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第2話 旅する商人

前話に追記したのですが、不死人ゲンジは口調こそジジイ口調ですが見た目は30前半程度です。

「これは、とても珍しい品物のようね…何なのか全く分からないけど、玩具のようなものかしら?どこで仕入れたものなの?」


「奥様!流石にお目が高いですね。これは200年前の大戦以前に海の向こうで………」


旅の行商人に扮して塔から持ってきた品物を男爵夫人に見せる。先日の塔での会議にて、儂は旅の行商人として世界を回りながら、この世界の情勢や国の内情、物の価値、伝承等々の情報を集める役目になった。

仲間たちの中で最も人間に近い見た目をしており、種族の特性上死ぬことがほとんどない儂は、前の世界でも町での情報収集や忍び込んでの隠密任務を任せられることが多かった。


「素敵な品物を見せてくれてありがとう。他では見られない珍しい物品を持ってくる、旅の行商人がいるって話は聞いていたけれど、噂は本当だったようね」


「ありがたいお言葉です。それにしても、私の名前がたまたま寄った伯爵様の町まで広がっているとは…風の噂というのも馬鹿にできませんな。こうして、伯爵夫人様との縁が出来たのですから」


「まぁ!お上手ね。お世辞でも嬉しいわ」


「いえいえ、お世辞なんてそんな。思ったことを申し上げたまでです。しかし、この町は素晴らしいですね。土がいいのか作物が青々として育っており、水も綺麗で豊富そうだ、そして何より町の人の表情が明るい。伯爵様の政治が素晴らしい何よりの証だと思います」


「きっとうちの主人も喜ぶわ。でもね、この国は昔からどこも土は肥えていて水も綺麗なのよ。光神様の加護が強いからだってイトラから来た司祭様がおっしゃっていたわ」


イトラの国か…この世界は大きく分けて4つの大国と、その属国をふくめた約30の小国から成り立っておる。イトラは4大国の1つであり、この世界の8割以上の人間が信仰している、光神教の聖地が存在する国じゃ。

光神様と呼ばれる神を主神として進行する多神教で、教義を簡単に言うと、光神様の加護を得続ける為に恥ずかしくない生活をしろ。と言ったところか。


ちなみに、塔の移動先に選ばれた国はピコンという。歴史は古いが、今では4大国のうちの3国、イスカル、イトラ、ユニンが近くに存在すこと以外特に目立つ特徴もない、その他の小国と何も変わらない凡庸な国の1つだ。



数時間話したのち、伯爵夫人に見送られ館を出る。

この世界では鉱物資源はじめ天然資源が豊富なようじゃ。その為、いくつかの街をめぐって分かったことだが、宝石や貴金属のような品物より、こちらの世界にまだ技術のない玩具や芸術作品が好まれる傾向にある。


伯爵の館で少し長居してしまったわい。有用な話はいくつか聞けたから良しとするが、もう日が暮れそうじゃ。ただの旅商人が夜中に出歩くと怪しまれてしまう。今日はどこかで宿をとり休むとする。


数カ月前に行商人として活動を始める前のこと、当たり前のことじゃが世界について最低限の知識がなければ、商売として客を相手する際に怪しまれてしまう。どこかで世界についての知識が欲しかった儂は、森の中でたまたま見つけた野宿中の冒険者から、この世界についての情報を聞き出した。

この世界、大きくは前の世界と変わらぬ。だが、光神教の存在か治安が良いこと。鉱物資源、水産資源、土壌環境、そして魔力が豊富なことから世界自体に余裕がある。この理由から生物のそもそものスペックが前の世界よりも高い。

これは嬉しい誤算じゃった…前より派手に暴れても敵が壊れないというのはまさに僥倖。確認できた時には思わず笑みが零れてしもうた。



「いらっしゃい!旅のお人のようだね。宿泊なら1人部屋で飯と風呂付きで3000エンだよ」


宿に入ると明るい雰囲気の女将が声をかけてくる。この世界では光魔法やそれを使う魔道具の普及により、日が沈んだ後も街中や部屋の中は明るい。これも前の世界との違いじゃな。


少し宿内の風景に違和感を感じる…、その違和感の正体はすぐに分かった。やけに冒険者の利用客が多い。治安の良いこの世界では、貴重品をそう多く持ち歩かない冒険者やただの旅人は、宿泊費の節約の為に野宿をすることが多い。


