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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛でるだけでいいんです。

作者: たかやす

なろう版


R3/6/26編集



愛でるだけいいんです。


 愛でるだけで良かったのにどうしてこうなったのかしら。



***



 一生懸命に鍛錬行う騎士、仕事に打ち込む文官達、討論しあう学生達。何かに一生懸命打ち込む人々を遠目から、そっと、静かに愛でるだけで心が洗われるよう。勿論、見た目の良い人達を見るのも大好き!すぐに飽きてしまうのだけど。王家の人達はそれこそ美男美女ばかりでたまにしかみないから、飽きないのよね。眼福。眼福。


 忙しい仕事の合間に見るからこそ良いものなのよね。忙しいからこそ、心の潤いが必要なのよ。わかるでしょう?こんなところからこっそり覗かれてるなんて誰もわからないでしょうに。むふふ。どこかに逢引きしているような人達はいないかしら?可愛いお姫様でも良いのだけれど……。最近筋肉ばかり愛ですぎてしまったのよ。


「聞いているのか?」

「……え?はい。聞いてますとも」


 いいえ。全く聞いてません。何か囀っているなとは思うものの、何も頭に入りません。ええ、ええ、そうですとも。現実逃避です。


 そもそも愛でるものが目の前に来たら、誰しも驚きますよね?犬の耳?猫の耳?かしら?白銀?白?初めて見る色だわ。尻尾はふさふさでゆらゆら揺れてて可愛いわ。触って堪能……っ違うわ!愛でるのよ!だめお触り!でももふもふはとても魅力的……。お触りだめかしら……?


「聞いてないなー」

「おーい」

「……訓練戻る」

「えー、じゃああたしも戻る」


 ええ、ええ。皆様全員で戻って下さい。誰一人残らなくていいんです。あ、ちょっと、一人残ってますよ?誰か?誰か!?彼も連れて行ってあげて?彼だけは置いていっちゃダメよ!誰かー!!?


「ここで働いているのか?」

「……住み込みで働いています」


 この人苦手なのよー!ガタイ良いしすごくカッコいいだけど、最近なんか目をつけられてしまってなんだかんだ質問攻めなのよ!目合わせたら逸らされるし、逆に質問したら素っ気ないし。何なの!?おばさんからかわれているのかしら!?そ、そりゃあ離婚歴もあるし30すぎてますけどね!?たまにカッコ良さそうな人でちょっとイケナイ妄想しちゃうけどね!?もう良い年なんだから、ほっといて頂戴!住み込みの仕事ここしかなかったのよ!離婚されてから追い出されてお金必要なのよ!この歳じゃあ身体売るにも売れないし、路上生活は嫌なのよ!お金貯めたいのよ!!


「おや、獣人隊の隊長さんじゃないか?どうしたんだい?」

「彼女に用があってきたんだ」

「なら連れてっておくれ。働きすぎで困っていたんだよ」

「連れてっていいのか!?」

「勿論さ!トスカ付いていきな!」


 女将さーん!!!そこ違う!!余所者は追い出してくれないと!!私沢山働いてお金稼ぎたいのよ!なんかちょっとお弁当渡して私を売り渡すの!?二、三日戻さなくても良いって!?ちょっと!?女将さんも隊長さんも良い笑顔ね?やだ、二人とも素敵な笑顔だわ。………握手なんでしてるの?こっち見ないで。やだ。ちょっと怖い……。


「女将さん!私働きすぎではありません!」

「トスカ!10日以上も休みなしで働くのは働きすぎっていうんだよ!?二、三日休みな!」

「お、女将さん、そんな。こ、困ります……」

「困るのはこっちなんだよ!そんな上目遣いしたって駄目だよ!体壊して休まれたら困るんだから!二、三日経ったらでてきな」


 きゅんっ


 お、女将さん、私、今、女将さんの優しさにときめいてしまいました。でも、女将さんには最愛の御主人がいらっしゃいます。だからこの胸のときめきは大切な私の宝にします。だから私を売り渡さないで……


「じゃあ、トスカはこっち」

「ちょっなぁっ!?」

 

 そういうと傭兵の隊長さんは、私を軽々と持ち上げた。横抱きなんて……。もう30過ぎだけど、これは恥ずかしい……。とてつもなく恥ずかしいわ……。本の中ではすごくときめくけど、なぜかしら。自分がやられると羞恥心しか湧かないの……。ときめかないの。恥ずかしさで涙が出そう。


