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第1話 私の仲間たち

白で染まっていた視界が晴れる。



見えたのは数百年暮らしている塔の青い壁。

でも、きっと今までとは違う場所にいるのだろう。視界の情報こそいつも通りだけど、それは塔ごと移動したから。感覚的に分かる、いつもと違う、それも世界ごと。


「異世界…か」


誰に言うでもなく、そう呟く。


「そうだ!世界の違いを感覚的に感じたか。流石プノシスだな」


彼、邪神ゴグルジオがそう答える。

先ほどまでと変わらず今にも倒れそうな姿のまま。


「とりあえず治療するから」


「…助かる。正直に言ってかなりきつい。勇者に刺された直後に世界を超えるため膨大な魔力を使った。文字通りの瀕死だ」


「そっか。いきなり異世界に飛ばされたのには少しビックリしたけど、私は基本ゴグがしたいことに協力したい。きっと皆もそう」


そう言いながら仲間の中でヒールの役割を担っている私は治療を始める。

普通の治療と言うと、包帯を巻いたり、薬を使ったり、回復魔法をかけたりっていうのがほとんどだと思う。けれど私の治療は違う。

毒と洗脳に関しては世界随一だった種族、混沌の眷属。もう300年も前に滅ばされた、その種族の生き残りが私。

薬も過ぎれば毒になるっていう言葉があるけど、それは逆に調整さえすれば毒も薬として使えるっていうこと。元々毒の扱いは得意だったけど、ゴグたちの仲間になってからより技術を磨き薬として使えるまで昇華させた。そしてその毒を、身体から生やした触手を使って直接注入する。


「プノシスの治療を最後に受けたのは、何年前だったか…200年前くらいか?あまりに久しぶりのことで少し懐かしい気分になった」


「一応ボスなんだから、そう頻繁に傷ついていたらその方が問題でしょ。…はい、終わったよ。しばらく休んでいれば魔力以外は回復するから」


「助かった!相変わらず…いや、200年前よりずっと腕を上げている」


「!……そういえば」


ゴグの言葉に親指を上げるジェスチャーで返し、気になることを聞こうとしたその時。

塔の奥から5つの聞き慣れた足音が聞こえる。


「ゴグルジオ!!見事に勇者に負けたみたいだな!それで、世界を飛ぶ時に言っていた次の物語っていうのは?」


「ゴグちゃん、プノちゃん大丈夫!?負けるかもって言うのは分かっていたけど…私、心配で心配で」


「おい邪神!世界を越えるなんて飛びっきり派手な隠し玉を持っているなんて知らなかったぞ!?今度、やり方を教えろ」


「異世界…か。随分長く生きてきてしまったもんじゃが、まさか儂が全く知らない世界に来るとはな。やはり、お前らといると退屈せんわい」


「ごっぐー!勇者どうだった?あの子面白かったでしょ!?そして、お外行ってきていい??」


各々、何かを言いながら部屋に入って来たのは最愛の仲間たち。

脳筋だけど意外に真面目な巨人のアダイオン、まるで母親みたいな蜂魔族キルメトリア、派手好きでうるさい精霊王のジャギラギオス、この塔随一の人格者見た目は30口調はおじいちゃん不死人のゲンジ、いつも元気な好奇心の塊人型古代兵器のニーナ。


「あぁ!まず俺の身体はプノシスの治療もあって問題ない。ニーナは外に出るのはちょっと待ってくれ。そして、今後の話は是非これからしたいと思っていたところだ。まだ来ていないあいつらも呼ぶとしよう」


そう言うとゴグは部屋に魔法で机と椅子を用意し、元々この部屋にあったベルを鳴らす。招集用に設置されたベルは振ると澄んだ心地よい音を響かせる。この音は塔の壁と共鳴するらしく決して大きくないのに建物全体に響き渡る。



「遅くなってしまってすみませんね。丁度、紅茶の時間だったもので」


「久々にベルの音聞いたけどやっぱり綺麗ね。ねぇゴグ、私用に1つ用意してくれないかしら?」


「(もぐもぐ)」


ベルを振ってしばらくすると、まだ集まっていなかった仲間たちもぞろぞろと集まりだす。

種族も経歴も一切謎の紳士ジョン・ドウ、恐ろしい程の美貌を持つダークエルフのイルーベ、常に食事をしていて今も何かを食べながら歩いてきた悪魔のグラント二ー。そして、一際大きな足音を立てながら部屋に入ってきたのは。