「はい、ではその条件で1泊お願いできますか?」


「ありがとうね。ご飯はそこの時計で16時から21時まで。風呂は大浴場が22時半まで使えるよ」


「ご丁寧にありがとうございます。…ところで、かなり利用客が多いように見えますが近日中に何かイベントでも?」


「あーそれはねぇ…最近、この付近の街道やその周辺で変な輩が出るらしいのさ。野宿していた冒険者たちが襲われたっていう話を聞いたよ」


「それは、物騒な話ですね。荒事に慣れているはずの冒険者も容赦なく襲うって言うことは向こうも相当の手練れのはずです」


「それで領主様の抱える騎士団も、巡回の強化をしているみたいなんだけど、騎士も何人か返り討ちにあったって聞くよ。昼間に襲われたって話はあんまり聞いてないけど、あんたも明日出るときは気をつけておくれよ」


「えぇ、お気遣いありがとうございます。情報に感謝します」


そう女将に言って部屋に向かう。

伯爵夫人から最近妙な輩が町の周辺に出るとは聞いておったが、これのことか。この世界の冒険者のレベルは高い。前述した通りそもそものスペックがこの世界の生物は高く、それは人間だけではなく動物や魔物の類も同様じゃ。主にそれを相手取って戦っている冒険者が弱いわけもない。

その冒険者が簡単にやられるとは。一体何が目的なのかもそうじゃが、どれほどの強さなのか……気になるな。今夜は散歩に出かけるとでもしようかのう。




深夜、変装してこっそり街道に向かう。確かに普段は感じる野営中の冒険者や旅人たちの気配が全く無い。代わりに感じる視線。気配は消しているようじゃが、よく注意すれば複数の何かから見られていることが分かる。

巡回中の兵士を気にしてか、罠だと感じてか、視線を感じるが中々出てこんな。しかし、そんなこともあろうかと野営の準備をしてきた。それを何も知らない旅人のふりをして兵士が巡回に来ない場所にテントを設営する。


それにかかったようで気配が近付いてくる。その数3つ。襲撃者をすぐに迎え撃つような真似はせず、その凶刃が儂に届くギリギリまで待つ。あ10m、2m、15cm...。


ヒュン!バッ!……!?


あと僅かで儂に届きそうだった襲撃者の短剣を転がって避け、構える。気配から避けたことへの驚きを感じる。改めて襲ってきた曲者の姿をよく観察すると、気配とは裏腹にその立ち振る舞いは極めて冷静。

直接襲ってきたものが1人、テントから少し離れた場所に1人、更にそこから離れた木の陰に1人。最後の者はこちらからは良く見えんが恐らく3人とも人型。仮面と黒装束で姿を隠した典型的な暗殺者の格好をした3人組。

確かにこやつら強い。儂じゃなかったらきっと死んでおる。


「こんな夜更けにいったい誰じゃ?生憎呼び出した覚えも、訪問の約束を受けた覚えもないがのう?」


「………。」


「流石に喋らんか。なら、身体に聞くまでじゃ」


そう言うが早いか手前の2人が仕掛ける。後ろの黒装束は動かず待機の様子。

1番近い暗殺者が短剣で突いてくるのに合わせて、1つ後ろの者が突きを避けた先にピンポイントで投げナイフを複数投擲する。更にナイフが防がれた時用に魔法を用意しているのか魔力の反応が見られる。


上手い。個々人の練度もかなり高い上に高度な連携も仕掛けてくる。しかし…。


シュッ!


ヤツらの目には消えたように見えたじゃろうな。

突然目の前から敵が居なくなり困惑した様子で儂の姿を探す暗殺者たち。何をしたかと言えば高速で攻撃を避けナイフを投げてきた輩の後ろに移動した。単純な筋力と技術のみでこれを行った。魔力の反応も感じぬから、余計に混乱しておるわい。


「後ろだ!!」


ここで初めて後ろの者が口を開き仲間に敵の位置を知らせる。特に特徴の無い男の声だ。仲間の声を聴きゲンジの居る位置へ向く暗殺者。…しかし振り向いた先にはもう彼の姿は無い。


「ガハッ…。」


「これで1人。逃げられては困るのでな。後ろから様子を見ていたこやつから先に取らせてもらった」


その様子を確認すると残りの2人はゲンジから距離を取り逃走を図ろうとする。しかし先ほどと同じ光景が繰り返される。


「どこに行くのじゃ?」


「「…!?」」


振り向いた先にはまたもや彼が。先ほどより更に遠い距離からのこれには今まで分かりやすく感情を示すことのなかった暗殺者たちも驚愕の様子を露にする。


殺すのは簡単じゃが聞きたいことがたくさんある。何より、どう扱っても問題のなさそうな現地人はそれだけで意味がある。ここはアレを使うとしよう。


「お主らが逃げるというのなら繋いでおくまでじゃ。金縛かなしばり


彼のその言葉に突如、虚空から杭ほどの太さのドス黒い鎖が現れ2人を何重にも縛り拘束する。

彼の持つ道具の1つ金縛、ある程度自由に太さを変えられ出す本数に制限の無い未知の金属で出来た鎖。対象を拘束することに特化しており1度縛り付けられてしまうと振りほどくことは非常に難しい。