「お、下ろして下さい……」

「逃げるだろ?」

「……に、逃げないかもしれません」

「まあ、そんな重くはないし、女将の許可も得たしな。それにそんなに遠くから見たって面白くないだろう?近くに案内してやるよ」


 いえいえ。遠くから愛でるのがちょうど良いのです。食堂休憩室の窓がちょうど、ちょうど傭兵さんと騎士さんの演習場になっているんです。そこまで小さくもなく、近すぎることもなく見ることができる、まさにベストなポジション!!たまに文官さんも見えるのでなおよしだったのにー!!お姫様とか王子様だって覗けるベストポジションなのよ。


 なんか匂い嗅がれているような気がするしー!!!?


「良い匂いがするな」


 誰かー!!助けてー!!!



***



 ……なんだかんだ思いましたが、間近で見る訓練はやはり迫力があります。これはこれで眼福。筋肉同士のぶつかり合い、白熱する模擬試合、剣技による風圧……。頭から土埃が被るけれども……。それを差し引いても良いですね。


「……むふふ……」

「いいだろう?」


 傭兵の隊長さんはいい笑顔で話しかけてくれます。今誰が何をやっているのかを丁寧に説明してくれてよくわかります。ニヤニヤが止まりません。後少ししたらまた休憩室に戻りましょう。そして、また愛でさせていただきますね。どうもありがとうございました。


「ここにいれば怪我しないから、終わるまで待っててくれ」

「ん?終わるまで?」

「ああ、訓練終わるまで」

「え?どうして?」

「そりゃあ、一緒に夕飯食べようかと思って。明日も休みだろう?」


 んー?獣人さんは距離感がない方が多いのかしら?ここはまず、人と獣人さんの違いを教えなくてはいけないのかしら?


「あのー、人は初めてお会いした人とはいきなり夕飯を一緒にはしないものですよ?」

「初めて会うわけではないだろう?よくさっきの窓から見てたじゃないか?」


 それは違うー!!!って言いたいー!!会ってないのよ!見ていただけよ!!私がただ単に覗いていただけなのよー!


「……もしかして結婚しているのか?いい歳だよな?」


 それー!!それ言ったらだめなやつー!!いい歳だけど女性に言ったらだめなやつー!!気にしてないけどね!?気にしてないけどね!!?かっこいいからって何でも許されると思うなよ!?許さないから!!尻尾ぱたぱた揺らして可愛いなんて思わないから!耳ぴくぴくしてるの可愛いなんて思ってないから!!触りたいなんて思ってないから!!!


「……離婚しました」

「ふーん。恋人はいるのか?」

「……いませんし、この先しばらくは作るつもりはありません」


 なんでこの人嬉しそうなのかしら?人の不幸は蜜の味なのかしら!?私ね、私ね、結婚して苦労したのよ。本当に。大変だったのよ!結婚なんて人生の墓場よ!……そう、だからしばらく色恋沙汰は良いのよ。むしろ身体だけのお付き合いでいいのよ。本当に。


 婚家は酷かったわ……。お義母様、お義姉様のいじめ、元旦那様の女癖の悪さ……。味方なんて居なくてメイドからだってみくびられていたのよ。……まあ、終わったからもう良いのよ。貴族籍から出されて庶民になったけど、堅苦しい社交はないし、嫌味も言われない、この人のこの台詞は褒めてるの?それとも逆なの?なんて疑心暗鬼にもならなくていいもの。なんて素晴らしいこの世界!!


「……何か考え事してた?」

「……いいえ、何も……」

「じゃあ、また後でな。夕飯はご馳走する」


 夕飯ご馳走してくれるのね。まあ、そう、わかってるのね。それならご一緒しても良いかしら。……もふもふできるかしら。


 彼とても良い笑顔だわ。素敵だわ。裏表のない笑顔、癒されるわー。鍛錬しているところも素敵ね。いつもよりも張り切っているのね。今日は何か良いことがあったのかしら?近くで愛でるのもありね。


 実はお給料前だからちょっと困っていたのよ。ふふ、何ご馳走してくれるのかしら?肉かしら?まあ、とりあえずご飯だけなら大丈夫でしょう。30過ぎの熟れた身体のおばさんにはそういう欲もないでしょうし。あ、でもなんで夕飯ご馳走してくれるのかしら?は!遠くから愛でるだけだったけれども、迷惑だったのかしら?怒られるのかしら?困ったわ。次からどうしたらいいのかしら?あ、わかったわ!変装したら良いのね!場所を毎日変えて、かつらと眼鏡を複数準備してお茶しているふりをしながら、愛でればいいのね!……日替わりで愛でる対象を変えるのも良いかもしれないわね!騎士や傭兵さん達は見学が日々多いから何とか紛れるわね!ふふ、完璧ね!私の計画!注意されたら、物凄く反省しているフリをしてちょっと泣き真似して……。ふふ。いいわね!完璧ね!!


