夜明けとうどん
徹夜。一夜漬け。オール。
体によろしくないのは、承知。
けれども、何故か、ここぞという間際、どうしても譲れない何かが起こると、寝る間どころか、食をも忘れて打ち込み続ける。
やり遂げた一瞬、何とも例えがたい、脱力と快感がこの上ない悦びとなるのも束の間どっと疲れが降ってくる。体が悲鳴をあげて酷い場合、魂が抜けたかのように、意識がゼロ地帯に突入する。
体質にもよるかもしれぬが、血の気が熱い若い頃、一度だけ、臨海の先を見渡すところまで、ガリガリと音を立てながら、ひたすらペンを原稿用紙の上で乱舞させた。何としてでも書き終え、提出しなければならなかった論文の為の、その指導を受ける為の、事前準備としてのレポートだった。
当時は手書きだった。利き手の、長い付き合いになるペンだこが赤黒く膨らみ今にも花火が打ち上がる寸前までになっていた。
朝日が眩しい。小鳥が目覚めの歌を歌って木の葉の揺れる音、風が新鮮な息吹きを青空いっぱいに行き渡らせる。
芯から冷えた肌身。渇きで枯れ果てる一歩手前までの胃袋。
梅干し、海苔、胡麻をのせてかけた、熱い白い麺がもたれることもなく、むしろ頭の頂上から、足の爪の先までを一気に温めてくれた。
黄金に照らされた、スープの輝き。車窓から眺める海の銀河とよく似ていた。
半分寝ぼけたこともあって、市販のお吸い物を使ったが、多めのお湯で、ほんのり和風だしの味わいになった。
あれ以来、夜を越えて昼近くまで仮眠も削る完全遂行はしていない。
けれど、たまに空の色が変わり、光の新しい一日のカーテンが現れた頃、もういちどだけ、深くゆっくりと、うどんを堪能したくなる。