「……待たせた」


とにかく寡黙で巨大なエンシェントゴーレムのアクラータ。


計11人、この種族も経歴もバラバラな個性的な面子が私の大事な仲間たち。仲間になった時期は別々だけど皆もう百年以上、この塔で一緒に暮らしている。


「急に呼び出してすまないな。だが、大事な話があって皆には集まってもらった。それぞれ気づいているとは思うが先程、この塔ごと世界を越えた」


「ゴグの声が聞こえた時に何かしでかすんだろうなぁとは思ったが、まさか世界を越えるとは驚いちまったぜ!」


「そうだぞ邪神!お陰で向こうに何人かの精霊を置いてきてしまった。まぁ、ヤツらなら僕が居なくても大丈夫だと思うが」


「皆に許可なく独断で決めてしまったことは本当に申し訳ない」


皆の声を聞いてゴグはそう謝る。

まぁ確かに、こんな大きな判断は普通、仲間に意見を聞くのが筋だろうね。だけど皆の顔を見れば一目瞭然、誰も不満には思っていない。


「ゴグ。さっきも言ったけど皆気にしてないよ。それにあの瞬間に皆の判断を聞く時間なんてなかったしね」


「そうね、プノの言った通り気にしていないわ。今使っている髪や肌の手入れ用オイルと石鹸はもう手に入らないけど、探せばこっちでもそれなりのものはあるでしょ」


「ニーナはね!また新しいものを沢山、見れるんだと思ってワクワクが止まらないよ!」


「今までで1番の、刺激的なティータイムにして頂きました」


皆、異世界に来たことに異存はないと頷く。

その様子を見てホッとした表情のゴグ。


「ありがとう。その声を聞いて安心した」


「私は、皆が元気で幸せにしてくれていれば場所はどこだって構わないわ」


「で?わざわざ異世界になんて来たんだ、何かしらの目的があるんだろう?聞かせろよ」


息を吸い改めて本題を話始めようとするゴグ。そう、目的。私たちが1番気になっているもの。あの勇者に何を見て、この世界で何をしようとしているのか。


「そう!それこそが皆に集まってもらった1番の理由だ。この世界に飛ぶ前、私は勇者と戦い、敗れた。これは元々そうだろうと分かっていたことだし、私も死ぬ覚悟をしていた」


「本当に本当に気が気でなかったわ」


「蜂女は最後までこの作戦に反対していたもんな」


「絶対悪として君臨し続けていた私たちだが、その世界で生まれた勇者に殺されるなら、それは運命だろうと思っていた。心残りはあったがな…。だが!勇者の目に光を見た。あの日、俺が奪ったと思っていた光だ!それが勇者を中心としたパーティの人間の目に確かにあった。そこで思ったのだ、また人の目に光が灯るのならここで死ぬのは余りにも惜しいと。」


「あの子はやっぱり、ごっぐーのお眼鏡にもかなったみたいだね!」


「あの世界はもう大丈夫だ。勇者がいるならきっと私たちとは違うやり方で世界をまとめることが出来るだろう。だが、私には分からなかった。何故、今頃になって人間の目に光が戻ったのか。だからそれを探すことにした。」


「それがこの世界に来た目的ってわけね。確かにあの子たちの目は綺麗だったわ。その理由を探す為の物語、ね…中々面白そうじゃない。」


「して、どうやってその光を探すつもりじゃ?お前のことだから何かしらの考えはあるんじゃろ?」


「よくぞ聞いてくれた。私が考えるにあの光は命の在り方だ。他者を蹴落として、では無く純粋に輝こうとする命の光。だから、私はこの世界を侵略しようと思う!私たちが、他者の足を引っ張っていては到底敵わない敵として力を見せつける。そして、ぼんやりしていてはあっという間に絶滅させられる。そう思わせるくらいにこの世界の人間を追い込もうと思う。」


「…ってことは、この世界の多くの人間をお前のエゴの為に犠牲にする訳だ。」


「それが目的ではないが、結果的にそうなるな。」


ゴグの話を聞いて皆、黙ってしまう。当たり前だ。前までは世界共通の敵として存在することを目的に、加減はしていたが度々街を攻撃していたし、襲撃の情報が入った時は向こうが絶望しない程度の報復をしていた。