「………ねえ隊長、あの人むふふって言ってるよ?」

「可愛いだろう?」

「…………………可愛い?」

「それに良い匂いがする。堪らないな」

「!!おめでとう?」

「ありがとう。だからお前らは近づくなよ」


 あら、なんだか隊長さんお祝いされているわね。何かおめでたいことがあったのかしら?わたしも後で一言お礼言ってみたほうがいいかしら?……それにしてもこう見ると男前ね。あらやだ、手振られちゃったわ。振り返した方がいいの?恥ずかしいわね。こんなの年甲斐もないわ。



***



「待たせたな」

「とても良い時間をすごせました。ありがとうございます」


 いやー、本当に良い時間だったわ。毎日だと私の心臓がもたないけど、たまにならいいのかしら?一月分位は愛でたかしら。


「トスカは人間以外の種族に詳しいか?」


 お約束の夕飯ですわ。大衆食堂で全く問題ございません。隊長さんはなんだかもう少し違うところが良かったようですけど。私こういうところ意外に性にあってるのよね。ここの鶏肉を揚げたものがすごく美味しいのよ!塩でいただくのがお勧めなのよ。たくさん食べるわよー。


「……人間以外の種族にはあまり関わったことがありません」


 鶏肉を無心で食べていたら、隊長さんが取り上げるのよ。もうひどい!仕方なく答えましたけどね。


「はい」

「……ど、どうしろと?」

「口開けて」

「……あ、あーんって?」

「あーん」


 た、隊長様。後生ですから、後生ですから、人前で餌付けみたいなことはちょっと……。横抱きも恥ずかしかったけど、これもちょっとだめでしょ!美女とか?美少女とかならわかるけど、おばさんよ!?私おばさんよ!?需要ないじゃない!?


「ほら、食べたいだろ?」

「た、食べたい」

「口を開けたら食べさせてやる」


 仕方なく、仕方なく口開けたら鶏肉入れてくれたわ!美味しかったの!なんか味がしない気もしたけど、肉汁が口の中でじわっとして塩気が染み渡ったわ。外の皮もパリパリさくさく。私好みだったわ。


「質問にきちんと答えたらあげよう」

「ぐ、ぐぬぬ……」

「今好きな人間も他の種族で好ましいのもいないんだな?」

「……いませんわ」

「ほら、魚のフライ」


 塩の効いた白身魚のフライは最高です!もうお酒が進むわー。でも自分で食べられるのよね。隊長さん、わかってるのかしら?もしかして私、何もできないと思われてるのかしら?身の回りのことはある程度できるのよ。少し雑なだけでね。


 でも隊長さんったら、私みたいな瑕疵つきの女性とご飯食べて親睦深めてもいいことないのに。は!食堂のリータが好きなのかしら?あの子確か誰とも付き合ってないはずよ!まだ18位だったかしら?器量が良くてしっかりしているのよね。私もよくリータには髪の毛整えてもらったり、衣服の乱れを直してもらったりしているのよね。性格もとても良いのよ!隊長さんはリータに話しかけられないから私からちょっと声かけて親密になろうっていうの?まあ、今時の男性はあれね。ちょっと意気地がないのかしら?獣人だからかしら?わからないわね?まあ、いいわ。この夕飯のお礼を兼ねてリータに話をしましょう。人肌脱ぎましょう!!


