有能な仲間をガチで無能と勘違いして追放したらホントにざまぁされた件
投稿中の連載作品に関するエッセイです。
他の作品と合わせて読んでいただけるとより楽しめます。
「やあ。急に呼び出してすまない。君達二人に大事な話があるんだ」
彼らはいったい何の話なんだ? と想像もつかないという顔で俺と同じテーブルの席につく。
「実は……、小説のタイトルとキーワードを変更しようと考えていてね」
二人は少し驚いた顔を見せた後、やっと気づいたのか、ずいぶん動くのが遅いんじゃあないか、とそろって肩をすくめて笑顔になる。
「本当にすまない。……次の、変更後のタイトルには君達【奴隷】と【ハーレム】の居場所はない。長い間……よくも足を引っ張ってくれたね。もう用済みだ」
俺の言葉に彼らの時間が止まる。何を言っているのか理解できないようだ。
「いや……、少し考えたんだけどね。俺の小説も連載して長い。二年と八か月だ。ブクマも、ありがたいことにお客様方から二百をいただいて、底辺は脱出できた」
彼らがうんうんと頷くのを眺めて続ける。
「しかし……そこからが伸び悩んでいる」
彼ら二人が表情を全く同じくして、その口を開こうとしたのを両手を上げて押しとどめる。
「ああ。言わずともわかっている。俺の更新が遅いってんだろう? 他の作者様を見習って毎日更新しろ、せめて毎週定期的に同じ曜日、同じ時間にきっちり最新話を上げ続けていれば、もっとブクマもPVも伸びているはずだ、ってな」
彼らの眉毛が八の字になる。わかっているなら……って顔だ。
「それについちゃあ言い訳はしないよ。俺の怠慢だ。しかし、俺のほうにも君達に言いたいことがある」
それが俺達を呼びつけた理由なのか? と二人は聞く姿勢を見せる。
「【奴隷】と【ハーレム】ってキーワードは……女性読者には嫌われているんじゃあないか?」
彼らの顔色が変わるが、反論を許さずに続ける。
「もしも俺の小説のタイトルに【ハーレム】が入っていなくて、キーワードにも【奴隷】がなかったら、俺は今頃もっと高みに届いていたはずだ。そうだろう? ランキングの多くの作品は恋愛とまっとうなハイファンタジーだ! お姉様方を虜にする美しく幸せな恋の物語だ!」
彼らは何も言わない。
「だから俺はお前らを追放する。俺の小説がもっとPVとブクマを伸ばすためには、お前ら二人の負のキーワードが邪魔なんだ」
興が乗ってきた俺は彼らの表情から心情を推し量ることができない。
「今までよくも足を引っ張ってくれたな。お前らはもう要らない。俺は気がついたんだ。【奴隷】や【ハーレム】なんてまっとうなジャンルじゃあねえ。そんなもんつけてたら書籍化なんて夢のまた夢だってな。今まで世話になった。もう会うこともないだろう。これは少ないが餞別だ。受け取って帰ってくれ。そして今後は俺を見かけてももう話しかけないでくれ」
やった。言いたいことを言ってやった。
「心配するな。売れ線の研究もした。お前らがいなくなった後も、テコ入れを行う路線変更の策は少し考えがあるんだ。無理にとは言わないが、明日以降の俺の更新を楽しみにしていてくれよ」
無言のまま、俺の出した銀貨の袋をつかんで立ち去る二人。
別れの挨拶も無しか。
まあいい。これで俺のなろう作家人生は新たなステージへと旅立つんだ。
04/09(木)投稿 終日PV 1,378 第1話PV 25
04/13(月)投稿 終日PV 996 第1話PV 21
04/30(木)投稿 終日PV 1,591 第1話PV 34
ブクマが二百を超え、毎日ではないものの、できるだけ間を開けずに更新する日々。
ブクマの伸びは落ち着いたが、俺の心の拠り所、創作のモチベーションは更新日のPV1,000越えだった。
しかし鈍化したブクマと、二年以上更新を続けても、最新話を更新直後に読みに来てくれる人数がいっこうに増えないことが俺の心に暗い影を落としていた。
07/29(水)投稿 終日PV 946 第1話PV 19
また悪い癖だ。ちょっと仕事と別の趣味にかまけて更新が空く。
しかし毎日更新ではない。投稿した次の日にも検索で辿り着いてくれるお客様は500や400といった終日PVをもたらしてくれる。ブクマが全く伸びない日々でも、更新時は四桁を超えるPVが心の慰めだった。
08/03(月)投稿 終日PV 1,291 第1話PV 25
よしよし、四月から七月に三か月も間が空いても、短期間で次を上げればPVだけは納得のいく数字に戻る。
しかしブクマが増えなくなった。最後に増えたのはいつだっただろうか。
全体PVも最新話PVも減りこそしないが固まったように動かない日々。
「タイトルを変えてみるか」
四月から七月の三か月はただゲームで遊んでいたわけではない。
たしかにPS3でアンチャーテッドを1、2、3とクリアし、ラストオブアスまでもクリアした。
ジョエルとエリーの絆を深める旅には感動した。PS4を買ったらぜひ2もやろう。
いや話がそれたがそれだけではない。
なろうで他の人気作も長編を多数、読破した。
特にそれまで食指が動かなかった女性向けの作品が意外に面白いことに驚いた。
多少女性向け特有の価値観で展開するストーリーと人間ドラマにしんどいこともあったが、ブクマの多い人気作はやはり素晴らしい作品ばかりだった。
なろうランキングの上位を占めて書籍化を連発する女性向け作品達。
俺がタイトルにつけている【ハーレム】とキーワードにある【獣人奴隷】。
これはひょっとしてマイナスなのではないだろうか?