でも、そんなことするのは本意ではなかった。

だから異世界に来て新しい物語を始めると聞いた時は、きっと皆何をするのか楽しみにしていた。



「ねぇ、ごっぐー…なんで……」



























「なんで、そんな最高なことを思いつくの!!!」


「邪神!ついに僕の気持ちをわかってくれたか!!」


「ゴグ!良いじゃねぇか!やろうぜ!!」


「ついに、私の本当の美しさを惜しげも無く見せることが出来るのね…!」


「久々に実戦で羽目を外して暴れられるか、年甲斐もなくワクワクしてくるわい」


「(もぐもぐ)」


「……。」


「あら!皆楽しそうで私も嬉しくなってきちゃうわ」


「皆さん、そんなに目を光らせて怖いですよ。でも、そうですか、加減せず爆破してもいいと言うのはなんと甘美な響きでしょう。フフフフ、フフ…」


ジョンが言うように比喩ではなく本当に皆、目を光らせてる…。普段は食べることにしか興味のないグラント二ーや、感情を出すことが滅多にないアクラータまで。

そう、つまるところ皆暴れ足りなかったのだ。前の世界では強すぎて満足に戦える相手がほとんどいなかったし、人間を全滅させることが目的じゃなかったから街中で本気の攻撃を撃つことも出来ない。簡単に言うと、とっても溜まってたんだろうね。


私は戦闘を専門にしていないけど、ゴグと私以外は皆戦うことが大好きだし、力をぶつける相手に飢えている。そんな状況でゴグが言ったのは、ある程度力を使っても良いという許可。皆のテンションが上がるのも何となく分かる。


「だが、忘れてくれるな。あくまで目的は追い込むことであって、この世から生物を消し去ることではない」


「不必要に殺しすぎるなってことだろ?分かってる。俺たちの加減がどれだけ上手いか忘れたのか?」


「そうだな。フッ…要らぬ心配だった。それで詳しい方針についてだが……」



この後、私たちの作戦会議はしばらく続いた。

アダイオンやジャギのテンションが高いのはいつも通りだったけど、意普段は冷静なゲンジも一緒になって話していたのは意外だった。仲間たちの中でもかなり長く生きている方だし、何か思うところがあったのかもしれない。



会議が終わって皆がそれぞれの部屋に戻った後、広間には私とゴグとゲンジが残っていた。


「ゲンジよ。今日はまるで昔のようにはしゃいでいたな?そんなに異世界が楽しみか?」


「そうじゃなぁ…楽しみでないと言えば嘘になる。呪いを受けてから数千年、死ねずにあの世界で生きてきた。毎日何かしら新しいものはもちろん生まれるわい。だが全く新鮮なものを見ることは時が経つにつれ減っておった。飽きこそお前らがいるからせなんだがな。そんな折、儂が何も知らない世界に来たんじゃ。はしゃがん方が難しかろう?…だが儂が本当にはしゃいでおったのは、またお前と遊べるからかもしれんの。…さぁ、わしも部屋に戻るとするわい」


「あぁ、明日からはまた、私の指示で色々と動いてもらうからな。暇していられるのも今日までだ。精々ゆっくりと休んでおけ」


その言葉に、ゲンジは振り返らず手を上げて答え、塔の奥へと消える。多分1番付き合いの長いこの2人の間の空気は、言葉にするのが難しいけど、ちょっと私たちとは違う雰囲気を感じる。そんな場面を見せられると正直、少し妬けてしまう。私もゴグともゲンジとも皆とも、もっと深い関係になりたいと常々思っているから。


「ゴグ!私も、覚悟はしていたけどゴグが死なずに済んで、この後もまだ一緒に居られると分かって、嬉しかったよ。私も戻るね。また明日」


そう言い放って走って部屋に戻る。


皆と出会うまでは私は自分以外に全く興味がなかった。

そんな私は自分の殻にこもって、ずっと海を流れに任せて漂っていた。それで良かった。誰が死のうが誰が生きようが、世界で何が起ころうがどうでも良かった。

でも今は違う。大好きな皆がいる。そして、その皆の役に立ちたいしもっと知りたいと思う。もう300年以上生きている私だけど、大体の仲間たちはその私よりももっと長く生きている。そんな私以外の10人の仲間たちのことを知るには300年じゃ全然時間が足りないのだ。











「…しかし、適当に飛んだ先がまさかこの世界とは。これも縁というか因果というか。逃げた私への罰なのかもしれないな」


その邪神の呟きは、誰に届くことも無く大きな大きな塔の中で小さく響いた。


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