「トスカの周りは人間だけだったのか。……いいのか悪いのか判断に悩むな」

「そもそも生活圏が違いますよね?魔族は人の前には殆ど姿を見せませんし、竜は数が少ないですし、獣人はそれぞれの集落で過ごしていると聞きますし、妖精は……よくわかりませんし?」

「まあ、そうだな。でもここは、傭兵部隊の殆どは獣人だから、獣人が多いかな?あと竜や妖精もちょいちょい見かけるな」

「まあ!そうなんですね。あまり気にしないものだから、気づかないものなのね……」

「そんなもんだろう。じゃあ獣人のことは殆ど知らないんだな?」

「ええ、姿形や能力が人とは違うことくらいしか……」


 私きちんと質問には答えましたよね?このお肉貰いますよ?隊長さんが先程私から取り上げたのがいけないんですよ?隊長さんが考え込んで、私にお肉くれないのがいけないですからね!ちょっと行儀悪いのでこちらを見ないでくださいね?……あー、やっぱりこのお店の鶏肉美味しいー!最高だわー!


「トスカ、人の皿から料理をとるのはマナー違反じゃないか?」

「……うぐっ……ごほっごほっ。も、元々は私のものでした。……隊長さんが取り上げたのよ……」


 それにしては何だかにやにやしているのは気のせいかしら?気のせいよね?私、してはいけないこといけないわよね?何だか不安だわ……。嫌な予感がする……。獣人と人では色々作法が違うというし。確認しておけばよかったわ。


「……エルベルトだ」

「エルベルト隊長?」

「親しいとエルと呼ぶ」

「………エルベルト?」

「違う、エルだ」

「……エル……」


 親しくないのにエルなんて呼んで良いのかしら。まあ、ちょっと気分も良いし少しくらい羽目を外しても良いわよね?もう少し飲みたいわ。こんなかっこいい人と飲むなんて金輪際ないものね。顔面おかずにして飲みましょう。


「じゃあ、エル?ここはエルのご馳走だけれど、一緒に食べて飲みましょう?」

「……ペース早いな」

「もちろんよ!だって美味しいんだもの。お酒すすむわよ!エルも飲みましょう?そして!私でできることがあれば協力するわ。今日のこのご飯のお礼よ!何でも言って頂戴!!」


 リータの口利きは私にお任せよ!でもふられても私のせいにはしないように。まあ、隊長さんならかっこいいから大丈夫なはずよ!!


「……なんでも協力するのか?」

「勿論よ!!でも犯罪行為はだめよ!」


 さすがに惚れ薬とか媚薬飲ませろとか、犯罪の片棒担がされたら目も当てられないわよね。好きな子を落とすには正々堂々と!そのほうが惚れてくれるはずよ!……ふー、ちょっと思考が滑ってきているから、お酒はここら辺でやめとこうかしら。あ、でも後一杯飲んでからね。


「……差し入れが欲しい」

「差し入れ?」

「何でも良いんだ。仕事の合間に何か持ってきてくれないか?」

「……わかりました。何でもいいんですね?」

「トスカの手作りがいい」

「わ、私の!?……その他の、例えば若い女の子?ではなく?」

「絶対にトスカのがいい」


 まあ……。料理上手に見えるのかしら……自慢じゃあないけど、そんなに得意ではないのよね。しかもなんで私の手作りなのかし?リータに頼みたいけど頼めないから私で練習しているのかしら?隊長さんってそんな性格かしら?わからないわ……。不思議な隊長さんね。


「……自慢じゃないけど、そんなに料理は得意ではないのよ?」

「わかってる」

「不味くても知らないわよ?」

「覚悟しよう」


 ち、がーう!!覚悟しよう、じゃなくて!!そんなことはないって言うのよ!!君の作るものはどんな物でも美味しいよ!とかジョークでも言うべきなのよ!!食べられないような不味いものは作らないはず!!……たぶん……。


「……作れる物が限られるから簡単なものですからね」

「楽しみにしてる」


 ちゅっ


「なぁ!?」

「酔った」

「はぁ!?」


 頬に口付けされてしまった。隊長さんは酒に呑まれるようには思わなかったのだけれど、意外だわ。素面のように見えるけど、実はベロンベロンなのね。仕方ないわ。忘れることにしましょう。でも酔った勢いとはいえ、隊長さんはかっこいいから役得ね。



***

  


 翌日。


「早速作ってくれたのか?」


 ………明日からまたお仕事ですからね。今日逃すとたぶん、私、作れませんから。


 今朝、慌てて女将さんに簡単な食べ物の作り方を教えてもらいに行きました。仕事に来たのかい!?って一瞬雷が落ちかけたけど、事情を説明したら機嫌が良くなって、私にも作れるサンドイッチを教えてもらいました。オリジナルなアレンジしたかったのだけど、まずは教えられた通りに、雷が落ちかけたのでハムチーズ、卵とベーコントマト、フルーツサンドを作ってみました!美味しそうでちょっと味見をしたら、私が作ったとは思えない美味しさだったわ。さすが女将さんだわ。今度お礼をしないといけませんね。


 リータにも会ったからいつもお世話になっているお礼も兼ねて、お裾分けしておいたのよ。ついでに隊長さんのこと聞いてみたら、なんだか変な顔されちゃったのよ。それに『そんなこと間違っても隊長さんに言っては駄目ですよ』なんて言われてしまったわ。リータは隊長さんのことあまり好みではないのかしら?


