「僕は君を、生まれた時から知ってる」


 エディーもベッドに座り直した。


 どう見てもグリーンはエディーとそれほど歳が変わらない様に見える。


 エディーは眉間に指を当て考え込みながら言った。


「生まれた時からって、親戚か何か? 」


「そうじゃない」


 グリーンは首を振った。


「君をずっと見守って来たんだ

 だから君の事はなんでも知ってる

 性格も食べ物の好みも趣味も、将来童話作家になりたい事も」


 グリーンが言った事は当たっている。


 エディーの夢は将来童話作家になる事だった。


「見守って来たって.........」


 グリーンをじっと見詰めるがどうしても逢った記憶が見当たらない。


 要領を得ないエディーは仕方なく質問を変えた。


「キミって何者の?

 その前に、気を悪くしないでね

 キミ、その........女性なの?

 それとも男性.........? 」


 グリーンは胸の前に指を組んで天井を見上げた。


「あ..........ン..............

 その質問にはどう答えるべきかな

 どちらでも無いと言えばどちらでも無いし、どちらでもあると言えばどちらでもあるし............」


 エディーは小さくため息を吐いて言った。


「何をぶつぶつと

 それじゃ答えになってなーい」


「この姿だと............」


 グリーンがゆるゆるのタンクトップの自分の胸元をのぞいたので、エディーは顔を赤らめた。


『どこ覗いてるのーーぉ!? 』


「一応.........男性かな」


 グリーンはエディーに視線を戻すと笑い掛けた。


「前者の質問はね.........」


 グリーンは立ち上がって窓の外を指で差し示した。


「ほら、あれが僕...........」


「あれ? 」


 エディーは立ち上がって窓の外を覗き込んだ。


 そこには暗闇に広がる庭に、この辺りには珍しい菩提樹の木があるだけたった。


 エディーは振り返り言った。


「あれって、庭に木が一本あるだけだよ

 その向こうはハザウェイさんの家だし」


 エディーは答えがストレートに返って来ないことに苛立ち、眉間に皺を寄せ興奮して言った。


「いい加減からかうのは止めてよ!

 本当は何者なの!?

 何処から来たの!?

 突然視力が回復したのは何故!?

 

 ボクはキミの事全然知らないのに、キミはどうしてボクの事を知ってるの!? 」


 次々と繰り出されるエディーの問いに、答えに困ったグリーンはいきなりエディーの額に掴みかかった。


「何す.........! 」


「しーーー、目を閉じて........」


 グリーンはエディーの耳もとで囁いた。


 エディーは驚くがグリーンの静かな物言いに、抵抗力を奪われ従った。


 グリーンの手があたっている部分がぼんやりと温かくエディーの額を温め、風景が流れ込んで来る。


 エディーは一本の木になっていた。


 穏やかな時の流れを感じ、エディーの耳に子守唄が聞こえて来る。


 閉じた目に赤ん坊のエディーを抱き歌う母ニーナの姿が見える。


『あれはママと赤ちゃんだった頃のボク........』


 次に見えたのはエディーを毛布にくるんで抱き、焦燥するニーナと父ロバート。


 二歳のエディーはぜーぜーと言う音をたてながら苦しそうに呼吸している。


「君が喘息の発作を起こした時だよ」


 グリーンが静かに言う。


 妹のジェシカが生まれ喜ぶエディー。


 ジェシカの顔に油性マジックでイタズラ書きしてニーナに怒られるエディー。


 本の読み過ぎで視力が落ちて初めて眼鏡を掛けたエディー。


 それらを見守る樹木は暖かな喜びを感じながら、ただ(たたず)んでいた。


「解って.......貰えた..........? 」


 エディーに自分が見て来た風景を見せる為に大量のエネルギーを消費したので、姿を維持できなくなったグリーンは力無く言うと、ガクンと脱力して崩れ、柔らかな光になって弾け消えた。


「グリーン! 」


 菩提樹の葉が、ひらひらと驚くエディーの前に落ちて行く。


 床に落ちた葉をエディーは屈んで拾い上げ、見詰め口付けた。


「ごめんね............」


 部屋には、深い森林の匂いが立ち込めていた。




 読んで戴き有り難うございます。


 今回、また純文学にジャンルお邪魔しました。

 やっぱりジャンル分けに困ってしまいまして。

 有難い事に応援して下さる方に恵まれ、純文学日間6位にランクインさせて戴きました。

 応援して下さった皆様、読んで下さった皆様、心から有り難うございます。

 (*- -)(*_ _)ペコリ

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