ちょっと頭が痛くなって来た……
「えっと……私の名前は、ホノカなの?」
「はい、貴方のお名前はホノカです。」
そう…だ……私はホノカ。
あかぎ ほのか。
日本に住んでいた、病気のせいで高校に行けなかった18歳…
目の前に居るのは、仲が良かった友達が大好きだった乙女ゲームの悪役令嬢、セーツ・クライム。通称『ピンク嫌いな悪役令嬢』。
「あ…貴方は本当にセーツ・クライム?」
「残念ながら、そうです……」
セーツは悲しそうな笑顔で私を見ている。
「でも……私の知っているセーツ・クライムとだいぶ違う気がするの……」
『学園女神〜ヒロインはわたし⁉︎〜』
ぱっと見ると、エロゲーのタイトルぽい題名の乙女ゲーム。
魔法と貴族社会が存在するファンタジーな世界。そのとある国のシューレ学園に入学した14歳、庶民のヒロインが、攻略対象達と恋愛するよくあるゲーム。
セーツ・クライムはそこに出て来る、殿下の侍従候補のリアト・ホーザンのルートで出てくる悪役令嬢。
ふくよか何て言えないぐらい太っていて、真紫のどぎつい豪華なドレスをいつも身につけいた。髪は確かに茶髪だったが目の色は淀んでいて黄色なんだか緑色何だか分からない色だったし、いつも顔色は悪く目の下には物凄い隈があったはずだ……
今私の目の前に居る、セーツとはだいぶ違う。
「ホノカ様が見ていたセーツ・クライムは14歳〜18歳の姿だと思います。私はまだ9歳なので、見た目は大分違っていると思いますよ」
「そうなの?」
「はい」
セーツは笑顔で答えているが、とても悲しそうな笑顔だ。セーツはどの位先の未来まで見えていたのだろう……
もし、私の知っているゲーム通りの未来が見えていたとしたら目の前の9歳の少女には余りにも残酷すぎる。
「セーツ…貴方はどの位先の未来まで見えてたの……」
「……最後まで…です……過程は違えど、どの未来でも私は学園の卒業式前夜に必ず死にます…ホノカ様も知ってますよね?」
「そう……」
言葉が出てこない…何て言えばいいんだろう…
『学園女神〜ヒロインはわたし⁉︎〜』には攻略対象が4人いて、それぞれハッピー・ノーマル・バットの3ルート+逆ハーレムの計13ルートが存在する。
攻略対象の婚約者達4人がそれぞれのルートでヒロインを虐める。4人はどのルートでも処刑され、その家族達は処刑または没落させられる。
そして、目の前の少女セーツ・クライムは悪役令嬢だ。それはつまり……ヒロインを虐めそして…
「残酷すぎるわ……」
涙が止まらない。セーツはいったのだ。5歳の誕生日前から、この残酷な未来を夢に見てると……過程は違えど必ず死ぬと……そんなの辛すぎる
「ふふ」
泣いている私の耳に笑い声が聞こえた。
「貴方はやっぱり優しいんですね……泣いてくれるのなんて、ホノカ様だけでしたよ」
楽しそうにセーツが私に言った。びっくりして涙は止まった。
「さっきから思ってたんだけで、セーツは私を知ってるの?」
「はい、夢の中で見る未来の私は常に自分勝手で最低な人で…処刑されても仕方ない人でした……それなのにホノカ様は泣いてくれたんです。自業自得だ、せいせいする、そんな事しか言われなかった私の最後を貴方はいつもベットの上で悲しんでくれてました。」
そう…入院してた私に友人はこのゲームの話を良くしてくれた。その話を聞く中で、人を疑う事しか出来なくなって自分の殻にこもってしまったセーツが、どんなに足掻いても必ず卒業前に死んでしまうセーツが、どこか自分と似ている気がしていた。だからセーツが死ぬ話を聞くたびに泣いてしまった。悲しくて、涙が止まらなった……でも、
「どうして…それを知ってるの?」
確かに私はベットの上で泣いていた。でも、何でそれをセーツは知っているのだろう。
「うーんと……詳しい事は分からないんですけど、私は処刑されると何故かいつも白い部屋に居るんです。そしてベットの上に居るホノカ様とその隣に座って居るアカリ様の話を私は聞いていたんです。」
あかり……あかりは、この乙女ゲームが大好きでいつも私に話してくれた、私の大切な親友。
「私が見てきた未来の話をアカリ様はヒロイン目線でいつも楽しそうに話していました。そして、私が死ぬ話をするとホノカ様は必ず悲しんでくれました。」
よく覚えている。
私があんまりにも泣くもんだから、あかりはタイプじゃない攻略対象のルートまでやり込んでセーツが生きているルートを探してくれた。結局そんなルートはどこにもなくて、あかりったらセーツが生きてる同人誌片っ端から買ってきてくれてたっけ。
「でもある時、いつも楽しそうな空間だった部屋がすすり泣く声で埋まっていたんです……」
「え?」
「いつもベットの上に座って居たホノカ様は、横になり白い布を顔にかけていました…アカリ様やホノカ様のご家族の方はその周りで泣いておられました……」
それってつまり私は……
「私は…死んだの……」
「……おそらく……」
信じられない。でも、私は確かにいつ死んでもおかしく無いくらい病気が進行していた…
「あかり……お父さん、お母さん……」
もう会えないんだ……まだもっと話したかったし、一緒にいたかった……
「…じゃあ、セーツ此処は死後の世界なの」
セーツが首を横に振る。
「此処は私の記憶の世界です。」
「はい……ホノカ様、本当に覚えていませんか?」
そういえばセーツはさっき話に『思い出しましたか?』聞いていたようなぁ
「何の事だかさっぱり……」
セーツと会った記憶なんて全くない。そもそもセーツはゲームの中のキャラだったし私はさっきまで自分の名前も覚えていなかったのだ。
「ホノカ様の体は確かにあの時もう動いていませんでした……でも、ホノカ様の魂はまだ存在してました」
たましい?そういえば死んでも直ぐに成仏はしないって聞いた事ある気がする。
「魂の状態のホノカ様には私が見えていました。それで話にこう言ったんです。『セーツさん、初めまして。お互いまだ死にたくなかったね』って……」
全く覚えてない。というかゲームのキャラに急に話しかけて言った言葉がそれかい‼︎ヤバイ奴じゃん……
「それで私お願いしたんです。『ホノカ様、私はまだ死んでません。ホノカ様どうか愚かな私と一緒に生きてください』って」
うーん、もしかして
「それで私は、なんて?」
「『それもいいわね。よろしくね』って仰ってくれました。」
セーツがニコニコして私を見ている。死んだ途端私頭のネジ5、6本ぶっ飛んじゃちゃったのかな……