 こっそりと休憩室から愛でていたら、隊長さんに見つかってしまったのよ。リータと女将さんに見送られて、またここに連行されてしまったのよ。騎士様も見たかったのに。


「実は俺もスープと鶏のフライをもってきた」


ごくり。


 はっ!思わず生唾飲み込んでしまったわ。はしたないわ。よだれ出てないわよね。でも美味しそうなのよ!昨日の鶏も美味しかったのだけど、こちらも美味しそう!さくさくしていそうな衣が黄金色なのよ!?これ美味しいに決まっているじゃない!?匂いもいいわ。スープも黄金色じゃなーい!嫌だわ!野菜もとろとろよ!傭兵さんだからお料理上手なのかしら?何この完璧な隊長さん!?お嫁さんになりたい人沢山いるはずだわ!


「わ、私はサンドイッチを作ってきました。どうぞ」


 じゃ、私は隊長さんの持ってきた鶏肉とスープいただきますね!!では……なんか視線が痛いわね?今お昼休憩よね?思えばなんでこんなに人がいるのかしら?いつもなら皆真っ先に食堂行ってないかしら?……しかもこっち見られてる?気が?するわ?


「あの、なんか見られているような気がするのですが……」

「ん?あー、あいつら気にしているんだろう。大丈夫っていってるんだけどな」

「…………?」


 い、意味が全くわからないわ。何を気にしているの!?は!?ま、まさか私の料理を食べて、隊長さんが体調を崩してしまわないようにって!?まぁ、皆さん隊長愛が溢れてますのね。……というよりも、そんなことないのに!きちんと女将さんから教えてもらった、誰でも失敗せず作れる美味しいサンドイッチなのよ!!全くもう!全部私が食べてしまおうかしら!!


「ほら」


 あらー、美味しそうな鶏肉だわ!まあ、丁寧に食べさせてくれるのね?さすが、優しくてカッコいい!犬系の獣人さんは、皆さんこんなに優しいのかしら………ってちっがーーーーーーう!!!私、私ね、もう30越してるのよ?今更そんな若い子に食べさせてもらうだなんて……。そんなに老いたつもりはないのよ?優しさ?これ優しさかしら??昨日だけならまだしも、今日は知ってる顔もいるし、何だか注目されてるしものすごく恥ずかしい……。


「食べないのか?」

 

 あ、違う。これ拷問?大勢の前で私にこんな破廉恥なことさせて、どうしたいの!?恨みでもあるのかしら?獣人と人間の価値観がちょっと違うのかしら?彼らに合わせないといけないの!?


「ほら、あーん」

「……………あ、あーん」


 あー、思った通り、衣がさくさくして、中は柔らかくて味が染みてて幸せな味だわ……。ちょっと恥ずかしいけど、ずっとこの余韻に浸りたいわ。ニンニクの香りがまたいいわね。衣のサクサクがいいわ。あー鶏肉になりたい!衣になりたいわー!!


「もう一つ食べるか」

「……ありがとうございます」


 ええ、ええ。良いタイミングですわね?勿論いただきます。食べさせてもらうのは恥ずかしいですけどね。まあ、でも悪くないわね?ちょっと偉くなった気分だわー!!おーっほほほほほほほ!!なーんてなーんて、うっふふふ。楽しいわ。


 ん?なんか外野がすごい拍手してるんだけど?なんで?んん?おめでとうって聞こえるわ?何々?何かあったのかしら?


「美味しいか?」

「は、はい!すごく美味しいわ!隊長さんが作ったのかしら?」

「……エルだ」

「………え、エルが自分で作ったのかしら?」

「まあ、野営とかよくするからな。携帯食だけだと味気ないだろう?」

「隊長さんの家族は羨ましいですわね。こんな美味しい物食べられるんですもの……?」


 なんか手を握られました。手を握られました。大切なことなので2回言ったんですけど!!手が手が離れない!何故!?離れないの!?