「さて、それでは聞こうか。一体誰の指示で何の目的でこの周辺の人間を襲う?…おっと、舌を噛んだり隠し持っている毒なんかを使おうとしても無駄じゃぞ。金縛で拘束されると、儂の質問にへの回答以外には儂の許可なく体を動かすことは舌先1つでも出来ん。痛いのが嫌なら大人しく吐け」


「それは出来ねぇな!」


「何?そうか、痛いのが好きじゃったか?ならお主らの穴という穴に、焼いた鉄串でも刺してみようかのう?」


「違ぇ!少しでも喋ろうとすると俺たちの体の中に刻まれた魔術印が起動する。これで俺らは爆発して死ぬ運命さ。お前ほどの速さがあれば、避けるのは簡単だろうが情報は引き出せねぇぜ。残念だったな!」


「…そうか。じゃあ試しに喋ってみるといい」


「良いぜ!どうせ、喋る前にドカンだ。俺たちはイトラ軍所属の暗殺や国外での工作任務等の特殊任務を行う部隊レヴィンの1人だ。目的は知らないが、軍での上司から、この辺りの国に人が寄り付かないようにする為、野営中や夜中に通る人間を襲うよう命じられている……何故魔術印が起動していない…?」


「言ったじゃろう?儂の許可なく舌先1つ動かせんと。それは体の中に刻まれた魔術印だろうが例外ではない。恐らく向こうのヤツも持っている情報にそう変わりはないじゃろうが…一応聞いてみるとするかの」






「あんまりゆっくりしていると夜が明けそうじゃな。そろそろ宿に戻らねば怪しがられてしまう」


(げんげーん!それじゃあ、きるると一緒に今から回収しに行くね。回収し終わったらまた連絡するから!)


(あぁ、よろしく頼む。くれぐれも、見つからぬように気をつけるんじゃぞ)


(分かってる!きるるも一緒だから大丈夫だよ。げんげんも気を付けてね!ばいばーい!)


念話でのニーナとの会話を終えるゲンジ。捕縛した3人はニーナへ回収を依頼し、塔に連れて行かれる。

その後の彼らがどうなるかは塔にいるメンバーの意向次第である。


さて、では宿に戻るとしようか。夜の闇が色々なものを隠してくれているうちにの。

しかし…イトラがこの件に噛んでいるとはな。イメージではそういうものに1番遠そうだったが、強烈な光の裏では影もまた濃くなるということじゃな。




「おはよう。昨日はよく眠れたかい?」


「えぇ、お陰様で。夜中に1度も目覚めることなく気持ちよく寝ることが出来ました」


「それは良かったよ。そろそろ出るんだろう?昨日も言ったが、街道に出るって聞く輩には十分お気をつけよ。心配なら冒険者や傭兵を雇うのも手だからね」


「ご忠告ありがとうございます。ですが、これでも地元では少しは剣の腕に覚えがあります。ご心配なさらず。…それに、もしかしたらその輩たち、もういなくなっているかもしれませんしね」


「何か知っているのかい?」


「いいえ何も。商人の勘ってやつですよ。ハハッ」



宿を出て街の外に向かう。予定では次の目的地は山を越えた向こうにある港町じゃが、そろそろ連絡が来る頃だろうと予感する。


(ゲンジ、次に向かって欲しい町についての連絡だ)


(そろそろ連絡が来る頃だとは思っていたが、まさかゴグから来るとはな。それで…イドラのどこに向かえばいい?)


(話が早くて助かる。次に行って欲しいのは…イドラの首都カンサローネ。更なる詳細については現地に到着後にプノシスへ連絡して欲しい。こちらもまだ情報を集めている最中だからな。)


(ゴグから直接連絡が来たのはそういうことか。プノシスはまだ仕事中って訳じゃな。了解した。では、次の目的地はイドラ首都カンサローネ。怪しまれん程度に早めに向かうとするわい)


(頼んだ)


真っ先に首都か…予想はしておったが、これは思った以上の一波乱がありそうじゃな。きっと、かなりの大仕事になるぞ、楽しみじゃわい。











その頃、塔の仲間の中でも屈指の戦闘狂、巨人のアダイオンは、



「「「「「ウオオオオオオオオッッ!!」」」」」


「「「「「ヤアアアアアアアアッッ!!」」」」」


「伝令!イスカル軍に今までに見た事のない巨人族の男がいます!凄い勢いで戦線を1人で前進させており、ヤツを止める為にアレの使用許可が前線から求められております!」


「そうか…。1人に使うとは思わなかったがやむを得まい、許可する。」


「ウオオッ!!やっぱり戦場の空気っていうのは最高だぜ!!」



4大国イスカルの軍人として戦場で暴れていた。


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