現状の停滞を打破する策を見いだせなかった俺には、その思いつきは一つの天啓のように輝いた。
「ハーレムなら最初からハーレムタグをつけておいてください」
「何で複数のヒロインと関係を持つんですか。最低です」
「ハーレムなので読む気がしません」
今までそんな感想や書き込みを多数見てきた。
もう迷わなかった。
じゃあ【奴隷】もあんまり印象良くないよな?
【獣人奴隷】は……よし【獣人娘(犬)】にしよう。暗い負のイメージを完全に払拭して、明るくかわいいモフモフ感を感じられるだろう。これだ。
【ハーレム設立への道】は全部カットすると語呂が悪い。置き換えだ。
よしメインヒロインを一人に絞って、恋愛っぽく、最後まで一緒に行くんだ。【最強の称号を手に入れる】。
うん。これだ。冒険者が戦い続ければ最強に至るのがなろう人気作の王道だ。
タイトルキーワードから不人気要素を取っ払って人気要素を盛り込む。
ついに二年八か月手つかずだったタイトルあらすじタグに手を入れて更新だ。
そしてさらに普段と違う時間に投稿して新規顧客にアピールだ!
08/07(金)投稿 終日PV 1,000 第1話PV 17
……んん?
うん。いつもは朝7時更新だが、この時は12時更新だ。集計期間が五時間も短いのに四桁PVに達している。タイトルでブラバせずに第1話を読んでくれた人数も、おおむね及第点と言える。
やはり毎日更新できる体力はないが、できるだけ間を開けずに更新してみよう。
08/13(木)投稿 終日PV 679 第1話PV 10
あれ!? 更新日のPV600なんて……いつぶりだ!?
終日、第1話PVともにタイトル変更前から半減していると言い切っていい数字だ。そして。
08/14(金)投稿せず 終日PV 130 第1話PV 4
うわあっ!! 読まれていない!! 翌日にもお客様が来ない!
更新直後が少なくても二、三日で合計PV1,000超えしてたのに!
この瞬間、頭の中にいくつか読んできた追放ざまぁのプロットが浮かび上がる。
そして時は流れて今、この短編を書きなぐる午前零時。
08/17(月)投稿 終日PV 181
ぐはっ!
……ず、頭痛がする……は……吐き気もだ……。
何てことだ。この俺が手前勝手な思い込みで悪手を投じ、PVを激減させて。
……立つことができないだと!?
俺の小説をわざわざ検索によって見つけて読んでくれていたお客様方。
彼らは【ハーレム】、【奴隷】のキーワードで来てくれていたのだ。
【ハーレム】、【奴隷】は不人気ワードではなかった!?
なんてこった! しまった! えらいことをしてしまった!
あんな奴らより【獣人娘(犬)】と【最強】が集客効果があるんじゃねえの? と考えてしまった。
桂馬や香車的な奇をてらった飛び道具かと思いきや、なんと俺にとっては飛車角であったのだ。
やばい。あいつらを追放してはや十日が経過する。
あいつら二人はまだこの町にいるだろうか。
何としても探し出して帰ってきてもらわなければ。
すまなかった。
俺が完全に思い違いをしていた。
許してほしい。そしてもう一度、俺の小説のタイトルに帰って来てくれ。
俺はお前達パワーワードがいなければ、満足なPVはもらえない作者だったのだ。
★後から読んだ人用説明
初期タイトル「転生冒険者の獣人奴隷入りハーレム設立への道(仮)」
※初連載で何にも思いつかず雑に(仮)で投稿する悪手。
しかも深夜2時に無策で連投。しかし投稿毎にブクマはちょっとずつ増える。
追放後タイトル「転生冒険者は獣人娘(犬)と一緒に最強の称号を手に入れる」
※血迷ってタイあらキーワードから奴隷とハーレム削除。
2020年8月時点で仲間入りしてたヒロインはまだ獣人一人(約27万文字w)
だったので、しれっと純愛路線に変更。しかし本文の悲劇。
土下座後タイトル「転生冒険者は獣人奴隷と一緒に最強の称号を手に入れる」
※タイトルキーワードに奴隷ハーレムを戻し、あらすじ大幅改稿。
開き直ってヒロインの属性も全部キーワードにぶち込んで何とか今に至る。