「あ、あの手を手を離してください……」

「俺のことを知って欲しいんだ」

「ひえっ」

「トスカは人間以外の種族のことに関して無知すぎる。だから俺みたいなのにつけ込まれるんだ」

「つ、つけ込まれてなど……」

「ないっていえないだろ?」


 つけ、つけ込むような魅力が私にないなら、そんなこと気にもしなかったのよ!そ、そんなことより手、手が、手汗かいてべたべたしてきたのだけど。隊長さん!手離して!!


「俺は犬じゃなくて、狼の獣人だ」

「え?そうなの?」

「……この銀の髪と金の瞳は狼の獣人の特徴なんだ。普通ならすぐわかる」

「………………」


 言外にばかっていった!?ばかにしてる?上げて落とすのが最近の流行り!?獣人なんて身近じゃないものわからないわよ!!もふもふなんてみんな同じに見えるのよ!!


「後、気のない獣人からは食べ物は貰ってはいけない」

「……え?な、なんで?」

「……獣人が食べ物を分け与えると言うことは、その相手を家族の一員にしたいということ。与えられた食べ物を食べると言うことは、それを受け入れると言うことだ」

「ご、ごめんなさい。よくわからないかも」

「トスカがそこら辺の知識がほぼなかったから、俺につけ込まれたってことだな」

「つけこまれたの?私?」


 こんなおばさんをつけ込むなんて……。冗談かしら?


「トスカのそういうところが可愛い」


ぺろん


「ほわぁぁぁぁぁっっっっ!!!?」


 頬をーーー私の頬をな、舐められたー!!金色の目がなんか綺麗だけど怖い。後なんだか、なんかおかしい。話がわからない。たぶん、私何かわかってない。このままじゃ不味い気がする。あ、そうだ。逃げよう。


「わ、私ちょっと、き、気分が悪くなって……」

「……トスカ。獣人は愛している相手には惜しみない愛を与えたくなるんだ」

「愛している相手……?」

「まだ本当の意味では愛してあげれてないけど。でもトスカは俺の気持ちに応えたからな」


 隊長結婚おめでとうございますって聞こえてくる。……嘘でしょ?誰か嘘って言って………。


「わ、私結婚はもういいのよ……」

「俺はトスカを幸せにしたい。逃したくない」


 手が離れない。逃げられない。


「トスカ。お願いだ」


 そ、その目。普段はきりってしている目が、今は切なそうに潤んでこっちを見るなんて、卑怯よ!!絆されそうになるじゃない!!


「トスカは俺のことが嫌か?」

「ぐっ」

「トスカは他に好きなやつがいるのか?」

「……いない、けど……」

「オレはトスカがいないと駄目なんだ」

「ぐ、ぐぬぬ」


 絆されてしまうわーーーー!!!


「トスカ、愛してる」

「わ、私、初婚じゃないわ……」

「知ってる」

「見た目も中身も普通だし、料理をなんて苦手だし、家事洗濯も得意ではないのよ」

「知ってる」

「隊長さんに……エルにあげられるものなんてなにも持ってないし……」

「これからのトスカの人生を俺に捧げて欲しい。俺の全てで守りたい」

「わ、私……。私……」

「トスカ」


 優しく触れるだけの口付けは、甘くて優しくて、美味しい鶏肉とサンドイッチの味がしました。


 

 




 

「ねえ、女将さん」

「なんだい、リータ」

「私、トスカさんがすんごい勘違いしていたのがびっくりしました」

「あートスカはねぇ。抜けてるんだよ」

「あの傭兵の隊長さんからの熱い視線に気づかないし、私が隊長さんのことどう思ってるのか聞いてくるし………。ちょっと隊長さんが不憫に思いました」

「まあ、収まるべきところに収まったからいいんじゃないか」

「色々な心配しなくて済むようになったから、結果的には良かったなー。でも隊長さんから獣人について教えないようにっていわれたのはちょっとフェアじゃないような気がしたけど……」

「ああー、獣人からの食事の誘いや食べ物関係は……。……一般常識だと思っていたからなぁ」

「さすが隊長さん、って感じだけど、騙し打ちですよね?」

「…………………」







お読みいただきありがとうございました。


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